第39話 隠し部屋

アヒムとチェプトが王都へ出発して、2日目のことである。

今はダンジョン広場に9人でいるのだ。

アヒムは最低でも王都から戻るのに10日かかる。

今回は10日前後51階から攻略を進めて、60階層には、アヒムが戻ってから一緒に到達しようという話になったのだ。


セリムはこの2日暗いままだ。


「セリム殿よ。皆お前を想っているのだ。そのような顔をするでないぞ」


「う、うん、ごめん…」


人間ができたソドンがセリムを気に掛けるのであった。

ワープゲートを抜けて51階にたどり着く。

50階ボスであるAランクモンスターを倒すのも3回目で慣れたものである。

1体をおっさんが倒し、残りはソドンが足止めして、撃破するのだ。

白金貨50枚で買った1.5mもあるアダマンタイトの大盾はAランクのモンスターではびくともしないのだ。


「ふむ、だいぶ慣れてきたであるな」


「そうですね」


Aランクモンスター1体をおっさん以外の皆で倒せるようになってきたのだ。

そういいながら、魔石を回収し、宝箱の発見と最下層を目指すのであった。

51階層を抜けて、52階層にたどり着くのである。


「51階層は2個も宝箱あったのに、なかなか魔法書ないですね」


「うむ、かなりレアということらしいからな」


おっさんの言葉に返事するイリーナである。

おっさんのタブレットの『地図』機能で宝箱を表示することができたので、宝箱の発見する数が増えたのだ。

50mの範囲内に宝箱があれば『地図』に表示されるのである。


「それにしても52階はずいぶん道が単調であるな」


と言うソドン。


「そうですねって、左側に敵が2体います。通路の壁を挟んだ隣です」


「分かった、ん?そういえばこの前もそんなこと言っていたな」


「そうですね」


おっさんの言葉に反応するイリーナである。


そう言いながら、前進し53階層にたどり着くのである。

53層も1日かけて踏破し、前回断念した54層に到着するおっさんら一行である。


「ここから先は、まだ通っていないですね。今回はぜひ57階くらいを目指したいので、頑張っていきましょう」


いくつかの宝箱を回収しつつ次の階層を目指していくのである。

55階層にたどり着くころ、皆のステータスの異変に気付くのである。


「あれ?皆さんのスキルレベルが3になっていますね。ソドンの回復魔法も2に上がってますね」


「ぬ、それは真か?」


「はい、3になってます。何か動きで変化はありませんか?」


「そうであるな、確かに槍捌きの動きが良くなった気がするであるな」


「私もそうだな、剣の太刀筋が良くなっているぞ」


「やはりそうでしたか」


(む、これはレベル30を超えたからか。とするとスキルレベルはレベルに影響を受けているのか。低レベルでもスキルレベルは上がるが、高レベルの方が、スキルレベルが上がりやすいと)


スキルレベルとレベルの関係を考えるおっさんである。

おっさんの分析ではレベル10以上だとスキルレベル1になりやすい。

レベル30以上だとスキルレベル3になりやすい。

しかし、使用頻度によって影響を受け絶対ではないということだ。

そして、ワープゲートから抜けて7日が経ち、現在56階である。

56階層に入ってAランクモンターが常に2体出現するようになったのだ。

当然1体はおっさんが倒し、残りを他の皆で倒すことを繰り返すのである。


(なるほど、56階層からAランクモンスターが2体でるようになったから、これ以上の攻略を断念したんだな)


56層を前進することほどなくして、おっさんが決断をするのだ。


「そろそろ、戻りましょう」


食料は20日分詰めているが、続きはアヒムを連れて60階目指すという話になったのだ。

来た道を戻るおっさんらである。

7日間で宝箱12箱回収し、宝石や武器防具がでたが、あまり今の装備より優れていないので、売りに出すという話になったのだ。


(結構厳しいな。魔法書は100個に1箱くらいの感じか。あと8回か9回ダンジョンに入って、1個でるかどうかか。やはり2、3カ月かかりそうだな)


来た道を戻っていくおっさんらである。

そして52階で足を止めるおっさんである。


「やはりこの右に敵が2体いますね。おかしいです」


来た道と逆なので右である。

通路の壁の先のまだ行ったことない部分に2体の敵がいるのだ。


「そうであるな?それがどうしたのだ?」


「3点問題があります。1点目はこの階層は2体のモンスターが出てこないのです。ですので、この階層のモンスターとしては不自然です」


「して、2点目は?」


「2点目はこの先の敵のいる場所には、地図上どこにもつながっていないので、行けないのです」


「なるほど、3点目は何なのだ?」


「3点目は、このモンスターは動かないのです。他のモンスターは移動するのですが、2体が横1列に並んで動きません」


「ん、隠し部屋か何かがあって、宝箱があるとかそういう話か?」


「もしかしたらです、今のところ地図には宝箱が写ってません。2体の敵も私の地図の範囲ぎりぎりなのです。しかし、調べる価値があるかと思います。まだ時間ありますので、皆さんで右側の壁に何かあるか調べていただけませんか。通路に繋がる仕掛けがあるかもしれません」


