第38話 食事会

拠点には見慣れない馬車が停まっている。

中に入ると70過ぎの執事っぽい人がセリム母と接客中であったのだ。

そして、執事っぽい人を見て驚くセリムである。


「な、何しに来たんだ!!!」


そして、一気に態度を変え怒鳴るセリムである。

その顔は憎悪に満ちているのだ。


「これこれ、セリムお坊ちゃま、そのような言葉使いは…」


(セリムお坊ちゃまか)


「どんな言い方しようがな、お、お前には関係ないだろ。もう関係ないんだからな!ギルベルド!」


「あ、あの、どういうことでしょうか」


おっさんはセリムと共に1階の打ち合わせ室の席に着くのだ。


「これは、申し訳ありません。先ほど申しました通り、このウガルダンジョン都市でウガル伯爵に仕え、家宰をしておりますギルベルドと申します。ヤマダ男爵様」


立ち上がって、もう一度挨拶をする家宰のギルベルドである。


「それはどうもです。今日はどのような御用ですか?」


家宰のギルベルドの話では、50階に達成したおっさんら一行とウガル家が食事をしたいとのことである。

挨拶も兼ねて、ダンジョンのことなど、色々食事を通して話し合いたいという話だ。


「というわけでございます、ヤマダ男爵様」


(もう少し60階過ぎてから声かかると思ってたが、思ったより早かったな。50階に至った時点で冒険者ギルドから話が行ったということか)


「え?別にいいですよ。お食事ですか、私は貴族の食事に疎いですけど、それでもよろしければ」


「な!こんな奴らと食事すんのか!?」


セリムがありえないという顔をしている。


「これ!セリムお坊ちゃま、今そのようなこと言うものではありませんよ!」


窘められて、たじろぐセリムである。

家宰のギルベルドから詳しい日程は後日持参するとのことである。

家宰を玄関まで見送る。

今来客室にいるのはおっさんと、セリムとセリム母である。

皆気を利かせて、各々の部屋に戻っているのだ。

うなだれるセリムである。


「えっと、どういうことでしょうか?だけど話せないなら聞きませんので、別に大丈夫ですよ」


セリム母に答えなくても良いといって、事情を聞くおっさんである。


「そんなことはございません。ヤマダ男爵様には知っておいたほうがよろしい話なので」


そういってセリム母から、今回のいきさつを話し出すのである。


セリム母はウガル伯爵の娘であるとのことである。

伯爵家の娘として育ち、冒険者との間に子供ができた。

その子供がセリムである。


貴族が冒険者と結ばれるという話は、たまにあるらしく、特にこのようにダンジョン都市や国境など要所を守る貴族は有能なBランクやAランクの冒険者と子供を産むことがあるのだ。

なぜなら、有能な子供ができやすく、要所を守り、務めを果たせるからである。

セリム母はBランク冒険者との間に子供を産み、ほどなくして、夫はダンジョンに行って亡くなったという話だ。


そして、ウガル家を引き継ぐべく育てたセリムは、剣を教えても半人前以下だったのだ。

ならばと、ウガル家が財を投入し、聖教会にお金を払い魔法を覚えさせようとしたが、1つも魔法を習得できなかったとのことである。


その後、セリム本人としても自分の現状が良く理解できていたので、文武両方を必死に学んできたのだ。しかし、ウガルダンジョン都市という土地の貴族として、武が優れていなければ、学問をどれだけ習得しても評価されるものではなかったのだ。


そして、大人になる15歳の時に、ウガル家を廃嫡され、家も追い出され冒険者になったのだ。

そして、2年が経ち現在に至る。


(本人が目の前にいるから、簡潔に話しているけど、実際はかなり悲惨で壮絶だったのだろうな)


