第33話 支部長
羊皮紙に囲まれたおっさんはキツネ耳の受付嬢の言葉を復唱してしまう。
「支部長ですか?」
「はい、支部長です。お話があるのですが今からでも大丈夫ですか?」
「え、あ、はい。大丈夫ですよ」
(なんだろう?指名依頼のことかな?それしか思いつかないけど。まあ行けば分かるだろう)
羊皮紙の資料を片付け、キツネ耳の受付嬢の後をついて、3階の支部長室に行くおっさんである。
「ケイタさんを連れてまいりました」
「おう」
(おうって返事来た。今度は返事ある系だな)
騎士団長との対談を思い出すおっさんである。
「どうぞお入りください」
ドアを開け、ドアノブを持ち、中へ誘導する受付嬢である。
「失礼します」
今度はためらわず入るおっさんである。
何事も経験である。
「よく来てくれたな。まあ座ってくれや」
ソファーを案内する。
(おおおお!?とうとうでたな!スキンヘッドのごりマッチョだ!)
どうでもいいことに反応するおっさんである。
40前後のスキンヘッドのごりマッチョが案内したソファーの前に座っている。
その横にはこの前一切しゃべらなかったエルフの男もいる。
「はい、失礼します」
一言言って座るおっさんである。
(なんか面接っぽいな)
「急に呼び出して悪かったな。俺がこの冒険者ギルドの支部長をしているゴルグっていうんだ。ケイタだったな?すまねえがさん付けは好きじゃねえんだ呼び捨てで行くぞ」
「いえ、全然かまわないですよ」
お茶が用意される。
(そういえば、お茶を飲むのは初めてかも。こういうのもしっかり生活感として記録しないとダメだな)
集中力が少なすぎるおっさんである。
「それでよう、呼んだのはほかでもねえんだ。指名依頼手伝ってくれてありがとうな。でよう、あまりおれはこういうので駆け引きとかうまくねえんでよ。単刀直入にいうけどよ」
「はい、なんでしょう」
「お前何もんだ?」
(ふむ、単刀直入系か。見た目を地で行くタイプか。さてどうするかな。別世界から来ましたは当然言わないとして、山奥でひっそり修行してましたで済むかな)
「何者とはどういう意味でしょう?」
「言葉通りの意味だ。カイトからも話聞いたがよ。能力が飛びぬけすぎだろ。Bランクのモンスターを片手間にぼこぼこにしていたと聞いているぞ」
「まあ、隣にいる方が横にいた時、フェステル家の騎士団の方にはお伝えした話のとおりです」
「ああ、例の大魔導士の元で修行していたという話か?」
(さすがに耳に入ってるよね)
「その通りです。冒険者になることが遅かったのですが、修行の成果が出たと思います」
「ふむ」
「支部長って昔冒険者だったんですか」
「ああ、なんだよ、突然に」
「突然なのはお互い様じゃないですか。それで冒険者だったんですか?」
「おう、冒険者だ。国王に認められAランクまで上り詰めたんだぜ」
握りこぶしを作って語る支部長である。
「Aランクの冒険者だった全盛期の支部長がレッドパイソンウルフに苦戦しますか」
「あん、するわけねんだろうが。1人で十分よ」
「それで自分が何者か尋ねられても困りませんか」
「あん、証明たって…」
「そうですよね。難しいと思います。なぜ自分がEランクなのかAランクなのか。戦神ベルム様の祝福を理屈で説明するようなものだと思います」
(理屈で説明できるけど)
「まあそうだな」
「私も15歳かそこらならわかりますが、カイトさんより10年くらいは年を取ったいい大人です。師匠の下でそれなりの経験も修行も積んでまいりました。それがBランクのモンスターを倒すのに余裕があってもという話です」
「むう、たしかに…」
「いえ、これはケイタさんの方便ですよ。エルフでもない人間が魔法でBランクのモンスターを蹂躙しているなんて聞いたことがない」
「た、たしかに…」
(お、これは貴重な情報だな。後方職で強いやつはあまりいないのか。まあ強い後方職は王侯貴族に召し抱えられ俺みたいな冒険者いないだけだろうけど)
「まあ、世界は広いですからね」
「そうでしょうか、悪魔堕ちによって力を得る魔法使いもいると聞いています」
「はあ」
(久々に聞いたな。悪魔堕ち)
「ケイタさんが悪魔落ちではないとするなら、具体的にどこで修行を行ったのか教えていただけませんか」
「それは申し訳ありませんが教えられません」
(そんなものないし。ネットゲームの話しちゃうぞ)
「それでは私たちは悪魔堕ちかどうなのかわかりませんね」
(ん、そうなんだ。聖教会と冒険者ギルドってあまりつながりないのか)
「え、副支部長って悪魔鑑定みたいなことってできるんですか?」
「ほう、珍しい言葉を知っていますね。私が呼べばすぐに聖教会が飛んできて悪魔鑑定されますよ」
「どうぞ、それで何かが分かるなら」
「は?」
「ですのでどうぞ呼んできてください」
「え、いいのですか?呼びますよ」
一瞬当惑を見せる副支部長である。
「聖教会の神官も忙しいでしょう。ちゃんと令状を書いて呼ばないと上から怒られますからね」
どこかの門兵の会話を思い出すおっさんである。
「ん、どういうことだ。ずいぶん詳しいな」
支部長は口をはさんでくる。
「まあ、本当に呼ばれると。聖教会の人も迷惑かけるのでネタ晴らしすると、私は悪魔鑑定を一度受けています」
「へ?」
「その結果悪魔がついていないことを証明されています。司祭のグラシフ=マフラカスさんに聞いてみてください。さきほど聖教会であったばかりだったのでまだ聖教会の建物にいると思いますよ」
