第29話 魔法書
30階攻略を達成したあと、セリムをウガルダンジョン都市の拠点に招き入れる。
今後の話をするため、私室にイリーナ、ロキ、コルネとともに話をするのだ。
するとロキから、声が掛かる。
「さきほどの、打ち上げなのですが、せっかくセリムさんを拠点に招いております。ここは拠点で親睦を図りませんか?」
「なるほど、それもそうですね」
「では、従者と侍女にその様に準備するよう声をかけておきます。話を進めていてください。すぐに戻ります」
ロキが打ち上げの段取りを進めてくれる。
「えっとセリムさん」
「は、はい、なんでしょう」
神の力を見たセリムの言葉使いが丁寧になっている。
「これから仲間にしますが改めてよろしいでしょうか。目標はダンジョンの攻略です」
「俺なんか仲間にしてもしょうがないといったけど、それでもいいなら」
しかし、すぐに元の言葉使いに戻るようだ。
「はい、では仲間にします。これは神の力による契約のようなものなので、一度仲間にすると解除は簡単にできないのです。あとできれば、昨晩の話の件も、これからする話についても他言しないでください」
「分かった。まあ信じてもらえないだろうけど。母には少しするかも」
「はい、なるべくで結構ですので、しないようお願いします。では仲間にします」
タブレットを操作して、仲間に入れる画面にする。
『近くに仲間にできる人がいます。誰を仲間にしますか?』
『セリム』
『セリム』を選択するおっさんである。
「仲間にしました。どうですか?目の前の銀の板が見えますか?」
「見えるぞ。本当だったんだな」
「ただいま戻りました」
ロキが従者達に指示を出し後部屋に戻ってくる。
「それではこれから、セリムさんの力の確認をします。この板にあなたの能力を数字として表示します」
「分かった」
セリムのステータスの画面に切り替える。
「では、って、え?」
(17歳か。見た目通りの童顔だったか。って…)
NAME:セリム
Lv:8
AGE:17
HP:90/90
MP:79/79
STR:34
VIT:28
DEX:47
INT:64
LUC:114
アクティブ:剣技【1】、槍技【1】、格闘【1】、罠解除【2】
パッシブ:礼儀【2】、算術【2】、力【1】、罠察知【2】
EXP:525
涙が出てくるおっさんである。
1つまた1つと涙が頬をつたっていく。
涙が止まらないようだ。
「どうしたんだ?」
「どうしたのですか?」
「大丈夫ですか?」
イリーナ、ロキ、コルネから心配の声が上がる。
「そ、そんなにひどいのかよ!」
たまらずセリムも声が出る。
「い、いえ、これだけのスキルを獲得するのに、並々ならぬ努力をされたのですね」
泣きながらに話すおっさんである。
そこには常人が普通に生きるのでは得られない数のスキルと、あまりに低いステータスがあったのだ。
「そ、そうだけど…、そんな事も分かるのか?」
「は、はい…。すいませんが、皆さん明日の予定ですが、私は、明日は冒険者ギルドに行こうと思っています。ちょっと冒険者の職業についてと、それとダンジョンで手に入る魔法書について調べたいことがありますので」
「分かった。何を調べたいのか言ってくれ、ともに調べるぞ」
「はい、素材の換金もしたいですし、同行させていただきます」
イリーナとロキも同意する。
コルネも強くうなずくのだ。
「ありがとうございます、あとセリムさんのステータスの皆さんへの開示はまだ待ってくれますか?」
「うむ、分かった」
その後、侍女達が腕を振るった料理により、セリムの歓迎会が催された。
セリムの表情が少し良くなってきたようであった。
歓迎会も終わりのことである。
「すいません、できれば、今後のこともあるので、すぐに連絡できるようにしたのです。できれば、この拠点の一室に住むか、すぐに連絡ができるようにしてほしいです」
「分かった、それは母と相談してみる。あ、あのさ、明日は俺のために冒険者ギルドにいくんだろ、お、俺も行くぞ?」
ではと冒険者ギルドでの集合時刻を伝えると、セリムは拠点を後にしたのであった。
そして、翌日の朝である。
おっさん、イリーナ、ロキ、コルネの4人で冒険者ギルドにいく。
従者と侍女には休暇を指示するのであった。
従者と侍女も休みに慣れたのか、思い思いに出かけるのである。
建物に入ると既にセリムはいるようだ。
セリムもつれて、冒険者ギルド2階の資料室にいく3人である。
ロキとコルネは素材の換金をするのである。
「ケイタ、それで、何を調べるのだ?」
「では、イリーナとセリムさんは、現在存在する職業を調べてください」
「ん?もう少し説明してくれぬか?」
「はい、分かりました、えっとセリムさん」
「うん?」
「少しイリーナにセリムさんの話をしていいですか?」
「え、そんなの構わないぞ」
「では、昨日セリムさんのステータスを確認したのですが、どうもあまり見ないタイプのステータスのようです。両親か誰か特殊な職業の方がいるかもしれません。もしくはたまたまセリムさんが特殊な職業で生まれてきたのかもしれません」
「と、特殊って、俺の父は斥候だぞ。だから俺も罠解除ができるんだ。何がおかしいんだ?」
「それはあなたが、斥候ではないからです」
「え?俺が斥候じゃないだって、じゃあなんだよ。罠解除できるじゃねえか」
