第29話 トトカナ村

冒険者の朝も早い。

野営の準備をしないといけないので、日中の活動時間に限りがあるのだ。


「さあ、出発するぞ」


クランリーダーのカイトの号令ですぐに出発を始める。


どんどん進んでいく馬車の中。

走っている馬車の中でカイトがおっさんに声をかける。


「魔力量は回復したかい」


「はい。万全だと思います。昨日もお話しした通り、基本的に回復優先で。戦闘には参加しますし攻撃魔法も状況によっては使いますが、その点はご了承を」


(戦闘に参加しなければ、経験値入らんしな。とりあえず今日確認しないといけないことは戦闘中の回復魔法とか、戦闘参加時の距離感とかで経験値が違うのか検証しないといけないしな)


当然タブレットの『メモ』機能はフル稼働中である。


【ブログネタメモ帳】

・経験値配分は平等に



「そっか。無理はしないでね。ちなみに回復以外何が使えるんだい?昨日は風魔法を使っていたね」


「火、風、水、土、治癒の5種類です」


(まあ正直に答えておこう。無用な自慢はあえてしないが、力隠してますよキャラでもないしな。リーダーとしての状況判断で必要な時もあるだろう)


「え……?」



固まる馬車の中、沈黙は続いていく。沈黙するが皆一様におっさんを見る。


(ふむ。この反応はそんなに複数の魔法を使える人は少ないんだろうな)



「ちょ…、ちょっと!本当のこと言いなさいよ!!」


「本当です。こんなものはすぐに証明できますしね」


ブサイクなおっさんは決め顔でそう言った。


「それはすごいことだね。あとで見せてもらえるかな」


「いいですよ。またモンスターが出た時にでも使いましょう」


馬車が走り始めて2時間が過ぎたころ、


「お?おい、気をつけろ、オーガだ!オーガが1体、はぐれオーガだぞ!!何か様子がおかしい」


(お、Bランクのオーガだ。たしかワイバーンと同じランクだっけ)


馬車を止めるクラン一向である。


「どうする?戦う?…ちょっと様子がおかしいよ…」


ブリジアは心配そうにカイトに相談する。

50mほど先に3mほどの大きさのオーガがいる。

パーティーに反応することなく前進を続けている。


(ん?オーガと初対面だから、どこが様子が違うの分かんないな)


「よし、戦おう。守り堅めの陣を敷くよ!ブリジアは少し下がっていて」


どうやら守りの弱いブリジアを置いて戦うようだ。


「では、敵と接近するまでに魔法で弱らせますね」


「あー、うん。よろしく頼むよ」


(あまり回復回復いってこないな。昨日は風魔法使ったので他の魔法を使うか)


「ストーンシールド」


オーガの前面に壁を作る。


「フグアァー」


オーガは雄たけびを上げ、簡単に壁を叩き壊す。


(ふむふむ。レベル1の土魔法ではBランクを拘束するのは難しいか。次はレベル2だな)


「ストーンウォール」


「フグアァアァァ」


(お。閉じ込められるか?いや、無理か。Bランクのモンスターを拘束するのは厳しいってことか)


何発か殴ってLv2の土魔法も破壊するオーガである。


(さて検証もそのくらいで攻撃するか。レベル1は効かないんだよね)


「フレイムランス」


「ウォーターバレット」


2発の攻撃魔法Lv2がオーガに激突する。


「グフゥ」


吹き飛ばされるオーガである。

ほどなくして立ち上がるオーガを囲むクランメンバーである。


(ダメージは結構与えられるな。ASポイントが100以上あるけど、土魔法のレベルを3にすれば、拘束できるかな。Bランクのモンスターであっても拘束さえできれば、削り倒せるんだが)


「よし、このまま倒すぞ!」


起き上がろうとするオーガを囲んで倒す。

タブレットで経験値を確認するおっさんである。


(お。経験値入ったな、714か。たぶん、戦闘に参加しなかったブリジア抜いて5000を7人で均等割りしたのかな。まあ今回は魔法使うっていったから、次は回復のみで検証かな)


「なんか顔に変な血管が浮いてるね。動きも攻撃加えるまでフラフラしていたし、私たちを見つけても、すぐに襲ってこなかったね」


「冒険者ギルドが言っていたモンスターの異常行動かもしれない。とりあえず素材を回収していくぞ。戻ったら冒険者ギルドに報告しよう」


ブリジアとカイトが話している。


(お。オーガの皮剥いでる。こういうの見るとリアルな冒険者なんだな)


オーガの皮、牙、角、魔石を回収して馬車に乗り込み一向は進んでいく。


「オーガは初めて見ました。皮も素材になるんですね」


「何言ってるの。あなたの鎧もオーガの皮でしょ、それ。薄くて丈夫だから冒険者に人気あるのよ。その分高くなっちゃうんだけどね」


「はぐれオーガってことは、普段群れを成してるんですか」


「そうよ。だいたい5から12体が多いわね。1体1体はほかのBランクより弱いんだけど、群れを成す分、ランクが高いの」


「そうなんですね。勉強になります」


(なるほど。だからワイバーンの幼体の経験値が9000で、オーガが5000なのはそれが理由か。なんだかんだいってブリジアさんは何でも教えてくれるな)


「貴方の故郷だとオーガとか出なかったの」


「え?そ、そうですね。出なかったですね」


「ふ~ん。そうなんだ。そっか」


(え、なんか故郷ネタぶっこまれたぞ。あんま深堀せんといて)


