第24話 石ころ式強化特訓

今日はダンジョン地下10階を目指す朝である。

朝食を囲みながらおっさんは皆に日程などについて語り掛ける。


「おそらく4日から5日で10階にたどり着き、その後ワープゲートで地上に帰ると考えてます。今回のダンジョン攻略は、アヒム、イグニル、アリッサが荷物持ちです。今回の荷物持ちにアリッサが選ばれたのは、アリッサからダンジョンに入りたいと希望があったためです。」


チェプトを外して、アリッサを荷物持ちにさせることを知らせるおっさんである。

アリッサを急遽冒険者にしたため、出発を一日ずらしたのであった。

なお、アリッサの冒険者ランクはEである。

なお、従者と侍女はクランに入れていない。

とりあえず、荷物持ちという形なのだ。

また、アリッサが武器も防具も持っていなかったため、防具と武器を買ったおっさんである。

当然のごとく、おっさんが買おうとした武器防具は、ロキが高いといって、ほかの従者と同じ程度に抑えた形だ。


「はい!」


「また、昨晩も伝えたとおり、昨日のように休みも入れたいと思ってます。一度ダンジョンに潜って2日前後の休みを入れ、またダンジョンへといった形を考えています」


「はい!」


「では、チェプトとメイは家のことよろしく頼みますよ」


「「畏まりました」」


朝から歩いて向かうおっさんら一行である。

今日は台車を持っていくのである。

従者も含めた7人の7日分の食料を詰め込み、野営道具やコルネの矢も詰めているため、結構な量である。

食料だけでも50kgを超えているのだ。

全部合わせて200kgを超える大荷物である。

おっさんはアヒムが引いている台車を見て、今後もっと長期間潜る場合や、仲間が増えた場合など、もう一台必要かと思うのである。


(仲間といえば、昨日の冒険者ギルドも仲間になる人いなかったな。ダンジョン広場についたらもう一度探してみるか)


ダンジョン広場に入る門が見えてくる。


「冒険者証を提示するように」


門兵から冒険者証の提示を求められる。

アリッサが笑顔でEランクの冒険者証を提示する。

なお、アリッサの格好は侍女の服の上に、胸宛てなど要所急所を防ぐ鎧を着ている。

このため、体の半分くらいしか鎧で覆っていないので、侍女の服がかなり見えているのである。

何だという顔でアリッサを見る者も多いのだ。

アリッサは平然と気にせずに歩いているので、おっさんも大物だなと思うのである。


(さて、この辺で仲間を探してみるか)


タブレットを出して、仲間を検索するおっさんである。

ロキもその様子に気付くのであった。


「いかがですか?」


「いないですね~」


(なぜいない。まじでなぜだ!もう万単位の人間を仲間検索の対象にしたのではないのか)


仲間の条件を考えながら、おっさんはダンジョンに行く順番に並ぶのである。

なお、行列の流れはかなり早いのである。

全員でワープゲートの魔法陣に入って、階層を唱えるだけでワープできるからである。

おっさんらは1階からなのでワープゲートの魔法陣を避けていくのだ。


「台車を引くのは1階ごとにイグニルと交代でお願いしますね」


「はい」


イグニルが返事をする。


「それとアリッサ」


「はい!」


1階を歩きながらアリッサに声をかけるおっさんである。

台車を引かない、アリッサとイグニルは槍を持っているのだ。


「アリッサは台車を運ばないので、その分の仕事を与えます」


「はい!」


麻袋を台車からとるおっさん。

地面にある石ころを探す。

すべすべした地面には石ころはほとんどないのだ。


(あったあった)


「これくらいの石ころがたまに落ちています」


「石ころ?」


「はい、これくらいの石ころがあったら集めて袋に入れてください」


「集めてどうするのですか?」


「私が命名した『石ころ式強化特訓』に使います。道中は長いのでゆっくり探していただいて結構です。もちろん槍は当面使いませんので、台車に置いておいてください。石ころは明日以降使う予定です」


【ブログネタメモ帳】

・石ころ式強化特訓の効果検証


「分かりました!」


疑問も感じないまっすぐな返事をするアリッサである。

イリーナもロキも皆何事かという顔をするが質問はしないようだ。

休憩を挟みながら下の階に進んでいく一行である。

おっさんが索敵をし、コルネが瞬殺する。

当然経験値と仲間専用スキルは常時使っているのだ。

また、従者の台車を引かない片方が率先して弓矢を回収する。

それを見ながら、やはり3人くらい連れてきて正解だったかと思うのである。

おかげでさくさく進んでいく。

そして前回同様、4階入り口の広間にたどり着くおっさんである。


「今日はここで一晩休んで明日に備えましょう」


ちらほら他の冒険者がいるので、隅にいって野営の準備をするおっさんら一行である。


(さて昨日探したスキルの性能を調べる時が来たな)


