第32話 新たな始まり
今日は飲食店で地雷を踏んだ翌日の朝である。
ソドンからこっそりあれこれ聞いてすまなかったと言われた、心に深い傷を負ったおっさんである。
セリム家の引っ越しも午後もかけて無事に終わった。
セリム母からは短くよろしくお願いしますと言われたおっさんである。
セリム母は口に出さないが、おっさんをかなり警戒をしているようだ。
今はおっさん、イリーナ、ロキ、コルネ、セリム家2名、パメラ、ソドン、従者3名、侍女2名の13名で朝食を囲んでいる。
「あれ、今日の朝食はいつもと味が違いますね」
「はい、今日はセリムさんのお母様がお作りになったのですよ!」
「そうなんですね、美味しいです、ウガルダンジョン都市の風味がします」
(昨日食べた飲食店の味が…)
おっさんの古傷が広がったようだ。
今まで食べていたフェステルの街ではない風味が出ているようだ。
「い、いえ、どういたしまして」
ぎこちなく返事をするセリムの母である。
セリム母は何か言いたそうである。
「それで今日はどうされるのですか?ケイタ様」
今日の予定を聞くロキである。
「今日は、武器防具の購入ですね。武器と防具は30階に到達しましたから、しっかりしたものを買います!そして冒険者ギルドで冒険者証の発行とクランへの加入ですね」
「は、はい」
武器は最高のものを買う、防具は30階なので少し安めのものを買うという以前の話を強調するおっさんである。
2台の馬車で移動するおっさんら一行である。
武器屋に到着するおっさんら一行である。
「いらっしゃい、ああ、あの時のあんちゃん」
「今日も武器を買いに来ました」
「ほうほう、今日はどんなものだね」
「えっと、そこの女性にナックルを、そこの男性にハルバートを、そこの男性にレイピアをお願いします。最高のものでお願いしますね」
昨晩確認したところ、パメラは回復職ではなく、拳士であったのだ。
ソドンが武僧であるとのことだ。
当然回復魔法も使えるのだ。
ソドンの武器はハルバートとのことである。
パメラとソドンが何事かという顔をしている。
「きょ、今日もはぶりがいいね…ちょっと待ってな」
いくつか言って時間がかかるのか待っている間に店を見渡すおっさんである。
武器の揃いが前来た時より少ないことに気付くのである。
「アヒム、イグニル、アリッサ」
「「「はい」」」
「30階に到達したので、武器を新しくします。待っている間に店頭に出ている槍を選んでおいてください。予算は白金貨1枚程度です。あまり安いものを選ばないように、なまくらはいりません」
「「「畏まりました」」」
「ぶっ!?従者に白金貨の槍など…」
ソドンが小さく噴き出している。
3人が槍選び出している。
「またせたな、ちょっとまずはハルバートだ。アダマンタイトと一部オリハルコンも使った特注よ」
数十キロあるであろうハルバートを両手に抱えて持ってくる武器屋の店主である。
かなり重そうである。
「ありがとうございます、ソドンさん使って見てください」
「ん?使ってどうするのだ?」
片手で持つソドンである。
店主に比べてそこまで大きなハルバートに見えない。
店主は残りの武器を持ってくる。
「こっちは、軽さを優先した火竜のナックルだ。そして、こっちも軽さを優先したミスリルとヒヒイロカネのレイピアだ」
パメラとセリムも武器を受け取る。
パメラはナックルをはめて空を殴り始めた。
セリムも恐る恐る素振りをしている。
「どうですか」
「素晴らしい武器であるな」
「いいと思うぞ、これがどうしたのだ?」
「いい武器だけど」
(ふむふむ、やはり店主も相手の体格を見てしっかり選んでるんだろうな。これが体格のいい拳士だったらまた違ったのかな?)
