第24話 おっさん、薬草を探す
門を抜け、街を出たおっさんである。
検問には嫌な思い出がある。
どうやらすんなり出れたようだ。
(ふむ。街を出るときは何もないようだな。出るとき門兵に聞いたら冒険者の証のプレートを見せたら、街に戻れるらしいな)
(タイムオープン)
13:07
(結局グダグダして結構な時間になったな。さてブログネタに薬草でも探すか)
【ブログネタメモ帳】
・草原で薬草を探してみよう
街を出て先ほど見せてもらった薬草を思い出す。
(マップオープン)
タブレットの『地図』機能には自身を表す緑の点のみが表示されている。
(あれ。薬草が表示されないぞ。この辺というか半径50mの地図の範囲内にないのか)
そう思ってずんずん街から離れていく。
『地図』を確認しながら街を離れて10分経過する。
『地図』を確認しながら街を離れて20分経過する。
『地図』を確認しながら街を離れて30分経過する。
(全然見つからんぞ。いやおかしいだろ。もう街から2km以上離れたわ)
街の城壁はずいぶん小さく見えている。
さらに街を離れていきながら1つの考えにたどり着く。
(もしかして生きた薬草と乾燥した薬草で地図の認識が違うのか。そういえばドブネズミを倒したとき地図から消えたかな。意識してなかったな。覚えてないな。この周辺で探し回るか)
街から離れることをやめ、周辺を探し回るおっさんである。
(そういえばこの辺は薬草以外にモンスターも湧くんだっけか。冒険者ギルドでこの世界のモンスターについてじっくり調べたほうがいいのかな)
薬草が見つからないので、今後の予定について考える。
(そういえば、魔道具屋にも行っていないしな。少し今後の予定を整理するか)
・冒険者ギルドでモンスターの生態調査
・道具屋にMP回復薬はあるのか
・魔道具屋の実態調査
・次の目的地
(まあこんなもんかな。次の目的地はできればダンジョンがいいな。未攻略のダンジョンとかないかな。ダンジョン奥の秘宝とか探してみたいぞ)
『メモ』に記録を取る。
妄想にふけりながら、ある草に目がいく。
「お」
声がもれるおっさんである。
(あったあった。これはリモネ草だな。やはりヨモギのような草だな。そして、やはり地図には表示されていないな)
『地図』とリモネ草を見比べ続ける。
(生えている状態では地図に表示されないが、もしかして抜いてみたらいいのか)
冒険者ギルドで見せてもらったサンプルは根まであったことを思い出す。
引っこ抜くおっさんである。
(お。周辺に赤い点が表示されたぞ。そういうことなのか)
引っこ抜いた瞬間に『地図』に点在する赤い点が表示される。
(ほうほう。ていうか半径50mの範囲しか赤い点がないな。これが目標を認識できる限界なのか)
赤い点を目指しながら、ダブレットの『地図』機能を正確に理解しようとする。
(いいね。リモネ草だ。これを引っこ抜いて赤い点が地図から消えたら検証結果が分かるぞ)
リモネ草を根っこごと引き抜くおっさんである。
『地図』に表示されている目の前の赤い点が消える。
(やはり、倒したり、手に入れると目標の認識が終わるということか。まあ100本薬草を抜いて100個の点が永遠に地図に表示されたら意味がないしな。ならココラナ草も探さないとな。リモネ草を回収しつつ、ココラナ草探しながら、検証結果を整理するか)
『地図』に表示されているリモネ草を回収しながら頭で整理を進めていく。
(お。これはココラナ草だな。レンゲ草っぽい花が咲いてるぞ)
ココラナ草も根っこから引っこ抜いて、冒険者ギルドでかった丈夫な麻袋に入れていく。
(あれ。これで2種類に増えたのに赤い点が増えないな。目標として表示されるのは1種類だけか)
ココラナ草を抜いても、ダブレットの『地図』機能の赤い点が増えないことに気付く。
(ココラナ草に目標を変えるか)
目標をココラナ草に意識的に変えると赤い点の場所が変わる。
(目標が変わったな。ココラナ草とリモネ草両方意識してみるぞ)
