第27話 案内

おっさんがお風呂で垢とともに何かを失った翌日のことである。

おっさん、イリーナ、ロキ、コルネ、アヒム、イグニル、アリッサの7人でダンジョン前の広間にいる。


「あまり深酒はいけないですよ」


「すいません」


酒臭いロキに注意するおっさんである。

従者3人を連れてロキが繁華街に繰り出したのだが、帰ってきたときは4人ともベロベロの酩酊状態であったのだ。

治癒魔法で状態を元に戻したのであるが、アルコール臭は抜けなかったようだ。


「来ますかね、セリムさん」


ロキは来るのか疑問のようだ。

まもなく2の鐘がなるのだ。


「来ますよ。もう少し待ってみましょう」


すると荷物を持った青髪の小柄な青年がダンジョン広場入口の門から抜けてトボトボやってくる。


「うぐ、やはりいたか」


おっさんを見かけて明らかに残念そうにする。

そう言う割に真面目に来たセリムである。


「はい、ダンジョンの案内よろしくお願いしますね。こちらが今回同じくダンジョンを帯同する私を含めた6人です」


軽くおっさんが6人を紹介していく。

そして、列に並び、ダンジョンの入り口に進んでいくのだ。

かまくらのような穴の中を進んでいき、ワープゲートに入るおっさんら一行である。

おっさんが皆に目線で合図を送り、転送の言葉を唱える。


「10階」


10階の広間に飛ばされるおっさんら一行である。


(結構な人だな。確か『10階』ってワープゲートで叫んでる人が多かったな。最下層目指す冒険者は少ないだろうし、ここが一番儲けやすいのかな)


混んだ10階のワープゲート広場を見ながらそう思うおっさんである。

金貨10枚で雇ったセリムがおっさんら一行を先導が先頭にいるわけではない。

隊列の後方付近から道順を案内するのだ。

おっさんとしては、ダンジョン経験者であるセリムに色々聞きたいことがあったのだ。


(土壁ではなく、石壁だな。それ以外は通路と小部屋で構成されているのか。天井の高さも同じくらいだな。あとは冒険者がかなり多いな)


歩きながら1~9層までと変わったダンジョンの雰囲気を観察するおっさんである。


【ブログネタメモ帳】

ダンジョンのモンスターの出現と構成 ~11層から19層編~


「ん?何してるんだ?」


セリムがメリッサの小石拾いに気付いたようだ。


「小石を拾っています。10階は小石が多いですね」


「なんで拾っているんだ?」


「モンスターに投げるのです。ですよね?ヤマダ男爵様」


「そうですね。とりあえず15階までは投げていいですよ。16階以降はモンスターの出現くらいでまた改めて指示を出します」


(たしか11階~19階はCとDランクのモンスターが出るんだっけか。また見たことないモンスターも結構いた気がするぞ)


「ってお前その格好もしかして侍女か?」


アリッサの皮の鎧から見える侍女の服に気付くセリムである。


「はい、ヤマダ男爵様に仕える侍女のアリッサといいます」


「なんで、ダンジョンに侍女がいるんだ?」


簡単にダンジョンに入った経緯とダンジョン手当について説明をするアリッサである。

おっさんも皆も特に話すことを止めないようだ。

そして、セリムはかなり口が悪いが気にしないことも言い含めてあるのだ。

若干従者が切れそうである。


「き、貴族の道楽もここに究めたりだな…。ダンジョンの荷物持ちに手当ってなんだよ…」


「ほかの冒険者はどうしてるんですか?荷物持ちを雇う感じですか?」


「ん?ああ、そうだな。雇うか奴隷を買って運ばせるところが多いな。特にランクがBランク以上の冒険者やクランなら結構奴隷買っているぞ」


(お?そういえば奴隷っていなかったな。異世界あるあるなのにな。ダンジョン都市だからか)


「奴隷っていたのですね。フェステルの街にもいたのかな」


「フェステルの街にもいるぞ。主に犯罪奴隷だがな。借金奴隷はあまりいないな。ダンジョン都市や炭鉱が近い街だと奴隷が多いな」


イリーナが説明を補足してくれる。

犯罪して永久奴隷の犯罪奴隷と、借金のために奴隷になって、借金返済すると開放される借金奴隷である。


「そういえば、昨日繁華街にいったときに奴隷商の店がありましたね」


ロキがさらに、情報を付け足すようだ。


(ふむ、冒険者ばかり探していたけど、奴隷にも仲間がいるかもしれないな。今度行ってみるか)


