第31話 奴隷解放
最初に話をしたエントランスルームのソファーに案内されるおっさんである。
書類をいくつかサインしていく。
説明を受け、書類に記入しながら奴隷商の接客担当に質問をする。
「この2人は奴隷解放できるのでしょうか?」
「え?そ、そうですね。解放は可能です。借金奴隷で犯罪奴隷ではありませんので。えっと2人で白金貨2枚ですね」
「白金貨2枚をこのお店に払えば奴隷解放できるってことですか?」
「左様でございます。しっかり本人達にもそのようにいい含めると、しっかり働いてく…」
「じゃあ白金貨2枚お渡ししますね」
接客担当が言い切る前にお金を払うおっさんである。
「え?へ?どういうことでしょうか?」
「見てのとおり白金貨2枚出したので奴隷解放をお願いします。奴隷購入と奴隷解放の手続き両方をお願いします」
もう見慣れたのか何も言わないイリーナとコルネである。
何が起きたの分からないツェプトである。
考えることをやめ、そうですかと手続きを進める接客担当である。
書類の記入を進めていく。
手続きが全て終わり、必要書類を貰う頃、貫頭衣を着たパメラとソドンがやってくる。
どうやら湯浴みを済ませ、きれいな貫頭衣を用意してくれたようだ。
(ソドンさんでかいな。2m軽く超えているな。体重も200kgくらいありそうだな。完全にタンクです。検索神様ありがとうございました。じゃあ、パメラさんが回復職か。この辺はあとで聞くかな)
灰色の髪と耳と尻尾で白い角2本、身長230cmの牛型獣人ソドンである。
虎柄の髪と耳と尻尾で目も金色の猫目、身長160cmの虎型獣人パメラである。
「パメラさんソドンさんではよろしくお願いしますね」
「よろしく頼む」
ソドンが返事をする。
「馬車がありますので、私たちの拠点まで案内します」
2人を乗せて馬車は進んでいく。
当然のごとく会話は生まれないようだ。
拠点につくとセリム家の引っ越しは順調で進んでいるようだ。
建物内に入るとバタバタと荷物の運び入れをしているようだ。
ロキがおっさんに気付く。
「ケイタ様お疲れ様です。奴隷を購入されたのですね」
「はい、その点について、意識合わせをしたいのですが、セリムさんはいますか?」
(そういえば、この建物高さあってよかったな。ソドンさん天井に頭ぶつけなくて。日本だったら危なかったな)
玄関も2m50cmあり、部屋の天井は3m近くあるのだ。
「3階で荷物を整理しております」
セリムの母の部屋は3階になったようだ。
「パメラさんソドンさん3階ですので、こちらです。ちょっともう1家族が引っ越してきて慌ただしくなってますがすいません」
「う、うむ」
ソドンが返事をする。
セリム母予定の部屋で荷物を整理しているセリムもおっさんの私室に呼ぶ。
母親はまだ住宅街にいる。
まだ今まで住んでいた場所の荷物を整理している途中とのことである。
ソファーだけでは足りなかったので、椅子も人数分用意するおっさんである。
「えっと、皆さんいますね。本日からダンジョン攻略の仲間になったパメラさんとソドンさんです。こちらはイリーナ、ロキ、コルネ、セリムさんです。で私がケイタです」
軽く自己紹介をするおっさんである。
なんか思った感じと違うなと思うパメラとソドンである。
お互い顔を見る。
するとそれに気付いたおっさんが声をかけるのである。
「パメラさんもソドンさんも椅子があるので座ってください」
座ろうとしない2人に椅子を勧めるおっさんである。
「仲間といいましたが、奴隷を購入されに行ったのではないのでしょうか」
というロキである。
「はい、奴隷を購入しました。でもすぐに解放したので、元奴隷です。皆さん元奴隷だからといって仲間はずれにしたらだめですよ」
「「「え?」」」
ロキとパメラとソドンが理解できなかったようだ。
「え?どういうことでしょうか?奴隷だけど仲間として接しなさいということでしょうか?」
「違います。既に奴隷の解放の手続きは終わってます。こちらが奴隷解放の契約書です」
はいとロキに渡すおっさんである。
「え?本当です。白金貨2枚払い済みになっています…。な、なぜ…?」
「な!?そ、それはまことであるか…」
驚愕するロキと、契約書を覗き込もうとするソドンである。
「それは当然ダンジョンへ一緒に行く仲間が必要だからです。奴隷が必要だったわけではありません。ああ、このお金は私が個人的に払いますのでお気になさらず」
「えっとそうではなく…、奴隷解放した理由をできれば…」
「そうですね。私の信仰する神が奴隷の購入を許さないからでしょうか。仲間にするなら奴隷の解放もセットなのです」
(奴隷を買ったなど、ブログに書こうものなら、神罰じゃすまないからな)
当然、本日のパメラとソドンとの出来事についてはブログネタにしていないおっさんである。
「な!?そ、そうだったのですか。申し訳ありません」
「それとパメラさんソドンさん」
「ぬ?は?え?」
理解は追い付かないが、ソドンが頑張って返事をする。
「なぜ借金したか知りませんが、次回からこのような散財をしたらだめですよ。遊興費は節度を持って使ってくださいね」
(まじ、2000万借金ってなんだよ。借金払えずゴロツキにでも襲われたのか?)
