第05話 新機能

いきなり土下座して懇願した白衣のおじさんの話を要約すると、飛竜の血は大きな陶器の瓶4つ分もある。

だが血だけではなく内臓も貴重で薬に使える。

だから貴重な飛竜の血液の半分を市場に回してほしいとのこと。

代わりに肝臓など薬に使える部位を1瓶分。料理に使える部位も1瓶分の計4瓶分にしてはいかがという話だ。

薬ギルドとしても解体に協力するのでそうしてほしいとのことだ。


(いや、そういう話なら断る理由ないし。そうだな、ドラゴンステーキも王家に喜ばれるだろうしな。って、ああ、土下座の印象大きすぎて忘れてたがこのおじさん。フェステルの街の薬屋で聞いた偉い薬師じゃん)


「ふむ」


内容を聞いて一理あるなという反応をするイリーナである。

思考が彼方まで脱線したおっさんの返事を待っているようだ。


「別にそれでいいですよ。ってああ、それだと競りの売り上げ変わりますか?」


「売り上げ?」


「そうなんですよ。この飛竜はガリヒル男爵との間で取引がありまして、売り上げが変わるとガリヒル男爵に勝手に損をさせてしまうことになるんです」


「なるほど、内臓は部位にもよりますが、血とあまり変わりませんが、肉は血よりかなり安いので逆に売り上げが上がりますよ。それに王家も飛竜の血を大量に渡されるよりうれしいかと」


(薬師が言ってるならそうなのだろう。ふむふむ、血や内臓は山で倒した飛竜を持って帰るとき傷みやすいから厳しいが、肉は持って帰りやすいから安くなりやすいと)


という白衣のおじさん。


「そうだな、競りの売り上げが上がるならそれでいいのでは。そもそも、お茶の一杯で白金貨100枚以上の話だ。ガリヒル男爵にはあとで事情を言えば良いのでは?」


イリーナがアドバイスを送るのである。


「そうですね。では競りの帳簿を付けてガリヒル男爵には説明しましょうかね。血を半分提供する形で競りはすすめてください」


「ありがとうございます。市場にたくさんの薬が提供できて助かります」


「では、解体の方が当薬ギルドで当たりましょう」


という白衣のおじさん。


「冒険者ギルドも解体させてもらうよ。ああ、それと競りの帳簿は当然冒険者ギルドで作成しているから、終わったら写しを渡すよ」


という本部長。


「え、ありがとうございます」


おっさんは本部長にお礼を言う。


「ふむ、他領の利益も絡んでいるのですまないが4名ほど2領の騎士を立ち会わせてもらうぞ」


というイリーナ。


(え、運搬も手伝ってもらって丸3日監視するの。俺の飛竜のせいで…。なんか悪いな、せっかくの王都なのに…)


騎士は観光などしないのであまり王都など関係なかったりするのだ。


「もちろん構わないよ。話はまとまったみたいだね。まあ競りはこっちでしとくからそちらさんの騎士を通して状況を報告させるよ。飛竜については冒険者ギルドであずかるけど騎士もいてもらっていいよ。王家に献上する分は明日の早いうちに解体して届けさせよう。王都にあるフェステル家でいいんだよね?」


「その際、飛竜の肉を食べたいので1塊ほどの肉もお願いします。まあ20人分くらいですかね」


せっかくなので王都に来た皆で飛竜の売り上げを祝して、ドラゴンステーキを食べようと思うおっさんである。


「そうかい。じゃあそう伝えておくね」


と話をまとめるおっさんと本部長である。


「それでは我々はいったん失礼をする」


立ち上がるイリーナ。

犬耳の受付嬢が案内するようだ。

ついていくおっさんである。


冒険者ギルドからでようかというところで、おっさんがイリーナに話しかける。


「なんか悪いですね。みんなに手間かけさせてしまった。私の手土産で…」


「まあ飛竜の件は、子爵家にも男爵家にも有益なことだしな」


「私が三日三晩も監視をする騎士に手間賃というかそういうの渡したら問題になりますか?」


「ん、そうだな、騎士は給金を、仕える両家からもらっているけどな。気持ちをいくらか渡す分にはいいんじゃないのかな。一言あとで両家に伝えておけばいいのではないのか」


そうなのかと返事をするおっさんである。

外に出るともうずいぶん暗くなり始めていた。

おっさんは4名の騎士にお手間をかけますと金貨を1枚ずつ渡し始める。

それは渡しすぎなのではと思うイリーナである。


飛竜の立会と監視のために騎士達を4名残してフェステル家を目指す。

監視の責任者はロキがするようだ。


(そういえばロキさんとは会話してないな。姫騎士の側近だっけ)


