第26話 MP回復薬

おっさんが出ていった後の会議室にスーツに身を包んだ60近い1人の男が入ってくる。

この男の名はセバス=チャンドル

フェステル家の家宰である。


「イリーナ副団長。ハラハラさせられましたぞ。もう少し落ち着いて対応できなかったのですか」


セバスはこの部屋の隣の部屋から様子を伺っていたらしい。

どうやらおっさんの気配察知のレベルでは察知できなかったらしい。


「申し訳ありません」


頭を下げ謝罪をするイリーナ副団長である。

家宰は副団長よりえらいのである。


「いや、まあよいです。おかげで貴重な話が聞けましたぞ。ケイタと申しましたか。大魔導士マリウスの弟子だそうですね。マリウスとは素晴らしい魔法使いのようですな。ワイバーンを単騎で狩れる魔法使いを一人前として認めないほどにな。これは大変貴重な情報である。御当主様もお喜びになることでしょう」


大魔導士マリウスが独り歩きしだした瞬間である。


「大魔導士マリウスか。聞き覚えはありませんね」


今まで一切話さなかった、冒険者ギルドの立会人は口を挟む。

この細い20前後に見える男がフェステル支部の副支部長を務めている。

20前後に見えるが150歳を超えるエルフである。


「うむ。冒険者ギルドでも調べておいてほしいものですね。山奥で魔導の研究をしてるらしいですぞ。もしかしてどこぞの、元宮廷魔術師かもしれぬ」


「調べておきましょう。それはそうと。ケイタは回復魔法も使えるという話は本当ですか」


回復魔法について質問をする副支部長。


「うむ。ルルネ村で回復魔法を惜しげもなくふるまっておる。魔力量も多いという報告もあります。エルフである支部長の魔力量ほどではないでしょうが。それがどうかしたのですか」


なぜそのようなことを聞くのかという顔の家宰のセバス。


「いえ。指名依頼で対応中の、モンスターの異常行動についての調査依頼はご存知でしょうか」


「当然だ。騎士団が冒険者ギルドに依頼したのだ。早く対応してほしいものだ」


レイ団長が口を挟む。

レイ団長の指示で冒険者ギルドに依頼したのだ。

副支部長も分かっていてこの場にいる騎士団長の前で話を持ち出したのだ。


「指名を受けたB級クランの『疾風の銀狼』の回復役が現在治療中でしてね。ちょうど良かったなと思いましてね」


冒険者ギルドでの話は続いてく。


・・・・・・・・・





街中をそそくさと歩くおっさんである。


(ふう。命拾いしたな。姫騎士って実際会うと怖いんだな。立場も身分も違うしな。そういえば報酬いくらだったんだろ。)


レイ団長からもらった小袋の紐を開く。

中には金貨10枚が入っている。


(お。太っ腹だな。100万円分か。儲け儲け)


ゴブリンキングの魔石の売却益で手に入れた金貨10枚を喜ぶおっさんである。


(さて次はと)


おっさんはタブレットの『メモ』機能に載せたTODOリストを確認する。


(今日は薬屋にいってから、草原に放置した土魔法の様子を見に行かねばならんからな)


大通り沿いにある薬屋を目指すおっさんである。



(お。ここだな。薬草っぽい植物の看板の目印があるぞ)


タブレットの『メモ』機能はもちろん起動させている。


【ブログネタメモ帳】

・薬屋にいってMP回復薬さがしてみた


「すいま~せん」


薬屋の中に入っていくおっさんである。

中には各種薬品が陶器のようなものに入って棚に並んでいるようだ。


(窓は木窓だし、薬は陶器に入ってるのか。どうやらガラスがない世界か。ずいぶん歴史が停滞しているようだな)


「なんだね」


奥の方に、ばあさんがカウンター越しに座っている。


(ルルネ村もそうだが、薬屋はばあさんがするものなのか)


どうでもいい分析をするおっさんである。


「薬を探しておりまして」


「ほうほう。何に入り用だね」


「魔力を回復させる薬はありますか」


「はて。そんなものはないさね」


「え、ないんですか?」


(む。ないのか。ルルネ村にもなかったしな)


「ないさね。うちにあるのは傷薬と病気に効く薬だけさね」


「この店にないのですか?それともそんなもの世界にはないということですか?」


「ん~そうさね~。世界のことは分らないよ。でもそうさね。昔死んだばあさんがエルフの隠れ里にそんな秘薬があるという話をきいたことがあるさね。なんだい冷やかしかい」


(秘薬レベルか。ほぼないということだな)


「この中で一番高価な薬はありますか」


「それなら。これさね」


そういってカウンターの奥に入る。


「効果を聞いても?おいくらですか」


「エニムル万病薬さね。金貨3枚だよ」


(病を治す薬か。エニムルってなんだ?薬1つ30万円か。高いか。値段が天井知らずの異世界だとまあまあなのか。)


「病気でも毒でもなんでも効果があるんですか。エニムルってなんですか」


「質問が多いさね。まあ大概のものには効くさね。ただ即死するような猛毒だと薬を飲む前に死ぬさね。エニムルも知らないだって。エニムル=エステトという偉い薬師さね。これは王都から取り寄せた品さね」


(そういえば、俺のヒールは傷には効くことは確認できているが病気には効くんだっけ?あとでスキル欄に病を治す魔法がないかチェックだな)


「それを1つください。それと、この店で一番高い傷薬を2つください」


(まあ。保険だな。MP回復薬のない世界って分かったしな。あとで頭を整理するか)