「ん、敵だ」


おっさんよりイリーナが先に敵を発見する。


(タブレットに反応ないな。初敵か)


「デスフラッグだ。3体」


3体の大型犬くらいのカエルがやってくる。

コルネとロキとイリーナが瞬殺する。


(む、一瞬赤点が出たな。仲間が倒してもターゲットとして認識するのか。仲間機能の効果だな)


「お前の従者は強いんだな…」



「従者でありません、仲間です!」


ブサイクなおっさんは決め顔でそう言った。



「いえ従者です」


ロキが仲間を否定する。


「いや婚約者だ」


イリーナも否定する。


「仲間です!」


コルネが同意する。


(コルネやさしい。好感度1ポイント進呈しちゃうね…。まあ、Dランクのモンスターに、仲間支援魔法で力を2倍にして、白金貨の武器だとオーバーキルだな。この感じだと苦戦するのはBランクモンスターからか。まだレベル低いしな。40階くらいまではサクサク行きたいぜ)


「何なのだ…」


セリムは何の集まりだといった感想を持つのだ。


「まあ先ほど紹介したとき、説明した通りです。私がクランリーダーで今の3人が仲間です。それ以外は従者と侍女ですね。ここ最近からこの街で活動しています。ダンジョンに入るのはこれで3回目ですかね」


セリムの案内でさくさく進んでいく一行である。

Dランクの素材を無視することにも反応を示したセリムであった。

そしてここは12階の広間である。

今日は野営で明日下の階を目指す予定だ。

今回は5日間の行程を考えているのだ。


「見た目通り魔法使いなんだな。ダンジョンでは何もしないと思っていたぞ」


野営の準備で魔法を使っているとセリムから嫌味を言われるおっさんである。

相変わらず、土魔法で囲いを作り、土魔法と水魔法で食用の水を用意するおっさんである。

戦闘ではおっさんはほとんど何もせずに瞬殺で終わるのであった。

さすがに土壁を見せた時は驚いたセリムである。

そんな中、アリッサが嬉しそうに料理を作るのである。


「はい、これセリムさんの分」


セリムに夕食をよそってあげるアリッサである。


「あ、ありがとう。あ、あのさ…」


「なんでしょう?」


「ダンジョン楽しいのか?」


「え?楽しいですよ?」


「小石拾って投げるのがか?」


「う~ん、でもこれから槍も持たせて貰えるみたいですよ。ヤマダ男爵様はやりたいことやらせてくれるので楽しいです」


他にも家宰見習いをしている従者の話や、街での話を楽しくするアリッサである。


「そ、そっか」


「セリムさんは冒険者つまらないのですか?」


「な!?やりたくてやってるわけじゃないぞ!し、仕方なくやってるんだ。食べていかないといけないんだ。お前達みたいに道楽で遊び感覚でダンジョン楽しんでるんじゃないんだ!!」


なんとなしに言ったアリッサの一言がセリムの逆鱗に触れたようだ。


「え、あ、ごめんなさい」


「アリッサ、冒険者には、それぞれの思いでダンジョンに潜っているんだから、軽々しく聞いたらいけないですよ」


「はい、ごめんなさいです」


(ダンジョンは遊びじゃないぞ。俺も大事なブログネタのために潜ってるしな)


