第25話 セリム

ダンジョンから戻った一行は拠点としている自宅に戻り、ゆっくりと夕食を食べ、おっさんは今回の10階層までのブログネタを整理していたのだ。

なお、ダンジョン手当については、家宰見習いのチェプトに一括管理させているので、何階まで行ったか伝えると、チェプトから従者、侍女に都度配られる仕組みであるのだ。給金も同様である。

そして、翌日の朝食のことである。


「では、今日は休日にしたいと思います。とりあえず私がゴブリンキングの魔石の換金をしたいと思いますので、そのあと11階層から20階層あたりまでを、資料室でもう少し調べようと思います。明日も休日にしたいですが、2日後に20階目指したいと思いますので、食料は10日分買っておいてください」


「「分かりました」」


従者と侍女が返事をする。


「私はケイタ様について行きます」

「うむ、そうだな」

「私も次の階層調べます」


結局休みにしてもイリーナ、ロキ、コルネがついて来るようだ。

ロキが馬車の御者をし、冒険者ギルドに向かう。

冒険者ギルドに併設された馬車置き場に馬車を停め中に入る一行である。

素材の換金をする受付もなかなか人数が並んでいる。

他の一行も考えることが同じらしく、翌日朝に素材の換金するんだなって思うおっさんである。


「せっかくの人混みなので仲間を探してみましょう」


「はい」


タブレットの『仲間』機能を使い、仲間検索をするおっさんである。



『近くに仲間にできる人がいます。誰を仲間にしますか?』

『セリム』



「うぉ!!」


思わず叫ぶおっさんである。

何事だという顔をして、冒険者から注目を集める。

最近でも外套のフードに顔を隠しているのだが、それでも恥ずかしいと思うおっさんである。


(いたああああああ!!いたいた、セリムさああああん。どこだ?叫ぶか?いや、さすがに恥ずかしいか。お客様、お客様の中にセリム様はいますか?)


「セリムって方のようですね」


横からタブレットを覗き込むロキである。

1000年後この世界にタブレットが普及し、マナーが誕生したら注意したいと思うおっさんである。

どうやって探そうか考えていたら、前の団体から叫び声がする。


「てめえセリムあんな働きで金貨1枚とはどういう了見だ!てめえのせいで、前線半壊しそうになったじゃねえか!!ふざけてんのかてめえ」


「な!?話が違うだろ、罠察知と罠解除だけでいいっていったじゃねえか!!」


「うるせえ、罠解除だけで金貨1枚も渡せるかよ、全然戦えねえし銀貨20枚がせいぜいよ!ほらよ銀貨20枚」


ゴリマッチョの冒険者がセリムと呼ばれる男に銀貨20枚を渡すようだ。


「な!金貨1枚だろ!」


それでも食い下がるセリムである。


「てめえいい加減にしろ!!」


こぶしを振り上げ、腹にこぶしをたたき込むゴリマッチョの冒険者である。

壁に向かって吹き飛ばされるセリム。

おっさんがセリム近づいていくと、銀貨20枚を小袋に入れて投げつけるゴリマッチョである。


「ほらよ」


セリムは痛みで動けないようだ。

ピクピクしながらうずくまっている。


「大丈夫ですか?セリムさん、回復魔法をかけますね、ヒール」


「え」


回復魔法の淡い光がセリムの体を包みこむ。


「あの、大丈夫ですか?セリムさん」


手を差し伸べ立たせようとするおっさんである。


「き、気安く名前を呼ぶんじゃねえ!!」


おっさんの手を払いのけ、銀貨20枚の入った小袋を拾い駆け足で冒険者ギルドから出ていくセリムである。


「後を追います」


おっさんはセリムの後を追うようだ。

3人もついて行く。


「おい、何ついてきてんだ、失せろ!」


「少しお話があるのですが、お話を聞いていただけませんでしょうか?」


「俺にはねえよ、ついてくるんじゃねえ!」


そのまま店に逃げ込むセリムである。

店に入るおっさんである。

セリムの前に座るおっさんである。


「て、てめえどういうつもりだ。回復魔法代払えってか?」


「回復魔法代は結構です。この店のお茶代も払います」


(ふむ、珍しい青色の髪と目か、身長160cmくらいの細身の童顔か。言葉使いとのギャップが半端ないな)


