第25話 大魔導士マリウス
ここは1k8畳のおっさんの賃貸マンションの一室である。
「ふう。やっと終わったぞ。あまりブログネタ貯めすぎるのは良くないな。つうかもう4月に入ったな」
おっさんは銀皿亭に戻って一睡したあと、現実世界に戻っていた。
どうやら、ブログネタがたまっていため、全てブログ記事に書き起こすのに丸まる2週間かかったようだ。
フェステル街編
第17記事目 物腰柔らかい防具屋の主人から防具買ってみた
第18記事目 姫騎士現る
第19記事目 冒険者ギルドの適性試験
第20記事目 初めての討伐依頼~ドブネズミを探せ~
第21記事目 フェステルの都繁栄の影~スラムの実態~
第22記事目 冒険者の活動状況予測
第23記事目 要検証~MPの回復~
第24記事目 草原で薬草を探してみよう
第25記事目 土魔法は無限の可能性
おっさんは検索神サイトの画面を見る。
「PVとASもずいぶん増えてきたな。1日平均でPV250。AS30といったところかな。スキルレベル3もいくつか取れそうだな」
検索神サイトのPVとASのポイントを確認しているのだ。
PV:4535ポイント
AS:378ポイント
おっさんはPVポイントを最初に消費して以来ほとんどとっていない。
「レベルアップ時のHPMP全回復の恩恵が大きすぎるんだよな。ある意味命が人より多いといってもいいくらいだしな」
PVポイントの恩恵を考えるおっさんである。
「さてと異世界にいくか」
検索神サイトの
『ブログ記事の投稿が確認できました。異世界にいきますか はい いいえ』
おっさんが『はい』をクリックすると、ふっと目の前の風景が銀皿亭の一室に変わる。
「ただいま」
なんとなく帰ってきた感があるおっさんである。
(さてと。今日はおれに領主の使いの者が用事があるんだっけか。いやな用事じゃなければいいんだが。2の刻に冒険者ギルドだっけ。そろそろいくかな。遅れていって不敬罪で投獄とかいやだしな)
朝食を宿でとって冒険者ギルドに向かうおっさんである。
冒険者ギルドは既に朝のピークを過ぎており、人はまばらになっている。
キツネ耳の受付嬢のところへ向かう。
話しかける前からキツネ耳の受付嬢から声がかかる。
「お待ちしていました。もう御用の方はいらっしゃっております」
(え。遅かったか)
(タイムオープン)
8:41
(20分前に着いたんだけど。やばいのかな)
「すいません。遅かったですか」
「大丈夫だと思います。2階の応接室でお待ちです。お待ちなのは騎士団のレイ団長とイリーナ副団長です」
「え。2人とも面識ありませんが」
びびるおっさんである。
「そうだと思いました。今回は2人とも貴族であり、冒険者になんらかの不都合を発生させないために冒険者ギルドも立会人を設けることになりました」
「どういうことですか」
理解が追い付かないおっさんである。
「説明しますね。冒険者ギルドは独立した組織です。冒険者も独立した組織の一員とも言えます。冒険者への依頼も冒険者ギルドを通して行うようにしており、貴族による一方的な冒険者への命令や依頼がないようにしております。今回は冒険者としても日が浅いケイタ様だと何か不都合な依頼が発生する恐れがあるため立会人を設けるという形になりました」
「なるほど。お気を使わせてしまって申し訳ありません」
「いえいえ。では2階ですので案内しますね。今話した冒険者と貴族との関係は形式的であり絶対ではありませんこともご了承おきください」
そういってカウンターから出てくるキツネ耳の受付嬢の後をついていくおっさんである。
(確か冒険者ギルドって3階建てだっけ。支部のギルドマスターが3階にいるんだっけ)
「こちらです」
「はい」
着いたようだ。
「ケイタ様を連れてまいりました」
(中から返事がないな。本当にいるのか)
キツネ耳の受付嬢がドアノブを持ち、ドアを開けたままにしている。
中に入れということなのだろう。
「失礼します」
(そういえば礼儀レベル1っていうのもあったな。どうしよう。まあなんとかなるか。いや、なりそうになかったら、取ってしまおう。牢獄は嫌だぞ)
中に入ると3人の人が立ったまま待っていたようだ。
「遅かったな」
三人並んで立ってるうちの真ん中の男が入るなり言ってくる。
(残念。遅かったらしい)
「申し訳ございません」
とりあえず頭を下げて謝るおっさんである。
謝れば今までも何とかなってきたのだ。
