第2章 ウガルダンジョン攻略編
第01話 王都へ
褒賞の儀からさらに7日が過ぎ、王都に向かう準備が整ったようだ。
おっさんはトトカナ村から帰ってきていた。
おっさんはトトカナ村の住人と、ウェミナ大森林で主に狩りをしている冒険者と一緒にウェミナ大森林に行き、土魔法で防壁を作成しに行ったのだ。
まずはトトカナ村の住人のために高さ15mの塀で囲ったのだ。
そして、冒険者の意見を聞きながら、ウェミナ大森林で活動しやすいよう、冒険者の活動拠点を築きにいっていたのだ。
おっさんが戻ると積み荷の準備が整っていた。
王への贈与ということで一部のオーガの素材が積み込まれていていたのだ。
どうやら不作が続いて、納税が滞っていたようだ。
今回の素材はその分も含まれているとのことだ。
数人ほどの騎士を引き連れ、フェステル子爵、イリーナ副団長、ロキ、おっさんが王都に向かうことになった。
荷物を載せる荷馬車も含めて3台の馬車で向かう。
馬車はおっさんが魔法を使いやすいようにと天井に窓が備え付けてある。
「ケイタ様はこちらの馬車です」
「え。あ。はい」
先頭の馬車を案内される。
(魔法で向かってくる敵を倒せってことかな。って姫騎士がいる。っていうか姫騎士しかいない)
御者も当然いるが、イリーナ副団長とおっさんだけのようだ。
残りは2台目と3台目に乗っているようだ。
(フェステル子爵から姫騎士からあれこれ貴族のことをあれこれ教われと言われたな。結局、王都を離れるまでに何かあったときのために、村や冒険者のための土魔法に時間を使ってしまったがな)
おっさんは先に載っていたイリーナに軽く会釈をして、窓際をキープする。
当然、馬車は十分な大きさがあるので、向かい合うようなことはしない。
黒の外套のフードを被っているので、目元を隠してタブレットでブログネタをこっそり整理しているようだ。
特に会話は生まれない。
馬車は動き出す。
出発するようだ。
貴族街を抜け、大通りに入っていく。
おっさんに気付いた街の人が手を振ってくる。
軽く会釈をするおっさんである。
「まるで英雄だな」
唐突に声を出すイリーナである。
「そうですね。感謝されているようですね」
「オーガの襲撃から救われた街の人々だからな。これから王国全土に武勇が伝わるだろうな」
王家には既にフェステル家から報告が済んでいる。
おっさんが王都に着くころには王国全土に今回の一件が伝わることになる。
どこまで信じられるかは置いておいてだが。
「まあそのうち、みな忘れますよ」
「そうか」
会話は止まる。
おっさんは会話を広げないようだ。
(お。姫騎士に話しかけられたぞ)
でも結構喜んでいるようだ。
どうやら急に話しかけられて緊張してしまったようだ。
門を抜ける馬車。
さらに進んでいく。
すると第二の門が近づいてくる。
おっさんが街のために造った土魔法の城壁だ。
次またあるかもしれないモンスターの大群に備えて元ある城壁の外に作ったのだ。
(レベルが上がったんで一度に4kmまで城壁を築けたな。トトカナ村に行くときと帰ってきたときの2回で8km分の城壁だな)
元ある5mの高さの城壁の先にある15mの城壁である。
「これから8日ほど馬車で東に移動すると王都だな」
「え。そうなんですね」
どうやら、イリーナはおっさんに王都について話してくれるようだ。
「王都へは久しぶりだ。5年ぶりだな」
「へーそうなんですね。5年前は何をしに王都へ」
「もちろん騎士院に通うためだ。騎士になるには騎士院の卒業が必要だからな」
「え。騎士院。騎士になる学生が通うところですか」
異世界あるあるの騎士の学校と聞いて反応を示すおっさんである。
勢いよく質問をしてしまう。
「う。ああ。そうだ。今は弟のリーレルが来年まで通っているな」
「そうなんですね。弟さんがいらっしゃるんですね。弟さんも卒業したら騎士団に入られるってことですね」
「まあそうなるな。騎士院を卒業できたらはれて騎士となれるのだ。まずは3年くらい下積みしたら私に代わって副騎士団長だな」
「え。イリーナ副団長はどうなるんですか。団長になるんですか」
「え。んなあほな。いやすまない。私はもちろん騎士団卒業だな。クルーガー家で1人騎士団に入らないといけないからな。私は弟が来るまでの繋ぎだな」
「はあ」
「ふむ。簡単に説明するとだな。フェステル家に従う男爵家であるクルーガー家やレイ団長がいるクレヴァイン家が騎士団長と副団長を務めてきたのだ」
イリーナの話をまとめると、子爵の直参の男爵が騎士団を仕切っている。
基本的に男性が務めるのだが、代わりがいないと女性が務めることもある。
イリーナはその典型である。
イリーナは弟が騎士団に入り、ある程度経験を積むまでの繋ぎとのことだ。
では子爵の子供が騎士団を仕切らないかというと、これは直参の男爵家との関係があるから、よろしくないからやらないとのことだ。
なお、ロキはクルーガー男爵家の陪臣であるので、副団長にはなれない。
「へー勉強になります」
(まじか。逆算すると姫騎士は20歳か。ぴちぴちだな)
おっさんは、話は聞いていたもののそれどころではなかったようだ。
そして表現は古かった。
【ブログネタメモ帳】
・騎士団の構造
