第38話 魔導士ケイタ
その翌日フェステル家に案内される。
銀皿亭にはおっさんが気付いたときには、飾られた馬車が朝から停まっており、おっさんを持っていた。
(貴族街に来るの初めてだ。士爵以上なんだっけ)
馬車の車窓から街を眺めるおっさんである。
ほどなく館に入る。
メイド達が入口を横一列で迎えている。
(セバスっぽい人が入口で待っているな)
「ようこそおいでくださいました。魔法使いのケイタ様。フェステル家の家宰をしているセバス=チャンドルです。まずは休憩室にご案内しますのでそちらでお待ちください」
(セバスチャンじゃないのか、名前おしいな)
どうでもいいことを考えながらセバスの後ろをついていくおっさんである。
案内された休憩室にはカイトが既にいる。
クランメンバーはいないようだ。
「早いですね」
「同じくらいに着きましたよ、ケイタさん」
では今しばらくお待ちくださいと出ていく家宰のセバス。
「報酬どれくらいでしょうね」
と話をぶっこんで見るおっさん。
「ここでそういう会話は、まあ、どれくらいでしょうね。英雄が300人いますからね」
メイドがお茶とお菓子を持ってくる。
1時間ほど待たされる。
「御当主様の準備が整いました、お二人ともこちらへ」
セバスを先頭についていく。
広間の間の扉の前で振り向くセバス。
「この部屋の奥で御当主様を含めて皆さまお待ちです。お二人とも御当主様の前20歩手前程度で片膝ついて横一列でお並びください」
(軽く説明してくれるんだね。いまさら礼儀作法のスキルはいいか。ブログネタにはするけど)
『メモ』機能稼働中のおっさんである。
【ブログネタメモ帳】
・報酬の席でぶっ込んでみたい~スラム救済編~
セバスが大きく扉をノックする。
「入りたまへ」
両開きの扉が中の人によって開かれる。
奥にはダンディなアロルド=フォン=フェステルが立っている。
横には妻だろうか。同じ年くらいだ。
両サイドにはフェステル子爵の息子たち、レイ団長、イリーナ副団長、騎士団の上官、ロキ、街の重役たちが広間の両サイドに並んでいる。
家宰のセバスがゆっくり歩きだす。
おっさんとカイトはゆっくりついていく。
セバスに言われたとおり、途中で歩くのをやめるおっさんとカイト。
セバスはそのままフェステル子爵の横まで歩いていく。
片膝をつく2人。
「これよりオーガの大群より街を救った英雄の表彰を執り行う」
進行を始めるセバス。
「面を上げられよ、まずは自らの命を捧げ、わが街を救ってくれたことに感謝捧げたい。ありがとう」
「「は」」
「冒険者ギルドとの調整に難航してな。少しばかり報酬を渡すのに手間取って申し訳ない。まずは報酬だな、もってまいれ」
入口からコロコロと台車見たいなものに引かれてくる。
むき出しの白い金貨である。
同じ量のように見える。
二人の前にそれぞれ一台ずつ並べられる。
「2人にはそれぞれ白金貨100枚とする」
(えっとたしか白金貨1枚で金貨100枚だよね。うっひょう、10億円分か!って、おれは1人なのに、カイトはクランで同じということか)
「カイトよ、冒険者ランクAへの承認待ちといったな。今回のケイタの働きをわかっているな。今回2人に渡す報酬が同じなのはその結果である、分かってくれるな」
「はい」
「ケイタよ、なんでも、あれだけの戦果を挙げたのに冒険者ギルドはBランクへの昇格だったと聞いているが本当か?」
(うわ、知らぬ存ぜぬ系なのね)
「はい」
「街の繁栄を守り、戦果を挙げた者には必ず報いらねばならない」
「はい」
「我はな、男爵として迎え入れたいと思っている。それでよいか?」
「アリガタキシアワセ」
(やばい、緊張してきれいに言えなかった)
「む、貴族になれるんだぞ、お前は興味があるんだろ。もっと驚き喜ばないのか?」
「はい、大変うれしゅうございます」
(いや、知ってたし、そろそろ次の話題にいってくれ)
「なんか感動が薄いようだな、知っていたのか?」
「え、まさか」
「良いのだ隠さなくても」
「実は」
「ほう、誰が漏らしたか覚えがあるな。あの筋肉だるまめ、情報を漏らしおって」
(ごめん上手くできんかった。始末書よろしく、エルフな副支部長が書くんだろうけど)
「あ、あの…」
「そうか知っていたか、まあそれならまあ仕方ない。そういうわけでお前はBランクになった。Aランクへはまた別の機会だな」
「はい」
「2人とも、この街からもAランクの冒険者が生まれた。そして私と共に歩む貴族が生まれてうれしく思うぞ」
(正直になったぞ、まあこれが本音か)
「ケイタよ」
「はい」
