第26話 おっさん風呂を作るってよ

今日はセリムに道案内を依頼した翌日の朝である。

朝食を皆で囲んでいるのである。

結局昨日はそのあとゴブリンキングの素材を冒険者ギルドに買い取ってもらい、そのまま資料室で11階から20階について4人で予習して1日が終わったのであった。


「今日は本当に休みにします!」


力強く宣言するおっさんである。


「「「はい」」」


「休日なので、皆さん思い思いに過ごしてください」


「ケイタ様はいかが過ごされますか?」


「私は庭に風呂を作りたいと思います」


「「「ふ?風呂」」」


「はい、私達はダンジョンに入るので、帰ってきてからはゆっくりお風呂に入りたいじゃないですか?そういうわけでお風呂を作りたいと思います」


庭は結構広いのだ。


「ほう」


「ロキ達はどうするのですか?休みっぽいのがいいですよ」


休ませようとするおっさんである。


「じゃあ私は従者達を連れて歓楽街でうまい酒でも飲ませようと思います。お前ら奢るぞ!」


「「「ありがとうございます!」」」


従者は3人ともついて行くようだ。

ロキは聞かねばならぬのだ。

チェプトにおっさんから『家宰見習い』のポストを勝ち取った方法についてだ。

家宰は騎士団長に並ぶ地方領憧れのポストなのである。

チェプトの命運やいかに。

なお、ロキも従者同様におっさんが給金を払っているのだ。

ロキの給金は月金貨20枚である。

月収200万円で、給金がおっさんに仕えるようになって倍になったのだ。


(ふむ、休みの日に上司と飲み会か、休みじゃない気がする)


有給休暇の日に上司に飲み会に誘われた、昔の話を思い出すおっさんである。

皆各々に散るのであった


おっさんは庭に出る。

家の玄関ではない、横の勝手口から庭先の風呂場に繋がりまでを全て土魔法で作るようだ。


【ブログネタメモ帳】

・休日にお風呂作ってみた ~夢のDIY生活~


(ふむふむ、土魔法の加減ができるしな、ある程度自由につくれるぞ、さすがに女性もいるしな、外から見えないようにするか。そうだ勝手口の扉には入浴中の表示を作るか。時間帯で男性女性に分けるかな。さすがに男女両方の風呂を作ると狭くなりそうだな。広く入りたいぞ)


勝手口から少し通路を作ってその先に長方形の箱を作る。

当然地面にも横に寝かせた土魔法の壁を引くのである。


(ふんふん、着替えもできるように長方形だな。空は少し見えるようにするか。夜風を当たれるようにしないとな。換気も大事だ)


長方形の勝手口側3分の1は着替えスペースにして、3分の1を体洗いスペースにして、残りを浴槽にしていく。


(結構さくさくできるな。着替えスペースにお湯が入らないようにしてっと。浴槽も浴槽内で座れるよう2段にするか)


排水溝を下水につなぐおっさんである。


(できればホースかパイプ買って、天井に一部土壁の箱でタンクを作って中に水をいれておいて、お湯を足せるようにしたいぞ、あと俺の土魔法は火を通さないから、浴槽の下の部分の一部を土壁じゃなく鉄板にするか。そうすれば鉄板を外から焚けばお湯になるだろ。鉄板はどこに売ってるんかな)


ある程度作って、ホース的な管と鉄板を買いにでかけるおっさんである。


「ん?でかけるのか」


風呂ができていくのを眺めていたイリーナから声が掛かる。


「はい、ちょっと水を流す管と風呂を温める鉄板を探しにいきます」


「分かった。付き合うぞ」


(お、久々のデートだ)


2人で大通りを進んでいく。

おっさんは台車を鉄板載せるために転がしていくようだ


「どこに鉄板があるんでしょうね?」


「鍛冶屋でいいのではないのか?」


(こういう時に『地図』機能で検索出来たらいいんだがな)


ほどなく歩いていくと、武器屋が見えてくる。


「鉄繋がりで、とりあえずあそこで聞いてみましょうか?」


「うむ、そうだな」


台車を外に停めて、中に入るおっさんである。


「おう、いらっしゃい、ん?この前のあんちゃんだな、どうしたんだ?」


「すいません、ちょっと大きめの熱を通しやすい鉄板を探しています」


「屋台とかで料理に使うやつか?」


「まあ同じ感じでいいのですが、売ってるところ知りませんか?」


「この2つほど通りを歩いたところに鍛冶屋があるんでそこで頼むといいぞ」


「はい、ありがとうございます」


聞いた場所に向かう2人である。

金物がいくつか並んでいるお店を発見する。

調理用のものが多いようだ。


「へい、いらっしゃい、何がご利用で?」


「すいません、ちょっと大きめの火を通しやすい鉄板とさびにくい管はありますか?」


「両方あるよ。火を通しやすいならこれだな。調理に最適よ」


(ふむ、屋台とかでやってるお好み焼き屋くらいの鉄板だな。1m四方かな)


