第07話 謁見
翌日朝7時ごろ起きるとフェステル家の一同は皆既に活動を開始していた。
(さすがに早いな。遅刻は首かもしれないもんな。物理的に)
「おお!起きたか。ケイタも早く支度を済ませるように。馬車の準備はできているぞ」
新しく買った外套を着こみ用意を済ませるおっさんである。
外套を着こみ馬車に乗り込む。
王城に行くのはフェステル子爵とおっさんだけである。
なお、ガリヒル男爵も今回の謁見で参列の1人として参加するので王都の男爵宅から王城に向かっている。
貴族街にいるので、すぐに王城が見えてくる。
必死にブログに状況を描写するおっさんである。
(おお。まさに白亜の宮殿だ。建築は綺麗な対称構造だな。こういうの、何式っていうんだっけ)
【ブログネタメモ帳】
・王城に行ってみた ~白亜の宮殿●●式~←ネットで調べること
「はっはっは、ケイタも王城が気になるかね」
うれしさのあまり身を乗り出していると思ったフェステル子爵である。
「え、あ、はい!素晴らしい建物ですね!!」
貴族門から王城の門を抜け、さらに中に進んでいく。
入口近くで降ろされ、フェステル子爵についていき、入口を進んでいく。
(あれ、飛竜の頭がないな。こういう異世界物って玄関に飾ってくれるんじゃないのか)
おっさんはどうやら王城入口に飛竜の頭を飾ってほしかったようだ。
王城で働く騎士に2階の個室を案内される。
「ここでしばらく待つことになるぞ。国王の予定次第だからな」
「はい」
(おお、客室もきれいで広いな。さて暇だしブログネタの整理でもするか。王都を散策して、姫騎士とデートしたし、王城にも入ってまたネタが増えてきたな)
ブログが迅速に更新できるようにブログネタの整理に取り掛かるおっさんである。
整理しているとフェステル子爵が話しかけてくる。
「今回のオーガの討伐はな。しばらくすればある程度確かな情報が王国中に広がると思うがかなり半信半疑な貴族も多い。何か汚い野次が飛ぶかもしれないが、反応しないようにな」
「はい」
(ニュースも何もない世界だからな。それに、たしか王位争奪戦で劣勢とかいってたな。王侯貴族にも直ぐに信じてもらえるような味方も少ないってことか)
その後、王城で働く役人がやってくる。
授爵の儀式について詳細な説明を受けるおっさんである。
儀式自体は、すぐに終わる予定であるが、その後謁見があるとのこと。
国王へは話しかけてはいけない。見てもいけない。返事は肯定のみである。
国王からいくつか質問があるであろうとのことであった。
説明も終わり2時間が経過した。
もうお昼過ぎである。
役人がやってきて国王の準備が整ったとのことである。
フェステル子爵が儀式の参列のために出ていく。
それからすぐに、おっさんの案内係の騎士がやってくる。
付いていくおっさんである。
(これで貴族になれるのか。姫騎士にはお礼をしたしな。フェステル子爵にも何かしないとな)
そんなことを考えながら騎士の後を付いていく。
3階の扉の前で、ここで待つように言われる。
(でかい扉だな。この奥にガリヒル男爵もフェステル子爵も既にいるのかな)
15分ほど待つと、2名の上官っぽい騎士がやってきてこれから中に入るとのことだ。
(お、なんか緊張してきたな)
観音開きの扉が開けられる。
先を進む2名の騎士の、真ん中やや後方を歩くおっさんである。
下には真っ赤な絨毯が敷かれている。
参列の貴族達がその両サイドに立っている。
漆黒の外套の魔法使いを、怪訝な目で見る者。
黒目黒髪を好奇な目で見る貴族も多い。
そして正面の王座には誰もいない。
緊張してブログネタにする余裕はおっさんにはないようだ。
部屋の真ん中あたりで2名の騎士が歩みを止めるので、事前の説明どおり歩みを止め、片足をつきひざまずく。
視線はやや下にして、数m先の真っ赤な絨毯を見ている。
5分ほど待つと、宰相に連れられて国王が王妃とともにやってくる。
そして、王国騎士団であろうか数名の騎士が国王の両サイドに立つ。
真っ赤なローブを着た王宮魔術師も何人も国王の側に控える。
宰相が羊皮紙を持ち、儀式の開始を宣言する。
「これより叙爵の儀式を執り行う。彼のものは、王国を守るために3000を超えるオーガから国土を、そして、国王の愛する民草を守った。その功績を称え男爵にすることとする」
宰相により、その後も、いかにおっさんが王国を守るために奮闘したか武勲が伝えられる。
(こういうのはフェステル子爵側から伝えられているのかな)
ことの経緯を想像していると国王が近づいてくる。
手には剣を持っている。
視線が低いため国王のひざ下と剣先しか見えないおっさんである。
(剣を肩に当てる例の儀式だよね。切りかかってきたらおっさん嫌だよ)
おっさんの妄想はよそに、剣を軽く肩に当てがい、儀式はつつがなく終了するようだ。
(え!こんなもん?国王しゃべらないのね)
「これにて叙爵の儀式を終える」
(特に拍手はないな。超静かだ)
「ケイタといったな。王都によく来てくれたな。これより貴族だ。貴族としての務めを果たすがよい」
国王は王座に座り、おっさんに話しかけてくる。
「はい」
(はい以外駄目だめなんだよね。どこかの軍人みたいだ)