(メモに名前取っておいてよかった)
「それは本当か」
「どうぞ疑うなら聖教会へいって確認を取ってください。まあ冒険者ギルドくらいの組織なら言わなくても確認はとるでしょうけど」
「あまり冒険者ギルドに協力的ではないんですね」
そういってくるエルフの副支部長である。
「今この場に私がいるのって冒険者ギルドに協力した指名依頼の結果ではないのですか」
「な!?」
(お、ここは攻め時なような気がする)
おっさんの頭の中で野武士達が荒野を走り抜けているようだ。
「たしかに、そうだな」
両手を組んで強くうなずく支部長である。
「冒険者ギルドはいきなり頼んだ指名依頼で成果を上げたら、どうしてそんな力があるんだ?どのようにして、その力を得たんだと詮索し追い詰める組織ってことですか」
「んぐ、そういうわけではありません。冒険者ギルドとして、広く冒険者のためになる情報を集めているだけなのです。なぜそこまでして自分の修行した場所を言いたくないんですか?」
(なぜそこまでして聞きたいんだろう)
「だって、隠れ家を言ったら隠れ家じゃなくなるでしょう。エルフの隠れ里の場所と交換に教えてもいいですよ」
(適当な場所いっちゃうけど)
「な!?」
「確かにその通りだな。ケイタ、お前のひととなりは分った気がするぜ」
「支部長はまっすぐな方だと分かりました」
「まあな」
にやりと笑う支部長である。
コン コン
閉められた扉のノックがなる。
「お、できたか。入っていいぞ」
支部長が入室の許可をするとキツネ耳の受付嬢が両手に銀色の何かを持ってやってくる。
テーブルの目の前に置かれた何か。
どうやら冒険者証のようだ。
銀色に冒険者証の緑色の文字がある
『C』の表示がある。
「すまねえが、1個ずつしかランクは上げれねえんだ。今回の指名依頼の評価だ。これからも『冒険者』としてよろしくたのまあ」
(なるほど、話の間に冒険者証を作ってたのか。話の落としどころも用意しているし、さすが組織の長だな。ん。まてよ。これじゃあ昇給試験をブログに起こせないな。まあ次があるか)
「確かにいただきます。また何かあればご用命ください」
「おう、今日は悪かったな。副支部長も悪い奴じゃねえんだ。またよろしく頼むは」
「はい、では失礼します」
冒険者証をもらって、そそくさと出ていくおっさんであった。
・・・・・・・・・
ここはフェステル家の館である。
冒険者ギルドの報告を受けたレイ団長は、話が長くなると思い、円卓の会議室に領主、家宰、団長、副団長の4人で報告会を行っている。
「なんだと!ケイタという魔法使いはそれほどか!」
「はい、冒険者ギルドの報告では、少なくともBランクの冒険者といってもいいほどの強さであったと聞いております」
「な!?」
剣の錆にしようとした魔法使いを思い出すイリーナ副団長である。
「その『少なくとも』とは、もしかするとAランクにも届くかもしれぬということか?」
フェステル子爵はレイ団長に問う。
「もしかするとですが、具体的に狩りの状況などを聞くからにはAに近いのやもしれませぬ。Aランクに到達することも十分に考えられます。今回の件で冒険者ギルドも異例の試験なしでのCランクに上げたそうです。すでにBランク昇格試験の検討にも入ったという話も伺っています」
「そ、そんな…」
頭をこすりつけ土下座をする魔法使いを思い出すイリーナ副団長である。
「さっきからどうしたんですか?イリーナ副団長」
「いえ何でもありません。申し訳ありません…」
話の腰を折るイリーナ副団長を注意する家宰のセバスである。
「皆の者よ」
「「「は」」」
レイ団長の報告を聞いたフェステル子爵はおもむろに語りだす。
「今回の指名依頼による帝国の動きの察知も大切である。確かに貴重な情報であった。しかし、われらが連ねるゼルメス侯が推す第三王子が王位争奪戦で劣勢であることは聞いているな」
「はい」
家宰が代表して返事をする。
「もしもほかの王子が王位を取れば、我々の地位も危ういのだ…。封土とは絶対のものではない。我々はこの街を、そしてこの領土を守っていかねばならない。それには我々は少しでも第三王子の王位に貢献しなくてはならない」
「は」
そこまで話すと、遠くを見て考え込むフェステル子爵。
「神の加護を持ち、冒険者としても秀でた魔法使いか」
さらに間を置くフェステル子爵。
「イリーナ副団長は弟がいたな」
「は、今年14歳になります」
「ふむ、私に娘がいれば、私の娘を薦めたのだが、どうも男しか生まれなかったのだ」
男ばかり三兄弟のフェステル子爵である。
「は、どういうことでしょう?」
何の話か理解できないイリーナ副団長である。
「すまないがゼルメス侯の第四子との婚姻はなかったことにしてくれるか」
「な、そ、それは、どういうことですか?」
耳の端で聞こえていた、廊下の物音と話声がだんだん大きくなってくる。
「それはな、ん、外が騒がしいな。どうした、だれかっ、だれかおらぬのか?」
外が騒ぎ出したことに反応をするフェステル子爵である。
確認をしに外に出る家宰のセバスである。
ほどなくして戻ってくる家宰のセバス。
「それでどうしたんだ?」
「陳情のようです」
「なんだと!陳情だと?」
「はい、村人からの陳情のようです。なんでも、トトカナ村にオーガの大群が出たと申しております」
「なんだと!?どういうことだ!!」
報告会は中断となる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます