第33話 母の思い

今日からパメラとソドンを連れて1階から20階を目指そうという日のことである。

皆で朝食を囲みながら日程などを話し合うのだ。


「では、チェプトとメイは新しく拠点に加わったパメラとソドンの部屋の家具などの配備をしておくように」


「「はい」」


ロキがチェプトとメイにいつものように指示を出す。


「セリムさんは20階からで大丈夫なので、それまではゆっくりされていてください」


「なんか俺だけ悪いけど分かった。家でできることやっとくよ」


おっさんは今後の予定をセリムに伝える。

そして、パメラとソドンを連れて2周目の1階から10階を目指すおっさんである。

今回は人数は要らないといったがセリム以外いつものメンバーである。

イリーナもロキもコルネも従者も侍女も、だれも断らないからである。


「コルネ、すいません、今日は速さ重視で行くため、弓は不要です」


「分かりました!」


そういうとタブレットの地図画面を起動させて、標的が現れる瞬間から火魔法で爆死させていく。

手もかざさず、ほぼノータイムである。

何も言わずついて行く一行である。


そして、一日目が終わりの5層入口の広間である。


「過去最高記録ですね。1日で5階まで行きましたね」


そう言いながらおっさんは野営のための調理用の水の準備をしている。


「ま、魔力は大丈夫なのであるか?」


1日で数百匹のゴブリンとコボルトを灰にしてきたのである。


「大丈夫です、私の魔力は多めなんですよ」


(久々に聞いたな。魔力大丈夫かって)


外套の効果で1時間にMPが100近く回復するおっさんである。

MP1しか消費しない魔法をいくら使ってもMPの回復速度の方が早いのだ。

そう思いながら、10階のボスにたどり着く一行である。


「もうこのまま私が倒してしまいますね」


「畏まりました」


ロキが返事する。

ボスの間にコボルトキングとそれを囲むコボルトがいる。


(お、コボルトキングは初か。火魔法レベル3は使ったことないな)


「フレイムストーム」


4つの10mの火の塊がまだ動かないコボルトキングとそれを囲むコボルトに当たる。

動く間もなく灰になったようだ。


(やはり、火魔法も複数攻撃か)


驚愕の目で見る、パメラとソドンである。

足が震えているようだ。


「あれ、ケイタ様、この前の魔法と違いますね」


「そうですね、この前とは別の魔法を使いました」


「前の魔法はもっとすごかったですよね」


そんなことがあるのかという顔でおっさんとコルネの会話を聞くパメラとソドンである。

おっさんら一行はワープゲートを使わずそのまま20階を目指すのである。

1日3層というハイペースで進み、ダンジョンに入って6日目にはボスの間に着くのである。


「今後のために陣形の練習もかねて、ここは皆さんでお願いします。パメラさんとソドンさんは私と共に後方待機を。人数も多くなるので、ほかの方の動きを見て、今後の立ち位置を検討されてください」


「なるほど、分かったである」


難なくボスを倒すのである。

ソドンが皆の動きに驚愕するのである。

支援魔法でステータスの数値に2~3倍の補正がかかっているのだ。

皆で素材を回収し、20階に到着したので、拠点に戻る一行である。


明日明後日は休みであると宣言するおっさんである。

従者達は街に出かけるのである。

おっさんもDIYで作った風呂の改築を進めているのだ。

ソドンさんのことを考えて少し大きくしているのだ。

貯水タンクも設置し、おっさんがいなくてもお風呂に入れる環境を進めるのである。



2日の休みも終わり、次は30階を目指す日の朝。


「セリムさん、では罠感知お願いしますね」


「分かった」


今日からセリムもダンジョンへ行くという朝のことである

朝食を囲んで今後の予定をセリムに伝えるおっさんである。

そこで、セリム母が声を上げる。


「あ、あの、うちのセリムはダンジョンの攻略なんて無理です!何を言ってやる気を出させたか知りませんが、うちの子にそんな深い階層へなんていけないんです!」


大きく立ち上がるセリム母である。

どうやら今日からセリムも参加するとなって思いが爆発したようだ。

皆何事かという顔をしている。


「へ?」


急に言われ、ついていけないおっさんである。


「セリムを見ればわかるじゃないですか、そんな才能はないのです!!」


「才能は有ります」


セリムの才能がないと言われムッとするおっさんである。


「え?どこにあるのですか?」


「才能は有ります。しかし、それは剣や魔法ではないだけです」


「ご、誤魔化さないでください。うちのセリムは昔から…」


「昔から何ですか?昔から人一倍どころか人の十倍努力してきたのではないのですか?誰よりも必死に頑張ってきたのではないのですか?しかもそれはあなたのためじゃないのですか?」


