第06話 デート

フェステル家の一室で目覚めるおっさんである。

普段部屋に入ると部屋の中を物色するおっさんであるが、さすがに遠慮してそのまま寝たようだ。


(さて今日の予定は冒険者ギルドにいって、そのあと防具屋にいって外套を買い替えるんだっけか。姫騎士が案内してくれるんだよね)


「もう起きていたのか」


1階でおっさんが予定を考えているとイリーナに声を掛けられる。

イリーナも別室に泊まっているのだ。


「はい、おはようございます」


丁寧な挨拶に若干ムっとするイリーナである。


「そうか。私はいつもで行けるがもう出かけるのか」


「そうですね、ご案内お願いします」


「うむ、そうだな。ちょっと待っていてくれ。着替えてくる」


イリーナは道中が護衛の任務もあって甲冑を着ていた。

しばらく待っていると、今着ている家着から街行き用のスカートの洋服に着替える。


(おお。姫騎士の外行の私服バージョンだ。こういうの見ると写真がいい気がしてきた)


アイコンの追加で『写真』と『仲間』で迷っていたことを思い出す。


「ん。どうしたんだ」


「いえ。なんでもないです」


ジロジロ見てしまったことを反省するおっさんであった。

王都は広いため、冒険者ギルドまでは馬車で移動する2人である。


もう朝9時過ぎで冒険者ギルドは余り混んでいない。

犬耳の受付嬢のカウンターに向かうおっさんである。

受付で話を聞いてみるとまだ『競り』の予定は調整中とのことなので、あとでまた来ることにした。


「それで次はどこに行くんだ」


「そうですね。外套を新調しようかなと思います。前回外套を買うのに1日かかったので早めに行きたいなと。謁見に間に合わないかもしれませんので」


「そうか、防具ならこっちの一角にあるぞ」


歩いてほどなくすると防具屋が見えてくる。

どうやら防具屋や武器屋が軒を連ねる一角である。

防具屋は外からも騎士の鎧が見えている。


(ふむ、大きさはフェステル子爵領の防具屋の倍近くあるな)


「王都の防具屋は品ぞろえがいいですね」


「うむ、そうだな」


中に入ると、落ち着いた感じのおじさんがカウンターから出て店内にいる。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなものをご希望でしょうか」


「すいません、外套を新調しようと思ったのですが」


「なるほどなるほど、かなり立派な外套をお持ちのようですが」


といって、おっさんの全身を見る店主のおじさんである。

おっさんはフェステルの街で一番良い外套を着ているのだ。

しかも、ほとんど戦闘でダメージを受けたことがないため新調そのものである。


「はい、もう少し良い外套はありませんか。この店で一番いいのから、いくつかおすすめのものを勧めてください」


「はい、かしこまりました」


店主の眼が光ったような気がした。

イリーナも本当に大丈夫かという顔をする。

店の奥に引っ込んでいく店主。

店に飾られていないものを持ってきてくれるようだ。


(治安も日本より悪いだろうしな。店内に飾れないものか。これは期待できる気がする)


と思いながら待っていると、また、3着の外套を持ってきたようだ。

話を聞くと全てAランクモンスターのようだ


ブラックドラゴンの外套 

白金貨20枚 黒色フード付き 魔法・ブレス耐性大 低威力の攻撃無効 魔力回復加速 


セピラスの外套

白金貨15枚 白色フード無し 物理攻撃耐性大 低威力の攻撃無効


飛竜の外套

白金貨10枚 赤茶色フード付き 魔法耐性大 ブレス無効


(おお!市場で買える最高級品という感じだな。ていうか飛竜があるぞ。飛竜はやはり魔法効きにくいようだな。飛竜の皮は1着分だけで販売価格が白金貨10枚するのか!1億円か。つうかセピラスってなんだ?)


今度は結構迷うおっさんである。


(つうか色は黒なんだ。一番いいやつ。色変えたかったな気分的に)


「おい。大丈夫か。かなり高いのではないのか」


給与制の騎士であるイリーナが心配している。


「むう。白色の外套はフードがないですね。魔力回復加速を考えたら黒しかないな」


「ん?色だと!?」


どうやら別のことで悩んでいるのかと驚くイリーナである。


「仕方ない。また同じ色だけど、この黒色の外套でお願いします」


(魔力回復加速は今後検証だな。たしかスキルにも同じのあったな)