・姫騎士はぴちぴち20歳
「騎士をやめたらどうされるんですか」
「え。聞いていないのか」
「へ。何がですか」
「う。それはあれだな。クルーガー家としてはどこかに嫁ぐことになるだろうな」
「そうなんですね」
(そっか。姫騎士は誰かと結婚しちゃうんだな。まあ未婚率が日本とは違い高くないしな。でも婚約者もいないっていってたな)
「そろそろ。気になっていたのだが」
「え。はい。なんでしょう」
「それだ。なぜ私に敬語なのだ。まもなく男爵になるのだろう。男爵家の娘である私より立場が上になるのではないのか」
貴族の娘も当然貴族である。
しかし、当代があくまでも家の貴族であるので、子供たちは跡を継がない限り、子供までは貴族扱いとされるが、孫の世代は一般市民となるのだ。
公爵家など一部を除き例外はないのである。
「え。いきなりため口なんて言えないですよ。それにまだ男爵ではありませんし」
「そうなのか。まあ。私には敬語は不要だ」
「はあ。ぼちぼちがんばってみます」
馬車は道中進んでいく。
(ウェミナ大森林に向かうほどにはモンスターいないな。たぶん森からモンスターが湧いていたのかな。そういえば、モンスターもまだBランクまでしか見たことないし、Aランクのモンスターも見てみたいな)
車窓から変わらない風景を見ながら、モンスターの出現度について考察するおっさんであった。
馬車は宿場町をいくつか抜けていく。
もちろん宿場のない場合は、夜道に野宿となる。
おっさんは既に熟睡している。
皆で火にあたっているとフェステル子爵がイリーナに話しかける。
「王都へはあと半分だな。どうだ。ケイタとは仲良くなれたか」
「そ。そうですね」
「ん。あまり仲良くなれていないみたいだな」
「そういうわけではありませんが」
「ふむ。わしも気を利かせたつもりだが、侯爵家の四子の方が良かったか。跡取りではないので、お前に子供ができても貴族にするのは難しいぞ。ケイタなら今なら男爵家の正妻になれるのだぞ」
「いえ。そ。それは分っております」
侯爵家も跡取り以外は貴族であるのは子供までである。
孫からは貴族ではなくなるので、王都や各領都で文官になるか、騎士になるしかないのだ。
貴族を続けられない侯爵の四子と、男爵家の正妻ではどちらが良い嫁ぎ先なのかはだれが見ても一目瞭然なのだ。
「子爵のわしがいうのもなんなのだがな」
「え。はい」
「ケイタは男爵では終わらぬぞ。わしはそう思うのだ」
「え。そうなんですか」
「そうだ。考えてみよ。あやつは鼻にもかけていないが、子爵領は今回の一件でなくなってもおかしくなかったのだ。あやつにとって、それほどのことではないのやもしれぬ」
「はい。たしかに自慢しないですね」
我が強く、承認欲求の強かった騎士院の同期の男たちを思い出すイリーナである。
「あやつは内政にも明るい部分もあるようなのでな。これからも大きなことが起きると思うのだよ」
確かにそうだなと思うイリーナ。
スラムの問題を解決したおっさんを思い出すのである。
「しかし。親心でこうやって分かりやすいようにしているのだが、思いのほか鈍いようだな。もう少し分かりやすくするか」
「え。何がですか」
「いやこっちの話だ」
フェステル子爵はニヤっと笑ってそう返事した。
フェステル子爵もイリーナも眠りにつく。
道中の夜番は騎士達が行う。
なお、おっさんが土魔法の壁で守りを固めるため、かなり夜番は楽なのである。
蓋も空気が入る程度にふさいでしまって、ほとんど警戒は必要ないのだか、騎士の務めと夜番を行っているのだ。
・・・・・・・・・
馬車に乗ってとある少女がフェステルの街に到着をした。
「ふう。とうとうついた。魔導士様はいらっしゃるかな。とりあえずは冒険者ギルドにいかないと。それにしてもすごい城壁だったな。さすがフェステルの街だ」
少女はどうやら志をもって村から出てきたようだ。
冒険者ギルドに入りキツネ耳の受付嬢のいる受付に並ぶ。
「あのすいません。冒険者になりたいのですが」
「はい。新規登録ですね。武器は弓ですか」
「はい。そうです」
「では試験を行いますので、こちらにお越しください」
的に弓を引く少女。
「威力も命中の精度も申し分ないですね。Dランクからで大丈夫でしょう。受付で説明を続けます」
受付嬢から説明を受ける少女である。
「来月より討伐報酬の改定がございます」
「改定ですか」
「はい。新規登録の方にも、既に冒険者を行っている方にも説明をしております。来月よりCランク以上の討伐報酬の1部(1%)を冒険者保障制度のための手数料のために引かれることになりました」
「そうなんですね」
「はい。動けなくなった冒険者やその家族に対して一定条件で生活費を給付する制度です。街を救った魔導士のケイタ様の発案により始まった制度です」
「え。ケイタ様。街を救った」
「あれ。御存じないのですか」
「申し訳ありません」
その時少女はオーガの大群から街を救った英雄の話を聞くことになる。
そして、英雄は今王都に向けて国王から男爵の爵位を授かるべく移動していることを知るのであった。
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