第30話 パルメリアート=ヴァン=ガルシオ
冒険者ギルドで魔法書と職業について調べた翌日のことである。
拠点で朝食を囲むおっさんらである。
おっさんが今日の予定を口にする。
「それではロキはセリム家の引っ越しお願いしますね」
昨晩話し合って、ロキ、アヒム、イグニルの3人がセリム家の引っ越しを手伝うとのこと。
従者だけにしなかったのは、ロキを引っ越しの指示役に据えたのだ。
チェプトには奴隷商の場所を案内してもらう。
チェプトは前回の休日にロキに連れられていった繁華街にいったのだ。
その時、奴隷商がある場所を知ったのだ
おっさん、イリーナ、コルネ、チェプトで奴隷商に行くことにしたのだ。
2手に分かれて、今日の用事を済ませるのであった。
「さて私達も行きましょう」
チェプトの御者で繁華街に向かうおっさんらである。
「でも、なんで奴隷を買おうと思ったんだ」
「まあ仲間がいるかもしれないので。検索して仲間がいなければ、それまでです。ロキ達に合流して引っ越しを手伝いましょう」
「そうなのか。そういえば、以前に言っていたほしい仲間って、タンク職とかいっていたな。あと回復職が欲しいって言っていたな」
タンク系とはタフで敵の攻撃を引き受ける職業のことである。
「そうですね。罠解除のセリムさんが仲間になったので、その2名がいれば万々歳です」
「ヤマダ男爵様あちらです。見えてきました」
チェプトから声が飛ぶ。
奴隷商の建物に備え付けられた馬車の駐車スペースに停める。
奴隷商は金持ちが購入することが多いので、駐車スペースは当然あるのだ。
「大きな建物ですね」
5階建ての大きな建物だ。
「では探してみますね」
「うむ」
タブレットを操作し仲間検索をするおっさんである。
しかし、仲間はいませんと表示されるのである。
「あれ?いないですね」
「そうなのか。もう帰るか?」
「ちょっと待ってください」
タブレットの『地図』機能で建物の大きさを測るのだ。
「この建物奥行きもかなりありますね。ちょっと中に入らないと検索できませんよ」
奴隷の収容のため、かなり奥行きのある建物になっている。
建物の入り口では、検索範囲の50mでは検索外になっているのだ。
「そうなのか。中に入るのか?」
「せっかく来たので中に入りましょう」
奴隷商の建物の中に入るおっさんら一行である。
ツルツルに光沢のある大理石に綺麗にあしらわれた絨毯が引かれてある。
「これはこれは、いらっしゃいませ」
すぐに礼服に身を包んだ接客担当から声が掛かる。
「すいません、今日は奴隷を見に来ました」
奴隷を買いに来たとは言わないおっさんである。
エントランスルームに備え付けられたソファーを案内されるおっさんら一行である。
座るとすぐにお茶が出てくる。
「左様でしたか、どのような用途の奴隷を?見たところ冒険者のようですが?荷物運びか戦闘用でしょうか?」
「戦闘用?」
話を聞くおっさんである。
後方職に厳しいこの異世界では、当然長くダンジョン籠ると魔力が尽きる。
そのため、回復魔法はとても貴重であるのだ。
なので、頑丈な戦闘奴隷を前方に配置し、回復魔法や回復役を節約する戦法が取られているのだ。
「ふむ」
というイリーナ。
「私としては、頑丈な方、もしくは回復魔法の使える方を探しています」
「予算はありますか?」
「今日は見学と思ってますので、全て見せていただけますか?」
「畏まりました。ご案内します」
同じ1階の奥へ案内されるおっさんである。
奥にある奴隷を見せるために作られたと思われる広い部屋に案内される。
「こちらでお待ちください」
部屋の中央に置かれた椅子に座るおっさんら一行である。
入った入口と反対側の扉から出ていく接客担当である。
(ふむ、この世界には、奴隷を強制的に使役する、奴隷魔法とか契約魔法みたいのはないんだっけ)
昨晩の間にスキルを確認したおっさんである。
「ではここは建物の中央のようですね。もう一度探してみます」
「うむ」
タブレットの『仲間』機能を操作するおっさんである。
『近くにいる人を仲間にする』をタップすると、
『近くに仲間にできる人がいます。誰を仲間にしますか?』
『パルメリアート=ヴァン=ガルシオ』
『ソドン=ヴァン=ファルマン』
「え?2人もいます」
(やばい最初に来るべきだったか。あれ?家名があるってことは貴族か?元貴族の奴隷ってことか。って?うん?ガルシオ?聞いたことあるぞ)
「ほ、本当か?」
「はい、今日は購入までいくかもしれません」
「そうか」
「大変お待たせしました。こちらがまず回復職です。貴重な回復職ですので、これで全員です」
接客担当は販売担当でもあったようだと思うおっさんである。
貫頭衣に身を包んだ奴隷が足に鎖をつながれたままやってくる。
8人はいるようだ。
回復職ということでそこまで体格は良くないようだ。
細身で男と女が半々のようだ。
(さて、2名をこの中からどうやって探すかな?お客様の中にパルメリア-トさんいますか?じゃあ、さすがにおかしいか?)