「そんな大金大丈夫さね。これがジェルミン回復薬だよ。1つ金貨2枚さね。ジェルミンっていうのはウェミナ大森林の奥地にいる珍しい緑色のスライムのことさね。そのスライムの体液を精製すると薬になるさね。大概の傷に効果あるさね」


何度も質問するから一度に全部説明をする薬屋のばあさんである。

エニムル万病薬は小さな8cmほどの陶器に入っているようだ。

陶器の蓋が取れないようにしっかり紐で十字に結んである。

ジェルミン回復薬は緑色の3cmほどの楕円形の錠剤だ。裸で渡される。


「では金貨7枚ですね」


薬屋のばあさんに金貨7枚を渡す。


(そういえば、異世界に来てから値切ったことないな。常に言い値で買ってるな)


値切ったことのないただの会社員にはハードルの高い話である。

おっさんはレイ団長からもらった残りの金貨3枚をルルネ村の村長から渡された小袋にいれ、レイ団長からもらった袋に2種類の薬を入れる。


「毎度あり。お兄さんお金持ちさね」


(さてと次は草原だな)



門を抜け、タブレットの『地図』機能で、何となく覚えた土魔法で作った石壁を目指すおっさんだある。


40分ほど門を出てたどり着くのである。


「あったあった」


やっと見つけて声がもれるおっさんである。


(さて。予定が狂ったな。まずは治癒魔法なるものがあるか確認だな)


(スキルオープン)


タブレットのスキルで治癒があるか検索をする。


『治癒魔法Lv1 必要ポイント1Pポイント』


(普通にあった。ちなみに毒や解毒で検索してでるのかな)


どうやらスキル欄には出てこないようだ。


(治癒魔法一本で病気を全体的にカバーしている感じなのか)



「さてこんなことをしにきたわけでない」


薬屋で得た情報と目の前の石壁を見る。


(タイムオープン)

10:26


(20時間ほど時間が経つのに石板が消えていないな。風化が始まったふうでもないしな。さてと、決めておいたスキル取って検証するか)


・知力向上Lv3 必要ポイント100ポイント

・魔力消費低減Lv1 必要ポイント100ポイント

・治癒魔法Lv1 必要ポイント1ポイント

・治癒魔法Lv2 必要ポイント10ポイント


さっきの薬屋でのできごとと、ここに来るまでに考えていたスキルを取得する


「INTもずいぶん上がってきたな。スキルレベル3だと素のステータスの2倍っぽいな。

よし検証をするぞ」


Lv:13

AGE:35

HP:210/210

MP:225/225

STR:44

VIT:62

DEX:62

INT:270

LUC:69


アクティブ:火魔法【2】、水魔法【2】、風魔法【2】、土魔法【2】、回復魔法【2】、治癒魔法【2】

パッシブ:体力向上【2】、魔力向上【2】、力向上【2】、耐久力向上【2】、素早さ向上【2】、知力向上【3】、幸運力向上【2】、魔法耐性向上【1】、魔力消費低減【1】、気配察知【1】


加護:検索神ククルの加護(小)


EXP:4693


PV:4535ポイント

AS:167ポイント


(ストーンシールド)


土魔法Lv1を使い、元ある壁と大きさを比較する。


(さすがに前回作った壁とだいぶ違うな。縦横2m50cm、厚さ50cm程度か。今作った、壁の方が縦横50cmほどでかいぞ。厚さも30cmから50cmくらいになってるな。ってお。MP消費1だぞ。MP消費半分きたか)


(ストーンウォール)


土魔法Lv2を使う。新しく作った壁の後方新たに作成し、大きさを比較する。


(縦横5mの、厚さ1mか。かなりの石壁だな。MP消費は4か。魔力消費低減レベル1はMP消費割合は2割減だな。MP消費の小数点は切り捨てになるか。ふむ土魔法レベル1とレベル2は大きさ4倍になるからMPの消費は同じと。一度に使うなら土魔法レベル2だな。強度も違うしな)


昨日作った土魔法Lv1の石板を見る。


(さて。前回の検証では、レベル1の土魔法ではレベル1の魔法で破壊できなかったな。INTを上げたから、破壊できるかの確認だな)


(ウインドカッター)


昨日作った壁を簡単に破壊する。


(さていくつかの結論がでたな整理をするか)


そのあとまた小一時間ほどいくつかの魔法を検証し結論を導いていく。


土魔法

・INT依存で大きく厚くなっていく

・INT依存で破壊できる

・目をつぶっても発動可能だが思っていた位置とずれる


魔力消費低減

・MP消費割合は2割

・MP消費小数点は切り下げ

・Lv2取得には1000ポイント必要


(まあこんなもんか。MP回復薬のない世界か。MP消費量がレベル1でも2しか消費しないし、MP消費量も少なくて後方職はあたり職だと思ったんだがな。この辺でバランスが取れているのか。おそらくこの辺が冒険者に魔法使いがかなり少ない理由だと思うな。MP回復薬もない、完全安静6時間を求められる世界で野外での活動は大変だしな)


MP消費量と回復薬からこの異世界の後方職事情を推察するゲーム脳なおっさんである。

おっさんはこの異世界のみでの活動が1週間くらいなのだが、後方職事情を把握しつつあるのであった。


(結論は、土魔法はかなり使える。しかし、レベルが低すぎて丈夫さに問題があるな。Cランク以上のモンスターにどの程度の効果あるか不明だな。次はレベル上げか)


帰りに一角ウサギと薬草を回収しながら、冒険者ギルドに向かって討伐の依頼を受けようと思うおっさんであった。

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