「警戒心しか湧いてこねえぞ、何ジロジロ見てんだ」


「まあまあ、せっかくなんでお茶でも頼みましょう」


おっさんが手を上げ店員を呼ぶ。

残りの3人も席に着くのである。

ロキが気を利かせて注文を勧める。

フードを取り、顔を見せるおっさんである。


「黒目黒髪かよ。そ、それで、何の用だ」


フードを取り、おっさんは語りだす。


「実は私達はあなたと同様に冒険者でございまして、下の階へ挑戦したいのですが、階層の道順を知り、罠発見や罠解除のできる同行者を探しているのです。先ほど罠解除ができると聞いてちょうど良いと思い、ついてきてしまいました」


仲間という言葉を避け、まずは同行してもらおうとするおっさんである。


「なっ!そ、そういうことか。俺に依頼したいってことか?」


「話が早くて助かります。どうですか?」


すると人数分のお茶が運ばれてくる。


「何階くらいを考えてんだ?」


お茶を飲みながらセリムが尋ねる。


「とりあえず11階から20階でいかがでしょうか?」


「あ?罠ねえ階じゃねえか、道案内だけか?」


(まあそうだな。罠解除っていうくらいだから、20階以上いけるんだろうな)


「そうですね、できれば、そのあとも案内していただきたいのですが、まずは11階から20階はいかがでしょう?」


「金貨3枚だ!」


「な!?それは高いのでは?」


ロキが反応するのである。


(ふむ、さっきの罠解除の会話でも金貨1枚だったのにな。道案内だけで金貨3枚か)


