第20話 おっさん、冒険者になる

フェステルの街を歩くおっさんである。


(たしかこっちが冒険者ギルドだったよな。そうそうせっかくのフード、被っておくか)


真っ黒な外套のフードを目元まで被るおっさんである。

遠くの方で鐘の音が聞こえてくる。


(タイムオープン)

9:01


タブレットの『時計』機能を起動させる。


(どうやら時間は異世界タイムに時計を合わせているようだな。もしかして領の違いや、街々で時刻が違うかもしれないがな)


タブレット機能を閉じ、異世界の標準時刻について考えながら歩くおっさんである。



大通りをほどなく歩いたその時である。


「騎士団よ」


「騎士団が戻ってきたぞ」


ざわめく街の人たちである。


(なんだなんだ)


ざわめく街の人たち。

石畳に響く騎馬隊の音。数十騎の騎士が向うの方から近づいてくる。

思い思いに頭を下げ、騎乗した騎士団の一行に礼を示す街の人たちである。


(騎士団か。どれどれ)


野次馬根性で騎士団を見ようとするおっさんである。

タブレットの『メモ』機能は当然起動させている。


「たしか村のゴブリン討伐にいってたらしいぞ」


「おおイリーナ副団長様。今日もお美しい」


(なに。美しい騎士だと。姫騎士だと)


騎士団はどうやら皆に顔を見せるために、頭には何も身に着けていないようだ。

おっさんは美しい騎士を探す。


(おお、先頭近くで馬に乗ってる金髪の人のことだろ絶対。金髪ロングで超美人だ)


【ブログネタメモ帳】

・姫騎士あらわる


メモを取るため、目の前を通り過ぎる討伐隊に近づきすぎたのか。


「おい。きさまこれ以上近づくな」


騎乗した騎士団を囲むように歩く歩兵から注意を受ける。


「す、すいません」


あやまり引きさがるおっさんである。


(あぶなかった。切り捨てごめんにあうところだった)


江戸時代にあった『武士が町民を切ってもよい』という、とんでもルールを思い出すおっさんであった。


「ん。魔法使いか」


歩兵の声に反応したイリーナは真っ黒な外套の魔法使いを一瞥したが興味はなかったのか。

そのまま領主の館を目指すようだ。


今はまだおっさんとイリーナは出会わないのであった。




危なかったなと思いながら冒険者ギルドの前にたどり着いたおっさんである。


(おお。ここか。剣と弓と盾のマークだぞ。扉は西部劇のような頭から腰くらいまでの扉だな。さてスキンヘッドのごりマッチョの冒険者に絡まれるかな)


おもむろに扉を開け中に入るおっさんである。

当然タブレット『メモ』機能は起動している。


【ブログネタメモ帳】

・おっさん冒険者ギルドデビューするってよ


(9時過ぎているがずいぶん人いないな)


鎧を身にまとった戦士たちが数名建物内にいるだけである。

おっさんをちらりと見たがみな特に興味がないのか視線をはずす。


(冒険者ギルドの半分は酒場になっているようだな。カウンターはこっちか)


奥の酒場でも数名がたむろしているのが見て取れる。


「すいません」


「はいなんでしょう」


おっさんはキツネ耳の受付嬢に迷わず声をかける。


「冒険者登録をしたいのですが」


「かしこまりました。初めての登録ですか。登録には銀貨2枚が必要です」


「そうです。こんなに年を食ってますが初めての登録です。銀貨2枚お渡ししますね」


「はあ。成人されていれば年齢は関係ありませんよ。ただし適正試験は受けていただきます」


(お。適正試験だな。的に魔法を撃ったり、試験官と模擬戦をするのかな)


「わかりました。どのような試験でしょうか」


「職業にもよりますが、格好から察すると魔法使いでございますでしょうか」


全身を受付嬢は見る。

高価な魔法使いの装備である。


「はい魔法使いです」


(あれ。魔法使いって言われたぞ。魔導士より魔法使いって表現の方が一般的だったのかな)


魔法使い、魔術師、魔導士の言葉が頭を巡るおっさんである。


「魔法使いでしたら、これから案内する試験場で魔法を撃っていただき、その威力をもって合格とします」


「威力が低いと落ちてしまうということでしょうか」


「さすがに魔法が発動しないと、そのような場合もございます。ただし基本的に威力の低い魔法であったとしてもランクが一番下のEから始まるだけです」


「そうなんですね」


「はい。ではこちらですので。案内します」


(キツネ耳の受付嬢が案内してくれるみたいだな)


キツネ耳の受付嬢についていく。

お尻から大きめのキツネのしっぽが大きく揺れる。

入口と反対の扉の一つが試験会場につながっているようだ。

ほどなく通路を進んでいくと試験会場らしき場所が見えてくる。


(弓道場の的のような感じだな)


20~30m離れた場所に均等に丸い板で作った的が置かれている。


「魔法使いはあまり冒険者におりませんので、失礼ですが、弓使いと同じ試験会場になります。あの的を狙って魔法を打ってください。魔法発動までの速度や威力を基に適正を判断させていただきます」


(なるほど。威力はもちろん魔法発動までの速度も大事か。いつも声に出して唱えてる呪文も遅くなるかもだから止めておくか)


