第04話 本部長

ガリヒル男爵と話がまとまった当日のことである。

ガリヒル男爵家の家のものが街の中にあるモンスターの解体業者と荷物の搬送業者に掛け合うようだ。

昼前には30人ほどの人出が5台の荷馬車に乗って飛竜がいる場所に向かう。


飛竜の『血』と『頭』を除いて半分を折半するということもあり、ガリヒル領とフェステル領の騎士が解体を監視することになる。


おっさんは同行し、土魔法を解除する。


飛竜を手足頭翼のパーツに解体するのに翌日中までかかった。

鱗、皮、骨、肉、内臓にまで解体して王都へ持っていった方が良いとのことだ。

3台の荷馬車に飛竜を詰め込む。残り2台に乗って作業した人手は街に帰るようだ。

飛竜の頭だけでも3~4mもあり1台分の荷馬車のかなりの部分を占領した。

大きな陶器の瓶に血を入れる。



ガリヒル領で一部売るのかと思ったが、王都の方が、値が上がりやすいため、全部王都で売ろうという話になった。

ガリヒル男爵も値を上げようと必死である。


元々の荷馬車を含めた3台の馬車に、3台の荷馬車にガリヒル男爵を乗せる1台の馬車も含めて7台の行列となり王都に向かうことになる。


王都も近いこともあり、行き交う馬車や旅人はみんな飛竜の頭を珍しそうに見てくるのだ。


「結局3日ほど日程がかかったがなんとか無事に王都へ向かえそうだな」


イリーナはおっさんに言う。


「時間掛けさせてしまいましたね。王都も大丈夫でしょうか。遅れて到着する形になってしまいますね」


「なに。飛竜が手に入ったのだ。それに王家も別に我々を待っているわけではないのだからな。タイミングが悪ければ王都に行っても結構待つことになるぞ」


「なるほど」


なお、オーガの大群の件について、城壁の話がでた。

フェステルの街が落ちれば次はガリヒルの街である。

城壁がほしいとのことなので、交渉で若干やりすぎたこともあり、ガリヒルの街を少し広めに囲むように城壁を築いてあげたおっさんである。



ガリヒルの街を出て2日目が経った。

まもなく王都だ。

おっさんもワクワクしている。


出発が早かったため昼過ぎには王都が見えてくる。

フェステルの街の10倍以上あるように感じるおっさんである。

まだ遠くだが、その城壁の長さで王都の大きさがうかがえるのだ。


「大きいですね」


「うむ。確か王都には50万人が住んでいるからな」


近づいていくと、長い行列になっている。

正門というか正面の門も2つある。


そのうちの貴族門から中に入るようだ。


検問の兵が飛竜の頭を見て慌てて飛んでくる。


「こ、これはいかがされましたか」


フェステル家とガリヒル家が王都へ来たこと。

国王への謁見。

飛竜の頭の献上などを同行する騎士が伝える。

飛竜の頭の印象が大きすぎたのか、すぐに王家側近くに連絡がいくようだ。


「さてこれからどうしましょう」


「まあ飛竜も荷物になっているからな。頭と血以外はどうにかしないとな」


「どこに売るんでしょうね。やっぱりモンスターだから冒険者ギルドでしょうかね」


「そうそう売るものではないからな。まずは冒険者ギルドに話をしてみてはどうだ」


「では。冒険者ギルドに行ってきますね」


飛竜を持っていくおっさんについていくイリーナと両家の騎士団である。

フェステル子爵とガリヒル男爵は貴族街に向かうので二手に分かれる形になる。

なんでもフェステル家の長男が文官として王都で仕事しているとのことだ。


大通りを過ぎるとほどなくして、冒険者ギルドの看板が見えてくる。

馬車をおりてイリーナとともに冒険者ギルドに入る。


(おお。王都の冒険者ギルドなんで『本部』っていうのかな)


今は15時前で受付はずいぶん空いているようだ。

迷うことなく犬耳の受付に向かうおっさんである。


「すいません」


「はい。今日はどのようなご用件でしょうか」


「あのですね。飛竜を獲ったのですが、こちらで買い取りはしていますか」


「へ?飛竜ですか?」


「はい。今荷馬車に飛竜の素材を積んで、冒険者ギルドの前に停めています」


「少々お待ちください」


そう言っていったんカウンターの先の部屋に引っ込んでいく。


(上司に確認しに行ったのかな)


しばらくすると、カウンターから出て、外に見に行く。

どうやら本当に飛竜がいるか確認をするようだ。

飛竜は一応頭も含めて持ってきてあるのだ。

ちなみに飛竜の頭や体のパーツを切り分けただけなので、通りは人だかりができ始めている。

もちろん騎士団が見張っている。


しばらく受付カウンターで待っていると犬耳の受付嬢が戻ってくる。


「すいません。冒険者証を見せていただけますか?」


「え、あ、はい。どうぞ」


(なんかBランクの冒険者証を出すのって気持ちがいいな)


そのまま冒険者証を預かって奥に引っ込んでいく受付嬢。

またしばらく待たされる。

何かの確認が取れたのか戻ってくる受付嬢。


「あの。魔法使いのケイタさんでよろしいでしょうか」


「そうです」


「大変お待たせしております。対応方法を決めるのにもう少しお時間がかかります。よろしかったら本部長が話をしたいと言っていますがいかがでしょうか?あと当方のギルド職員が飛竜の状態を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」