・魔力調整Lv1 10ポイント


タブレットを使いスキルを取得するのだ。

前回、巨大な土壁の桶と4000ℓもの水を発生してしまったので、魔法の手加減をするためのスキルを探しておいたのであった。

スキルを取得し、土魔法Lv1で水入れの桶を作成しようとする。


(ふむふむ、なんか手加減して魔法使う感じが確かにするな)


前回一辺5mもした土魔法の土壁が2mほどに抑えられる。

厚さも1mから30cmに抑えられるようだ。

高さ1m程度の水桶を作り、水魔法Lv1で水をためるおっさんである。


【ブログネタメモ帳】

・魔力調整による生活魔法への挑戦


「今回は前回よりいい感じですね。調理に使ってください」


「ありがとうございます。ヤマダ男爵様すごいです!」


アリッサから褒められるおっさんである。

アリッサは調理用に水を掬い料理を作るようだ。

他の人も各自コップを使って飲料にしている。


(たぶん、魔道具による水生成も同じ感じで魔石の魔力で水を作っているんだろうな。まあ台車2台もダンジョンに持ち込むなら水生成器の魔道具を1台くらい保険のために買っておいてもいいかもしれないな。魔法使えない層とかあったらやばいしな)


コップで掬い作ったばかりの水を飲む一行らを眺めながら考察を続けるのである。


(さて魔力調整レベル1だとレベル2の土魔法はどうなるんだ?)


おっさんは魔力調整の効果をさらに検証するようだ。


(ストーンウォールって無理か)


巨大な15mの土魔法の土壁ができる。

土魔法Lv2は調整できないようだ。

ダンジョンの各層にもよるが30m近い高さがあるのだ。

周りの冒険者からもどよめきが起きる。

慌てて消すおっさんである。


(いやこのままでいいか、もう少し実験したいしな。目隠しに使うか)


おっさんは広場の隅で土魔法で、一行らを囲う。


「さて、前回よりちょっと早いですが、土魔法で囲みました。魔法の実験をしたいのと、見張り負担を減らしたいので」


休憩中に何かをしてくる、ならず者のような冒険者もいるらしいのだ。

分かりましたと野営と料理の準備を進める一行であった。


(えっと、魔力調整して作った土魔法の強度調べたいぞ)


手加減して作った薄い土魔法Lv1を土壁の囲いの端に置く。

これを通常の風魔法Lv1で破壊できるか確認するのだ。

これまでの検証では土魔法Lv1の土壁は魔法Lv1の攻撃魔法では破壊できなかったのだ。


(エアカッター)


ズバッ


(ふむ、普通に切れたな。これだと魔力調整した魔法はその効果も軽減されるってことか。本当に手加減したいときには有効か)


「ヤマダ男爵お食事の準備が整いました」


検証も出来たところで、夕食の準備が整ったようだ。


「ヤマダ男爵様、石ころが3袋貯まりました!どのように使うのですか?」


「そうですね。明日使うので今のうちに説明をしておきましょうか。この石ころをモンスターに投げるのです」


どういうことだという顔をするおっさん以外の皆である。


「投げるのですか?槍は?」


「冒険者ギルドの資料によると6階以降は、一度に戦うモンスターの数が増えるそうです。ですのでコルネの弓で全て殲滅が厳しいでしょう。この石ころを1つでもいいのでモンスターに投げてください。槍は私がいいというまで使ってはなりません」


トトカナ村へ疾風の銀狼クランと共に指名依頼を受けた際に検証した、モンスターの経験値の配分の条件から思いついた低レベル向けのレベル上げの方法である。

経験値の配分条件は戦闘への参加であるが、それは石ころを投げる程度でもいいのだ。


「はい…」


さすがのアリッサも何だろうという顔をするのだ。


「これを説明することは難しいのです。まずは信じていただけたらと思います。また戦神ベルム様から祝福を受けた場合はすぐに報告をしてください。従者の方もこのやり方を当面行います。まあ、石ころを投げたら金貨がもらえると思っていただけたら結構です」


疑問に思いながらも、これ以上の質問はしないようだ。

そして、翌朝に出発をする一行である。

夜番は従者と侍女の3人が1人ずつ交代で行ったのだ。

土壁も消し、初の4階層へ挑戦をする。


「たしかこの層もゴブリンとコボルドが出てくるんでしたよね?」


「はい、そうです」


おっさんの確認に答えるロキである。

4階と5階は地図があるのでガンガン進んでいくのだ。

昼過ぎには6階の入り口広間にたどり着く一行である。

アリッサが作った昼食を食べ、先に進む一行である。


「ここから地図がないですね。私が道を選びます」


「はい」


タブレットの『地図』機能起動させ、道案内をするのである。


(ふむふむ、地図を少しずつ埋めながら正解の道を探す感じか。ってモンスターだ。えっとゴブリンか)