「セリムさんも私の侍女が無神経なこと言ってしまいましたね」


「あ、いや、分かってくれたらいいんだ」


「それでセリムさん」


「ん?なんだ?」


「この前も話した通り、私たちは20階より先も目指しているんです。もし、ほかの予定や依頼がなければ、私の依頼を受けてほしいです」


「報酬っていくらだ」


「いくらなら受けてくれますか?」


「え?えっと、に、20枚だ、金貨20枚だ!」


相場の20倍近い価格を提示するセリムである。

母に少しでもいい暮らしをさせてあげたいのだ。


「20枚ですね。先払いでしたよね。今渡しておきますね。今回みたいに30階までの案内でいいですか?」


「な!?」


そういって小袋から金貨を出すおっさんである。


「20枚だとちょっと枚数が多くてバラバラしてすいません」


コンビニのレジで『お札が全部千円札ですいません』と言われるのと同じ感じで言うおっさんである。

このやり取りを皆が固唾を飲んでみているのだ。


「な、なんでだよ。なんでこんなに出してくれんだよ」


「え?こんなにじゃないですよ」


「ど、どういうことだ?」


「私はあなたの価値に見合った金額を提示しています」


「し、知らないかもしれないけど、おれは罠察知と罠解除しかできないんだ…。戦闘では役に立たないぞ…」


セリムは一応細身の剣であるレイピアを装備している。

この道中ではモンスターが瞬殺されるので一度も振るっていないのである。


「戦闘はほかの仲間が戦うからいいですよ。罠察知、罠解除と道案内お願いします。道は何階まで行ったことがあるのですか?」


「32階だけど…」


「おお!30階まで案内できそうですね。助かります」


「は、話を進めるな!俺の価値ってなんだよ!お前が俺の何を知っているんだよ!!勝手なこといってんじゃねえぞ!ぼ、冒険者ランクだってDだぞ」


30階以降はCBランクのモンスターが出るのだ。

32階は罠察知と罠解除の依頼のみで参加したグループでの成果である。


「まだ知りません。これから道中分かればいいかなと思います」


「な、なんなんだよ…。価値分かるって言ったじゃねえかよ…」


これ以上何も言わないセリムである。


会話が止まったまま、日程は進んでいくのだ。

そして、ここは20階のボス門の前である。

何組かの行列ができている。

16階から一度に出現するモンスターの数は10体前後になったが、安全に狩っていったのであった。

アリッサもレベルを上げつつ、石投げを繰り返したのであった。


【ブログネタメモ帳】

ダンジョン20階ボス編


「たしか、ここはBランクのオーガやゴブリンロードをCランクのオークなどが囲んでいたんですよね。前回同様にアヒムとイグニルは広間に入ったら槍で前線を作ること。ロキとイリーナはボスを、ほかの方は周りの雑魚を殲滅してください。アリッサは危ないので私の背後から石を投げてください。私の頭に当てたら駄目ですよ」


「「「はい」」」


「俺は何もしなくていいのか?」


「今回は道案内って契約だったですよね。ですので、戦闘への参加は不要です。参加したいなら別ですが」


分かったというセリムである。戦闘には参加しないようだ。

5mほどの扉にはめ込まれた石が赤色から青色に変わる。


「では入りましょう」


そこは半径100mほどの広間である。

中央にオーガが1体見えるのはオーガの大きさが3mを超えているからであろう。

その周りを30体近いオークが囲んでいる。

仲間支援魔法が切れていないか確認するおっさんである。


「少し近づきましょう」


(やはり入った瞬間は攻撃してこないな。隊列組む時間もくれるし、親切設定だな)


少し近づくがどうやらまだ攻撃判定する範囲外のようだ。


「コルネさん、ここから敵を狙えますか。動かないので先制できるか確認がしたいです」


「分かりました!」


コルネが弓を射る。

一体のオークが頭を射抜かれ即死する。

すると敵全体が行動を開始するようだ。


(ふむ、攻撃すると全体が動き出すか。一体ずつ弓矢で倒す作戦は無理そうだな)


オークをどんどん倒していく。


「ズアアアアア」


イリーナがオーガを袈裟懸けで切り裂く。

まだレベルが低く力が足りていないようだ。

とどめはさせない。


「は!」


首を狙ったロキと一刺しで絶命のオーガ。

そうこうしているうちにオークもどんどん数を減らし殲滅をする。

さすがに数も多かったので攻撃を受けたようだ。


「ヒーリングレイン、皆さんお疲れさまでした」


全体回復魔法で完治させる。


「戦神ベルムの祝福をいただいたぞ!」

「あ、私もです!」

「あたしも貰いました!」


レベルがかなり高かったコルネ以外皆祝福を貰ったようだ。


「さてと後ろも痞えてますし、皆素材回収して街に戻りましょう」


20階層ボスがどうも一番人気があるようでかなりの行列であったのだ。

セリムも素材回収を手伝うようだ。

そして、ワープゲートで潜り抜けたダンジョン前広場である。


「セリムさん案内助かりました。では2日後の2の刻にここに集合でいいですか?」


「わ、わかった」


小さく返事すると足早にいなくなるセリムであった。

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