第37話 評価

ここはフェステルの街から少し離れた草原である。

朝から街を離れてレベルアップした自分の魔法の威力を試しているのだ。


(ステータスオープン)


Lv:29

AGE:35

RANK:C

HP:450/450

MP:572/620

STR:92

VIT:134

DEX:134

INT:590

LUC:141


アクティブ:火魔法【2】、水魔法【2】、風魔法【3】、土魔法【3】、回復魔法【3】、治癒魔法【2】

パッシブ:体力向上【2】、魔力向上【3】、力向上【2】、耐久力向上【2】、素早さ向上【2】、知力向上【3】、幸運力向上【2】、魔法耐性向上【1】、魔力消費低減【1】、気配察知【1】


加護:検索神ククルの加護(小)


EXP:9088112


PV:6729

AS:46


(ふむ、これだけレベル上がると、もうASポイントのパッシブスキルとるか、もっとAランク以上のモンスターを倒さないとレベル上げれないな。もうレベルアップによるMP回復は難しいか)


凱旋から10日目のことである。

凱旋後、戦果と報酬の調整のため時間がかかるとのことだった。

この数日気付いたレベルアップした魔法の実験や、冒険者ギルドでの読書で時間をつぶしてきたのだ。

本日に冒険者ギルドに行くことが決まった。

その翌日にフェステル家に呼ばれている。


(さて冒険者ギルドにいくか)


今日はこれから昼前に冒険者ギルドに呼ばれているのだ。

門に向かうおっさん。

門につくと、みんなが列を譲ろうとする。


「え、あ、はい。並ぶので大丈夫ですよ」


事情を知らない街への来訪者は何事だという目で見てくる。


順番が来たので門兵に冒険者証を見せようとする。


「魔法使いケイタ様ですね。冒険者証は結構です。どうぞお入りくださいませ」


(昔とずいぶん対応代わったな)


そう思うことにしたおっさんである。

黒の外套のフードを目元まで被り、足早に冒険者ギルドに向かう。


皆がおっさんを見る。


顔を隠すために買った黒の外套が逆にトレードマークになってしまったようだ。


(ご当地ゆるキャラになったような気分だ)


冒険者ギルドに入るとカイトと目が合う。


「こんにちは」


「ケイタさん、こんにちは。もう街の英雄ですね」


「いえいえ」


(あれだろ、お前の方が人気出ているがな。リア充爆ぜるべし)


もともと顔も良く冒険者ランクも高かったカイトは活躍もあり、町中で顔を知らない人がいないくらいの人気である。


「お越しいただきありがとうございます。ケイタさんカイトさん支部長室へ案内します」


話しているとキツネ耳の受付嬢から声がかかる。


ついていくおっさんとカイトである。

その他クラン一行は1階で待機である。


「お二人を連れてまいりました」


「おう、入ってくれ」


「どうぞ」


中に入るおっさんとカイト。


「おう、よく来たな。座ってくれ。散らかっているけどな」


100人の冒険者の精査と、過去にない戦果の調整で支部長室は騒然としている。


資料で散らかったテーブルをはさんで置かれたソファーを案内される。

ソファーに座る2人である。


エルフの副支部長も支部長の横にいる。


「まずは今回の件、冒険者ギルドからも礼を言いたい。何度も聞いているかもしれないがな」


「いえいえ」


おっさんの代わりに返事をするカイトである。


「報酬なんだがな、2人については実はフェステル子爵が渡すことになっているので明日を楽しみにしておいてくれ。そういうわけで、冒険者ギルドから渡せるものとしたらこれくらいだ」


「失礼します」


キツネ耳の受付嬢は2つの冒険者証を持ってくる。

既に準備しておいたようだ。


「まずはケイタ、お前は今日からBクラスの冒険者だ」


同じく銀の冒険者証に赤い文字で『B』とある。


「へ?」


と返事するカイトである。

続けざまに支部長はカイトに冒険者証を渡す。


「カイト。お前は今日からAランクの冒険者と判断する。疾風の銀狼のクランも当然Aランクと判断する。またその他7名の冒険者は全員Bランクとする」


「な!?」


(おお!カイト、目標のAランクなれたな。村に帰って錦を飾れるな。ん、判断っていったな。たしか1国以上の承認が必要なんだっけ。承認待ちってことか)


おっさんがAランクの条件について思い出しているころ話は進んでいく。


「以上だ、何か問題はあるか?カイトのAランクの本承認は1月くらいかかるから待っていろ」


「あるに決まっている!!」


カイトが激怒している。

支部長が怖いのかややトーンは抑え目である。


「ん?なんだ、Aでは不服か?」


「違う、なぜ私の方がランクが高いのですか?戦果の報告は全て受けたはずではないのですか?」


「ああ、受けた。その上での決定だ」


「3万4000人、この数字が支部長ならわかりますよね」


「ああ」


(ん、なんだっけ?)


