第28話 Bランク冒険者

ここは早朝の南門である。


(危うく睡眠時間削ってMP回復間に合わないところだったぜ)


スラムの講義もほどなく、宿に戻って6時間の睡眠をとったおっさんである。


(タイムオープン)

5:46


(まだ誰もいないな。今度こそ一番乗りだな。宿屋には当分戻ってこないって伝えたしな)


荷物をまとめて、門前で待つおっさんである。


「あら。偉いわね。一番最初に来るなんて」


ブリジアという酒場でも絡んできた盗賊系の格好をした、今回同行するクランのメンバーから声がかかる。


「おはようございます」


嫌味はさらっと流す。

自分より一回りも年下の嫌味など、受け止める必要もないと感じるおっさんであった。


ぞろぞろと集まってくる『疾風の銀狼』のクランメンバーたち。

6時には全員揃いそうである。


「おはよう。みんな。みんな集まったんで、さっそく出発しましょう」


クランのリーダーのカイトの号令で出発をする。

なお、移動は馬車である。8人全員が乗れて、食料品などの荷物も乗れるよう、12人乗りの大型の馬車を用意している。


「本日はよろしくお願いします」


(野良パーティーに参加するのは久々だな。自分以外知り合いだけど)


ネットゲームで即席のパーティーに参加したような感覚を覚えるおっさんである。


「これからウェミナ大森林まで馬車で三日の距離だから、そこまで馬車でいくよ。それから森の前の村で一泊してから、大森林の調査だね」


わざわざ、おっさんのために道程を説明してくれるカイトである。


「わかりました」


馬車に一緒に乗り込み、タブレットの『メモ』機能にカイトの説明やクランメンバーについてメモを取るおっさんである。


【ブログネタメモ帳】

・B級冒険者と冒険に出てみた


(今回は10日もある活動だからな。しっかりメモに記録取ってブログに起こせば、アクセス数稼げるぞ。えっとメンバー構成はと、カイトさんが両手剣、ブリジアさんが短剣、あと斧が2名と槍が3名の構成か。回復も補助も攻撃魔法もない脳筋パーティーだな)


「ちょっと何ジロジロ見ているのよ」


周りを見渡していることに反応をするブリジアである。


「いえ。Bランク冒険者に同行させていただけるなんてと思ったら緊張してしまって」


心にもないことを言うおっさんである。


「あら。そんなに緊張しなくてもいいのよ」


「いえいえ。みなさんは昔から同じクランで活動しているのですか」


ついでに情報収集のために話を広げるおっさんである。


「私とカイトとそこにいる槍を持ったヤンガが同じ村出身でね。7年くらい前から村を出て一旗揚げるんだってね。そしたら段々評判が良くなって、メンバーも増えていってね。今に至るわけよ」


馬車にゆられながら、クラン結成について語るブリジアである。


「そうなんですね。でもBランクなんてそうそうなれるもんじゃないですよね」


「まあね。でもカイトがAランクになって村に戻りたいみたいなのよ。みんなに自慢するんだってね」


「Aランク目指してるんですね。目標があっていいですね」


「そうよ。そういうあなたは1人でワイバーン倒したそうじゃない」


(ギルドから個人情報だだ漏れだな)


個人情報もプライバシーもへったくれもない世界である。


「いえいえ。ワイバーンは幼体だったり、好条件が重なったりで運よく倒せました。それに1人ではなく3人でです」


「へーそうなの。それだけの腕があれば、貴族に召し抱えられることもできるでしょうに。なんでこんなところでこんなことしているのよ」


アルバイトの従業員が実は高学歴だった時のような会話をしてくるブリジアである。


「いえいえ私は世界を回って見聞を広げたく思っていましてね。いろいろなところを見て回りたいのです」


「へ~。そうなの。私たちもこの町に来る前はダンジョン都市の」


(お。ダンジョンだって。今ブリジアさんがいいこといったぞ。みんな注目)


「ハイイロウルフだ。前方に5体いるぞ」


と会話の途中で馬の御者をしているメンバーから激が飛ぶ。

緊張が走るクランメンバーである。


(たしかDランクのモンスターだよね)


依頼書を見て思い出すおっさんである。

馬車を止め、戦うらしい。

最後に乗ったおっさんが最初に降りると前方30メートルのところに5匹のオオカミが見える。


(ウインドカッター)

(ウインドカッター)

(ウインドカッター)

(ウインドカッター)

(ウインドカッター)


(経験値は1匹50の250か)


風魔法Lv1を使い、瞬殺していくおっさんである。

クランメンバー全員が下りるころには戦いは終わっている。


「ちょっと全部倒したじゃない」


不満を言うブリジア。

馬車に乗りこむクランメンバーである。


「申し訳ございません。魔法は回復のために控えていただけませんか」


「あ。はい。すいません。そのようにします」


(注意されてしまったぜ。まあ回復要員で入ったしな。無理に倒すこともあるまい)