当然黒の外套は、今日はフードで頭を覆っていない。
「まあかまわんよ。まずは名乗っておこう。フェステル子爵領の騎士団の団長をしているレイ=クレヴァインである。今日呼び立てたのはほかでもない。なんでもルルネ村でゴブリンの討伐やワイバーンの討伐に協力してくれたとか聞いたのでな。わが領土に貢献したのにそのまま何もなしでは領民に示しがつかないのでな。今日はその報酬を渡しに来たのだよ」
(え。お金くれるん)
堅苦しい話かと思いながら聞いていたら、お金をくれるとのことで若干緊張がほぐれるおっさんである。
「それは、えっと、いただいてもいいのでショウカ?」
片言の丁寧語になるおっさんである。
どうやらまだビビっているらしい。
「もちろん構わんよ」
(正面に立つこわもてでガタイのいい40くらいの男がずっと話しているな。ってエルフがいるぞ。この異世界にもエルフいたんだ。男だけど。ん?もう1人は、どこかで見たような。あっ!例の街であった騎士団の行進のときにいた姫騎士様だ。姫騎士様はしゃべらないのかな)
姫騎士を見てタブレットの『メモ』を思い出しネタ帳に記録を始めるおっさんである。
【ブログネタメモ帳】
・姫騎士とあってみた(別件だけど)
姫騎士の方を見るおっさん。
キッと姫騎士に睨まれる。
(あふ。睨まれた。見てはいけなかったパターンね)
「ん。どうしたのだ。いらぬのか」
握手するように手元に小袋を差し出すレイ団長。
(え。これは近づいてもらってもいいのかな)
「あの近づいてもらってもいいのでしょうか」
とりあえず聞いてみる。
「もちろんだ。そうでないと受け取れぬであろう」
「で、では」
ゆるゆると近づいて、つまむように持つ小袋を両手でもらうおっさんである。
「うむ」
「ありがとうございました」
「それでな。今後の対策もあるのでな。少しその時の状況を聞きたいのだが構わぬか」
(なんだろう。立ったまま会話は続いていく感じなのかな)
部屋の奥にあるソファーに座る気配がない3人である。
そしてレイ団長以外名乗らないようだ。
「はい大丈夫です。何から話しましょう」
「まあルルネ村の住人からも少し話を聞いたのでな。確認なのだが、ゴブリンキングを倒したのはまことか」
「え、ゴブリンキングですか?どのゴブリンでしょうか。ちょっとゴブリンに詳しくなくて私が倒したとは申せません」
(あれ?どのゴブリンだろう。やっぱり一番大きくて倒すのに苦労したあれだよな)
「なに?そうなのか。ゴブリンの巣で魔法を使ったのはお前ではないのか」
「いえわたくしめでゴザイマス。その中にゴブリンキングがいたかは分かりません。何度も魔法を撃って倒したゴブリンならいました」
団長の顔が険しくなったのでさらに丁寧になるおっさんである。
「なるほどなるほど。いやわかったそれでよい。なぜゴブリンの巣の中に入らなかったのだ」
「入る理由がありませんでした」
「ふむ。それは」
「はい。巣の入り口に出てきたゴブリンとの闘いに苦戦しました。また魔力にも限界があるので無用なリスクは取りたくありませんでした」
「なるほどな。村のためにワイバーンは討伐したのであろう。あれは無理をしたのではないのか」
「環境としては問題なさそうだったので倒そうと判断しました」
「よく崖を利用しようと判断できたな」
「まあ城壁を利用しない騎士はいないかと」
「騎士だと?きさまっ!先ほどから黙って聞いておればっ!!」
(やばい騎士に騎士を例えに使うとまずかったか)
おっさんは会話の途中で緊張感が抜けていたようだ。
ずっと黙っていた姫騎士がずいぶん怒っている。
手が剣にむく。
「ひぃ!!も、申し訳ございません!何分田舎者でして」
ものすごい勢いで土下座して謝罪をするおっさんである。
35年一番の土下座である。
「いや許さぬ!!貴様っ、そもそもレイ団長がわざわざ名乗ったのに名乗り返さぬとは無礼にもほどがある」
(やばい超怒ってる。美人が台無しだ。つうかこの状況で立会人のエルフ仕事しろ。何黙ってるねん。貴族からの不都合な依頼の話ではないから黙ってるのか。お前は真面目かっ。ここで礼儀のスキル取得しても手遅れなような気がする)
土下座しながら先ほどから一切仕事をしない冒険者ギルドの立会人のエルフに怒りを覚えているようだ。
「名乗り遅れて申し訳ございません。私は魔導士の見習いをしているケイタと申します」
「とうとうソレ(見習い)を名乗ったな。そこになおれ!剣の錆にしてくれる!!」
「ひぃぃ!!なにゆえに!?」
(名乗ったら剣の錆になる異世界だったんだ。つうか異世界に来たばかりで現実世界に戻れんよ)
どうやら敵に囲まれたようだ。おっさんは逃げられない。
「どこの世界にワイバーンを1人で狩れる見習いがおる」
(え?見習いがダメだったのか)
「さ。3人にてございます」
(ヨハンもコルネもおったし)
「一緒のことだ!きっ、貴様、また騎士を愚弄する気かっ!!」
剣が木窓から入ってくる日光に照らされ、刀身が光る。
剣は半分ほど鞘から出かかっている。
「ひいいいぃ!!!」
「まあ良い、その件についても聞きたかったのだ。なぜ見習いと名乗って村人を欺いたのだ。それだけが分からなかったのだ」
剣を収める姫騎士。
どうやら姫騎士は怒りすぎて逆に落ち着いてしまったらしい。
「わしもな。ワイバーンとゴブリンキングの討伐も高く評価しているのだがそこに引っかかってな。できれば話してくれぬか」
レイ団長も聞きたいようだ。
(なんだこの話は。見習いってそんなにダメなことなのか。どうしようレベル1でこの世界に来たから見習いと思ったんだが。話しながらいい方向にもっていかねば)
「えっと。まず、私は魔導士を目指す修行中の身です。なので見習いと名乗りました」
「その腕でか」
「腕は関係ありません」
「なんだと。どういうことだ?」
「お話ししてもご理解いただけないかもしれません」
「よい話してみよ」
「私は魔導の極みを志す身ですが、ここでまた騎士で例えてもよろしいでしょうか」
「なんだと!まあよい。いってみよ」
一瞬顔に出るが、怒りを抑えるイリーナである。
「私は魔導の道を志しております。騎士様も騎士道を志しておられるのではないのですか」
「当然だ」
「騎士は1人で育つのでしょうか」
「なに?どういう意味だ」
「騎士は模範となる上官や師範。もしくは兄や父から騎士道の教えを受け、研鑽をつむのではないのでしょうか」
「もちろん当然だ。私は父上が誇りである。父上に認めてもらうために日々騎士として研鑽を積んでいる」
(お。これはいい感じの返事かもしれぬ。これならなんとなるか)
「その時、まだご自身で未熟だと感じているとしましょう。ご自身でです」
「う、うむ。騎士の道は険しいからな」
「そのときその辺の門兵や兵士から『お前は十分な騎士だ。これからは立派な騎士と名乗ればよい』と言われたらどうされますか」
「そんなことありえるわけがなかろうが!父上から認められて初めて騎士を語れるというものだ」
声を荒げるイリーナである。
「ありがとうございます。それでは、ここから私の話をさせていただきます」
「む」
「私は生まれてすぐ捨てられ、ものごころ付いた頃から師匠であるマリウス様に育てられました。見も知らずの私を育てていただいた大恩ある師匠に追いつくべく、35年間、魔導の道を歩んでまいりました。私の見習いの冠を取れるのは、父であり、魔導の師である大魔導士マリウス様ただ1人をおいてほかにおりません」
嘘に塗り固められたおっさんの設定はとうとう1人の大魔導士を生んだ。
大魔導士マリウスが異世界に誕生した瞬間である。
「なっ…!」
絶句して動けなくなる姫騎士である。
「先ほど腕ではないと申し上げ、またルルネ村でも見習いと語ったのも嘘偽りではございません。まだ私は師匠から一人前だと認められておりませんのです。私など師匠に比べたら、まだまだなのです」
土下座のまま語ったおっさんである。
室内に沈黙が広がっていく。
「そうか。なるほど。それでは名乗れぬな」
レイ団長が沈黙を破る。
「はい」
「しかし見習いの魔導士がゴブリンキングやワイバーンを倒したなど、現場の確認で混乱したのも事実である。次回からはわざわざ魔導を極めたという必要もないが、わざわざ見習いと語る必要もない。それは分ってくれるな」
「申し訳ございませんでした。以後そのようにいたします」
(おお。丸く収まった。セーフ。ギリギリセーフ。今度からは気を付けよう)
「うむ。それと村のみんなも魔法で癒してくれたそうだな。領民についても礼を言う。本日は時間を取らせて悪かったな」
場をまとめた、レイ団長である。
「いえ、では失礼します」
そそくさと足早に出ていくおっさんであった。
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