「ではこれでお願いします。おいくらですか」
「ハルバートが白金貨25枚、ナックルが白金貨12枚、レイピアが白金貨10枚だ」
「分かりました、白金貨47枚ですね」
武器を選び終わったようである3人に声をかけるおっさんである。
「アヒム、イグニル、アリッサは武器を選びましたか?」
「「「はい」」」
槍を3本持ってくる3人である。
「こちらはいくらになりますか?」
「えっと、この3本なら白金貨4枚だが、まあ3枚にまけておくぞ」
(お、異世界にきて初めて値切ってくれた気がする)
「ありがとうございます、ちょうど白金貨50枚ですね」
ジャラジャラと白金貨200枚以上受付のカウンターに出すおっさんである。
10枚ずつ積み上げていく。
固まるセリム。
息を飲むソドンである。
パメラも驚きの目で見ている。
「ちょ、ちょっと待ってくれぬか?どういうことであるか?」
「え?朝お話ししたとおり、最高の武器を買いに来ました。ダンジョン用ですね」
(セリム母の飯に夢中で聞いてなかったな)
「え?何も払うものがないぞ?」
「構わないです。これからダンジョンの攻略で頑張っていきましょう」
「ダンジョン…。と、とりあえず、武器は受け取るである…」
この状況を見て、特に反応が無い者に気付くソドン。
あとでおっさん以外の人に相談しようと思うのであった。
ロキ達もそうしろという視線を送るのだ。
「それで店主白金貨50枚です」
「毎度、いつもありがとな」
「それでちょっと聞いていいですか?」
「うんなんだ?」
「今日はずいぶん品揃えが少ないですね」
「おお!分かるか、こっちも困っているんだよな」
「どうされたんですか?」
「いやフェステルの街がよ、今すごい武器を買いあさってんだよ。槍を武器ギルドが下ろしてくれなくて店も空っぽよ。弓も仕入れが減ってよ。あんちゃんもダンジョンにいくんだろ?武器が手に入ったら、武器はこっちに売ってくれよ?」
槍の品不足が激しいと嘆く店主である。
おっさんがトトカナ村周辺に要塞を作って2か月ほど経過する。
要塞の影響が移動距離10日離れたウガルダンジョン都市にも出始めているのだ。
「そうだったんですね。いつもお世話になってるので、そうしますね」
(フェステルの街の購買力が半端ないのか。活気が出てきたか)
結局、銀皿亭に泊まって城壁を築いていたため、フェステルの街の事情を聴いていないおっさんである。
フェステル子爵とイリーナは、わざわざフェステル領に変化をもたらした、張本人のおっさんに伝えなかったのである。
おっさんら一行は防具屋に行く。
イリーナとロキの鎧も含めておっさんを除く9人分の防具を買いに行くのである。
1人白金貨1枚程度、ソドンは大きいからと理由をつけて白金貨3枚の防具を買ったのだ。
防具には白金貨11枚使ったのである。
これでおっさんの残金は白金貨180枚ほどである。
「武器と防具がそろいましたので、冒険者ギルドに行きましょう。いやその前に飯ですね」
昨日の飲食店と別の店に行くおっさんら一行である。
その後、冒険者ギルドに到着する。
イリーナを気にして、ゴリマッチョの受付に並ぶおっさんである。
「今日は何用だ?」
「2名の冒険者登録とクランへの加入です」
「ついてきな」
試験会場に向かう。
パメラがカカシを殴るようだ。
「はぁ!!」
カカシが爆散する。
(ん?コブシが一瞬消えて見えたけど)
「Dだ」
ソドンがカカシを頭から真っ二つにする。
「ぬん!」
「Dだな」
シンプルにランクを伝える受付の職員である。
受付に戻り、簡単な説明を受け、おっさんの冒険者証をクラン加入のために渡す。
「ランクBか」
セリムがおっさんの冒険者証を見て呟くのであった。
奥に行っていた受付の職員に話しかけられる。
「ここにアリッサはいるか?」
「はい!」
「ランクDだ。冒険者証はあるか?」
「はい!」
アリッサの冒険者証を受け取ると、奥に引っ込むのである。
(あれ、おかしいぞ、アリッサはまだクランに入れてないしな。これはあれか、ダンジョンに入ったときのワープゲートか何かの記録がある。同時にワープゲートを抜けることによって、誰が誰と活動しているなどの情報が、冒険者ギルドに流れるようになっているのか)
なお、アヒムとイグニルは冒険者ランクDである。
タブレットでブログネタの整理すること30分。
「できたぞ、それとクランアフェリエイターは今日からDランクだ」
「階層30階に達したからですか?」
「そうだ」
ぶっきらぼうな受付の職員の説明を聞くおっさんである。
ダンジョンによる簡易のランク判定とのことである。
なお、クランのランクについて、クランメンバー全員が簡易ランクの判定の条件を満たさないとランクは上がらない。
30階まで行けたらDランク
40階まで行けたらCランク
50階まで行けたらBランク