「………」
ソドンももう答えられないようだ。
「これからの話ですが、まずは2人の服があまりにもあんまりなので、衣服を購入します。ダンジョンに入るための冒険者証の作成もですかね。何も持っていないようなので、あとは武器と防具を購入に行きますか。もうお昼を過ぎてますので、今日は2人の衣服だけ買って続きは明日にしますかね。そんなに急いでも仕方ないですしね」
「そ、そうですね…。それからどうするのですか?」
「とりあえず、私達と同じ30階へ目指しましょうか。20階くらいまではそんなに人数いらないかもしれませんね。21階から30階まではセリムさんの罠感知が必要になってくるので同行願います」
「分かりました。ではそのように」
「分かった」
ロキとセリムが返事をする。
(タブレットの話は、今はいいか。30階まで行った後くらいの方がいいだろう。奴隷やってて長かっただろうし、今はここでの生活に慣れてもらうかな)
タブレットの仲間にするのもそれからにしようと思うおっさんであった。
侍女を2人引き連れて大通りにある衣服屋にいくおっさんらである。
ロキとセリムはセリム家の引っ越しの続きに戻ったのであった。
店に入ると店の店員が声をかけてくる。
おっさんは基本的に勧められた服を購入するので、店員に声をかけられないと困る派である。
「今日はどのような服を?」
「えっと、こちらの2人の服をお願いします。私はよくわからないのでとりあえず本人らの希望を聞いてください。外着と家着とか下着とかそういうのでお願いします。特に予算に上限はないです」
ざっくりお願いするおっさんである。
衣服には興味のないおっさんなのだ。
そして、予算を店に行くたびに聞かれるので予防線を張るのである。
「え?は、畏まりました」
奴隷に服をという目をするが、口には出さないようだ。
パメラとソドンに話をしながら服を選んでいるようだ。
なお、素足だったので、靴も購入している。
タブレットで前回のダンジョンでの検証を整理すること1時間。
どうやら服が買えたようだ。
貫頭衣ではなく、今購入した衣服に着替えている。
パメラはともかくソドンの服はよく有ったなと思うおっさんである。
「あの、こちらの貫頭衣はどうしますか?」
(む、いらない、いや待てよ、何か、企画で使えるか?)
貫頭衣を見つめるおっさんである。
「すいません、いらないですよね」
しかし時間切れで処分されてしまったようだ。
「お会計は金貨38枚になります」
(ふむ、異世界は相変わらず服が高いな。2人分で380万円か)
「どうぞ38枚ちょうどですね」
「お金持ちなのだな」
パメラが久々に話す。
しかしお礼は言わないようだ。
「まあ、そうですね」
「このような服まで買ってもらってかたじけない」
「いえいえ、服がないと困りますよね。服も買えたし、飯にしましょう」
お昼過ぎていたが、貫頭衣ではかわいそうと先に衣服屋にいったのだ。
全員で店に入る。
注文を各自頼む。
牢獄生活の2人である。
好きなものを好きなだけ頼んでいいと言うおっさんである。
パメラの分はソドンが代わりに頼むようだ。
料理の注文を待っているとソドンから声が掛かる。
「ケイタ殿と申したか。礼を言いそびれたが、礼がいいたい。助かった。本当に助かった」
両手をテーブルに着きテーブルに水平に頭を下げ、礼を言うソドンである。
「いえいえ」
「して、ダンジョンであったな。この団体でダンジョンへ稼ぎに行っているってことであるか?」
「いえ、違います」
「ん?ダンジョンに行っているのであろう?稼ぎ以外だと何だというのだ。鍛えに行っておるのか?」
「まあ稼ぎも鍛えもあるかもしれませんが、私達は攻略に行ってるのです」
「ん?確か某の記憶では前人未踏のダンジョンと聞き及んでおるが?」
「そうですね。最初の一番を目指してます。目指せダンジョンコアといったところです」
「な、なんと本気であるか?」
「はい、本気です」
そうこうしていると注文の品がどんどん運ばれてくる。
ソドンは結構食べるようだ。
イリーナも結構食べるようだ。
「そうであるか。いや某の力では力不足かもしれぬぞ?もちろんパメラさま…さんも同様である」
「大丈夫です。上の階層から鍛えていきましょう」
「パメラさんとソドンさんは言葉使いが上品だな?どちらかの貴族であったりしたのか?まあ言えぬなら良いのだが」
イリーナが会話に参加する。
「そ、そうなのだ。ちょっと詳しくは言えぬのだが某はパメラさんに仕えておってな、できればパメラ様と呼ばせていただきたいのである。奴隷から解放いただき大変失礼と存じているがお願いできぬか?」
「別に構わないです」
(様がたまに漏れてるしな)
「そ、それは助かるのである。その、あれこれ言う立場でないことは百も承知であるのだが…」
「なんでしょう?何でも言ってください」
「このダンジョンの攻略というのはいつまでというのはあるのであるか?奴隷商では長くダンジョンに行くと言っておったが…」
「え?ああ、そうですよね、実は期限はあと10カ月くらいなので、10カ月あれば後は好きにしていただいて構わないです」
「ぬ、そ、それは誠か!!」
巨大な図体で立ち上がるソドンである。
パメラも目を見開く。
「はい、10カ月後にちょっとした用事がありま…」
「き、貴様!!!ちょっとした用事といったな!!」
「ふぁ!」
肉にフォークを突き刺し、鬼の形相で立ち上がるイリーナである。
「そういうつもりでいたのか?ケイタ!!」
「ち、違います。大変大事な用事がありますのです。それはもう命より大事な用事があるのです!」
直立不動で立ち上がるケイタである。
「本当だな?」
「も、もちろんであります!」
(ちょ、誰だ?こんなとこに地雷を置いたのは!うっかり踏んだじゃねえか)
人のせいにするおっさんである。
ソドンとパメラがポカンとしている。
誰もおっさんを助けてくれないようだ。
店内のだれもがこのやり取りを見ている。
「では何があるのか言ってくれ。大きな声でな」
「え?」
「言えぬのか?」
凍てつく瞳で睨むイリーナである。
「わ、私とイリーナの結婚式が王都であります!!」
その日一番の拍手が飲食店で起きたのである。
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