「男爵への任命権は国王にしかないのだ。一緒に王都に向かってもらうぞ。その時、我らが連ねるゼルメア候も王城にいるので挨拶をするのだ」
(ゼルメア候ってどなた?挨拶回りね)
「はい」
「これで式は終わりたいと思うが何かいいたいことはあるか?」
「いえ、このような報酬をいただきありがとうございます。今後とも街のために働きとうございます」
というカイト
黙ってしまうケイタ。
「ケイタよ、言いたいことがあるなら言ってみよ」
周りを見渡す。特に話すこと自体は反対されていない様に感じる。
「あ、あの、スラムについてお願いがあります」
「ふむ、そうだな、お前がこの街の住人のために苦心していることは耳にしている。しかし、ここは報酬の場である。今後の話もしたいので、場を改めさせてもらってもよいか?」
「はい」
「では、セバス」
セバスによって場は閉められる。
皆が拍手を受けながら場を後にする。
また、休憩室に戻される2人。ここで解散のようだ。
「ケイタさん、会えてよかった」
「また会えますよ」
「そうですね、その時は疾風の銀狼を依頼してくださいよ」
「何言ってるんですか。また一緒に依頼を受けましょう」
握手をしてカイトは休憩室を出ていく。
おっさんは休憩室で1時間近く待たされる。
セバスがやってきて、会議室とのことなのでついていく。
会議室と呼ばれるところに案内される。
(お、姫騎士がいる)
円卓に座るおっさん。
既に、レイ団長、イリーナ副団長、ロキが座っている。
(いきなりこういうところに来ていいんだろうか。ああ、俺もなんか傘下に入ったような気分だな)
「またせたか?」
セバスがフェステル子爵を連れてくる。
おっさんの対面に座るフェステル子爵。
「まずは男爵の爵位おめでとう。しかし実際に判断するのは国王である。まああれほどの戦果を挙げ、帝国の野望をくじき、国にあれだけの富をもたらしたのだ。問題はなかろう」
「ありがとうございます」
「それでスラムだったな」
「はい、何か冒険者の遺族を救済する施設のようなものがあればと思います。遺族が困窮しないようにです」
「実はカイトがいる前では言っていないのだがな、今回の報酬は、お前は白金貨200枚だったのだよ。しかし、お前がスラムの住人に寄り添っていたのは知っていたからな。その半分のお金を使い、全員にある程度の暮らしを約束しようとは思っている」
「そのようにお心遣いしていただきありがとうございます」
(そういえば凱旋にもスラムの人呼んでくれたな。それに、凱旋のあとスラムへの資材が投入されていたのはそういうことだったんだな)
「しかしだな、構造を変え恒久的にとなるとそれは厳しくなってくる。もともとスラムはなかったのだよ。この街にはな。しかし、不作がここ数年続いてな。少しずつ生活を困窮していくものが多くなっていったのだ。お前にこの対策はできるのか?」
皆の注目が集まってくる。
しっかり間を開けるおっさんである。
「はい、もちろんできます」
決め顔でおっさんはそういった。
「ほう、聞かせてくれ」
「その前に1つ子爵には改めていただきたいことがあります」
「む?何かあったか?」
「はい、報酬の儀ではあの場でしたので何も言いませんでしたが、私は魔法使いではありません」
皆なんの話だという顔をする。
「ん、ではなんだというんだ?」
「私は魔導士にてございます」
この時よりおっさんは自分を魔導士と語るようになる。
あまりにもこの異世界において魔法使いのイメージが低すぎたからだ。
「ほう、違いはあるのか」
「はい、魔導士には魔導の力が宿っております。今回のスラムの問題も魔導の力によって解決したいと思います」
「おお、なんだ。面白いぞ。聞かせてくれ、どうやって解決する」
ノリノリで身を乗り出して聞くフェステル子爵。
ほかの皆も興味があるようだ。
「はい、魔導の力で作った『5つのもの』と『冒険者遺族を救済する構造』をフェステル子爵様と取引したいと思います」
「ほう、もったいぶるな、取引とな」
「もちろん『城壁』にてございます。オーガが3000体攻めても壊れない城壁を5個作ります」
(十分な実演は済ませてますよね)
「「「な」」」
会議室に驚嘆の声が漏れていく。
「シンプルな構造しかできませんが、帝国の工作は今後続くことは十分に考えられます。どちらでもお好きな場所に城壁、いや要塞をお作りしましょう。大きさは1つにつき、まあオーガ戦で作ったものの倍以上の大きさでも大丈夫です。天井も床もつけましょう」
「お、おう…、そうか、これは、どうなんだ?セバス」
フェステル子爵はセバスの確認を取る。