「ありがとうございます。体のサイズを確認させていただきます」


「あのすいません。これってどれくらいで受け取りできますか」


「お急ぎとあれば本日中でも大丈夫です。5の刻(18時)にはサイズの調整ができているかと思います」


助かりますと言いながらサイズの確認を受けるおっさんである。

預かり証なような札を渡され店を出る。


「お、おい大丈夫なのか?!白金貨20枚など…」


副騎士団長の生涯賃金を超えるお金をポンと払うおっさんである。


「え、あ、そうですね。まだまだ余裕があります」


ゲームでは最高装備を買うのが基本である。

当然最高装備を手に入れるのに1年かけたこともあるのだ。

ダンジョンの奥地で手に入る装備でもない。

必死に自ら作成した装備でもない。

コネを駆使してやっと取引した装備でもない。

ただの金さえ払えば買える『店売り』の装備という感覚で買ったゲーム脳のおっさんである。


「次はどうするんだ。まだお昼前だが」


「次は武器も見ておきたいです」


(ブログ的に武器屋もセットだろ。いかつい店長いるかな)


「そうか、隣が武器屋だぞ」


外套を買ったおっさんは、次は武器店に入りたいという。

イリーナも当然一緒に入るのである。


「王都は武器屋も品揃えいいですね」


「うむ。この店は特に品揃えがいいからな」


王都にもいくつか武器屋や防具屋があるが、この店は一等地にあるため、品揃えが豊富なのである。


「おう、なんだデートか?ここは武器屋だぞ」


ガラの悪い店主がカウンターから出てくる。


「いえ、少し見て回ってもいいですか?」


「ふん、勝手にしな」


(ふむ、武器屋はガラの悪い方が繁盛するのか)


【ブログネタメモ帳】

・防具屋と武器屋の態度の違いについて


おっさんはそんな感想を持ちながら、武器を物色する。


(結局後方職特化で武器一切使わないな。魔法オンリーだしな。フェステルの街で買った短剣もネズミの尻尾切っただけだしな)


品揃えの良い剣を見ていたおっさんであるが、ふいに剣を握りしめながら構えを取るスカート姿の女性が目の端に入る。

イリーナである。

騎士が普段使うような刃渡り1mほどありそうなロングソードを握っている。

上段に構えたり、軽く上下に振ったりしている。

真剣に剣の重さを感じながら構えを確認しているようだ。


(お!騎士だから剣が好きなのか。これまでお世話になってるしな!結婚するみたいだからご祝儀も兼ねて1本買ってあげるかな)


「良かったら、1本買いましょうか?」


「ん、いや、剣などそうそう買ってもらうものでもないしな」


(そういわれると確かにそのとおりだ。でも他に姫騎士へのお礼、思いつかんぞ)


「でも、この10日以上の間、色々お世話になったし、王都も案内してくれたので」


お礼をする理由を述べるおっさんである。


「そ、そうか?でも悪いしな…」


「まあまあ。せっかく飛竜が獲れて懐潤ってるんで。お礼させてくださいよ」


今日は飲み代出しますよ、見たいな感覚でぐいぐい買おうとするおっさんである。


「そ、そうか」


なんとなく同意を得られたと思って、イリーナに合いそうな剣を探すおっさんである。


「やっぱりレイピアのような細身よりロングソードのような大きさがあって両刃の方がいいのですか」


「まあ、そうだな。だがやはり悪い気がしてきたぞ」


そういうイリーナを無視して剣を物色するおっさんである。


(といってもいい剣とかあまり分らんぞ。奢るといったし、ここは後には引けぬ)


あれこれ勧めて、イリーナに握ってもらうがいまいちのようだ。


「店長」


「おう、なんだ」


店長は剣を物色する2人を鋭い目で見ていた。


「この店で一番この女性に合う剣ってありますか?一番ですよ!」


にやりと笑って返事もなくカウンターに引っ込む店長である。


(また店頭に置いておけない系か!これは期待できるな!)


1本の剣を持ってガラの悪い店長が出てくる。


「ねえちゃんの体のサイズや剣を持った感じだとこれが一番合うぞ」


ぐっと剣を突き出されるので受け取ってイリーナに渡すおっさんである。


「ほう、これはいい剣だな。重さも、握りも手に吸い付くような感触だ」


剣を持ち、構えを取りながら感想が漏れるイリーナである。


(おお!姫騎士も気に入ってるな。これはがいいのではないのか?)


