第32話 聖教会

スラムから銀皿亭に戻ったおっさんは宿の食事を済ませ、そのまま眠りについたようだ。

次の日8時過ぎに食堂に行き、カイトさん方、疾風の銀狼クラン一行を待っているのである。待っている間にこれからやることを考えている


(一応聖教会でクラインさんを治す。まあレベルが足りなくて無理かもしれないけど。あとはそろそろこの世界の地図とか、ダンジョンを調べたりしたいな。ブリジアさんには旅の道中に未踏破の迷宮がここから馬車で10日のところにあるって聞いたけど冒険者ギルドで詳細を調べたいな)


予定を固めるおっさんである。


(じゃあ聖教会からの冒険者ギルドの資料室に決まりだな)


「お!お待たせしてしまったようだね」


カイトさん一行から声がかかる。

どうやらクランメンバーは全員いるようだ。


「いえいえ、全然待ってないですよ」


「今日はお願いしますね。あとケイタさんの分の報酬です。金貨85枚です」


びっしり詰まった小袋を渡される。


「これはこれは、お手数おかけしてます」


(8人のメンバーだとこんなもんなのかな。少し多めにしてくれたかもしれないな。10日間で850万円の稼ぎか。冒険者稼業ぼろもうけだな)


コンビニでおつりを確認しないのと同じノリで懐にそのまま入れるおっさん。

数えないのって顔を一瞬するが、流すことにしたカイトである。


「では、いきましょう」


クラン一行につれられ、聖教会に向かうおっさんである。

大通りを抜けた先にその建物はあった。


「あれ、ガラスだ」


建物よりも真っ先にガラスに目が行くおっさんである。

綺麗なステンドグラスが建物を彩っている。


「ケイタさんはガラスをご存じなのですか」


「はい、以前見たことがあります。この街にはないかと思ってました」


「ガラスはユーティア聖教国が産地でしてね。王侯貴族と聖教国の建物には使われているんですが、作り方が極秘らしくって高価で他では使われないんですよ」


【ブログネタメモ帳】

・ユーティア聖教国がガラスの独占禁止法に触れてしまっている件について


カイトの話を聞きながらタブレットの『メモ』機能を起動するおっさんである。


「そうなんですね。だからあまり見ないんですね」


(これは現実世界でガラスの作り方調べて、検索神サイトのメモに貼って、商業権とか得られれば一儲けあるやもしれん。やばい。よ。よだれが出ちゃう)


おっさんはカイトの話半分で俗物的な妄想をしていた。


「おお、これはこれはよくぞおいでくださいました。ケイタ様」


建物を入ってほどなくすると通路を歩く集団と目がある。

その中の1人が、検問の際にお世話になった、頭にピタッとした野菜サラダをいれるボウルを反対にして被ったような帽子のおじさんである。


(名前なんだっけ?あの時まだメモ機能使えなかったから忘れたぞ)


「ああ、お久しぶりです」


「あれ?お知り合いなんですか。ケイタさん」


カイトがおっさんに聖教会に知り合いがいることに驚いているようだ


「そうですね、以前検問でお世話になりまして。ええと…、グシラフさん」


「ケイタ様は、今日はどのような御用でお越しになられたのですか。グラシフ=マフラカスですよ」


(おっと、やばい違った。もう『メモ』に記録しておこう)


「ちょっとお世話になったクランのメンバーが怪我をしていましてね。ちょっと私も回復を嗜んでいるのでかけましょうという話になりましてね。やはり聖教会が既にお世話にしてるのに勝手に回復魔法をかけるのは失礼ですかね」


おっさんによる名前を忘れたことを全力でカバーするトーク力である。


「ほうほう、さようでございましたか。ケイタ様ならもちろん回復魔法をかけていただいて問題ないのですじゃ。怪我をされているということでしたなら、北の館の2階にいるはずですじゃ。ご案内しましょう」


(俺以外の人が回復魔法をかけると問題が出るってことかな)


「え?いいんですか。悪いですね」


「いえいえ、ご案内するだけですじゃ」


「では、お言葉に甘えて」


サラダボウルのおじさんについていくおっさんとクラン一行である。


歩きながら気になっていたことを聞いてみる。


「すいません、聖教会の方々はどうやって回復魔法を習得するのですか」


「回復魔法は日々の修行と神への祈りにより習得するものですじゃ。聖教会でないものがお祈りする場合は、寄付も少しばかりいただいておりますのじゃ」


「なるほど。祈れば必ず魔法を授かるものなんですか」


「当然、修行が足りないと魔法は授かりませんのじゃ」


「魔法を得るのも大変なのですね」


(むむ、翻訳するとこうなるな。ある一定の値までレベルアップする。指定の場所で祈ると魔法をゲットする。冒険者だと祈り代にお金を取られると)


ゲーム脳をフル稼働させて聖教会用語をゲーム用語に翻訳するおっさんである。




「着きましたぞ。ここですじゃ」


室内に案内されるおっさんとクラン一行である。


室内では、トトカナ村と違い、綺麗に整備されたベッドに怪我人が寝かされている。


(大金払って入る、ホテルみたいな病院での入院みたいなものか)