どうやら赤い点は増えず変わらないようだ。
(むむ。いやまだあきらめるのは早い。薬草と認識するぞ。現実世界で地図検索機能を駆使しまくった現代人の力を見せてくれる)
目標を薬草と認識すると赤い点が増えた。
ココラナ草とリモネ草両方を目標として『地図』に表示したようだ。
「やったあああああああ」
異世界の草原でおっさんは片手を天に掲げて、高らかに勝利の雄叫びを上げる。
(これは検索方法の違いだな。焼肉屋と検索すると焼肉屋は表示されるが、ラーメン屋は表示されない。飯屋と検索すると飯屋なら全て検索できるとそういうことか。さすが検索神様だぜ。検証結果を整理するぞ)
ダブレットの『地図』機能
・一度倒すか手に入れないと目標と認識しない
・目標として確認できる範囲は半径50m
・倒すか手に入れると地図の目標から外れる
・個別の目標にすると個別の目標が表示される
・ジャンルをまとめるとジャンル全体が地図に表示される
大声を出したためか、近くで何かが動いたような気がするおっさんである。
(む。気配察知を取ったためか、何かが近づいてくることが分かるぞ)
草原の茂みから何かが近づいてくるのが分かる。
おっさんが身構えていると角の生えた中型並みのウサギが草の茂みから突進してくる。
既におっさんとの距離はかなり近い。
「うおっ。ストンシールド」
「ガッキン」
2m四方の結構大きめの石の壁が角の生えたウサギとおっさんの間に現れ、突進を防ぐ。
小さな衝撃音が壁から発生する。
回り込もうとする角の生えたウサギ。
「ウインドカッター」
壁の端から姿を現した角の生えたウサギの腹を裂いて絶命させる。
「こいつは一角ラビットだな」
以前冒険者ギルドで記録したタブレット『メモ』機能で確認をする。
(一角ラビットが結構この草原にいるのか)
『地図』の目標を一角ラビットに変更する。
『地図』の範囲内に2匹表示される。
(半径50mに2匹か。さすがに一角ラビットと薬草は一緒の地図に載せられないか。冒険者ギルドの依頼から全て違うしな)
どうやら『地図』の目標として同時に表示させるには限界があるらしい。
(つーか土魔法レベル1は壁なのか。まあとっさに壁を意識できたしな。そういうもんなんだろう)
近くに一角ウサギがいないので、興味は壁にいく。
(一角ウサギの突進でも傷一つないのか。結構丈夫だな。厚さは30cmくらいか。結構大きいな。PTメンバーを守るにはレベル1でもこれくらい必要なのか。地面からどうやって生えているか分らんがびくともしないぞ)
全力でおっさんは押すが地面から生えたストンシールドを揺らすこともできないようだ。
(土魔法レベル2はどうだ)
同時に取得した土魔法Lv2も試めすようだ。
(ストーンウォール)
片面4メートル四方の壁が出現する。
壁の厚さは60cmほどあるようだ。
「まじか。この大きさ厚さでMP5消費か。まあ使用条件は限られているしな。いやいやダンジョンで壁を作って休んだりできるぞ。消すことはできるのか」
壁の無限の利用価値に胸を躍らせるおっさんである。
ストーンウォールの消去を念じるおっさんである。
ふっと壁が消える。
(あとは壁で積み木のようにして重ねたり、囲ったり、一部消したりできるのかな)
大きな積み木のおもちゃを手にしたおっさんが将来の冒険を夢見て検証を続ける。
1時間ほど経過してある程度の結論が出たようだ。
・土魔法の壁はかなり強固である
・レベル2の壁はレベル1の攻撃魔法で無傷である
・レベル2の壁はレベル2の攻撃魔法で無傷である
・レベル1の壁はレベル2の攻撃魔法で破壊できる
・消去は魔法1回分単位でしかできず部分的に消すことはできない
・上に重ねることもできる。レベルが違う土魔法でも可能
・積み重ねる際に元ある壁に垂直や斜めなど自由に出現させることができる
・重ねたり横に並べると壁と壁の接合面が消え一体になる
・くっつけた2つの壁でも魔法1回分単位ごとに消去できる
