第22話 報告会
ここはスラムの街並みとはうって変わって、美しい模様の絨毯を敷き詰められた廊下である。
廊下の壁には壁画が飾られ、各所にアンティークの甲冑やオブジェが置かれている。
ここはフェステルの街の領主であるアロルド=フォン=フェステル子爵の館である。
女性が部下を引き連れて2人で歩いている。
「あんなたいそうなことをしなくてもよかったのだ。何も別にいちいち大通りをねり歩く必要はない。街の北門から直接、館に入ってこれるしな」
「副団長またそんなこと言って。街の人に顔を出すのも騎士団の大切な仕事ですよ。討伐だけが騎士団の仕事ではないですよ」
「分かってる。分かってはいる」
いつもの会話のようだ。
副団長のイリーナと部下のロキは館の廊下を歩きながらさっきの街の大通りを練り歩いたことについて話をしているようだ。
2人はどうやら領主に、先のゴブリンの討伐について報告に伺うために廊下を歩いている。
「副団長。これはお疲れだったな。それにロキもな」
廊下にいた40近い壮年の男が声をかけてくる。
「おお。これは団長。ただいま戻りました」
「うむ。領主様への報告はわしも一緒に話を聞こうと思う。それにわしも報告せんといかんことがあるんでな」
この男は団長のようだ。
フェステル子爵領の騎士団の団長であるレイ=クレヴァインである。
「そうでしたか。領主様はもう広間に」
返事をするイリーナ。
「いや話も長くなりそうなんでな、会議室でお待ちだ。それで私がここで待ってたというわけだ」
どうやら普段の広間での報告会ではなく会議室で行うことになったため、その旨を伝えるために団長は廊下で待っていたようだ。
「それは申し訳ありませんでした」
「なに構わんよ。領主様もお待ちだ。いくぞ」
「はい」
足早に廊下を歩く3人であった。
ここには領主、家宰、団長、副団長、ロキの5名が会議室の年季の入った円卓に座っている。
一通りゴブリン討伐時に起きたことを報告するイリーナである。
「ほうほう。そういうことがあったわけか。ご苦労であったな」
一番の上座に座っているダンディな50手前の男が、フェステル家の当代の当主であるアロルド=フォン=フェステル子爵だ。
今回ゴブリン討伐隊の代表を任せたイリーナの話を聞いて、関心をしめしている。
「はい。ゴブリンの脅威もほとんどなく、つつがなく討伐を終えたしだいです」
「それでその魔導士の見習いのケイタというものだな。イリーナ副団長はどう見る」
イリーナにケイタの印象を聞くフェステル子爵である。
「旅の魔導士のようです。村の人の話を聞いたところ、森の中で修行していたのかあまり世間慣れしていない印象を持ちました。しかしかなり強いモンスターの出る森で修行をしていたのか戦い慣れをしています。また、これも村の人からの話ですが、回復魔法を惜しげもなく村人に使い、自ら倒したワイバーンの肉の大半を村に置いていったそうです。気質としては善良かと」
村やゴブリンの巣、ワイバーンと戦った水飲み場を思い出しながら報告をするイリーナ。
「魔導士の見習いは、街にはもう入ってきているんだったな。どうやら検問に引っかかったと門兵がいってるそうだが」
今度は家宰を見てフェステル子爵は問う。
「はい。御当主様。検問に引っかかり投獄したようです。そののち聖教会による神の加護の認定を受け解放されたようです」
「な!?神の加護だと!」
驚くイリーナである。
「それで続けよ」
話を進めるよう家宰に促すフェステル子爵である。
「はい。なんでも検索神ククルという神を信仰しておるようです」
「ほう。聞いたことのない神だな。それで」
「そのあとは銀皿亭という宿屋に泊まっており。街中を散策しております」
どうやら家宰は直近までのおっさんの足取りを把握している模様だ。
「ほうほう。街を歩き回っている。街を見て回っているのか。続けよ」
「それであの」
家宰の手元にある報告書を読んでいたのだが、声が詰まってしまったようだ。
「なんだ。話続けよ」
「いえ。あの。どうも貴族の居住地区の中を見たかったようでして」
「ん」
何を言い出すんだと家宰を見る4人である。
「貴族の居住地区を見たかったようでして、街灯に上って塀の上からのぞき込んでいたところ、貴族地区の守護隊に見つかり注意を受けているようです。どうも投獄するかという話にもなったようですが、聖教会の横やりがすぐに入り、なしくずしになったようです」
沈黙が会議室を満たしていく。
「ははっ。はははははっ。どうやらその魔導士の見習いはだいぶ世間知らずのようだな。ごっ。ごほっ」
静寂の後、フェステル子爵の笑い声が会議室に響きわたっていく。
あまり笑いすぎてむせてしまったようだ。
残りの4人はまだ動けない。
「はい。いかがしましょう」
「興味がわいてきたぞ。ワイバーンの狩りの話も聞きたい。一度呼んでこい」
「それはなりません」
家宰は、魔導士を館に招くのは反対のようだ。
「お前も帝国のスパイを疑っているのか。聞いた話だとだいぶ違うようだが。本人はせっかく貴族の居住区に興味があるんだろ」