「ケイタさんの作戦で救ったフェステルの街の人数です。オーガ自体も2000体近くケイタさんが倒しています」


(おお3万4000人なんだ。子爵領の領都だとそんなもんなのか。不満俺ないんだけどBランクで。こつこつ上がっていきたいタイプなんだけど。ん、何か忘れているよな)


「そうだな、その上での決定だ」


「そ、そんなわけがない…」


断言する支部長に動揺するカイトである。


「フェステル冒険者ギルドの支部長として資料を精査し全て承認した結果だ」


(カイトは真面目だな。どうしよ、何か、言った方がいいのかな)


「あの、カイトさん、私はBで…」


「ケイタさんは黙っていてくださいっ!」


「は、はい…」


(ひどい)


「わ、私はこんなAランクが欲しかったわけではないんです。こ、こんな、こんなAランクなら私は放棄します」


「いやクランのリーダーとしてそれはみんなが」


口を挟むおっさん。


「クランのリーダーとしてです!」


(説得無理っぽいよな。どうすんだよ、支部長)


スキンヘッドの頭を掻いて大きくため息を吐く支部長である。


支部長は冒険者証を取ろうとして、横に積まれた資料をわざとらしく崩す。

床に散る資料。

額に手を置く副支部長。


「おっといけねえ」


棒のようなセリフを吐き、支部長は資料を拾い出す。


(ん、何を見させられているんだろう。なんだろうこの茶番)


「大丈夫ですか、拾いましょうか?」


(といってみる)


「ああ、大丈夫だ。冒険者には見せられない資料も置いてあるからな」


(だったら片付けておけよ)


「おっと、何々」


一枚の高級そうな羊皮紙を読みだす支部長である。


「どうしたんですか?」


(茶番に付き合ってみる)


「何々、フェステル子爵家は冒険者ケイタを男爵として推薦するだと。な、なんだこれは。はっ、なんてことだ、いけない口に出して読んでしまった」


棒のようなセリフを吐く支部長である。


「え?」


固まるカイトである。


「支部長いい加減にしてください!機密資料を漏らして支部長の始末書を書かされる私の身にもなってください」


額に手を当てていた副支部長がいう。


「だって話がまとまらねえじゃねえか!だから言ったんだよ。こうなるって。お前もカイトの性格知ってんだろ!!」


「ど、どういうことですか?」


尋ねるカイト。


「冒険者ギルドとしては、冒険者ケイタの評価は紛れもなくAランクです」


副支部長が話し出す。


(む、なんか副支部長に言われるとなんか違和感があるな)


器量の狭いおっさんである。


「だったら、え、ちょっとまだわからないです。何が何だか…」


カイトの理解が進まない


(もしかして評価量に上限とか調整が入った結果か)


「まあ、既にケイタさんはもう理解がある程度できたようですが、説明をすると、今回の成果でだせてAランク1人です。そして貴族にするのも1人です。感情を一切抜いて戦果のみです。フェステル家としてはケイタさんを貴族にしたかったみたいですね。士爵でも準男爵でもなく永続的に家をもつ、男爵の家系を新たに誕生させたいようです。今回街が滅んで貴族家が1つ消えたわけではありません。この状況で男爵家を1つ誕生させることは、Aランク2人出すより難しいのです」


(おい、表情読むな)


エルフの支部長はにやりとしておっさんに言う。


「おい、ケイタ、お前今回の一件程度でAランク取れるなら次は難しそうか?」


「いえ」


「なっ!?」


驚愕するカイト。


「そういうことだカイト。ケイタはAランクからも抜け始めている。おれやお前はAランクを目標にすべき人間だ。だがケイタは違う。今回はカイトお前がAランクだ。分かったな。あと他言無用だ。始末書が増える」


(そうか、次がある俺は後でAランクでもいいだろうという冒険者ギルドとフェステル家の話し合いがあったってことか)


「は、はい、分かりました…」


「そして、ケイタ」


「はい」


「王国には今Sランクが不在なんだ。よろしく頼むな」


(まだBランクだけどな。あ、冒険者ランク最後の昇給試験だ。せっかくのブログネタが消える)


「え」


「あんだ、お前も不満か?」


「いや昇級試験です」


「あるわけねえよ、当然だろ」


「やってもいいんじゃ」


「ちょっと何言っているのか分からないが。あれだ、こぶしが必要か」


握りこぶしができる支部長。


「いや大丈夫です」


カイトと違って粘らないおっさんである。




頭を下げ支部長の部屋を出る。

下に降りるとクランメンバーが皆カイトに群がる。


「ちょ、ちょっと!?遅かったじゃない、で、報酬は?」


「報酬は明日なんだって。今日はこれだけだって」


「え、こ、これって…」



おっさんは背中でブリジアの号泣を聞いた。


(やはり放棄すべきでなかったな)


そう思うおっさんであった。

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