「ありがとうございます。管はありますか?できれば水を通そうと思ってますので締めたりできるもので」


「あん?そういうのはないな」


「図解を見せたりしたら作ってもらえるものですか?」


「おういいぞ、どういうのだ?」


店の羊皮紙に簡単なネジ構造を書くおっさんである。


(そういえば、この世界に釘はあるけどネジはないんだっけ。やってもうたか)


「面白い構造だな。回しこんで水を流す通路を閉めたり、緩めて水を流すのか。管の大きさはどの程度か?」


かなりひどい山田画伯の絵であったが、鍛冶屋の主人は理解できたようだ。

そして、おっさんがこれくらいですと指で5cmくらいの管の穴を作って説明をするのだ。

長さも大体で説明をするおっさんである。

横で話を聞いているイリーナである。


「それくらいの細いので良ければ5日もあれば作れるな」


「ではお願いします。鉄板の購入と、管の作成依頼ですかね?おいくらですか」


「鉄板は金貨3枚だな。管は作ってからでいいぞ。これも手間賃もこみで金貨3枚だな」


それでお願いしますといって鉄板だけ持って帰るおっさんである。

特に依頼書みたいのは作らないようだ。

口約束だけして、帰路に着くのだ。


鍛冶屋で買った鉄板を浴槽の一部に敷くおっさんである。


(ふむ、鉄板でやけどしないように、鉄板の上に土壁を引くか。間を作って、間にお湯が入り込めるようにすればいいだろ。今日は今から薪を買ってくるのも面倒だな。火魔法で温めてみるかな。加減できるようになったし大丈夫だろ)


水を火魔法で温めようとするおっさんである。

浴槽に水を張り、火魔法で温めるおっさんである。


(ふむ、さすがに手を水に突っ込んだら熱いか。加減と距離感が大切か)


微調整を繰り返しながら、水を温めるコツを覚えていく。


「ふう、何とか出来上がりましたね。少し構造が殺風景ですが、お風呂としては問題ないでしょう」


「横でずっと見ていたがすごいな。こんな立派な風呂は子爵家でも入れないぞ」


イリーナに言われて、なんか報われた気がするおっさんである。


「ありがとうございます。色が土色ですけどね」


「よし、では一緒に入ろうか。せっかくだしな!」


当たり前のように一緒に風呂に入ろうとするイリーナである。

風呂が完成したら言おうと思っていたようだ。


「ぶっ!駄目ですよ。風紀的に問題がありますよ」


「そ、そうか…」


「はい。一番風呂はイリーナに譲りますのでどうぞ入ってください」


渋々1人で風呂に入るイリーナである。

1階で侍女の2人にお茶を貰いながら、タブレットをいじって労働の疲れを癒していると湯上りのイリーナから声が掛かる。


「いい湯だったぞ。こんな風呂は生まれて初めてだな!ケイタも入るといい」


「そうですね。せっかくなので私も入ろうかと思います」


着替えを持って、浴場に向かうおっさんである。


「なんか異世界で風呂に入るとは思ってもみなかったな!」


独り言も大きくなるおっさんである。


ガチャッ

すっぽんぽんになってまずは汗を流していると、勝手口の扉が開く。


「ってええ、すいません、今入ってます!」


トイレでノックされたようなことを言うおっさんである。


「ヤマダ男爵様、お背中流します!」


侍女のアリッサが、おっさんが風呂に入っていると聞いて背中を流しに来たようだ。


「ちょ、大丈夫です!」


「いえいえ、これも侍女の務めですので」


どんどん中に入ってくるアリッサである。


「すいません、本当に大丈夫ですので…」


「そうですか、お背中をお流し…」


「ふむ、やはり背中くらい流すぞ」


おっさんがアリッサと押し問答をしているとイリーナが浴場に入ってくる。


「ふぁ!!」


「なっ!?貴様!婚約者には手を出さないのに、侍女を風呂に誘うなど!!」


「ちょ、違います!」


「では何だというのだ!貴様獣人だけでなく、侍女が好きとはな!!」


「え?獣人って何とのことですか?」


(え、もしかしてバレているのか?)


「知っているぞ。毎回冒険者ギルドで獣人の受付嬢のところしか並ばぬではないか!フェステルでも王都でもウガルでもそうだ!!」


(完全にバレてた…、超恥ずかしい!もう言わないで!)


イリーナはとうとう今まで思っていたことを口に出すのだ。


「ち、違います。たまたまの誤解です。全然意識してなかったです。いやあ偶然って怖いですね」


こんなことってあるんですねって答えるおっさんである。


「本当に誤解か?」


「もちろんですよ」


「では背中を流してもいいってことか?」


(なぜそうなる。どうしたらそうなる。話繋がってるか?)


おっさんの返答に間が開くと、段々イリーナの表情が般若のようになっていく。


「も、もちろんです!」


「そうか、どうやら誤解だったようだな」


表情が笑顔に戻るイリーナである。

イリーナとアリッサに全身隈なく洗われたのであった。

垢と共に何か大切なものが洗い流されていくことを感じていく。

勝手口には今度から内鍵も設置せねばと心に誓うおっさんであった。

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