「Bランクのクランメンバーの前だからって。あまり張り切らないでね」


おっさんが気合を入れて張り切ってしまったことになったらしい。


移動は進んでいく、するとまた、御者をするクランメンバーから号令がかかる。


「敵が前方3体。オークと思われる」


(お。オークだ。豚の顔の2足歩行だ。異世界あるあるだな)


最後に乗り込むので最初に降りるが今度は何もしないおっさんである。

静観しながら戦いを見る。


(ルルネ村からの道中の時は敵はいなかったのに、今回は結構モンスターに遭遇するな。オークってたしかCランクだっけ。魔法の威力確かめたかったな)


戦いを静観しながら、どうでもいいことを考えるおっさんである。

陣形を組んで囲むように倒していくクランメンバーである。


(槍でけん制しつつ、斧と剣で倒すのか。もう戦いは終わりそうだな。どれどれ経験値はと)


Cランクのモンスターの経験値を確認しようとタブレットを確認すると大変なことに気付く。


(え。経験値入らないんだけど)


3匹のオーク全て倒すが経験値が入らないのである。


(まじか。戦闘に参加していないからか)


割と厳しめな経験値分配の設定に愕然とする。


(だから、後方職はレベルが上がらないんだろうな。レベルが上がらないから、回復魔法の効果も弱いと。じゃあ戦闘中にクランメンバーの回復をすれば解決するか)


次の検証に入るおっさんである。

同じように馬車に乗り込む。


「だれか回復魔法が必要な方はいますか」


「ああ、たのむ」


斧を持っている男から声がかかる。


「ヒール。ほかにいませんか」


「あんた回復魔法も発動が早いのね。私もお願い」


「どういたしまして。ヒール」


「魔力量は大丈夫かい」


MP残量を心配するクランリーダーのカイトである。


「大丈夫です。あと100回は大丈夫です」


100人乗っても大丈夫みたいなノリで答えるおっさんである。


「ちょ。ちょっと。そんなに無理しなくていいのよ。え。何さっきから張り切っちゃって。今クランメンバーの募集していないんだけど」


「張り切っていません。クランメンバーの参加も希望していません。回復魔法の残回数はクランの生死にかかわりますのでお伝えしているだけです」


(たまに野良でパーティーに入って、できないのにできるとか。その逆もあるけど。それを伝えないのはマナー違反だからな。できることできないことははっきり言わないとね)


ゲーム脳が再発し淡々と話すおっさんである。

ちなみに回復魔法Lv1なら、あと200回は大丈夫である。


移動を始めた馬車の中で沈黙が生まれる。

そんな中カイトが状況確認のために沈黙を破る。



「100回もできるって本当かい」


「もちろんです。魔力量は割と多いかもしれませんね」


(MP回復薬はない。MP自然回復の設定のせいで冒険者活動しづらい。だからレベルも上げずらい。攻撃魔法で参加しても注意され。パーティーの中でも経験値が入りずらいと。後方職はかなりの不遇職だな。スキル取りまくった、おれの方がほかの後方職に比べてMPは高い方だろう)


「さすが、冒険者ギルドがおすすめするだけはあるね。聞いたんだけどフェステル家とつながりがあるって本当かい」


「つながりですか。特にそのようなものはありませんが。先日、ワイバーンの件で報酬をいただきました。レイ団長という方にです」


「え。レイ=クレヴァイン団長に直接もらったってこと」


「そうです。副団長と一緒に冒険者ギルドでもらいました」


「わざわざ直接そのために、ギルドにイリーナ副団長と来たのか。ケイタさんはただのDランク冒険者じゃないんだね」


(おかげで危うく剣の錆になるところだったけどね)


「どうでしょう。ほかの魔法使いのことはあまり分からないので」



その日はそのあと目的地の途中で野営をすることになる。

夜番の順番を決めるというところでカイトから声がかかる。


「当然、ケイタさんは夜番必要ないからな。魔力量を回復させてください」


(まあ、そうなるよな。完全回復に6時間の睡眠が必要な世界なんだからな。このあたりは魔法を使う後方職にとってうれしい設定だな)


「助かります。お言葉に甘えさせていただきます」


夜番から外れて熟睡をするおっさんであった。





・・・・・・・・・


「さっきの話どう思う」


「何が、ケイタさんのこと」


「うん。回復魔法100回使えるなんて聞いたことないんだけど」


おっさんが眠っているころ、ブリジアとカイトがひそひそと会話をしているようだ。

移動中に話したおっさんの話が気になっているようだ。

情報網が発達していない異世界にとって常識を覆させられることは何よりも怖いのである。


「まあにわかには信じられないことだけどね。まあ今回の指名依頼で支部長ご推薦の方だし、フェステル家も目にかけているのは本当そうだよ」


「う。うん」


「まあ支部長からケイタさんに何かあれば報告してほしい言われてるから変わったことがあれば報告しよう。そういえば故郷の話とか聞いてほしいとかいってたね。なんだろうね。今回の回復魔法100回使えるって話も含めて何かあれば報告しよう」


「そうだね」


「明日も早いからもう寝よう。お休みブリジア」


「うん。お休み」

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