「え、あ、かまいませんよ」


イリーナを見ながら言う。


「うむ。別に構わんぞ。手間を取らせているからな。挨拶しておく方がいいだろうな」


犬耳の受付嬢について建物の5階に向かう。


(さすがに不思議魔道具のエレベーターとかないよな)


階段を上って行く3人である。

階段上った一番奥の扉に向かう。


「失礼します」


「はい。どうぞ」


犬耳の受付嬢に扉を開けられ中へ勧められる。

イリーナとともに中に入るおっさんである。


部屋の中には1人しかいないようだ。


(お!またエルフだ。今度こそ女だな。でも結構年配層だな。本部長かな。冒険者ギルドのエルフ率高いな)


50過ぎの女性のエルフが部屋にいる。

ソファーに案内されて3人は座り話をする。


「こんにちは。ようこそ王都にいらっしゃったね。あたしは冒険者ギルドの本部長をしているエイダ=クリスティンだよ。ゴルグから話は聞いていますよ。オーガ殺しのケイタさん」


(ゴルグってだれだっけ。スキンヘッドのゴリまっちょの支部長だ)


「はい。魔導士をしているケイタと申します。本日は飛竜の件でお手数おかけしています」


「なあに。貴重な飛竜を王都に持ち込んでくれて助かるよ。今他のギルドや商業組合とどうするか話をしに行ってるところだね」


「他のギルドですか」


「そうだね。まあ時間はあるから説明しようかね。今回、飛竜のようにあまり市場に出回らないモンスターが手に入った場合は関係するお店や組織が集まって競りをするんだよ」


「競りですか?飛竜を囲って入札し合うって感じですか?」


(マグロの競りみたいなものか。異世界ものだとオークション形式が多いよな。まあ競りも一種のオークションか)


「そうさね。鱗や肉など部位ごとに分けて、加工したりして売りたいという、各組織やお店を関係する人が入札を競うんだよ。今回は飛竜なので、武器販売店、防具販売店、薬ギルド、魔道具ギルド、料理ギルドの関係店が参加することになるだろうね。あと一部の研究施設も参加するんだよ。今それぞれのギルドや商業組合の代表等に連絡をして、素材の確認と簡単に日程を調整しているんだよ」


「そうなんですね。やはり時間はかかりそうですか」


「まあ素材が素材だけに全て競り終わるのに3日は掛かりそうだね」


(まあそれくらいだったら王都にもいそうだしな)


「よかったら飛竜をどうやって倒したか教えてくれないかい」


「え?いいですよ。参考になるかは分かりませんが。土魔法で飛竜の動きを固めました。そのあと風魔法で攻撃したのですが、あまり効果がないように感じました。作戦を変えて、飛竜を完全に閉じ込めて、穴から火を送りいぶり殺しました」


(簡単に話すとこんな感じか。まあ酸素の概念がないかもしれないからな。いぶり殺すって表現の方がいいだろ)


「ほうほう。簡単に話しているけどかなりすごいことだね。飛竜の動きを止めるほどの魔力を持っているってことだね。あたしの魔法では無理そうだね。それに作戦も独特だね。なるほど。3000を超えるオーガを倒したと聞いて、そして今の話を聞いてなんとなくわかったような気がするよ」


目を閉じて話し出す本部長である。


「え!?何がですか?」


「とうとう王国にも英雄が現れたってことだよ。王国にこれだけの逸材が現れるのは300年ぶりくらいだろうかね。もう現れないかと思ったよ。あたしが生きている間に現れてくれてうれしいよ」


300年ぶりの英雄と聞いてイリーナがおっさんを見る。

300年と英雄という言葉を小さく復唱するイリーナであった。


「飛竜を倒せる冒険者はいないんですか」


「そりゃあ何組かいるよ。でも犠牲を払いながらだろうね。ケイタ殿のようにはいかないだろうね」


「はあ」


(ふむふむ。この世界のエルフってかなり長寿なのかな。それとも本部長になるくらいだからハイエルフとかだったりするのかな。王国ってそんなに人材少ないのか。帝国相手に結構ピンチだったりして。まあ今のところ王国から出る予定ないけどな)


「コン。コン」


おっさんが王国の人材不足の心配をしていると扉のノックがなる。


「ん、もう話がまとまったのかな?開いてるよっ」


本部長が入室を許可すると白衣を着た初老のおじさんと犬耳の受付嬢の二人が入ってくる。


「あの、申し訳ありません。どうしてもケイタさんにお話がしたいというのでお連れしました」


どうやらおっさんに用事があるらしい。


「え、あ、はい。なんでしょう?」


と返事するおっさん。

白衣を着た初老のおじさんはソファーに座ることなくおっさんに近づいていく。


「ケイタ殿でいらっしゃいますね?飛竜のことでご相談がございます。なんでも血は全て王家に献上するという話ですが。それは本当でしょうか?」


名を名乗ることなく要件を伝える白衣のおじさん。


「ええ、そうですね。その予定です」


「なんと!?わたくし薬ギルドの副本部長をしておりますエニムル=エステトと申します。無理も承知ですが、薬を作るのに必要な血を一部市場に出していただけないでしょうか。あんなに状態の良い血を初めてみました。このとおりです」


いきなり土下座始める白衣のおじさん。


「え、ちょっと!どういうことですか?もう少し説明を!?」


(いや分らんし。もう少し交渉しようよ。だがおぬし。いい土下座だな。土下座道を極めしドゲザーの俺ほどではないがな!)


白衣のおじさんの土下座を見て脱線する、特殊な思考のおっさんである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る