第36話 魔石の行方
50階層を突破したおっさんは、13人で朝食を囲む。
「今日は魔石を売却して、冒険者証のランクアップとアヒム、イグニル、アリッサのクランへの加入しに行く予定です。そのあと全員の防具を買いたいと思います」
前回の競りの売り上げが白金貨200枚になったのだ。
(1人白金貨30枚使っても大丈夫だしな。全員分かえるだろ)
「はい、ではそのように」
「その上で皆さんにも相談しないといけないことがあります」
「相談でしょうか?」
「はいそうです。それで、家宰見習いのチェプト」
「はい」
「私達は50階にたどり着きました。これから毎月Aランクモンスターの魔石を50個、街に流したらどうなりますか?」
「え?えっと」
「分からないですか。実はこういうことは家宰として考えておいてほしかったです。例えば、競りの購入者が誰なのかとかです。白金貨100枚で売れるのです」
「ケイタ様、それは家宰として知らないといけないことなのでしょうか?」
「ロキ、もしも私達がAランクモンスターの魔石を毎月50個も市場に流して、BランクモンスターやCランクモンスターの魔石が必要でなくなりゴミになったらどうしますか?ダンジョン攻略で日々生活している人が何万人といるのですよ?何万人という冒険者が、いえ、その家族も含めて10万を超える方々の生活が困窮したらどうしますか?ここはセリムの故郷です。セリムを悪者にするわけにはいけませんよね。私達はダンジョン攻略に来たのです。過度な金策はしてはならないのです」
セリムとセリム母が目を見開き反応するのだ。
「た、たしかに」
「ですので、その辺の相談をしに行きたいと思います。何をいくつまで市場に流していいのか?立場によって意見も違うでしょうから冒険者ギルドで相談しましょう」
そして、木箱に入れた35個のAランクモンスターの魔石を持って、冒険者ギルドに向かうおっさんら一行である。
冒険者ギルドの受付カウンターを見る。
どうやら、少し遅い時間帯でウサギ耳の受付嬢しか受付にいないようだ。
「え、えっと」
(ウサギ耳の受付しかいない。どうしよう)
「ケイタ様いかがされましたか」
「ケイタ、私もああいったが、そこまで気にすることではないぞ」
「え、本当ですか!」
(やったあ!)
といって、喜んでウサギ耳の受付嬢のところに行くおっさんである。
それを見ていて、イリーナは後でどうしてくれようと考えるのである。
「今日はいかがされましたでしょうか?」
「冒険者証の更新とクランメンバーの追加と少し相談があります」
「冒険者証の更新ですか。何階まで行かれたのですか?」
「50階です」
「え?50階?少々お待ちください」
そう言って中に入り、しばらくたって戻ってくるウサギ耳の受付嬢である。
冒険者証を預かるというので10個すべて渡すのだ。
全部Bになるんで、誰が誰のか分らんくなるだろうと思うおっさんである。
少し受付で待ちぼうけになるおっさんである。
ほどなくして戻ってくる。
「ほ、本当に全員50階まで行かれていますね。今支部長がお話ししたいと言っているのですが大丈夫でしょうか?」
「もちろんです。支部長と会うのは私1人ですか?」
少々お待ちくださいと引っ込み、しばらく待ち、全員大丈夫ということで、3階の支部長室に向かうおっさんら一行である。
中に入ると、角刈りの50ほどの支部長と、40代の細身の副支部長が待っていた。
ソファーに案内される。
人数分座れないため、ギルドの職員が人数分の椅子を持ってくるようだ。
「おう!オーガ殺しのケイタ、私が支部長のゲイルっつうんだ。よくこの街にきてくれたな」
(元冒険者系の支部長だな)
「いえいえ、こちらこそ冒険者ギルドでお世話になっております」
「確認したんだが、ウガルダンジョン都市に来て2カ月で50階達成か。かつてないほどの勢いで感服しているところだ」
「いえいえ」
「それでよ、当然ランクはクランもクランメンバーも全員Bにさせてもらうんだが、なんでも相談があるんだよな。下で相談するより、俺が聞かないといけないかと思って呼んだんだ」
それは助かりますと、事情を説明するおっさんである。
「なるほどな。そうか、これを見せられたら信じるしかねえな。まず、魔石の使い道だ。鍛冶屋ギルドが、オリハルコンやアダマンタイトの加工に使っている。あとは大都市の用水路の動力、都の灯り、ゴミの焼却施設とかだ。大型船に取り付けて動力にしたりといったところだな。あとはここだけの話なんだが、冒険者ギルドがワープゲート等の動力にしてんだ。そういうわけで、ほとんど代用もできねえんだ。だから、全て消耗品だし、数も手に入らないから、こんなに高騰するわけよ。暴落してもいいならいくらでも競りに出せばいいぜ」
【ブログネタメモ帳】
・Aランクモンスターの魔石に使用用途と価値の変動
「詳しく教えていただいてありがとうございます」
「いや気にすんな。俺ら冒険者を気遣ってくれてありがとうな。ケイタそれとな」
「はい、なんでしょうか?」
神妙な顔をして頭を下げる支部長である。