「あい分かった」


皆で調べること1時間が経過する。


「おい、何かここに凹みがあるぞ。さっきまで見えなかったのになぜだ?」


(ん?っておお!セリムの罠感知がレベル3になってるぞ)


セリムの罠感知のスキルレベルが2から3に上がったのである。


「おそらくセリムが罠感知の能力が上がったからだと思います。何か動かせそうですか?」


「うん、特に危険はないな。安全な装置のような感じだ。動かしてみるぞ」


ズ ズズッ ズゴゴゴゴッッン


ものすごい地響きと共に横に抜ける道が開くのである。

このダンジョンはほとんど高さ30mであるが、高さ5mほどの低く暗い道である

その先に2点の敵が『地図』に表示されているのだ。


「この通路の先に2体の敵がいます、ソドンを正面に陣を組んでゆっくり進みましょう」


沢山の敵を倒してきたため、この先にいる2体の敵が、どの敵か分からないおっさんである。

細い道をまっすぐゆっくり進むおっさんら一行である。

進んだ先は明るいようだ。


「部屋がありますね。敵がいますので注意してください」


明るい部屋に入るおっさんら一行である。


そこにいたのは2体ではなく『3体』の敵であった。


まだ見たことのない敵が1体いたのだ。

通路を抜けた部屋の奥に、3体の敵がおっさんら一行の正面に横2列に並んでいる。

以前40階層ボスで倒したことがある、15mの大きさのAランクの鎧型の敵が2体である。

その中央に淡く冷気か湯気のようなものが立ち込める3mくらいの鎧型の敵であった。

中央にいる3mの敵は、数mほど宙に浮いており両手に大型の盾と剣を持っているようだ。


「何でしょうここは?」


動かない敵にゆっくり近づくおっさんら一行である。


(なんだこれ?ん?ってあれ、あそこにあるのは…)


おっさんが部屋の隅にある『箱』に気付くのだ。

おっさんら一行が部屋に入ると、


『宝物庫を守って100年、とうとう咎人が宝物庫を荒らしに来おったか…』


中央に浮いた敵が話し始めたのだ。

フルプレートで中に何があるのか分からないが、不気味な声が広間を響き渡るのだ。

声の反響の感じから、フルプレートの鎧の中には何もないような感じがする。


「お、おいしゃべったぞ!」


動揺するセリムである。

浮いていた敵が重力を取り戻すかのように地面に落ちる。

着地の時に発生した大きな地響きが敵の重さを感じさせるのだ。


「こ、これは、下がってください!!おそらくSランクモンスターです!!!」


指示を飛ばすおっさんである。


『逃がさぬよ、咎人共よ』


すごい勢いで迫ってくる中央のしゃべる敵である。

9人で来た細い抜け道を後退する。


「なぜ逃げんだよ!部屋の奥に宝箱があるぞ!!」


「逃げるのでありません。下がらないと魔法で宝箱を破壊してしまいます。早く下がって!!」


宝箱が近くて敵に攻撃魔法を加えると巻き込んでしまうと判断したおっさんである。

おっさんは後方に下がり、敵の位置を変えたいようだ。

そして、2体のAランクモンスターも動き出す。

どんどん3体が迫ってくる。

通路に全員が入る前にしゃべる敵に追いつかれる。

全員が通路に逃げることができないと判断したソドンである。

大盾を前に突き出し、しゃべる敵の侵攻を止めるようだ。

剣を上段から振るわれ、ソドンが盾で受ける。

轟音が隠し部屋に響き渡るのだ。


「こ、これは盾が持たぬぞ!」


鈍い音を立て亀裂が入るアダマンタイト製の盾である。

必死に何度も攻撃を受けながら通路内まで下がるおっさんら一行である。

2体のAランクモンスターは通路に入れないが、しゃべる敵は通路に入って攻撃を続けるのだ。

盾はもうボロボロに歪んでいる。

回復魔法をかけた先からソドンの体力をどんどん削られていく。

ソドンも攻撃を受けながら必死に自分に回復魔法をかけるのだ。

通路の入り口まで後退したところで、おっさんが魔法をかけ始める


「エアプレッシャー」


効果がないようだ。

しゃべる敵の動きが全く変わらない。


(これは魔法耐性か)


