第13話 婚約者
おっさんはお茶会で気になっていた婚約者の件をフェステル子爵に聞く。
ワイワイ食べていた場が沈黙する。
ガリヒル男爵も何事かという顔をしている。
(え?空気を凍らせてもうた。ボケてないのに滑った感があるぞ。俺何か悪いことしたか?実は俺には婚約者いなかったのか)
「ふむ、貴族の親として我も務めを果たしたわけだが」
(やった!さすがアロルド様だ。彼女いない歴35年に終わりを迎えるのか…。彼女じゃなくて婚約者だけど)
「え、はい」
「もしかして、ケイタには既に妻や婚約者が既にいるということはあるのか?」
「え?いないですよ」
「ケイタからそう言う話はないので、いないとは思っていたのだがな。婚約者はこの席にいるイリーナだ」
さっくりと伝えるフェステル子爵である。
「へ?」
凍り付くおっさん。思考は停止したようだ。
「む、まずかったか?」
「え……?と、私で大丈夫なのでしょうか」
「何がだ?王からも男爵の爵位を与えられたのだ。何か問題があるのだ?ああ、そうだ、イリーナは正妻として迎え入れるようにな。我もクルーガー家にはそのように伝えてあるのだ」
当然、クルーガー家の当主には王都に行く前に手紙を送っているフェステル子爵である。
「はあ」
「む、乗り気ではないと」
というフェステル子爵。
その時初めて黙々とステーキを食べていたイリーナが手を止め、おっさんを見る。
「いや、急な話でびっくりしました。そうなんですね」
(あれ、イリーナさんあまり反応ないぞ。既に聞かされていたのかな?びっくりしているの俺だけか?)
「そうか、それはよかった。それと、結婚式は来年王都でやるからな。攻略できていなくても2人ともダンジョンから一度戻ってくるようにな」
(もう式の日程まで決まっていた話なのか。そういうものなのか。イリーナさんの希望とかそういうの無いのかな。ん?2人で)
「はい、そのように」
おっさんが返事しないので、イリーナが返事をするのである。
「え?何がですか?」
「ケイタはイリーナと共にダンジョンに行くのであろう」
「え!?」
「我にも教えておいてほしかったな。ダンジョンを共に行くために、あんな高価な剣をイリーナに買ってあげたのであろう。結構長く生きているが、婚約者と共にダンジョンに行くなど聞いたことないぞ。さすがケイタだな。だが結婚前の婚約者にあまり無理をさせるではないぞ」
「え、あ、はい…」
(やばい、流されるように返事してもうた。どうしよう。そうか、ダンジョン行きたいって言ってる人が剣買ってあげたらそうなるか)
段々状況を理解するおっさんである。
「ケイタ男爵とイリーナ様は王都で結婚されるのですね」
これまで話を聞いていたガリヒル男爵も話に参加する。
「うむ、来年の予定だ。ガリヒル男爵も予定が合えばぜひ結婚式に参加してほしい」
「もちろんですとも」
快く快諾するガリヒル男爵である。
「それでケイタ殿」
イリーナから声がかかる。
「は、はい」
「残りの仲間はどうするのだ?フェステル子爵領にダンジョンがないからいったことないのだが、さすがに2人ではきびしいのではないのか」
(なんか普通に結婚からダンジョンの話に変わってるぞ。やばい、なんか俺だけ会話のテンポが周回遅れのような気がしてきたぞ)
「そ、そうですね。先ほど話をしたとおり、王都で仲間を募集してもいいのですが、フェステルの街経由で向かうので時間もかかり、迷惑かけてしまうかなと。ウガルダンジョン都市で探す形になると思っています。フェステルの街でもいいのですが、私は知り合いがあまりいないので多分見つからないでしょう」
「そうだな、あとケイタ殿はもう貴族だ」
「はぁ、そ、そうですね」
(あれ、なんで、イリーナさん普通に話しかけてくるの?ドキドキしているの俺だけなのん?)
「貴族の代わりに対応が必要な時が旅の途中あるだろうから、ロキを旅に帯同させてもよいか」
「え、そうですね。その方が助かりますね」
(ロキさん、気が利くし助かるな。まあ、貴族が2人旅も不自然だしな。ってなんか普通にイリーナさんと一緒にダンジョン行く流れが固まってる件について)
ほどなくして、ドラゴンステーキパーティーはお開きとなった。
フェステル家の一室に戻るおっさんである。
(なんかイリーナさんと結婚してダンジョンも一緒に行く感じになってるな。まあ断る理由もないんだけどね。仲間の1人はイリーナさんか)
おもむろにタブレットを出現させて、新機能のアプリがどうなったか確認する。
タブレットの画面には、普段見ない文章が表示されている。
『おめでとうございます、仲間アプリが追加されました!機能については、アプリでご確認ください。また、仲間専用スキルも解放されました。こちらはスキル機能でご確認ください』
ダウンロードは既に終わっており、見たことのないアイコンが画面に表示されている。
(仲間専用スキルも気になるが、まずは仲間アプリだな。人が2人いるアイコンだな。)
タップしてみるおっさんである。
すると画面に表示がでる。
『まだ仲間がいません』
『名前を入れて仲間にする』
『近くにいる人を仲間にする』
(ほうほう、選択して仲間にするのか)
『名前を入れて仲間にする』をタップする。
名前を入れるように文字を入力する画面に切り替わる。
(普通に名前を入力して仲間にするのか)
じゃあえっと、『近くにいる人を仲間にする』をタップすると、
『近くに仲間にできる人がいます。誰を仲間にしますか?』
『イリーナ=クルーガー』
『ロキ=グライゼル』
「え!?」
思わず声が出るおっさんである。
(この建物にはまだ他に人が何人もいるんだけどな。仲間にするには何か条件があるのか?ていうかロキさんって名前かっこいいな。どうするかな、仲間にしてみないとこの後のことが検証できないな。とりあえずイリーナさんと)
『イリーナ=クルーガー』をタップする。
『イリーナ=クルーガーを仲間にしました』
(ほうほう、仲間にした人リストが別タブにできたぞ。ロキも仲間にすると、リストの名前が増えるのか)
『ロキ=グライゼルを仲間にしました』
(おお!リストに仲間が増えたぞ!!この仲間解除ボタンで仲間を解除するのか?)