「忙しいと思うが、できれば、今後階層10階更新の度にすまないが報告に来てくれねえか。実は40階後半以降の情報がないんだわ。後続の冒険者のために協力してくれねえか」
(なるほど、これで呼んだのか。最初にこちら側の要件を聞いてくれたのか)
「もちろん構わないです。攻略方法も含めて開示する予定でした」
皆さんに相談してなかったですね、と後ろを向くがリーダーの一存で問題ないと言われるおっさんである。
「そ、そうか。いいのか?そこまでしてほしいとは言っていないのだが」
(まあ地図機能など、タブレットの能力を使ったことまでは教えないけどね。砂漠に作った道は消す予定ないんで、そういうことまでなら話はするかな)
「もちろん構いません。今日は予定があるので、明日にでも50階までの情報を説明に伺います」
「いや、本当にすまねえ」
そう言って副支部長とともに再度頭を下げる支部長である。
Aランクモンスターの魔石は35個全て競りに出して、いくらになるか、金額の様子を見るとのことだ。
冒険者ギルドからは競りに10日はかかるとのことだが、構わないと伝えるのだ。
その後昼食を済ませ、防具屋に向かうのであった。
道中セリムがずっと指で自分の冒険者証のBの表示を指でなぞっているのであった。
(ふむ、俺の冒険者証にも反応してたし、何かBランクに思い入れがあるのかな)
「そういえば、ソドン」
「ぬ、どうしたのだ?」
「ソドンは盾持てますか?今後、前面でAランクモンスターの攻撃を防ぐことが多いと思います。盾持てるなら防具屋で買おうかなと」
「おお、そうか、さすがケイタ殿であるな。もちろん盾も扱えるのである」
会話をしながら、防具屋に入る。
いつものように、最高の防具を出すよう伝える。
カウンターに白金貨300枚だし10名分というと、店主は扉を『閉店』の表示に変え、全店員ともに対応するようだ。
おっさんも外套の中に着ていた、オーガ皮の鎧を買い替える予定なのだ。
各自の立ち位置や、魔法耐性などの耐性の有無などを見ながら、装備を検討する。
店員が担当者を分けて説明を続けるのだ。
おっさんも話に参加して、1人ずつ装備を決めていくのだ。
そして、店主に尋ねる。
「盾はありますか?最も頑丈なものをお願いします。こちらの方が装備できるものを」
店員3人がかりでふらふらしながら、1.5mの大きさのアダマンタイト製の分厚い盾を持ってくる。
「装備してみてください」
「うむ、ハルバートは片手で持てるが、これは片手だとやや重いな」
片手でぎりぎり盾を持てるとのことである。
「魔法で力を上げました。これでどうですか?」
「おおお、これなら持てますぞ!」
頭より高い位置に持ち上げるソドンに驚愕する店主達である。
特に体格のでかい、ソドンの防具の調整に2日かかるとのこと。
金額は予算を超える白金貨350枚もしたのだ。
そのうちソドンの盾と防具で白金貨100枚である。
そして、拠点が見えてくる。
走って、皆を置いて拠点に帰るセリムである。
何か話声が聞こえる。
「見てよ!かあさん。ランクBになったんだよ」
「あら!?ほんと、まあ、すごいわセリム!」
「これでとうさんと同じランクになれたんだ。ぼ、僕がBに…」
どうやら真っ先に自慢したかったようだ。
1階の調理場でセリムとセリム母の声が聞こえてくる。
家族の団らんを邪魔しないように皆静かに自分の部屋に戻るのであった。
・・・・・・・・・
深夜の寝静まったころ、おっさんが構える拠点の庭先で会話する2人の獣人がいる。
人目を避けているのか、足音を消し、小声で会話をしている。
「お呼びでございましょうか。どうされましたか?元気がございませんね」
「うむ、余は牢獄の中で何を学んだのだろうと思っていてな」
「は?といいますと」
「いやなに、命からがらガルシア獣王国を逃げ出したと思ったら、気付けばお前と共に奴隷商に捕まっておってな。1年間ずっと牢獄の中で色々考えてきたと思ってたのだがな」
「な、何の話でございましょうか。何をおっしゃいますか?」
「今日のケイタの話を聞いたか?余が余のこれからを必死に考えている中、ケイタは仲間を思い、万を超える民のことを考え、将来の冒険者のことまで考えていたのだぞ。何て小さいことかと思うてな」
「そ、そのようなことおっしゃらないでくださいませ。殿下あっての獣王国ではございませんか?」
「いやそうではない。決してそうではないのだ。余はガルシア獣王国のことなど考えていなかったのだ。それを思い知らされたのだ。余は、余は決めたぞ!」
「どうなされるおつもりですか?」
「このダンジョンの攻略をケイタと共に達成するのだ。そして、ケイタの考えや行動から学ぶのだ。そうすれば、ダンジョンを攻略したあと何をすべきか分かる気がするのだ。親衛隊長よ、今後もついてきてくれぬか?」
「もちろんでございます。死後の果てまで、どこまでもついてまいる所存です」
2人の獣人が1つの目的ができたようだ。
静かに元来た部屋に戻るのであった。
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