(魔法の攻撃テストから察するに、ある程度以上の高ランクモンスターからの攻撃なら破壊される恐れがあるな。あとはこの壁がいつまで存在できるかだな。ダンジョンで壁を作ってから、爆睡してたら壁が消えましたではシャレにならんからな)
土魔法Lv1の壁を1つ残して全て消したおっさんである。
なお、おっさんはダンジョンダンジョン考えているが、おっさんはダンジョンがこの世界にあるのかどうかまだ知らないのである。
(時間をメモして。もう16時か。MPも半分くらい使ったし、もう少し薬草と一角ウサギ狩って街に戻るか)
それから街に戻りつつ、1時間ほど狩りを続けて、もと来た道を戻る。
(むむ。やはりレベルの影響かな。一角ウサギ3匹持ってるが、そこまで見た目の割に重くないな)
初めてレベルアップによるステータスの上昇を感じるおっさんである。
(今日はずいぶん検証できたな。報告が済んだら一度現実世界に戻ってブログ起こさないとな。一週間じゃ書ききれないくらいのネタができたぞ)
「む。冒険者か」
「はい。これです」
門までたどりついたおっさんは行列に並び、冒険者証と荷物の中身を見せ、門をくぐる。
入るときも、特に何もないようだ。
冒険者ギルドに着いたおっさんはキツネ耳の受付嬢のカウンターに並ぶ。
(冒険者ギルドもこの時間は混んでるな。おっ。魔法使いっぽいのもいるな。おれだけではないんだな)
あまり魔法使いがいないので心配になっていたらしい。
順番を待ちながら、冒険者の様子を伺うおっさんである。
そしておっさんの順番が回ってくる。
「これをお願いします」
「はい。薬草以外も狩ってきたのですね。一角ウサギですか」
「そうです。飛び出てきましてね。ついでに狩りました」
「ではリモネ草7本とココラナ草12本、一角ウサギ3体で銀貨5枚銅貨3枚になります。薬草は買取という形になりますのでこちらでいただきます。一角ウサギについては素材の買取も行っていますのでそちらに持ち込みください」
「はい。ありがとうございます」
(2時間ほどの狩りで5300円ほどの稼ぎになるのか。実際のEランク冒険者だとタブレットもないし一日駆けずり回ってもこんなに稼げないかもな)
買取センターを見るとこちらも行列ができている。
獣人が対応しているわけではないので適当に並ぶおっさんである。
「何を買取希望だ」
受付担当の筋肉質な男から単刀直入な質問が飛んでくる。
「一角ウサギの解体のみのお願いとかできますか」
「解体もやってるぞ。肉が必要なのか。角と魔石をこちらで引き取るなら無料でできるがどうする」
(そういえばモンスターだったな。魔石もあるのか)
「それでお願いします。3匹ともお願いしますね」
「じゃあ四半刻(30分)まってくれや」
「はい」
(ドブネズミの時はもらえなかった経験値が15増えてるな。一角ウサギは一匹5の経験値か。この辺がモンスターと動物の違いかもしれないな)
待っている間にステータスを確認し、それでも時間が余るので待ち人数が減ったキツネ耳の受付嬢に声をかける。
「すいません。ここにはモンスターの生態や世界地図みたいなものはあるんですか」
「はいございますよ。2の刻から5の刻まで冒険者に開放をしています」
「ありがとうございます」
「おい。できたぞ」
少し話し込んでいると買取センターの筋肉質な男から声がかかる。解体が終わったらしい。
「ありがとうございました」
麻袋に解体した肉を入れて冒険者ギルドを出る。
(ふむ。日が暮れたスラムも結構怖いな)
おっさんはドブネズミを食べているスラムの家族が心配で、一角ウサギの肉を持ってきてあげているようだ。
(まあこれもただの偽善だな。誰が何を食べるか俺が言うことではないしな)
家族に肉を渡し、宿に帰るのであった。
日が暮れたスラムにたたずむ漆黒の外套のおっさんはきっと怖かったであろう。
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