おっさんは仲間の解除ボタンをタップする。
すると、注意メッセージが表示される。
『ASポイントが足りません。仲間の解除にはASポイントが100000ポイント必要です』
「ふぁ!?10万!?」
思わず夜中のフェステル家の一室で大声がもれる。
もう一度0の数を、念のために数えるおっさんである。
(なんだ、このアホみたいなASポイントは…。仲間解除できないじゃん。一度仲間になったのに簡単に別れるのはおかしいみたいなノリかな?変なとこにこだわりがあるな…。もう他に仲間機能に設定はないのか)
タブレットの画面をあちこちタップするおっさんである。
仲間の名前をタップするとメッセージが表示される。
『仲間が近くにいないため表示できません』
(ん?仲間がいると仲間の情報の詳細が出る感じか。あとは仲間専用スキルくらいか)
仲間機能の検証に一段落をつけ、仲間専用スキルの確認をする。
(スキル取得アプリの中ってことだよな)
スキル取得のアプリをタップすると、別タブに仲間専用スキルがある。
(はぁ!?なんだこれ、通常のスキルと同じくらい無限にあるぞ!?だからダウンロードに1日近くかかったのか?ちょうどこれから道中なので、なんかいいスキルないか移動中に探すかな。帰りは行きよりブログネタが少ないからちょうどいいかもしれんな。あとは外套のMP回復加速も検証するか)
フェステル子爵の貴族との社交場に付き合って2日が過ぎた。
帰りの準備が着々と整った。
王都を去ることになったフェステル子爵一行である。
「ヤマダ男爵様はこちらになります」
騎士から馬車を案内される。
もちろん、中にはイリーナだけが乗っているのだ。
ゆっくり馬車が進みだす。
大通りを進んでいるとふいにイリーナから声がでる。
「王都もあっという間だったな」
「そうですね」
「次来るのは1年後か」
「そ、そうですね、イリーナさん」
(1年後の結婚式ですね。いい結婚式にしましょうね)
「そうか、いや、ふっ初めてだな」
「え?何がですか」
「ケイタ殿が私を『イリーナさん』と呼んだことさ」
「そうですか?」
「そうだ。そしてさん付けも不要だ。私もケイタと呼ぼう。私はお前の婚約者だからな」
「えっと、あの…。嫌じゃないのですか」
おっさんは思っていたことを、勇気をもって口にする。
「うん?ケイタと結婚することがか?」
「はい」
「まあ、嫌ではないな」
「はあ」
「そうか、まあそうだろうな」
「ん?何がですか?」
「ケイタはずいぶん自己評価が低いようだからな。自己嫌悪でそんなことを考えているんじゃないかと思ったのさ。私は今回の結婚は満足しているぞ。そして私に敬語は不要だ」
そう言って軽く笑ったイリーナであった。
馬車が門を抜け、王都を出ていくのである。
馬車が走ることしばらく過ぎる。
会話も止まったので、行きと同様に外套を目元まで隠しているので、膝上にタブレットを出現させる。
「え!?」
突然イリーナから声が漏れる。
「ん?どうかしましたか?モンスターですか?」
「いや、何でもない…」
(ん、モンスターか何か、車窓から何か見えたのか?)
タブレットのマップ機能を使って警戒をするおっさんであった。
周りにはモンスターはいないようだ。
移動から2日が経ち、ガリヒルの街に着く。
ガリヒル男爵も一緒に帰っていたが、フェステル子爵の一行は人数も多いので宿に泊まる。
ガリヒル男爵とはここでお別れである。
宿に入る一行である。
そこで、宿屋の店主からとんでもないことを言われる。
「あらあら、今日は来客が多くてね、1つ部屋が足りないわ、そちらの2人は夫婦ですか?」
「む、夫婦ではないが、婚約者ではあるな」
イリーナが回答をする。
「そうですか、すいませんが同じ部屋で良いですか」
「ふむ、致し方ないな。それで構わぬ」
(ふぁ!?致し方あるぞ!!)
イリーナと同室で泊まることになったおっさんであった。
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