「それでもなりません。よくわからないものを家に招くわけにはまいりません。話でしたら私が聞いてまいります」
「そうか。残念だな。イリーナ副団長お前も一緒に行って聞いてこい」
どうやら領主は家宰に押し切られたようだ。
ゴブリン討伐隊に参加したイリーナも一緒に聞いてくるように命令をする。
「はっ」
「それで。帝国の動きはどうなっている。レイ団長」
魔導士の話は変わり、帝国の話に変えるようだ。
「あまりよくない動きがあるようです」
「ほう。また人間に強制的に魔族と契約させる悪魔堕ちをやっているのか」
「その点についてはまだ安定した契約ができていないようです。しかしまた別の動きがあるようです」
「ほむ」
うってかわって険しい顔で団長の話を聞くフェステル子爵である。
「悪魔堕ちは強制的に魔族と契約をさせるのですが、契約後の契約者の使役が難しいという難点があります。契約者は自我が崩壊し暴走することが多いようですので。その使役の実験もかねてモンスターを操ろうという動きがどうもあるようです」
「最近領の周りのモンスターの動きが活発なのはそれが原因か」
「いえ。全てではないでしょう。去年から続く不作の影響もあります。しかし、一部のモンスターによる村の襲撃に帝国がかんでいる恐れがあるということです」
「ほう。領内でそんなことをさせるわけにはいかないな」
「は」
「わがフェステル子爵領はリケメルア帝国に隣接をしている。我々はヴィルスセン王国を守る盾である。しっかり盾であることを自覚して行動をしてほしい」
「「「はい」」」
「レイ団長は今後も速やかに帝国の動きを察知するように」
「はっ」
話を締めくくるフェステル子爵であった。
会議は以上となった。
・・・・・・・・・
ところ変わってここはスラムを歩くおっさんである。
(大通りではないところもまた異世界の現実なんだろうな)
先ほどの3人の家族について思うことがあるようだ。
現実世界では海外旅行もしたことのないおっさんにとってショッキングな体験であったようだ。
(まあ世界を救うなんてたいそうなことはできないけどな)
結局ドブネズミの尻尾探しに戻ってきたのだ。
汚い用水路を見つめるおっさんである。
(マップオープン)
(これはずいぶん便利機能のようだな。整理するとこんな感じか)
・一度行ったことのあるエリアが表示される
・いったことある範囲の限界は自分を中心に半径は50メートルくらい
・いったことないエリアは黒塗りで輪郭しかわからない
・いったことあるエリアとは、村、街、領などの単位
・いったことのない領や国は輪郭もみることができない
・一度捕捉した種類の目標と同じ目標は地図に表示できる
・捕捉したことない種類の目標は表示できない
・おれの認識で目標が自動的に入れ替わる
(スキルオープン)
おっさんはスキルを開き、スラムにきて気付いたスキルを検索しスキルを取得する。
『1Pで気配察知Lv1を取得しますか』というメッセージウインドウがでてくるので、『はい』をタップし取得する。
気配察知Lv1のスキルを取得するとタブレットの『地図』機能で赤い印で反応を示している部分に何かがいる気配を感じる。
(なるほど。便利なパッシブスキルだな。しかし少年に会う前にはこんなスキル思いつかなかったな。タブレットには無限のスキルがある。しかし必要な時に必要なものを取らなければ意味がないか)
どうやらおっさんは気配察知のスキルにすぐに気づかなかった点について分析しているようだ。
(かといって全てを想定してスキルをとっても本当に必要な時に、必要なスキルのポイントが足りないか。かなりのチート能力だが完全ではないということだな。次はと)
(ステータスオープン)
Lv:13
AGE:35
RANK:D
HP:210/210
MP:185/225
STR:44
VIT:62
DEX:62
INT:203
LUC:69
アクティブ:火魔法【2】、水魔法【2】、風魔法【2】、土魔法【2】、回復魔法【2】
パッシブ:体力向上【2】、魔力向上【2】、力向上【2】、耐久力向上【2】、素早さ向上【2】、知力向上【2】、魔法耐性向上【1】、気配察知【1】
加護:検索神ククルの加護(小)
EXP:4693
PV:1503ポイント
AS:27ポイント
(冒険者ランクがステータスに追加されているな。それに経験値の増加はなしか。ドブネズミは経験値に入らないと。弱すぎる相手を倒しても経験値は入らないか。もしくは動物とモンスターで区分けがしっかりしていてモンスターを倒さないと経験値は手に入らないと。おそらく後者で動物とモンスターに区分けがあるんだろうな。モンスターを倒さないと経験値は手に入らないと)
まだ夕方には時間があるようだ。
(さて。あと数匹ドブネズミを狩ったら冒険者ギルドに戻るか)
結局15匹分のドブネズミの尻尾をもって冒険者ギルドに戻るのであった。
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