「分かりました。すいませんちょっとよろしいでしょうか?」
「え?なんでしょうか?」
「奴隷には名前があるのでしょうか?」
「え?もちろんございます」
「では名前を順に言っていってください。私は、能力は名前に宿ると信じております。ですので、私に合う素晴らしい名前の方を買いたいと思っております」
おっさんとの付き合いが長くなってきたイリーナは、おっさんがこういうこと言うのが好きだなという目で見るのだ。
「え?そうですか。わ、わかりました。お前達順に名前をいいなさい」
「カルト」
「ヒム」
「ブルネイ」
「アント」
「ケイ」
「ポッポロット」
「レイゼン」
「モルント」
(レイゼン、カッコいいな。検索に引っかかったのは回復職ではないのか。タンク系がひっかかったのか)
「すいません、どうやら私に合う方はいないようです」
「さ、左様でございますか…」
「次は頑丈な方を呼んできてください。全員ですよ」
「少々お待ちくださいませ」
奴隷と共に出ていく奴隷の接客担当である。
「ふむ、いなかったな」
「そうですね、もしかしてタンク系が2名かもしれません」
(守り中心の仲間構成か。まあ最奥は敵も強敵だろうしな)
ほどなくすると、また奴隷の接客担当が戻ってくる。
今度はガタイのいい20名引き連れてきている。
「すいません、頑丈な奴隷は120名ほどいますので6回に分けてご案内します。また名前を名乗ればよろしいのでしょうか」
「お願いします。ゆっくり1人ずつお願いします」
1回目の20名ではいなかった。
2回目の20名でもいなかった。
結局6回目の20名でもいなかったのだ。
(ふぁ、いないなっていうことは出していない奴隷の中ってことか?)
「すいません、これで全員ですか?」
「は、はい全員です」
「う~ん、もう少し見学したいのですが」
「といいますと?」
「例えば、今呼んできていただいた以外の方とかいませんか?」
「お勧めできる方は全てお連れしました」
「お勧めできない方がいるということでしょうか?」
「そ、そうですね」
「その中に、回復職や頑丈な方もいるということですか?」
「はい、何名かいますね。そうですね、どうでしょうか。中にご案内しますので、見て回られた方がよろしいかと。なぜお勧めできないかも伝わりやすいかと」
「分かりました。ご案内願います」
ついて行くおっさんである。
イリーナ、コルネ、ツェプトもついてくるようだ。
どんどん中に進んでいく。
「今回案内していないのはこちらの方々です」
病弱であったもの、うつろな表情のもの、敵意むき出しの奴隷達が3畳ほどの小さな檻に入れられている。
「えっと、名前を聞いてもいいですか?」
「ど、どうぞ」
名前を聞いていくおっさんである。
小声で聞き取れないもの。
睨みつけ返事をしないもの。
反応を示さないもの。
「いないですね」
(半分以上分かんないけど)
そして、牛型の男の獣人の前に来るおっさんである。
全身傷だらけである。
「すいません、お名前を聞いてもいいですか?」
「うぬ?先ほどから全員の名前を聞いていたな。どういうつもりか知らぬが、某はソドンという」
(いたあああああああああ!!!ソドンさんだ)
「いい名前ですね。気に入りました。購入は可能ですか」
「ぬ?」
なんだといった顔をするソドン。
「申し訳ございません。この奴隷はちょっと込み入った事情がございまして、お一人では売れないのですよ」
「へ?そうなんですか?誰と一緒なら購入できるのですか」
(うん?奴隷にセット販売があるのか?)
「隣にいるこちらの方です」
そういって案内された、まだ声をかけていない、奥にいる奴隷を見て、息を飲むおっさんである。
虎型の女性の獣人である。
片手片足はなく、どうやら目も片方ケガで見えていないようだ。
敵意のようなものを向けて睨んでいる。
「一緒でないと購入できない理由をお聞きしても?」
「そうですね、先ほど話をしたこの奴隷が一緒に販売しないならとここを動かぬといって言うことを聞かないのです。いくら痛めつけても態度を変えないため、我々としても困り果てているのです。体も頑丈で調教の効果もなく」
「本当ですか、ソドンさん?」
「ぬ?そうである。某と一緒でないと購入されるわけにはいかぬのだ」
「2人でおいくらですか?」
「え?購入されるのですか?」
「まあ条件次第です」
「2人で金貨10枚です」
(2人で100万円か。たぶん早く処分したくて安くしてるのかな)
「ちなみにさっき見せていただいた回復できる方と体が頑丈の方は平均しておいくらですか?」
「回復できる奴隷は金貨200枚、頑丈な奴隷は金貨50枚にてございます」
(びっくりするくらい安かった)
「分かりました。奴隷と少し会話をさせてください」
「ど、どうぞ」
「すいません、ソドンさん」
「ぬ?なんだ?奴隷にさん付けか、殊勝な心構えであるな」
「はい、えっと、私達はダンジョンへ行く仲間を探しております。その仲間として、あなたに来ていただきたいと思っています。2人とも購入したら来ていただけますか?結構長いことダンジョンに行く予定です」
「ぬ、そ、そうだな。購入してくれるならダンジョンに行ってもよいぞ」
「ありがとうございます」
虎型の獣人の前に来るおっさんである。
「ではえっと、あなたのお名前を聞いてもいいですか」
睨め付ける虎型の獣人である。
小さく名前をいう。
「……パ、パメラ」
(パメラってパルメリアートのことなんじゃないのか?もしかして元貴族とかだから隠してるのか。じゃあソドンも隠せよ。この人もダンジョンの仲間ということなのか?)
「えっと、パメラさん。今聞いていたかもしれませんが、私には2人を購入する意思があります。購入後ダンジョンに行っていただけますか?」
睨みつけて返事をしないようだ。
(あの体だ、まだ決められないだろうな。先に回復だな)
「ケイタ?どうするのだ?購入するのか?」
「えっとパメラさん次第ですね」
「すいません、私は回復魔法を嗜んでいます。全員を癒しても問題ありませんか?」
「へ?どうぞ」
何を言い出すんだという顔をする奴隷商の接客担当である。
「ヒーリングレイン、キュアレイン」
半径50mの中に回復魔法と治癒魔法が降り注ぐ。
傷だらけの奴隷達に回復魔法が行きわたるのだ。
(ふむ、欠損はやはり治せないようだな、初の回復魔法レベル4だな)
「な、なんと、これだけの魔法を使える方だったのですね」
奴隷の接客担当も驚愕の表情である。
全身の傷が治ったソドンも傷の消えた体を触っている。
「パメラさんもう一度回復魔法をかけますね」
「ヒールオール」
パメラの下に黄金に輝く魔法陣が出現し、垂直に光りが立ち上る。
まばゆい光が消えると、失ったはずの手足が再生している。
最初何をされたか気づかないパメラである。
失ったはずの体の違和感に気付き始めるのだ。
わなわなしながらパメラは両の目でそれを確認しているようだ。
(やはり欠損はレベル4で直せるのか。レベル4の魔法はどうやら単体で高い効果を発揮するみたいだな)
「な、なんだと、こ、こんなことが、ばかな…」
「な、パメラさま…さん大丈夫ですか?き、きさま、パメラさんに何をしたああああ!!!」
(パメラさまと言ってる件について。そういえば、ガルシオって獣王国の名前じゃん。ってことはこの人はガルシオを冠することが許された元王族ってことか?元王族が何かしでかしたってことか?じゃあ、ソドンさんはその配下か)
何となく事情を察するおっさんである、
そして檻を壊さんばかりに暴れるソドンである。
檻の棒はものすごく軋んでおり、抜けそうである。
「ソドンよ。大事ないのだ。回復魔法をかけてもらったのだ」
「さ、左様でございますか」
パメラにそう言われ落ちつくソドンである。
「では、もう一度聞きますね。私達はダンジョンに行く仲間を探してここにきました。仲間になるならあなた方を購入する意思があります。いかがされますか?ソドンさんはダンジョンへ行っていただけるという話なのですが、パメラさんからは聞けていないのです」
「む、まあ、そうだな、どうせ失うはずの命だ。好きに使えばよい」
「ではダンジョンへ行っていただけるという話ですね。ありがとうございます」
そして、接客担当の方も見るおっさんである。
接客担当はどうやらさきほどの回復魔法Lv4の衝撃から回復できていないようだ。
「それでは、購入希望です。金貨10枚でいいですか?手続きをお願いします」
「え、あ、はい。で、では詳しい話をしますので、こちらにきていただけますか?」
接客担当は回復したようだ。
購入の手続きを進めるおっさんである。
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