「どうよ?この店一押しの業物よ」


「業物か…。確かに素晴らしい刀身だ。だがすまない、こんないい剣はいただけない」


「なるほど業物でしたか。ではこちらにしてください」


「お、おい、聞いていたのか。こんないい剣を買ってもらうなど聞いたことないぞ」


「まあまあ、でおいくらですか店長?」


「おう、白金貨10枚だ。刃全体にミスリルを使い、刀芯にアダマンタイトを使った業物よ。あんちゃんにはこれは無理だろうがな!こんなところでデートなんかしたらだめだぞ」


店長は店でいちゃつくバカップルに現実を見せるために最高級の剣を用意したようだ。


「白金貨10枚ですね」


(ほうほう、1億円の剣か)


小袋から白金貨10枚を出して店長に渡すおっさんである。


「「え?」」


固まるイリーナ。

店長も目を見開き動けないようだ。


「ちょ、ちょっとまってくれ。なんでそうなる?」


「外套の半分で買えましたね」


「いや、聞いてくれ!?いやこんな高いもの受け取れぬ」


「え?騎士が武器にこだわるのは当たり前じゃないですか。武器はいいもの持たないと意味ないでしょ。もしもの時に安物のなまくらだからじゃ後悔もできないですよ」


正論を言うゲーム脳のおっさんである。


「もしもの時、安物だったら…」


つい最近オーガによって街が消えそうなった。

手に握りしめた剣を見ながらその時のことを思い出すイリーナである。


「でも、これから街を歩くのに剣は邪魔ですね。外套を引き取りに来る時に一緒に持って帰りましょう」


「いや、構わない。店長腰に巻くものはないか」


「お、おう…。ベルトくらいサービスするぞ」


そういうと店長はどうやら帯刀するための帯をサービスしてくれるようだ。


(え?スカート姿に剣か。これはこれでありな気がするぞ)


「さて、これからどうするんだ?」


これ以上イリーナも粘らないようだ。


「どうしましょう?結構経ちましたね。お昼にしましょうか」


「そうか、少し行ったところにうまい肉料理の店があるんだ」


(ほうほう、姫騎士はお肉が好きと)


【ブログネタメモ帳】

・姫騎士は肉食女子


「ではそこに行きましょう」


お昼ごろということもあり、大変賑わっているステーキのお店のようだ。


「おいしそうなお店ですね」


「うむ、うまいぞ。これくらい奢らせてくれ」


どうやらお返しもしたかったようだ。

しばらく待つとよく分からない肉によくわからないソースのかかったステーキが来る。

500g近くあるボリューミィなステーキが2皿運ばれてくる。


(姫騎士ってよく食べる系だよな。騎士だからか)


旅中もよく食べるなと思っていたおっさんである。


(そういえば異世界もの世界って先駆者の転生転移者がマヨネーズとか流行らせたりしてるもんだがな。そういう影が一切ないな)


同じ境遇の地球から来た転生転移者の影を感じないおっさんである。

料理あるあるを考える。

ふとイリーナを見ると、おっさんが買ってあげた剣が気になるのか、料理を食べようとしない。


(そういえば、移動中も剣も腰に下げた時の姿勢を気にしてたな)


剣の角度を変えながら見つめるイリーナである。


(試し切りしたいと切りかかってこないでね)


おっさんもイリーナに合わせてゆっくりステーキを完食する。

ステーキを食べるのに時間をかけた2人であった。


料理を食べ終えた2人は王都をぶらつくのである。

夕方になったので、もう一度冒険者ギルドにいくと、飛竜の解体は既に終わり、フェステル家に頼まれていた部分は届けたということだ。

また、『競り』は明日と明後日に冒険者ギルドの解体施設の一角で12時に行うらしいので、見学は自由とのことだ。


その後、新しい外套を貰い古い外套は金貨10枚で下取りとして売ったおっさんである。


フェステル家に戻る2人である。

戻ってきたが、飛竜の頭がないようだ。


「やあ、遅かったね」


戻るなり、すぐにヘイルがイリーナに話しかけてくる。


「はい、ただいま戻りました」


「おお!戻ったか」


今回はフェステル子爵も直ぐにも2階から降りてくる。

そのまま明日以降の打ち合わせがしたいようだ。


「先ほどまで使者がきていたのだが、どうも謁見は明日になったようだ。飛竜は冒険者ギルドの使いが持ってきたのだが、早々に召し抱え上げられたよ。もちろんオーガの素材もな」


1ブロックの飛竜の肉は、競りが終わったら皆で食べるので、家で保存している。


(飛竜とオーガの素材を前日から何か準備するのかな)


「ずいぶん早いですね」


「うむ、王都について2日だからな。これはかなり早いぞ!どうもオーガの件は王家も重く受け取っていたようだ。それからの飛竜討伐だからな。明日は早めに王城にいくことになるぞ」


どうやらフェステル子爵は1人で謁見の調整をしていたようだ。

またゼルメア候にもガリヒル男爵の件や日程など既に連絡を取っているのだ。

明日は謁見か、競りの見学はできないなと思うおっさんであった。

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