(子供が自分のためにあんな数のスキルが生えてくるまで努力できるわけないだろ)


おっさんの言葉に目を見開くセリムである。


「な、なぜそんなことを!?」


「私にはわかるからです。それで、才能のありなしですか。例えば今日の料理もおいしいですね」


「え?何の話をしているのですか!!」


「ウガルダンジョン都市の郷土料理ですか。今度はフェステルの街の名物料理を作っていただけますか?もちろんメイやアリッサに料理方法をきいたらいけませんよ。本で調べてもいけません」


「な!?何を言っているんですか!そんなのことできるわけないじゃないですか」


「今あなたは同じことをセリムさんに対していっているのですよ」


「どういうことですか?」


「料理を作るには人から教わるか、本で読むか、自分で0から生み出すかしかありません。違いますか?」


「あ、当り前じゃないですか!」


「では、剣の使い方はどうですか?魔法の使い方はどうですか?全て基本となるやり方があって、どんなに才能のある人もそれを学んでいくことで覚えていきます。セリムさんの才能は教える師匠も学ぶための本もない状態なのです。なぜならこの世界に彼と同じ職業の方がいないのです。誰もセリムさんに教えられないのです」


「師匠のいない職業なんて…」


「それがそんな職業があるのです。誰も教えられない才能を、目に見える方法もあります。唯一といってもいい方法がダンジョンにはあるのです」


「え?そんなことが…」


「ダンジョン50階より魔法書が手に入ります。それを使い、万人に誇れるセリムさんの才能を目に見える形でこじ開けようとしています。親御様として心配なのは理解しているつもりです。クランのリーダーとしてなるべく安全に配慮しますので、少しだけ待っていただけますか?1日も早く探しますので」


立ち上がり、セリム母に深く頭を下げるおっさんである。

謝罪されると思わなかったセリム母である。

これ以上何も言わないようだ。

セリムがおっさんの話を聞いて涙ぐんでいた。


ワープゲートを使い20階に移動するおっさんら一行である。

朝の一件については誰も口にしないようだ。


「30階までは陣形を意識して進みましょう。最前方に罠察知にセリム、前方中央にソドンさん、前方両端にイリーナ、パメラさん、その後ろにロキ、アヒム、アリッサが横一列、私、コルネ、最後にイグニルです。敵も少ないので陣形が抜けないことを意識してください。私とコルネで索敵をします」


「「「はい」」」


白金貨もする武器防具を揃えたので、アヒム、イグニル、アリッサは3人のうち2名は槍を持つことにしたのだ。


「す、すまぬが」


「なんでしょう?ソドンさん」


「さん付けはいらぬ。リーダーであろう。それに仲間のためにあれだけのことを言えるリーダーで某もよかった」


朝のことを言うソドンである。


「いらぬな」

「俺もいらない」


パメラもセリムも『さん付け』はいらないという。


「分かりました。さん付け無しでいきます」


罠の察知を何度かしながら、陣形の動きを確認していく。

そして明日は30階のボス戦というところでソドンから声が掛かる。

少し2人だけで話したいとのことである。

一言声かけて、今休憩している28階入り口の広間の端にいく。


「その、すまぬ、呼び出してしまって。どうしても気になっていることがあってな」


「え?なんでしょうか?」


「出発前の話もあったからであるがな。セリムを4日ほど見させてもらったが、ほかのものに比べてどうしても才能があるとは思えぬ。何か根拠があるのか?今後の階層で厳しくなっていくのではないのか?」


セリムも仲間になったので仲間支援魔法がかかっているのだ。

しかし、まだレベルも低く、他のものと明らかに動きが良くないのだ。


「そうですね。彼の才能が目覚めるのは、まだ先だと思ってます。たぶんですが、王国がひっくり返るくらいの才能だと思いますよ」


「そ、そこまでか。理由を聞けるか?」


「えっと、30階抜けたあたりでお話ししようと思っていたことがありまして」


検索神の話、仲間設定の話、支援魔法の話などを話すおっさんである。


「そ、そのようなことがあるのか」


「はい、仲間機能でソドンも探しました。えっとソドンって奴隷商で見つけたので、奴隷商が勧めてくれないあなたのところまでたどり着いたのですよ」


「そうか、なるほど、そのような力があったのであるな」


ソドンからパメラに話をして仲間機能に入るか決めるとのことである。

そして、翌日出発するおっさんである。


ボスの間の前にたどり着いたおっさんが口にするのである。


「まだ少し祝福が足りない方がいます。十分な祝福を得られるまで、30階以降のボスは私が倒します」


(セリムとかまだレベル10だしな。ボス戦は控えるか、防御抜かれたら怖いしな。出発する時も安全に配慮するって言ったしな)