出てくるモンスターより低いランク設定にしているのは、強い冒険者に寄生して能力以上のランクにすることを防止するためであるとのことだ。
そのため、試験を受けて冒険者ランクを上げるより、簡易判定の方が難易度は高くなっているのだ。
貰うものも貰ったので帰路に着くおっさんら一行である。
帰りに忘れていた鍛冶屋で風呂用の管を引き取る。
拠点に戻り夕食の時間である。
侍女とセリム母が夕食を作ってくれるようだ。
拠点の人数も増えてきて、建物も大きいので助かるという話である。
「これは給金が発生しますね」
夕食を食べながら、つぶやくおっさんである。
「え、給金ですか?」
「セリムさんのお母様です。さすがに料理に掃除までしてもらってタダ働きは良くないでしょう。ロキと家宰見習いのチェプトで相談して決めてください」
「はい、そのように」
セリム母も軽く会釈するのである。
「ケイタ殿は従事者を大切にしているのであるな」
「まあ、タダ働きは良くないと思ってるだけのことです」
「そうであるか。男爵がなぜ、このようなことされているのであるか?」
セリムも疑問に思っていることを聞くソドンである。
ソドンも最初は貴族であることを知らなかったのだ。
「まあ、ダンジョンに行きたいと思ったからでしょうか」
「男爵がであるか?」
「そうですね、男爵になったのもつい最近なんですよ」
「ぬ?どういうことであるか?」
最近仲間になった人も多いので、オーガの大群から国王の謁見までの流れを話すおっさんである。
「3000体のオーガ・・・」
「1年以内に10人以内の仲間でダンジョン踏破をあのガニメアス国王と約束をしたと…」
パメラとソドンもにわかに信じられないという顔をしている。
セリム母は顔をそんなことがあるのかという顔をしている。
「そうなんですよ。謁見の間で軽い質問されるだけって聞いたのに話がややこしくなって今に至るんですよね。あれ?ソドンさん国王を知ってるんですか?」
「そ、そうだな。以前少し見かけただけである」
歯切れの悪い回答をするソドンである。
「でも、あの魔法見せられたら、オーガの3000体くらいどうにかなりそうだったけどな」
「そんなにすごい魔法であるか?」
「たぶん彼よりすごい魔法使いはいないよ、世界に」
セリムが30階ボスを消し炭にした感想をいう。
にわかには信じられないという顔をするパメラとソドンであった。
・・・・・・・・・
深夜の寝静まったころ、おっさんが構える拠点の庭先で会話する2人の獣人がいる。
人目を避けているのか、足音を消して移動し、小声で会話をしている。
「皆には気付かれてはおらぬな?お主は体がでかいゆえな」
「大丈夫かと思われます」
「そうか、それにしてもここの主はよほどお人好しではないのか?奴隷を買った日に解放するなど聞いたこともないわ。それを、自分が体験することになるとはな。しかも自由に野放しとはな。昨晩は警戒して息をひそめていたが、何の監視もないようだな」
「は、はい。鍵も鎖もなく、自由に動けるようでございます。それにしてもよくぞご無事で、追撃から受けた傷もございません。いや本当に良かった。獣神リガド様は見捨てられなかったでございます」
「う、うむ。あれは今でも夢のようよ。それにしても、ケイタは王国の男爵であるらしいな。貴族には見えぬと思っていたが、最近爵位を与えられたそうだな。まあ、あれほどの回復魔法の使い手だ。爵位を与えられても当然よ」
「それにしても先ほどのオーガ3000体を屠ったという話は本当でしょうか?」
「奴も貴族だ。配下にいいところを見せたいのであろう。あれだけの回復魔法の使い手が攻撃魔法も使えるなど聞いたことがないわ。皆信じているようだが、まあ多少話を盛るのは仕方ないのではないのか。回復魔法で随分稼いでるみたいではあるがな」
「た、たしかに。これからどのように考えておられますか。このまま獣王国にも帰ることが出来ますが?」
「う、うむ、そうだな。獣王国か。まあ余は確かに人気があった。だが、所詮あったのは人気だけよ。力なく兄上に排斥されたわ。あれから1年よ。今さら余の居場所はあるまいて」
「そ、そんなことはございません。策謀にかけられたではございませぬか。あの頃の覇気はどこにやったのでございましょうか?これでは殿下のために命を捨てた家臣達の命が浮かばれませぬぞ」
「そうだな。たしかにそうだな。しかし、今動くのは早計だ。いつでもここから出ていけるのだ。あれほどの力だ。ここでケイタというものが何者なのか知ってからでも遅くないのではないのか?」
「た、たしかに。ではそのように」
深夜の会話はここまでのようだ。
ケイタのブログネタ収集のために、もう1つの物語が始まろうとしているのかもしれない。
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