「そういえば、土と水と火魔法を使っていましたね。こんなに多様な魔法を使える魔法使いを初めてみました」


カイトが話題を変える。


「そうですね。クラインさんは回復魔法のみなんですか」


「そうだね。回復魔法のみだね」


「回復特化なんですね。それはそうと素材を回収して、皮が素材になることが多いなら、火より風魔法がいいですかね?」


(異世界の人の魔法の習得条件ってなんだろうね。聖教会に行けば分かるかな)


「そうだね。でも魔力量が心配だから無理しないでくださいね」


「はい。その辺は気を付けます」




その後、合計3日の道中をかけてウェミナ大森林手前にある村であるトトカナ村についた。


(ふむ。いくつか検証ができたぞ。回復魔法のみでも戦闘に参加したということで経験値が普通に入ってきたな。戦闘中の回復が大事ってことだな)


検証結果を頭で整理するおっさんである。


・回復魔法を1回でも使えば経験値分配の対象になる。

・経験値分配は経験値を人数で割った均等分配である。

・距離が離れていても戦いに貢献すれば、経験値分配の対象になる


(多分小石を投げただけでも経験値分配の対象になるな。将来もし仲間ができて、レベル上げさせたいなら、方法がいくつか思いつくぞ)



村にどんどん入っていく一向である。

何やら様子がおかしい。

村人がいないのである。


「様子が変ですね」


カイトも異変に気付く。

村の中央付近まで進むと、ようやく第一村人発見である。

生気がなく、座り込んでいる。


「あ、すいません。冒険者ギルドから派遣された冒険者ですが、村長かどなたかで結構なのですが、お話ができる方はいますか」


「え?あ、はい。少々お待ちを」


村人は、ゆっくり立ち上がると、奥の方にゆっくり歩いていく。


「なんか様子おかしいわね」


「うん。これはモンスターに襲われたようです。建物に引っかき傷がいくつもありますからね。壁に血痕もあるからかなり大規模な襲撃にあったかもしれない」


心配をするブリジア。状況を分析するカイトである。


30分ほど待つと村長らしきおじいちゃんが出てくる。


「おお。わざわざ村まで来ていただきありがとうございます。モンスターの討伐に来ていただいたのですかな。ここではなんですので、こちらへ」


ほどなくして村長宅に案内される。


「それで事情は伺えますか」


クランリーダーであるカイトが代表して話を進めていく。


「これは、ひと月以上前からのことなんじゃが、モンスターがたびたび村の近くにやってくるようになってな。しかもCやBランクの高ランクのモンスターがの」


「はい」


「村からも、よく見かけるモンスターの討伐依頼を要請したのですが、冒険者が来ることもなく……とうとう先週くらいから村が襲われ始めたのじゃ」


「それは、何か特定のモンスターからですか?」


「いや。いろいろなモンスターが来るのじゃ。オーガやオークなどいろいろじゃな」


「よく村は無事でしたね」


「無事ではないのですが、ある程度襲ったらまた森に帰っていくのじゃ。たびたび襲撃に合うので、村人も疲弊してしまってこのありさまなのじゃ」


「そうでしたか。明日には森の中に調査に入ろうかと思いますので」


「調査とな。討伐しに来ていただいたのではないのですかな」


「申し訳ありません。冒険者ギルドに依頼を受けた内容は調査ですので、特定のモンスターを倒すわけではないんですよ」


がっかりする村長である。


(リーダーは、冒険者ギルドの依頼をまず第一にってところかな)


「それは残念ですのじゃ。ちなみに何か薬はありませんのですじゃ。モンスターに襲われて怪我を負ったものがたくさんいますのじゃ」


「すいません。このような状況だとは分からなかったので余分な薬はないのです」


「そ、そうですか…」


「回復魔法はできますよ」


おっさんは唐突に会話に入っていく。


「ちょ!何勝手なこと言ってるのよ!!」


(まあ勝手なことなのは重々承知の上なんだけどな)


おっさんの発言に反応するブリジアである。


「そ、それは本当なのですか!?大したお礼はできないのじゃが…」


「お礼はいりません。ただし先ほど言った通り、私たちは明日には調査依頼で森に入ります。なので今晩回復できる範囲ですが、問題ありませんか?」


「それでも助かるのじゃ」


「リーダーもそれで問題ありませんか?」


「あ、うん。それでなら」


話が進んでいく状況にカイトも反応が遅れ、ただ同意するだけになる。


「案内していただけますか」


「すぐに。怪我人は、1か所に集めていますのじゃ」



案内されるクラン一向。

おっさん以外もついてくるようだ。


「もう!勝手なことしたらいけないわよ」


「申し訳ございません」


ブリジアの注意を受けるおっさんである。


「ここですじゃ」


少し大きめの建物に案内される。

部屋に入ると異様な臭いがする。

肉が腐ったような臭いである。


「え……」


声が詰まるブリジア。

一面を埋め尽くす怪我人たち。

数十人はいそうである。

その怪我人を必死に看病をする村人。

村に人がいない理由が分かる。


「皆のもの、回復魔法を使える人を連れてきたのじゃ」


反応を示すものは少ない。

怪我人達は皆天井を見つめ、人生の最後を思っているようだ。


部屋は絶望で満ち溢れていた。

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