貴族内に入りほどなくしてフェステル家であろう一軒家に入る。


(お!三階建てだけど普通な感じの一軒家だ。確か王都の貴族街は、家賃がすごい高いんだっけ?子爵で王都に館は無理か)


馬車を敷地内に停まり、イリーナについていきながらおっさんも中に入る。


「遅かったね」


一軒家に入ると20代半ばと思われるイケメンが出てくる。


(ん。イケメンだ。人類の敵だ。滅びるべし)


ブサイクの嫉妬は半端なかった。

おっさんの嫉妬を無視してイリーナに話しかける。


「せっかく王都に来たのになかなかやってこなくてびっくりしたよイリーナ。久々だね」


「はい。お久しぶりです。ヘイル様」


(ヘイル様?ん、どこかで聞いたことあるな。ああ、フェステル子爵の長男だ)


おっさんが見えないがごとく、イリーナにぐいぐい会話を続けるイケメンである。


(そっか。仲良さそうだな…。イリーナの結婚相手なのかな。子爵家の長男か。跡取りって話だしな。ちょうどいいのかも)


イケメンと話をするイリーナを見て、以前に結婚して騎士団をやめる話を思い出すおっさんである。

王都までの旅が走馬灯のように蘇りしんみりしているおっさんである。


「ん、あれ?こちらはもしかしてケイタくんかな?」


イリーナの後ろでたたずむおっさんに気付く。


(君付けか。まあ将来の上司か。一族経営で社長の息子と会話する従業員の気持ちが分かった気がするぞ)


おっさんは一族経営ではない普通の大手企業に勤めている。


「はい、ケイタと申します。私事でフェステル家にはお手数をおかけしています」


「何を言っているんだい。オーガの大群から領都を守ってくれたんだろ。話を王都で聞いたときはびっくりしたよ。いやでもそんなふうには見えないね。そっか、黒目に黒髪か珍しいね」


「はい、よくそんな風に見えないと言われます。それと守ったのは討伐軍皆で協力して行った結果ですので」


社交辞令を全開にするおっさんである。


「そんなに謙遜しなくてもいいんだよ」


なんか思った感じと違うなと思うヘイルである。


「おお、やっと帰ってきたか!」


おっさんらの会話を聞いて、上の階からフェステル子爵が降りてくる。


「はい。冒険者ギルドで飛竜の売却の話をある程度済ませてきましたので」


「ふむ、少し明日以降の話をしよう」



1階にある打ち合わせ室でフェステル子爵、ヘイル、イリーナ、おっさんが明日以降の話をする。


「まずは国王との謁見だが、日程が早くなるかもしれないという話が、王家からの使者が家にきて言われたよ。こちらが使者を送る前に来て驚いたよ。なんでも国王が飛竜を見たいとおっしゃっているそうだ。明日もう一度使者がやってきて詳しい日程を伝えに来るという話だ」


(お。飛竜効果がすぐに出たかな。検問から王家に話が言ったか。道楽の少ない世界だしな)


その後、イリーナが代表して、冒険者ギルドで説明を受けた販売の流れを説明していく。


「ほう、あのギルド本部長とすぐに話をしたとはな。さすがケイタだな」


「はい、ギルド本部長の話ではケイタ殿は300年ぶりの英雄との話です」


やや強めにギルド本部長の話を伝えるイリーナである。


(お!姫騎士が本部長の話だしてくれた!!うれぴい)


「さ?!300年!!」


おっさんを見て、そんなにという顔をするヘイル。


「そういうわけでな。明日は自由としようと思う。王家との日程が決まらないとそれ以外の日程も決めることができないからな。ケイタは何か予定はあるのかね?」


(それ以外の予定ってゼルメア侯爵への挨拶だよね)


「特に予定がないのであれば、王都を散策したいですね。日程が合えば飛竜の競りも見てみたいです。あとは国王への謁見もあるので外套を新調しようかなと思います」


(王都に着いたし、そろそろ装備も新調だな。失礼のないようにお色直ししないとね。お金もあるし)


