第03話 ガリヒル男爵

検問まで戻る。

辺りはもう日が沈みかかっている。

荷馬車の行列は長くなったよう気がするおっさんである。


「してどうであったか」


「はい倒しました」


(余裕のよっちゃんです。攻撃魔法効かなかったけど)


「おお。それはまことか。でかしたぞ」


両握りこぶしを前に突き出し喜ぶフェステル子爵である。


「して、飛竜は置いてきたのだな」


「はい、土魔法で固めています。土魔法1枚分ほどの大きさでしたので、どうしましょうかね。解体もそうですが、荷馬車も何台か借りないとダメですよね」


「そうだな。ここから馬車で1日のところにガリヒルの街がある。そこで男爵に相談をしよう」


(ガリヒルって男爵の領都なんだね)


その日は、飛竜を倒した旨、検問に伝えて、検問で野宿をすることになる。

正直検問の門兵からはあまり信じてもらえていなさそうであった。


次の日の朝、すぐに出発する。

この日は検問の責任者も、別の馬車で同行し、飛竜の討伐を確認するとのことだ。


朝から馬車は進んでいく。


(そういえば。お。マップに男爵領が入ってるぞ。子爵領の半分くらいかな)


おっさんは移動中にタブレットの『地図』機能に男爵領が入っていることに喜ぶのである。

2刻ほどたつと丘の上の巨大な箱のようにできた壁が姿を見せる。


「おお!この中に飛竜がいるのだな!!」


フェステル子爵も馬車から身を乗り出している。

どうやら中が見たいようだ。


検問の責任者達も1辺15mの巨大な箱に恐る恐る近づいてくる。


「では壁を1面消しますので驚かないでくださいね」


「う、うむ」


土魔法で作った壁を1つ消すおっさんである。

土魔法を消すとそこには、ほとんど無傷の飛竜が横たわっていた。

死んでいるようだ。


「ひ!ひいいいぃぃ!!」


腰を抜かす検問の責任者達。


「おおお。こ。これが飛竜か。生きている間にこのようなものが見ることができるなど」


フェステル子爵はおっさんに爵位を勧めたことについて、狂いはなかったと確信するのであった。


「死んだことの確認はできましたか?」


「う、ああ、確かに死んでいるな…」


恐る恐る近づいて死んでいることを確認する検問の責任者達。


「では、土魔法で塞ぎますね。飛竜泥棒がいるかもしれませんので」


土魔法でまた箱の中に戻すおっさん。


「さて、検問の責任者の方々よ。これで街道は安全になったな」


「はい。通行を再開させようと思います。この度はありがとうございました。少し道は外れていますが、あちらの方にまっすぐ進まれるとガリヒルの街です」


「うむ、ありがとう。では我々は街を目指すとしよう」



馬車はガリヒルの街を目指して進んでいく。


(ふむ、飛竜初ゲットだな。ブログのタイトルは何にすべきか)


【ブログネタメモ帳】

・飛竜を燻製にしてみた ~そよ風とともに~


「おい」


(タイトルはいい感じだな。そういえば。レッドパイソンウルフから現実世界に帰っていないな。なんかこっちが現実世界のような気もしなくもないけど、やっぱりあちらでも活動しないとな。ブログ更新しないと)


「おいって!」


(王都についたら一度現実世界に戻るか。もうレベル上げずらいんだし。ASポイントは今後重要になってくるからな。あっちの世界ももう4月か。GWどこにいこうかな。どうせボッチだしな)


「き、きさまっ!無視するとはいい度胸だっ!!」


「え、あ、ひいいぃ!!」


馬車の中でこぶしを振り上げ立ち上がるイリーナである。

ここ数日ずっと2人でいるので、慣れて油断したおっさんである。


「む、起きていたか。下を向いてぶつぶつ言っていたからどうしたのかと思ったぞ」


「大丈夫です。飛竜っていくらになるんだろうって考えていました」


誤魔化すおっさんである。


「そうだったのか。思いのほか世俗的であるんだな。欲などないと思っていたぞ。どうだろうな、あんな無傷の飛竜は見たこともないな。昔王都にいるときにたしか、山で取れた飛竜が売りに出た時は白金貨300枚とかと聞いたぞ」


「ぶっ!そんなにするんですね」


(一匹30億かよ。まあドラゴンだしな。魔法ほぼ効かなくて超強かったしそんなもんか。Sランクなんて市場に出回らないだろうから。市場に出る最高値クラスってことかな)