「お、俺だけならいいんだ。ゴ、ゴミを生んだって、かあさんまで奴らは追い出したんだ。ウガル家にこれ以上のゴミがでないようにって…」


話を聞いていたセリムから、ずっと心に貯めていた言葉が溢れ漏れてくる。

テーブルの上で握りしめた手からは血がにじみ出ている。

おっさんは何もセリムに言ってあげられなかったのだ。

ただ、やるべきことが1つできたと強く思うのであった


そして、翌日には家宰のギルベルドより明日の夜、食事会がしたいという紹介状が届くのである。

人数は何人でも良いということだが、行くのはおっさん、イリーナ、ロキの3人となったのだ。


ウガル家から迎えの馬車が手紙書いてあったとおり、定刻にやってくる。

迎えの馬車に乗るおっさんら3人である。

行く前に簡単な打ち合わせをしているのだ。

おっさんが何を言っても反応しないようにと。

それを聞いただけで、何も起きませんようにと祈るロキであった。


ウガルダンジョン都市について、初めての貴族街だが、何の感慨もないおっさんである。

館の前につくと従者と侍女が待機しているのだ。

館に入るなり、ギルベルトと40過ぎの男が寄ってくるのだ。


「これは、これはヤマダ男爵様、私は領主の代官をしているレトメルと申します。さすが、武勇は聞いておりましたが、それ以上ですな。いやこれは失礼、ささ、こちらです」


(代官って結構腰が低いんだな。伯爵の代官なら伯爵と同等の権力あるんじゃないのか)


そして、豪華な食事部屋に案内されるのだ。

小さな子供までいるので、ウガル伯爵家のものが恐らく全員いるようだ。

食事をしながら、自己紹介やダンジョンの話が飛び交うのだ。

おっさんも、会話しながら普段食べない料理をもりもり食べるのだ。

そんな中、代官から声が掛かる。


「それでヤマダ男爵様、ダンジョンの踏破は可能なのでしょうか」


「まあ、あと9カ月ですね」


「そ、そうなのですね。実は、大変耳を疑う噂を聞いたのですが?」


「え?何でしょう?」


「なんでも仲間にする人数も限られているのに、罠解除しかできないものを入れているとか」


場が沈黙するのだ。


「どうでしょう、人数も限られているので厳選した大変有能な者しか入れておりませんが。しかし、それにしても、けしからん噂ですね!頑張ってダンジョン都市のために踏破を目指しているのに、そのような足を引っ張るような噂を!」


けしからんといいながら、出された料理をもりもり食べるおっさんである。

なお、お酒は飲まないため、果物水を飲んでいる。


「そ、そうなのですね。実はウガル家としましても、ダンジョンの踏破に向けて、お力を貸せたらと思いましてね」


「はあ、といいますと?」


「うちには大変有能な者がたくさんいます。ぜひヤマダ男爵様のお仲間に入れていただけませんか?きっとお役に立つことでしょう」


「ですが、今54階を…」


「もちろん50階に行けるものです。ご安心ください」


(返事早いな。やはり、60階に行ったらもう仲間に入れられないから、このタイミングを狙ってたんだろうな。ウガル家としても踏破に関わりたいとそういうことね)


50階にも行けないなら声をかけるまでもないと考えていた。

50階に達したら60階に行くまでに声をかけようと思っていたウガル家である。

そして、仲間の中に自分らが追い出したセリムがいることを知ったのだ。


「おお!なんと、心やさしいお心遣いですか。さすがウガルダンジョン都市をお守りする方々のお言葉です。私もこの街に来て、大変住みやすさを感じている次第でございます。これも一重にウガル家の皆さまのご尽力のたまものなのですね」


と心にもないことを言って、もりもり料理を食べるおっさんである。

イリーナとロキは黙って聞いている。


「そ、それでは仲間を」


「しかし、大変申し訳ありません。もう人数は埋まっているのです。ですので、もう仲間を入れることができないのです」


「え?10人の仲間という話では。今9人の仲間ですよね。少なくとも1人入れることができるかと」


(冒険者ギルド経由でクランメンバーの人数を調べたのかね?)