オーガの討伐で白金貨100枚。

指名依頼の報酬等の残りで金貨80枚ほどあるおっさんである。


「ほうほう。イリーナはどうするんだ?何か予定があるのか?」


「いえ特にありません。ケイタ殿が王都を散策するという話なら以前王都にいたので案内しようかと思います」


(お!デート!!うれぴい。姫騎士やさしいな)


「え…」


せっかく王都にイリーナが来てくれたのにと明らかに残念そうにするヘイルである。


「うむ、それが良かろう」


ヘイルが何か言う前にフェステル子爵が同意する。

打ち合わせはそこで終了する。

おっさんも家で働くメイドに案内されて自分の部屋へいく。


ベッドにダイブしてこれからの予定を考えるおっさんである。


「さて一度現実世界に戻ってブログを起こすかな。あとは王侯諸侯の格とかも予習しておくか」


久々にタブレットの『扉』アイコンをタップする。


『ブログに投稿できる程度の体験をされました。日本に帰還しますか。はい いいえ』


おっさんは『はい』をタップすると1k8畳のマンションの一室に戻る。


「なんか久々だな。こんな格好で異世界に行ったんだっけ」


オーガの大群を倒し、街に歓迎された日々を思い出すおっさんである。


「なんか現実世界と違って評価されるな。まあ検索神様のチートがあるからな。俺の力ではないな…」


タブレットの機能を自分の力と思わないおっさんである。


「さて思い出も風化しないうちにブログを書くか。なんか10個以上『メモ』が貯まっているな。あんまり貯めるのは良くないか。次からは5個前後貯めたらちょくちょく現実世界に戻って、ブログに起こすかな」


フェステル家の夕食はかなり質素だったのか、コンビニで腹ごしらえをするおっさんである。


「異世界ものだとグルメ系も結構あるんだけど、俺は料理しないからな」


今日は土曜日、近所のコンビニで商品の棚を眺めながら、異世界ものあるあるを考えるおっさんである。




それから2週間後


フェステル街編

第33記事目 クリティカルヒットの是非について

第34記事目 ユーティア聖教国がガラスの独占禁止法に触れてしまってる件について

第35記事目 魔法の覚え方について

第36記事目 オーガ3000体の作業狩り考察

第37記事目 凱旋 ~そしてBランク冒険者へ~

第38記事目 報酬の席でぶっ込んでみたい~スラム救済編~


王都編

第39記事目 騎士団の構造 ~貴族の連なりについて~

第40記事目 姫騎士はぴちぴち20歳

第41記事目 ドラゴンを燻製にしてみた ~そよ風とともに~

第42記事目 ダンディなピエール ~が道理よ~

第43記事目 ギルド本部へ行ってみた ~若い女性エルフは何処~



「いや終わったし。かなり苦労したがな」


2週間かけてトトカナ村から王都到着までのブログを載せたおっさんである。

そして検索神サイトを確認しようとすると画面にはあるものが見える。


「ふむ」




『累計PV1万件おめでとうございます!

感謝を記念しまして以下のどちらかのアプリをインストールできます」


・写真

・仲間




「まじか。微小や小に加護がなったときは2つ機能をくれたのに1万件は1個だけか。つうかあれだけ、ほしいほしいと言ってた写真をすんなりくれない件について」


画面を見ながら小一時間迷うおっさんである。


「これからダンジョンを目指すなら1人は厳しいからな。パーティは必須だな。仲間機能ってパーティ組んだりするやつだよな。でも写真をブログに載せれたら、PVの伸びが違うからアクセスが2倍や3倍になれば、それこそポイント使って1人で無双できるかもしれないぞ。だけどダンジョンの難度高すぎて無双できなかったら終わりだな」


今は写真がないため、フリー素材のイメージ画像をネットであさって、誤魔化しているおっさんである。


「ちょっとすぐに決めずに保留するか。今すぐ決めなくてもいいよね」


おっさんは現状では決められないと思い、決断を保留したようだ。


「む、やはりステータス欄見ると加護がたしかに『中』に上がってるな。アクセス分析のページで新規アプリをダウンロードできるかな」


『アクセス分析』のアイコンから、新規アプリのインストールの選択ができることを確認できた。

あとでアプリの選択ができることも確認できたので異世界に行くことにしたのである。


『ブログ記事の投稿が確認できました。異世界にいきますか はい いいえ』


『はい』をクリックすると王都のフェステル家で借りた一室に飛ぶおっさんである。

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