「金貨3枚ですね」


「あ、いいのかよ、さっきの見ていただろ!先払いじゃねえと受けてやらんぞ。あとで払わないなんて言われても困るしな」


「前払いが当然ですよね。金貨3枚ですね」


小袋から金貨を3枚出して、セリムの前に積むおっさんである。


「ヤマダ男爵様、それは払いすぎかと思います」


諫めるロキである。

するとセリムの顔が変わる。


「お、お貴族様だったか。すまねえさっきの話はなしだ。貴族とは関わらねえことにしてんだ」


「そ、そんな、そこを何とかなりませんか」


頭を下げるおっさんである。


「なりません!ヤマダ男爵様!!」


「少しロキは黙っててもらえますか?」


ロキを諫めるおっさんである。

初めておっさんから注意を受け、黙るロキである。

お店は騒然とする。

貴族に頭下げられ動揺するセリムである。


「き、貴族の道楽かよ。金貨5枚なら受けてやるよ」


「本当ですか」


おっさんは自分の小袋から全ての金貨100枚以上を、テーブルにじゃらじゃらと出す。


「5枚でいいのですね?」


何枚でも出すぞっていう意思表示をするおっさんである。


「な、いやじゅ、10枚だ。金貨10枚だ!」


「はい、10枚の前払いですね。どうぞ」


セリムの前の金貨を7枚足して10枚にするおっさんである。


「な!どういうつもりだ!?」


「先ほどのとおり、11階から20階までの案内です。2日後の2の刻(9時)にダンジョンの前にある広間集合でいいでしょうか?」


「わ、分かった」


そう小さく言うと金貨10枚を取り、足早に店を出るセリムであった。


「ふむ、念願の罠解除のできる仲間を1人見つけることが出来ましたね」


「ちょ、あ、あの普段は何も言いませんが、今回の一件は良くないかと思います。あんなに前払いしたら、約束通り来ないかもしれませんよ。ご説明いただけませんか?」


と普段から結構意見を言っているロキである。

イリーナもロキと同じ考えのようだ。

じっとおっさんを見ている。

コルネは黙って静観をしている。


「金貨を10枚払った件の説明ですか?」


「それもですが、今回の一件についてケイタ様が何を考えているのか教えてください」


「これは説明が難しい話ですね。説明すると、私はこの街に来ておそらく1万人以上に対して仲間検索をしました。そして万に1人の条件を満たしたのがセリムさんなのです」


「それだけ大事な仲間だと」


「まあそうです。私の信仰している神を知っていますか?」


「検索神です」


「検索とは何か知っていますか」


「え、えっと、資料などの中から必要な情報を探すということでしょうか」


「まあそうです。膨大な情報の中から必要な条件に合う事柄を探すことを検索と言います。こと検索に関して検索神の前に出る者はいないのです。武神に武を語るようなものですね。例えば今回は何を検索したと思いますか?私は一切検索で見つからないからずっと考えていました」


「え?えっとダンジョンに行く仲間でしょうか?」


「それだけなら、1万人検索したらダンジョン都市なので5千人くらい該当しそうですね。検索条件はかなり厳しかったと推察できますよね」


「は、はあ」


「私はおそらく、検索神は『10人以内でダンジョン踏破できる仲間』で検索していたと思っています。私がそう望んでいたからです。その中で、『現在の強さ』、『将来性』、『性格』、『私との人間関係』など細かい条件があり、その中で唯一引っかかったのがセリムさんなのです」


「なるほど、なんとなくわかるような気がします」


「すいませんが、ここからは検索神に選ばれ、既に仲間になったロキと比べますね。ロキとセリムさんはどっちの方が今強いですか?」


「あの体です、私かと。冒険者ギルドでも戦えないと言われていましたし」


「私との人間関係はどちらの方が親しいですが?」


「まあ、今日がセリムさんと初対面なので私かと」


「暴言吐きまくってたセリムさんです。性格もまあロキの方がいいもしれませんね。性格にも物差しがあればですが」


「最後の質問です。ロキとセリムさんではどちらが、将来性がありますか?」


「な!?そういうことだったのですね。セリムさんにはそれらの条件をはねのける私以上の将来性があると」


「分かっていただけましたか。ロキで例えて申し訳ありません。セリムさんには成長性か将来性か分かりませんが、検索神の検索されるだけの条件を満たした『何か』があるのです。ダンジョン踏破に近づけるなら金貨10枚なんて安いと思ってます。私は私の神を信じます」


そういって、おっさんは神に選ばれ仲間にした3人を見るのであった。





・・・・・・・・・


ここは住宅街の一角である。

集合住宅のようであまり裕福な住宅ではないようだ。


「かあさん、ただいま!」


「まあ、お帰りセリム」


同じ青髪の30台半ばくらいの母親が出てくる。

どうやらセリムは母親似のようだ。

久々にダンジョンから帰ってきたわが息子を抱きしめる母親である。


「かあさん、これを見てよ!」


抱きしめられながら、セリムは嬉しそうに金貨と街で買った食料を出すのである。

さっきまでのおっさんとの言葉使いとは全く違うようだ。


「ど、どうしたの!?こんなにお金を…。いけないことしてないわよね?」


「な!?そんなことしてないよ!」


「だったらどうしたの?」


心配そうに息子に尋ねる母である。


「依頼を受けたんだ」


「だれの?」


かわいい息子を心配する母親である。


「えっと、ヤマダ男爵とか言われていたような」


「まあ!?あれほど貴族とはかかわるなと言ったでしょう?」


「いいんだ、だって11階から20階を案内するだけで、前払いでこれだけくれたんだよ」


「ほんと?大丈夫なの?あなたまで帰ってこなかったら、かあさん…」


「大丈夫だよ。俺はとうさんとは違うよ!この依頼終わったらさ、このお金で遠くに行こうよ。こんなくそみたいな街を離れてさ!」


「そ、そうね…」


悲しい目で見る母親である。

日々言葉使いが悪くなっていくわが息子。

何もできない自分に対して無力を感じる母である。

おっさんとの出会いが何をもたらすのであろうか。

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