「ぬ、分かった」


「この前の魔法使われるのですか」


「いえ、あれだと素材が手に入らないので、風魔法を連射して倒します」


扉を開け進むと、1つ目の10m近い巨人をオーガ30体が囲んでいる。


「今日は一発で倒さないので、討ち漏らしもあるかもしれません。陣を組んでおいてくださいね」


そういうと数歩前にでるおっさんである。

ソドンとパメラ以外は心配していないようだ。


「な!?中央にサイクロプスが見えるぞ」


パメラがたまらず声を出す。

おっさんはそのまま前にでるようだ。


「ウインドブレイド」

「ウインドブレイド」

「ウインドブレイド」


ウイントブレイドを連射するおっさんである。

最初の1撃で1つ目の巨人の首が飛ぶ。

攻撃を受け反応するが、1つの風魔法Lv2で5~6体のオーガの首が吹き飛ぶのだ。

10秒かからず全滅する。


「終わりました、皆で素材の回収をしましょう」


(これだけでセリムのレベルが21になったな、イリーナ、ロキ、コルネの3人がレベル22でならんだな。セリムの補助有のSTRがロキの補助無のSTRを超えたか)


巨体な31体の素材の回収に半日かかるおっさんら一行である。

台車にはそこまで乗らないので、魔石や牙など、高価なものを選んで回収するのだ。


「素材の回収も考えれば台車は2台必要ですね」


ロキから提案がある。


「そうですね。では次回から30階層から台車2台で行きますか」


「ではそのように」


次回の課題などを考えつつ、拠点に戻るおっさんら一行である。





・・・・・・・・・


おっさんら一行が拠点に戻り、寝静まったころ、深夜の拠点の庭先で話をする2人の獣人がいた。

他の人を気にしてか、音を立てずに動き、小声で会話をしている。


「誰にも気づかれてはおらぬな」


「は、もちろんにてございます」


「余はどうやらあの牢獄でもう死んでいたのであろうな。このような者が世界にいるとはとても思えぬ。これは牢獄で死ぬ間際に見た夢か幻か何かやもしれぬな」


「何を申しますか、殿下。し、しかしとんでもない者も世界にいますな。回復魔法は聖教国の大教皇クラス、攻撃魔法は火水土風を獣王国の魔法隊がお遊戯に見えるほどに使いこなしておりましたぞ。それもこれ以上の魔法を使ったという話をしている者もおります」


「そうだな、しかも素材を気にして数十体のBランクモンスターを鼻歌交じりに首を刈り取る始末よ。サイクロプスの首があんな風に吹き飛ぶ光景を見るとは思ってもみなかったぞ」


「あれはすさまじい光景でございましたな。それで今日はご相談したい話がございます」


ケイタとダンジョンの中で話したことを伝える獣人。


「ふむふむ、その検索神という神がケイタに力を与えておるのだな。そして我らもその力を与える仲間になれと。どうりでケイタの仲間があのように強いのだな」


「は、そのような話にてございます。いかがされますか」


「そうだな、まだこのクランに入ったばかりよ。断わってケイタの心証を害さないほうが良いと思うが、性急に動くのも足元を見られるからの。少し考えると言っておこうか」


「では、そのように」


「それにしても、でかしたぞ。そのような貴重な話を引き出すとはな。さすがわが親衛隊長よ」


「ありがたき、幸せにてございます」


「余もケイタと話をしたいのだが、動けぬのだ。今後もケイタと親交を深め情報を引き出すのだ」


「では、そのように。それで、動けぬと?」


「ふむ、私がケイタに近づくと、婚約者のイリーナといったかな。かなり警戒をするのだ。恐らく、元貴族と思われておる我らが、獣王国にケイタを連れていけば、また貴族に帰り咲ける。そのために近づくと警戒しておるのであろうな。あのガニメアスの古だぬきから他国に出ていくことを警戒するよう言い含められておるやもしれぬ」


「他国の国王をその様にいわれるのは…。国王と言えば、婚約者のジークフリート殿下とは、今後どうされるのでございましょうか。王都には行かれるのでございませぬか?」


「何を言っておる。奴隷に落ちた身よ。ガニメアスが獣王国との友好のため話を進めていたようだがの」


「ですが、ジークフリート殿下とはあんなに仲が良かったのではございませぬか?」


「過去の話よ。忘れよ。良いな?もう終わった過去の話なのだ」


「は、畏まりました」


2人の会話はここまでのようだ。

各々の部屋に音を立てずに戻るのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る