「あれ?え?」


なぜそんなことを言うのかという顔をするおっさんである。


「どうされましたか?」


「いや1人増えてるなと」


「といいますと?」


「人数は、仲間も含めて10人で踏破するという話ですよ。私ももう1人増やせるなら仲間を増やしたいのですが…」


「な、なんと、いやしかし仲間が10人という話ですよね。私もウガル伯爵からそう聞き及んでいますが…」


「なるほど、もう3カ月も前の約束ですよね。伝聞の中で変わってしまったのですね…。申し訳ありませんが、国王陛下との約束なので、これ以上仲間を増やすわけにはまいりません」


「どうしても仲間も含めて10人と?明日にでも王家に確認に行くことも可能ですが」


「もちろんです。どうぞ確認されてください。ちなみに仲間の名前を既に連絡済みで変更もできないのです。もし、仲間だけで10人なら、またご連絡していただけませんか?私も初めての謁見の場で、とても緊張して記憶違いしているかもしれませんので」


「分かりました。明日にでも使いの者を王都に送りましょう」


そういった話もありつつ、食事会はほどなくして終わったのである。

泊まっていきますかという話もあったが丁重にお断りしたのだ。

帰りもウガル家の馬車にゆられ、拠点に帰るおっさんである。

もう夜もかなり深くなっているのだ。



「ど、どうして国王との約束をう、嘘つかれたのですか!貴族でなくなるだけではすみませんよ!!」


着くなりロキから尋ねられる。

ロキは食事の席でも顔面蒼白していたのだ。


「たしかにそうですね」


そう言って足早に建物に入っていくおっさんである。


「ちょ!説明してください!!」


「いえ、時間が惜しいです。説明は後です、いいですか?ロキ」


「は、はい…」


ロキを諫めるおっさんである。

ロキはこれ以上言うことをやめるのだ。

おっさんの表情は真剣そのものなのだ。


「チェプトはいますか!?」


玄関先でおっさんの大声が建物中に響き渡る。


「は、はい、お帰りなさいませ」


「前回の競りで魔石はいくらになりましたか?」


「え?白金貨2500枚です」


「いいですね!あまり値下がりしてません。白金貨1000枚を箱に詰めてください。今すぐお願いします」


「か、かしこまりまいた」


「アヒムはいますか!?」


「は、いかがされましたか?」


「申し訳ありません。急な話ですが、夜分ですが、これから白金貨1000枚と今回手に入れたAランクモンスターの魔石32個全てを持って王都に行っていただきます。1人では大変でしょうから、チェプトとともにお願いします。合わせて手紙を書きますので今は休んでいてください」


(王都はAランクモンスターの魔石が大量に必要だからな。これで話を飲んでくれることを願うばかりだな)


前回、冒険者ギルドの支部長の話を思い出すおっさんである。

なお、王都までは片道5日である。

また、魔道具の灯りがあるので、夜間走行は可能である。


「か、畏まりました」


「ケイタ」


やり取りを見ていたイリーナからおっさんに声が掛かる。


「え、は、すいません。今回の件は私のこれからの働きで」


(ごめんなさい。体で返します。仲間に入れるわけにも、断るわけにもいかなかったのです)


仲間にいれれば、ウガル家のために、セリムの功績が薄まる。

仲間を断れば、ウガル家がお願いしたのに、仲間にできたのに断ったという事実が残る。

仲間に入れるわけでも、断るわけでもないもう1つの選択肢を選んだおっさんであった。


「何を言っている。この私が止めると思ったのか?手紙は私が書くぞ。国王陛下に届けるのであろう?汚い字では失礼に当たるからな。この前の魔法書を冒険者ギルドに調べに行った時、ケイタの文字を見て驚いたぞ」


山田画伯は、絵は下手だが、字も汚いのである。

そして、一度国王と話が通っており、国王への連絡がすぐにとおるイリーナである。

自分が手紙を送った方が良いという判断である。

前回国王陛下に呼ばれたとき、何かあったときの連絡方法は聞いているのだ。


「え、そうです」


「礼などいらぬ。これはセリムのためなのであろう?手紙の内容は、踏破する人数が、ケイタも含めて10人全て揃ったこと、そして、その仲間の名前でよいな。あとはそうだな、攻略の途中報告とその戦利品を王家への贈呈ということだな?」


「あ、ありがとうございます。それでお願いします」


おっさんの考えを汲んでくれるイリーナである。

そして、事情を説明し、皆で準備をすませたのだ。

国王への手紙、白金貨と魔石を積んだ1台の馬車が夜のうちに王都に向うのであった。

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