「御当主さま、悪くない取引かと、城壁についてはレイ団長から詳しく聞いておりますが、どこにでも5個の要塞とはオーガ3000体などかすむほどの価値になるかと。フェステルの街は完全に守られます」
「そうだな、では、フェステル家としてこの取引に応じるとしよう。領内のどこに城壁を築くか。スラムの施設とはどのようなものにするのかについてはまた別の機会に話し合うとしよう」
「ありがとうございます。まだお気づきではないようですので、作る場所には2つご助言を」
「ん、どういうことだ、素晴らしい提案だが。これ以上の何かがあるのか?」
「1つ目は街のそばもいいですが、今回討伐したようにウェミナ大森林そばに、冒険者が使えるような防護壁を作ることもできます。用途の1つとしてお考え下さい」
「おお!なるほど!モンスターの素材も手に入りやすくなるな。そして収益もあがり街も潤うな。して、もう1つは何だ?もっと重要なことがあるのか?」
皆も聞きたそうだ。
視線は集中している。
「もちろんです。貴族にとって貸し借りはとても大切なものと考えております。私のこれからする提案はフェステル様のお力になると確信しております」
「本当か?なんだ、はよ言うのだ!」
「はい、作る城壁は領内に限らないほうがよろしいかと」
「ん、どういうことだ」
フェステル子爵はピンとこなかったようだ。
「はい、他国と接しているのは領内だけではありません。もちろん国内においても、厳しいモンスターの襲来に耐えている場所もあるでしょう。国内の内陸においても安全な場所であるとは限りません」
「うむ、そうだな」
「そのような領外の貴族たちに売り込めば、フェステル様と仲良くなる貴族も増えるのではないでしょうか」
「へ?」
思考が止まるフェステル子爵である。
子爵の頭をだんだん『王位争奪戦』の5文字が満たしていく。
「ご、ごと、御当主様…。こ、これは素晴らしい提案ですぞっ!!」
セバスも立ち上がる。
セバスが勢いよく立ち上がったことに驚く会議の出席者達。
「おお!なるほど!そうか、では、セバス、これが終わったら地図を持ってまいれ。いや貴族との関係を洗うのだ。いや違うぞ、これから王都に行くのだ。領都に代官を置き王都にいる貴族を攻めるのが先か。ん、まてよ、たった5個で足りるか」
立ち上がる子爵。
指をおり始める。
「フェステル子爵様、5個にてございます」
「ケイタよ、先ほどの取引は『概ね』5個という取引だったな」
「5個にてゴザイマス」
「我は数字に疎いのだ、5個とはいくつまでが5個であったかな」
「5個にてゴザイマス」
「おぬしも頭が固いな、まあ王国への道中も長いのだ。おぬしとは気が合いそうだな。ゆっくり語り合おうではないか、ぐふふ」
「はい」
「うおほんっ、少し話が長くなってしまったな。どうやらケイタは貴族としての駆け引きも得意な様子だ。しかし、心がまだ弱いようだ。そのあたりはこれから鍛えていかねばならぬな」
(む、何の話だ)
「は」
「オーガの大群との闘いの際、重要な決断をレイ団長にゆだねたと聞いている。貴族とは責任の問われるものだ。貴族としてのふるまいもこれから学んでいかないといけないな」
「はい」
「しかし、私が全て語ってやってもよいが、それではおぬしも窮屈であろう」
(ん、なんか茶番感がでてきたな)
「といいますと?」
(これは付き合わないといけない感じなのか)
「おお!いいことを思いついたぞ。そうだ、イリーナ副団長」
手をポンと叩くフェステル子爵。
「は」
急に話を振られ間の抜けた言葉が出るイリーナ。
「お前も王都に向かうのだ。道中、貴族とは何たるかお前が教えてやってくれ。貴族のふるまいや王家についてもケイタは知らないことがとても多いのだ。お前がきっちり教えてやれ。よいな?」
「な!?そんな…」
目を見開き驚嘆するイリーナ副団長。
「ケイタよ」
「はい」
「イリーナ副団長は未婚で婚約者もいないが、手を出すと責任を伴う。絶対に手を出してはならないぞ。いいな絶対だぞ。手をだせば男は責任を取らねばならぬのだからな」
(う、姫騎士が睨み始めた。こわいよう)
最近、婚約者がいなくなったイリーナ副団長が睨みを利かせている。
「え、あ、はい。かしこまりました」
(手を出すわけないだろ。剣の錆になってしまうからな)
「ふむ、良い話が聞けたしできたな。これから晩餐をするので、ケイタよ。お前も付き合うのだ」
ケイタはこのときよりフェステル子爵家と懇意になっていく。
帝国の野望は。
おっさんのブログは。
おっさんの物語はまだ始まったばかりである。
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