『地図』に表示された赤点がどのモンスターか調べるおっさんである。


「前方の角からゴブリンが12体やってきています」


「「はい」」


コルネが弓矢で数を減らし、ロキとイリーナが前線を守る。

アリッサとイグニルが石を投げつけているようだ。

12匹でも十分な構成なのですぐに殲滅するようだ。


「あ、あの、戦神ベルム様が祝福を…」


「ふむ、あまり戦闘経験のないアリッサはすぐに祝福をいただけましたね。この調子で石を投げつけてください。私達には当てないようにしてくださいね」


「分かりました。あ、あたし、は、はじめて、祝福を頂けたかもしれません。うぅっ」


アリッサが感動しすぎて泣き始めた。


「良かったですね」


アリッサを落ち着かせて前に進む。

それを見ていた従者も、当然アリッサも必死になって石ころを探し始めるのであった。

それから2日が経過する。

9階から降りると10階に達したすぐに扉があるのだ。

3m近い大きさの扉の上部には赤い宝石が埋め込められている。

何組かの冒険者がその前に並んでいるのだ。


「順番を待ちましょう。ボスは確かゴブリンキングかコボルドキングだったと思います。何体かの配下を引き連れているそうですね」


「あ、あの、石ころ投げてもいいのでしょうか」


「はい、アリッサさんは大丈夫です。敵が多いので、アヒムとイグニルは槍で応戦し、前線を崩さないようにしてください。私は後方に下がってますので、ほかの方で倒してください。もちろん前線を押し下げられたら援護します」


(たぶん仲間支援魔法で尋常じゃない力が、ロキとイリーナにあるんでCランクでは問題ないだろう。武器もいいの使ってるしね)


「畏まりました」


ロキが返事をする。

ほどなくすると順番が来たようだ。

おっさんら一行の後ろにも行列ができている。

3mくらいの大きさの扉を開けようとするおっさんである。

しかしびくともしないようだ。


(ふむ、たしか前の人が戦ってるときは扉開かないんだっけ。同じボスと戦えるのは1日1回とか聞いたな。間違えて分断して入ると助けに入れないシステムか)


もう少し待つと扉の上部に埋め込まれた赤い宝石が青色に変わる。


(なんだろうこの親切機能は。良し入るか)


【ブログネタメモ帳】

・ダンジョン10階ボス編


「では行きますよ、皆さん」


「はい!」


扉を開けると丸い広間になっている。

半径100mはありそうである。

その中央に1体のゴブリンキングと数十体のゴブリンが囲んでいる。

ゴブリンの塊に近づいていく一行である。

残り50mといったところで、ゴブリン達が反応を示すのだ。


「グギャギャギャ」

「グギャグギャグギャ」


まだ50mも離れているのに弓矢でゴブリン達を射抜き、数を減らすコルネである。

ゴブリンキングを囲むように前進するゴブリン達である。

ロキ、イリーナ、アヒム、イグニルが前線を守る。

すごい勢いで数を減らすゴブリン達。

もう数体のゴブリンを残してゴブリンキングしかいないようだ。


「グガアアアア」


吠えるように突進をするゴブリンキング。


「は!!」


ロキの一刺しがゴブリンキングの首を貫く。

そのままバタリと後ろに倒れるゴブリンキングである。

残党のゴブリンも狩り終わり、勝負はすぐについたようだ。


(数分か、やはり、勝負は一瞬だったな)


「ふむ、戦神ベルム様の祝福をいただいたぞ」

「あたしも戦神ベルム様が祝福をいただきました!」


イリーナとアリッサのレベルが上がったようだ。


(ふむ、これでイリーナはレベル13か、アリッサはまたレベル上がったな。この感じだとまだレベル4か5そのへんか)


経験値テーブルについて考察を進めるおっさんである。

さすがにゴブリンキングの魔石は金貨10枚なので解体を進める一行である。

解体し明日冒険者ギルドにもっていこうという話だ。

ボスのいる丸い広間の先にもう一つの扉がある。


「あの先にワープゲートがあるようですね」


「そのようですね。いきましょう」


奥の扉を開けると、普段休憩する階の初めにある広間である。

中央に青く光る魔法陣がある。

他の冒険者を真似て中に入る一行である。


「何も起きないな」


魔法陣未経験の一行である。


「では私が階数を叫んでみます」


皆がうなずく。


「1階」


おっさんが目的の階層を叫ぶのである。

同じような風景だが目の前が一瞬にして変わる。

なんか異世界に飛ぶ時の感覚に似ているなと思うおっさんである。


「ここはどこだ?」


「どこでしょう?1階と思いますが、だれもいませんね。って」


魔法陣から出ると、ほかの冒険者がおっさんらと同様に後から現れるのである。

分からないので後を付いて行くとかまくらの正面ではなく横のようだ。


「ふむ、どうやらこちらは出口専用のようだな」


(なるほど1階には魔法陣が2つあり、入る用と出る用に分けているのか。10階以降は1つのみなのかな)


考察をしながらの10階への探査が終わったのであった。

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