クラインの顔が分からないので、クラインを探すカイトの様子を見るおっさんである。


「おお!クライン無事か?」


返事がないようだ。胸が上下しているところを見ると死んではいないようだ。


(なるほど、結構な重体だな。異世界で意識不明の重体になるとどうなんだろうな。栄養とれないから死んでしまいそうだな。そのための回復魔法なのかな)


回復魔法でぎりぎり生きているのではと推察するおっさんである。


「かなりの重傷でな。回復にもう少しかかりそうなのじゃ。当聖教会の最高の回復魔法をかけているのじゃ。ケイタ様の回復魔法でも厳しいかもしれませんのじゃ」


「そうですか、きびしいかもしれませんが、やってみます」


(やはりレベル2の回復魔法では厳しいかな。まずはハイヒールからだ)


「ハイヒール」


優しい光がクラインを包み込む。

光が消える。

少し様子を見るが、意識は戻らないようだ。


「やはり厳しかったのですじゃ」


(回復魔法レベル3だな。無理かもしれんな)


「もう一度やってみます」



おっさんは少し間を置き回復魔法Lv3をかける


「ヒーリングレイン」


淡い光が部屋中を包み込む。

光の雨を浴びたクラインが淡く光りだす。

光が消えしばらくすると、うっすらと目が開いたようだ。


「か、かいとか…」


「おお、よかった。気付いたか。心配かけやがって」


涙をにじませて喜ぶカイトである。



「お!?ここはどこだ?」


「あれ?ここは?」


「ん、生きていたのか…」


そして隣のベッドも、またその隣のベッドの怪我人も意識を取り戻す。

当然である。

範囲回復魔法なのである。

そして


「こ、これは、か、神の涙ですじゃああああ。いかん大教皇様にお伝えせねばああ」


転げるように出ていったサラダボウルのおじさんである。


「なんだってんでしょうね?」


「さあ」


おっさんとカイトの何が起きたんだという状態である。

しばらく待ったがサラダボウルのおじさんが戻ってこないので、そのまま聖教会を後にすることにする。


「なんてお礼を言ったらよいか」


「何言ってるんですか『貸し一』ですよ」


そうだったなと握手をして別れるおっさんとカイトたちクラン一行である。



今日決めた予定のとおり、冒険者ギルドに向かうおっさんである。

さきほどのサラダボウルのおじさんの様子をみながらおっさんは分析をする。


(大体の人はレベル2クラスが限界なのかもしれない。少なくともクラインの意識はこれくらいの街の規模の聖教会で回復させられなかったな。冒険者でいうところのAもしくはSランクでレベル3なのかもしれないな。Aランクもあまりいないところを見るとレベル3でAランクと考えておく方が無難か)


自身のスキルの物差しははっきりさせたいおっさんである。

考え事をしながら、冒険者ギルドにたどり着く。


(確か資料館は2階だったな)


キツネ耳の受付嬢に会うことなくまっすぐ資料室を目指すのである。


(地図地図とまずは地図だ)


地図を探す。

資料の状態はあまりよくないようだ。


(羊皮紙が主流なんだな。これもどこぞの国で、普通に紙があるかもしれないな)


聖教会のステンドグラスのガラスを思い出すおっさんである。


(お、地図発見。フェステル領の地図か。たしか、ウェミナ大森林を挟んで帝国と接してるんだっけ。ウェミナ大森林の中央にウェミナ大連山があるのか。山と山は縫い目が一本通ってて行き来は不可能ではないのか)


だが帝国にはあまり興味がないようだ。


(まあ、タブレットの『地図』機能でフェステル領のことは大体のことは分るしな。それよりダンジョンだ。ブリジアさんが馬車で10日っていってたな。たしか馬車の移動距離って1日30kmだったよな。300kmか。300kmだとこの領の外か)


さらに探すおっさんである。


(地図ないな、他領の地図は門外不出か。たしか何て名前だっけ?ダンジョンで調べてみるか)


そしてダンジョンについて調べ物をするおっさんである。


(なるほどこの国には大小13個のダンジョンがあるのか。うち3個が未踏のダンジョンか。ブリジアさんがいってたのはたぶんこれだろ。『ウガルダンジョン都市』って名前か。350年前にできたダンジョンか。ウガルっていう伯爵が治める領なのか)


資料を見るおっさんである。

今後について思いをはせる。


(さて、この街もずいぶんいたな。次の街にいくかな)


ふとスラムの家族を思う。


(いやいや世界には困った人はたくさんいるんだ。俺では何もできないさ。将来に渡って養うこともできねえよ。こんなこと考えるなら最初にお肉渡さなければよかったのか。いやそういうことではないだろう)


「あの、こちらにケイタさんはいますか」


思考を遮るように、キツネ耳の受付嬢が声をかけてくる。


「あ、はいそうです。ちょっと調べ物をしていまして」


「そうなんですね。先ほど上の階に上がるケイタさんを見ていたのですが、降りてこないなと思いやってきました。まだ探し物ですか」


「いえ大丈夫ですよ。何か御用ですか?」


「いえちょっと、ギルドの支部長がケイタさんをお呼びでして」


そしてギルドの支部長と対談するおっさんである。

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