「では、説明をします」
おっさんは家から持ってきた羊皮紙に鉛筆のようなもので、図解で説明をするようだ。
「いいですか?世の中には大きく分けて前方職、後方職、中央職の3種類がいます」
うんうんと話を聞くイリーナとセリムである。
「私は騎士だから前方職だな」
「そうですね、騎士や戦士は前方職です、後方職には私や神官でしょうか。そして、中央職には、コルネのような弓使いや斥候などがいます。それぞれ持ち味があるのです。好き好きはあるかもしれませんが、それぞれの特性があって、得手不得手があってどれが優れているというのはないのです。ここまでいいですか?」
「なるほど」
「ですので、例えば私は魔法が使える分、剣は苦手です。コルネも弓が使える分、剣も魔法も使えません」
「そのとおりだけど?それで俺が斥候じゃないってどういうことだ?」
「それは、斥候の特徴として、中央職なので、攻撃力はそこそこにあって、素早さが高いことであると言えます。スキルは父親から受け継いでいるようですが、しかし、セリムさんは、斥候にしては攻撃力と素早さが低すぎるのです」
「低すぎる、って俺が落ちこぼれってことだろ」
「いいえ、ステータスにあるのは特性です。優劣では決してありません。セリムさんのステータスは中央職と後方職の中間です。セリムさんは中央職でもないのです」
図柄で中央職と後方職の中間であると説明をするおっさんである。
「え?」
「ちなみに魔力と知力が後方職に次いで、そこそこ高いですね。攻撃魔法か回復魔法かを聖教会で体得しようとしませんでしたか」
「え、えっと、体得できなかった。なにも」
それだけを言うセリムである。
「よかった」
笑顔で答えるおっさんである。
「な!?どこがいいんだよ。剣も持てず、魔法も使えないただのゴミじゃねええか!」
「すいません、あなたはゴミではありません。でもこれで魔法覚えようものなら、せっかくの可能性を潰すところでした」
「え?可能性?可能性ってなんだよ?」
「別の職業の可能性です。神官や魔法使いではない、後方寄りの何かがあなたにふさわしい職業です。今日はそれを探しに来ました」
「なるほど、それでどんな職業があるのかという話だな?」
「はい、私は魔法書を探します。どうも魔法が手に入るみたいなことが、以前来た時に書かれていたので詳しく調べたいのです」
手分けして探し出す3人である。
ロキとコルネにも事情を説明し皆で探すのであった。
そして夕暮れ。
「あまりそんな特殊な職業については載っていなかったぞ」
そういうイリーナである。
職業については、戦士、拳士、武僧、斥候、神官、魔法使いなど、中にはおっさんにとって初めて聞く職業もあったのだ。
「魔法書はどうもかなりすごいですね。ぜひ手に入れたいですね」
「ほうほう、聞かせてくれ」
おっさんが1日かけて調べた魔法書の情報である。
魔法書は世界にある各ダンジョンの下層で発見されているらしく、いくつかの情報が冒険者ギルドで共有化されていたのだ。
・50階以下のダンジョンでまれに手に入る
・宝箱に入っている
・読むと職業に合わせた力が手に入る
・高値で取引されている
「どうですか?」
(この感じだとASポイントでスキルを取ることのアイテム版ってところか。スキルは職業に合わせたランダムっぽいな)
「いや50階以下なんて無理だろ」
「え?踏破目指してますし、通過点です」
「そ、そうだけどさ」
昨日の魔法を見せられたら、あまり否定できないセリムである。
「それで皆さん」
「はい」
「私は魔法書が手に入ったら最初にセリムさんに使いたいと思います。あれだったら私が買い取ってもいいです」
「な、なんか白金貨で取引されているって書いていたぞ。帝国なら爵位が与えられるって」
「はい、結局分からない職業なので。魔法書であなたにふさわしい力が目覚めることを期待しましょう」
「わかった、それでいい、最初の魔法書はセリムだな。買い取る必要もないぞ、ケイタ」
「ありがとうございます。50階以降はレベル上げながらだと思うので、頑張って探しましょう」
(ふむふむ、今日は新たな目標とブログネタが2つも手に入ったな)
【ブログネタメモ帳】
・異世界の職業 ~職業に貴賎なし希望あり~
・魔法書の可能性
「明日はどうするんだ?」
イリーナから質問が飛ぶ。
「あ、あのさ」
セリムから声が出る。
「はい、セリムさん、なんでしょう?」
「えっと、母にクランのこと話したらさ、住めるなら一緒に住みたいっていってたんだけど」
息子だけよく分からないクランに住まわせられないと思った母である。
「部屋数は十分にあるから構わないですよ。そうですね、では荷物か何かあるなら馬車をだしましょうか。従者の方々も荷物があるなら手伝ってもらいますよ」
「え?いいのか?」
「もちろんです、親御さんのいる場所とかその辺の話は拠点で話をしましょう」
「じゃあ明日の予定は引っ越しか?」
「えっと実は1つ行ってみたいところがありまして」
「ん?なんだ?」
おっさんは前回のダンジョンで出た話題の場所を口にする。
「奴隷商に行ってみたいです。仲間がいるかもしれないので」
そして、おっさんら一行は仲間を求めて奴隷商に行くのであった。
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