「今回は状態がいいから白金貨500枚はするかもしれないな」


「よだれが出ますね」


「お前は欲がないのかあるのか分らんな」




その日の晩、ガリヒルの街に着く。


「何とか日が沈む前に街に着きましたね」


「今日はこんな夜分だ。男爵への挨拶は明日だな。宿に泊まり。今日は騎士に街に男爵家のものに着いた旨だけ伝えておけばよかろう。明日には使いの者が来るはずだ」


おっさんに貴族としての立ち回りを教えるイリーナである。

今日は久々に大きな街での眠りということもあってゆっくり眠ったおっさんである。



そして次の日の朝、ガリヒル男爵の使いものが朝一できていた。

フェステル子爵を待たせないようにという配慮である。


ガリヒル男爵の館に向かう。


(男爵領だからだろうか。フェステルの街より寂れてるな)


馬車で移動しながら街の風景に感想を持つおっさんであった。

館に着いたので中に案内される。

おっさんも中に入るようだ。


(俺も中に入っていいのかな。まだ貴族じゃないんだけどな)


「これはこれは。よくぞおいでなさいました。フェステル子爵。こちらはイリーナ様もお美しくなられまして」


フェステル子爵、イリーナ、おっさんの3人は、執事の案内により部屋に入りますと40過ぎの初老の男性がいた。白髪が多く苦労性に見える。

イリーナも軽く会釈をする。


「ガリヒル男爵もお変わりありませんな。本日は急な立ち寄りで申し訳ない」


「何をおっしゃいます。何日も前から使いの方が先ぶれされていたでしょう。あれ。こちらの方が?」


(先ぶれってあれか。子爵がとおりますよっていうの事前にやってたのか。まあ当然か。何があったらいけないからな)


フェステル子爵とガリヒル男爵の様子を見るおっさんである。


「魔導士をしてますケイタと申します」


(とりあえずこんなもんか)


さすがにフードは外しているおっさんである。

貴族に対してのマナーだと思っているらしい。


「ほうほう。この方が例のオーガの大群を滅ぼし、さきほど飛竜を討ったと。あまり人は見た目によりませんな。いや。これは失礼した」


(失礼だな。しかし、俺もそう思う。みんなもきっとそう思う)


「ふむ、今日はその飛竜について相談があってだな」


「そうですか。どうぞどうぞおかけください」


メイドからお茶が出される。


「それでだな。飛竜をとらえたのだが、ぜひ王家にも一部献上したくてな。解体や荷馬車も必要であるから。できればお力添えを欲しくて今日は挨拶に参ったのだよ」


簡潔に要件を伝えるフェステル子爵である。


「左様でしたか。もちろん人でも荷馬車も必要なだけお貸ししましょう。それで1つお願いがございまして」


「ほう願いとな。何でございましょう」


「フェステル子爵領は此度のオーガの討伐によりかなり潤ったと聞いております。なんでも数年分の予算に匹敵するほどの素材が手に入ったとか」


「たしかに。まあ数年分は言いすぎだがな。王家からの借金はこれで返せそうだよ」


(ふむふむ。300億のオーガの素材で子爵領の数年分か。まあ子爵領だとそんなもんなのかな。貴族が王家に収める税金を滞納することってよくあるらしいな。中世あるあるで読んだことあるぞ)


「それでですね。実は我が男爵領も最近の不作で王家への借金が厳しくございましてね」


(まあ子爵領が不作なら隣の男爵領も不作だわな。もしかしたら大森林のある子爵領のほうが潤いやすいのかもしれないな)


お金の話からそれぞれの経済状況を察するおっさんである。


「ほう、それはお困りだな」


「であるので、飛竜の売却益の一部をお貸しいただけないでしょうか」


(まあ何割かよこせと言わないだけましか。まあ相手は子爵だしな)


「すまないが、この飛竜は全て魔導士のケイタのものだ。私がどうか判断できないのだよ。あの飛竜は一切誰の手も借りず、ケイタが自ら倒したのだよ。わしには何も決めることはできぬが道理なのだよ」


(おお!カッコいい。フェステル子爵の好感度が1ポイントアップした気がする)


『メモ』機能に記録するおっさんである。

【ブログネタメモ帳】

・ダンディなピエール ~が道理よ~


「え、でも、飛竜の頭上げるんですよね。国王に」


おっさんは思ったことを口に出す。


「うむ、飛竜の頭と薬に使う飛竜の血を国王に献上するがあくまでもケイタからの手土産という話であろう。最初からそう言う話であったはずだ。ケイタが手土産を持っていきたいというので我々は協力を惜しまなかったのだ。今回もそういう話だ」


(涙でちゃう。ダンディなのは見た目だけじゃないのね。もう1ポイント付けちゃう!)