「正直な話、今日参列している貴族の中にもそなたの成果を疑うものも多いのだ。そこでだ、国王としてはこのまま儀式を終えてもよかったのだがな。少しばかり新たに生まれた貴族のために余興を考えたのだ。そなた、余のためにわざわざ手土産を持ってきたそうだな?」
(余興?なんだ簡単な質疑応答ではないのか。手土産は持ってきたけど)
「はい」
「マデロス宰相」
宰相の名前を口にする国王。
「持ってまいれ」
マデロス宰相がそういうと後ろの観音開きの扉が開き、コロコロと台車に載った魔石とオーガの素材が運ばれてくる。
そして、
「「「ひ、ひいいっ!!」」」
女性の貴族から悲鳴が聞こえてくる。
参列から悲鳴やどよめきが広がっていく。
(む、後ろ向けないけど、この感じは飛竜の頭を謁見の広間に持ってきたのか。良く持ち上げられたな。いや違うか、レベルによって力が数倍になる世界だ。騎士が10名もいれば、引っ越しで冷蔵庫運ぶより楽だろ)
飛竜の頭が大きな台車に載せられ広間に運ばれる。
そして、血、内臓、肉も黄金の3つの大きな容器に入れられて運ばれてくる。
「この数百のオーガの魔石と素材はそなたが倒したもので相違ないか」
「はい、300名の仲間とともに倒したもので間違いありません」
「この飛竜もか」
「はい、飛竜は1人で倒しました」
肯定するおっさんである。
「そんな馬鹿な!?飛竜を1人で倒すなんて聞いたことないぞ!!」
参列者の貴族から批判の声が出てくる。
「マデロス宰相よ、1人ではありえないと参列者は言っているぞ。余に誤った報告をしたのか?」
「いいえ、フェステル家からの報告はもちろんのこと。オーガ討伐に参加した冒険者からの聞き込み調査を行いましたが、間違いありません。1つの魔法でオーガの首が吹き飛ぶほどの威力だったのことです。戦場になった城壁も、現場で灰にした数千体のオーガの骨も確認済みです。また、現在フェステルの街には王都の城壁以上の大きさの城壁が築かれているという情報も届いております」
「なるほど、オーガの討伐については間違いがないのだな。だが飛竜はどうなのだ?」
「飛竜について話が王家にきたのは2日前のことです。飛竜についてはまだ、現場にいた検問の兵からの話を聞いていませんので」
「では飛竜を1人で倒すほどの魔力があるか分からぬということか?」
「それはそうですが。困りましたな…。ああ!そうだっ!あれを持ってまいれっ!!」
(ん、なんか、茶番感があるな。なんでだ?)
マデロス宰相は今思いついたはずなのに、準備していたかのように、すぐに大きな水晶のようなものが運ばれてくる。
「ほう、魔力鑑定の水晶か」
(鑑定か、鑑定がやはりあるのか。俺のタブレットにはないがな!く、悔しいんだから)
鑑定に執着するおっさんである。
「はい、具体的な魔力は分りませんが、ここにいる主席王宮魔術師と比べてみてはいかがと」
「おおお!面白いぞ!!リンゼよ、構わぬか?」
「王命とあらば。では私が先に鑑定を受けましょう」
真っ赤なローブを着た、主席王宮魔術師のリンゼが手を大きな水晶にかざす。
リンゼが魔力を水晶に込めるとすごい勢いで光りだす。
参列の貴族からの感嘆の声が聞こえてくる。
「ではケイタ男爵よ、次はそなたの番だ。この水晶に手をかざし魔力を込めるがよい」
(おお!男爵って呼ばれた!!うれぴい)
別のことを考えながら、ぎこちなく数歩先の水晶に向かうおっさんである。
水晶に手をかざす。
参列した貴族も注目する。
「ではいきます!」
(いくぜ!全力だ!!わが戦闘力を見るがよい)
「うむ」
ケイタが全力で魔力を水晶に込める。
ビ、ビ、ビ、ピキピキ、ビシッ
「へ?」
「「「おおおお!?」」」
リンゼからも驚きの声が聞こえてくる。
貴族たちも同様だ。
水晶は鈍い音を出しながら、リンゼ以上の光源を発し、目を眩むほどの光が広間を包んだと思ったら、煙をだし、砕けたのである。
(おお!異世界あるあるの鑑定の水晶の破壊ができたぞ)
「そ、そんな、Aランクの魔法使いでも壊れない水晶だぞ……」
宰相も予想以上の結果にわなわなして砕けてしまった巨大な水晶に近づいていく。
「それでどうなのだ?マデロス宰相よ。ケイタ男爵の魔力は」
「おそらくですが、主席王宮魔術師であるリンゼの倍近い魔力があります…」
「な!?ば、倍だと!!そんな…今までケイタなど聞いたことないぞ!!」
参列する貴族達も動揺し驚きの声が広がっていく。
飛竜の頭。
砕けた巨大な水晶。
うなだれるリンゼ。
漆黒の外套を着る黒目黒髪の魔法使い。
それぞれを交互に見る貴族達。
「やはりな、リンゼよ。お主より強い魔法使いではないか。こんな茶番みたいなことをしなくてもな」
そういう国王である。
「は、はい…」
うなだれたリンゼが返事をする。
(ん、やはり茶番だったのか。なんだ、何かあったのか?)
「そうだな、ケイタよ。つまらぬ茶番に付き合わせてしまったな…。許してくれぬか?」
「はい」
「王家としてはそなたを主席王宮魔術師として迎え入れたいと思っているのだ。もちろん受けてくれるな?」
主席王宮魔術師になれという国王。
(やっぱりそういう話になるよな。とりあえず断ってみるか)
「申し訳ございません」
ずっと肯定してきたおっさんが初めて否定するのであった。
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