「ソドン粘ってください」


「そ、そんなには持たないぞ!!ど、どうするのだっ!?」


回復魔法をかけながら、タブレットの『スキル取得』画面を操作するおっさん出る。


「くっ、なんだ!全く刃が立たないぞ!」


もちろん、ほかのみんなも攻撃を加えるがほとんど効果がないのだ。


・魔力抵抗解除Lv1 1ポイント

・魔力抵抗解除Lv2 10ポイント

・魔力抵抗解除Lv3 100ポイント

・魔力抵抗解除Lv4 1000ポイント

・魔力抵抗解除Lv5 10000ポイント


慌てて魔法抵抗解除をLv5まで取得するおっさんである。


(よし、これなら)


「エアプレッシャー」


数m吹き飛ばされるしゃべる敵である。


『ふっ、この程度の攻撃、効かぬわ!』


(ダメージは0か、でも魔法抵抗はなくなったみたいだな)


「エアプレッシャー」

「エアプレッシャー」

「エアプレッシャー」


突進する敵に風魔法Lv3で、しゃべる敵をじりじりと後退させるおっさんである。


『ちょ、ちょこざいな。だが魔力の尽きた時が貴様の最後よ!』


そして、しゃべる敵を通路から隠し部屋の入り口付近まで押し出したおっさんである。


(よしここなら)


「皆さんもっと下がってください。全力で魔法を使います!」


通路から部屋まで押し出された中央のしゃべる敵。

通路から魔法で押し出すおっさん。

ソドンも含めておっさんの後ろに待機するのだ。


「スパイラルサイクロン!」


『ぬ、ぐあああああっ、だ、だが何のこれしき!!!』


風魔法Lv4を直撃するしゃべる敵。

倒せないようだ。


(1撃では無理か。もう1発)


「スパイラルサイクロン!」


『うおおおおおおおおお!!!』


(やばい!ダメージ無視して、がむしゃらに通路まできやがった!)


「エアプレッシャー」

「エアプレッシャー」

「エアプレッシャー」

「スパイラルサイクロン!」


慌てて風魔法Lv3で押し出し、隠し部屋まで戻したら風魔法Lv4で攻撃を続けるおっさんでる。

魔力がどんどん減っていく。


(ダメージが足りないか、MP持ってくれよ)




さらにしゃべる敵との攻防を続けること数十分。


『ぐ、吾輩もここまででござるか…』


地に伏し動かなくなるしゃべる敵。


「た、倒しました。危なかったです…」


(まだまだ原形があるが倒したか?MP3000も使ったんだけど。途中で外套のMP回復効果が発動していなかったら死んでいた件について。しかし、経験値4400万入ったぞ。計算すると経験値1億の敵か)


「お、おお、そうだな。こ、これは、し、神話の戦いだな…」


数十発の風魔法Lv4を使いこなすおっさんと、それをものともせずに迫ってくる敵の戦いであったのだ。

人智を超えた戦いに見えた一行である。


「はい、もう2体の敵も風魔法に巻き込んで倒せてますので中に入りましょう」


「おお、確かに倒せているな」


隠し部屋の奥には1つの宝箱がある。


「はい、宝箱開けてみましょう。セリム、罠がないか確認してください」


「分かった。ん、罠があるぞ。解除するから待ってくれ」


「分かりました」


皆が注目しながら待つこと10分。


「何だこの罠。全然解除できないぞ。待ってくれないか」


「はい、何時間でも待ちます。それと皆さん。私とセリムは宝箱を見てますので、3体の素材の回収をお願いします」


「「「はいい」」」


おっさんはセリムが罠にかかったとき回復魔法をかけるため待機する。


そして、1時間が経過する。

そして、2時間が経過する。

そして、3時間が経過する。


セリムが必死に宝箱と格闘している。


「ご、ごめん全然解除できない。で、できれば、待ってほしいのだけど…」


どうしても諦められないと懇願するセリムである。


「当然待ちます。何時間でもかけていただいて構いません。回復魔法で疲れを取りますね。皆さんも簡単に軽い食事をとっておいてください」


「あ、ありがとう」


ほかの階層だったら移動をやめて野営に入る時間に入っているのだ。


そして、4時間が経過する。

そして、5時間が経過する。


素材の回収も終わり、皆が固唾を飲んで、宝箱を見つめる。


「ってあれ、なんか解除できるような気がしてきたぞ」


(お、罠解除もレベル3になったか。レベル2から3に上がるのに罠察知より時間がかかったのはこれまでの利用頻度かな。常に使う罠察知のほうが隠し部屋見つけるときすぐ上がったのか)


考察していると宝箱がセリムの手によって開けられる。

皆でのぞき込むとそこには1冊の本が入っていたのであった。

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