よく分からないポイントが加算されていくフェステル子爵である。

ただし、飛竜の頭と血の献上はフェステル子爵に連ねるおっさんが渡すという形になるので全くフェステル子爵に得がないかといえばそういうわけではないのだ。


「そんな、無体な…。街を見られましたよね。かなり生活に困窮しているのです。お情けをいただけませぬか」


頭を下げる男爵である。


「ふむ、であるなら頼むべき相手が違うな」


ガリヒル男爵がおっさんを見る。


「では、魔導士のケイタどのいくらかおすそ分けいただけないでしょうか?」


「えっとおいくらくらい必要なんですか?」


「そ、そうですね。白金貨30枚分もあれば、税収は問題ないかと思います」


(ほう、3億よこせか。さっきは貸してくれって言ったのに。おぬし、俺が貴族でないから大きく出たな)


「なるほど。そうですね。フェステル子爵、私が決めちゃいますよ?」


「うむ、構わぬ。これから貴族になるのだ。これも勉強だと思いなさい」


(おお!交渉の勉強をさせたかったのか。もう1ポイント上げちゃうんだから)


「では決めますね。今回協力していただけたら、国王に頭と血を抜いてできた売り上げの半分をお渡ししましょう。もちろん荷馬車や解体費はガリヒル男爵の負担でお願いします」


(白金貨500枚として頭は角とか牙とかあって高いかもだから。血と合わせて。200枚として残り白金貨300枚か。まあ俺としてはその半分の白金貨150枚もいただけたら御の字よ)


「ほ、ほんとうですか?!是非お願いします!!」


そんなにって顔をするフェステル子爵とイリーナである。


「ただし、条件があります」


「条件ですか。なんでしょう?半分もいただけるなら何でもしますよ。でも一人娘だけはお渡しできません」


(一人娘いらんがな。いや中世ならそういった事例もあったって話だな)


「条件は、私はこれから国王に会いに行きます。そして王城ではゼルメア侯爵にも挨拶に伺います。是非一緒にご挨拶に来てください」


「は、へ?」


「おお!なんと!!」


大きく反応するフェステル子爵である。


「えっと、それは…」


「はい。王都への道につながる男爵とはこれからも『仲良く』させていただきたいものですね。親睦もかねて、一緒にゼルメア侯爵とお茶でもして今後についてお話しませんか」


ガリヒル男爵はのらりくらりとどの派閥に入るか日和見を続けている。

今回のおっさんの提案は白金貨100枚以上あげるから仲間になろうという話だ。

フェステル子爵に対するお礼をした形だ。


「え、まってください!そのような話…すぐには決めかねると言いますか……」


「え?これから用事があるという話でしょうか?」


「いえ。用事があるわけではないと言いますか。そのですね」


(ふむ、たしか最大勢力の第一王子は『武闘派』で第三王子は現国王と同じ『穏健派』って言ってたな。まあ、フェステル子爵の話だけだけどな。第一王子が王位を取るとぶいぶい他国と戦争するかもで嫌なんだけどな)


煮え切らないガリヒル男爵を見ながらおっさんはフェステル子爵の話を思い出すのだ。


「ウェミナ大森林にはですね。私がオーガ討伐に使った要塞の、そうですね、倍近い大きさの冒険者のための拠点を作りました」


「はい?」


何をいきなり言い出すんだという顔をするガリヒル男爵。


「きっとこれからフェステル子爵領はこれからだんだん潤うと思います。そしてモンスターの素材はフェステル子爵領から王都へ流れていくでしょう。ガリヒル男爵領も共に発展をと思っていたのですが…。厳しいようですね」


(まあ貴族的にタダで何億も渡すのはあれだしな。貸し借りも何もないのではな。無理そうなら街の業者に直接頼むかな)


目の前で100枚以上の白金貨が消えようとしている。

領の現状とお茶会を天秤にかけるガリヒル男爵である。


「わ、わかりました!お茶しましょう!!」


「え。お茶していただけますか」


「も、もちろんです…」


「では、飛竜の解体について、どうするか決めましょう」


話を進めるおっさんであった。

フェステル子爵もイリーナも何も言わないようだ。


フェステル子爵領の上下にはレイ団長が領主のクレヴァイン男爵領と、イリーナのクルーガー男爵領がある。

今回の一件で王都の西の一帯で、フェステル子爵と繋がりができたことになるのであった。

なお、おっさんの男爵は爵位のみなので土地のない法衣貴族になる予定である。

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