「分かりました。いつ始めても」


「はい。いつ始めていただいても大丈夫です」


的に向かって手をかざすおっさんである。


(フレイムランス)


火魔法Lv2の魔法は的を焼き消し、そのまま後方の壁にぶつかる。


「ドオオオォォン」


重低音の爆裂音があたりに響き渡る。

周りにいた数人の人も様子を伺う。


「え。無詠唱。威力も十分ですね」


受付嬢は魔法の発動から着弾までを確認して小さくつぶやいた。


「いかがでしょう」


どきどきしながらおっさんは受付嬢を見る。


(そんなに悪くはないと思うんだがな。でもこの異世界少々ハード設定だしな)


「発動速度も威力も申し分ないです。そうですね。冒険者としてのランクとしてはCランクが妥当でしょう。しかしギルドの規定でどんな冒険者でもランクDからになります。詳しい話をしますので受付に戻りましょう」


「はい」


受付までついていくおっさんである。


(おお。Dランクからか。でも魔法使いとしてはCランクらしいな。そこそこってことかな)


受付に戻り説明を受けるおっさんである。


「まずは冒険者の試験合格おめでとうございます。冒険者に必要な情報がありますのでまずはこちらをお書きください。公開したくない部分は無記入でも大丈夫です」


(お。文字はどうなんだろう。って。宿屋も含めて全て日本語だしな)


受付嬢に渡された用紙に必要事項を日本語で全て記載していく。


(これが羊皮紙ってやつだな。名前はケイタと。職業は魔法使いの方が一般的なら魔法使いかな。得意技の欄は火魔法と風魔法でよいか。出身は無記入でいいだろ)


スラスラ記載し終えるおっさんである。


「これでよろしいですか」


受付嬢は簡単に確認して一言。


「問題ありません」


記載した用紙を受付の奥に持っていく受付嬢である。


「この後少し待つ感じですか」


「では。冒険者への登録は間もなく終了しますが、それまでに簡単に説明させていただきます」


(キツネ耳の受付嬢の話を要約するとこんな感じだな)


【ブログネタメモ帳】

冒険者ギルド

・王国や帝国といった国家から独立した組織

・ここは冒険者ギルドのフェステル支部

・各支部は支部長が代表を務めている


冒険者ギルドの目的

・安定した素材の販売

・モンスターを狩ることによる地域の安定

・地域一帯の安定した武力の保持


冒険者ランク

・Eから始まりSまである

・EDCBASの6段階

・それぞれのランクはこのようなイメージとのこと

Eは駆け出し

Dは一人前

Cはベテラン

Bは達人

Aは救国の英雄

Sは世界の英雄

・CBランクの昇格には適正試験がある。

・ASランクの昇格には国家の推薦が必要

Aは1か国、Sは3か国の推薦が必要


冒険者の依頼の種類

・常時依頼 

薬草やゴブリン退治など緊急性がなく常に募集している依頼

・一般依頼 

だれでも受けることができる通常の依頼。なお失敗防止のため自分のランクの1つ下から自分のランクまでの依頼しか受けることはできない

・指名依頼 

Cランク以上の冒険者への指名ができる依頼

指名された冒険者は断ることができる

・緊急依頼 

Dランク以上の冒険者に対して冒険者ギルドが要請する依頼。基本的に拒否権はない。断るとペナルティもあり


ペナルティ

・同じランクの依頼を3回連続で失敗すると警告

・さらに3回連続失敗すると降格


冒険者

・成人を迎える15歳からなることが可能

・主にモンスターの討伐や依頼者の護衛を生業にしている

・移動の自由があり、国を越えて活動ができる


(なんかいろいろ言われた気がするが、メモに起こせたのはこんな感じか。ペナルティは結構あまめだな。当然か。絶体絶命だ。でも依頼をこなさないと冒険者資格はく奪されてしまうじゃやってられんよな。こっちは命かかってるんだからな)


説明が長かったので途中で意識が飛んでしまったようだ。

大まかにメモはまとめるおっさんである。


「プレートが出来上がりました。無くさないようにしてください。再発行には銀貨3枚が必要です」


「はい。わかりました。依頼を見てきます」


(鉄製の名刺サイズのプレートだな。Dという表示があるな。これは不思議技術で個人を特定できる代物なのか)


「かしこまりました」


おっさんは長い説明を聞き終え壁に貼った依頼書を見て回る。

たくさん貼ってあるが目に止まったものをタブレット『メモ』機能に記録していく


Eランク

・常時依頼薬草収集5本から

報酬一本当たり銅貨2枚

・常時依頼ドブネズミ退治3体から

報酬一体当たり銅貨3枚


Dランク

・常時依頼ゴブリン討伐1体から

報酬一体当たり銀貨2枚

・常時依頼デスフラッグ討伐1体から

報酬一体当たり銀貨3枚

・常時依頼一角ラビット討伐1体から

報酬一体当たり銀貨3枚


Cランク

・一般依頼ランガ村のオーク討伐(4名以上のみ受注可能)

報酬一体当たり銀貨30枚

・一般依頼ミガル山のオーガ調査依頼(3名以上のみ受注可能)

 報酬金貨1枚から


Bランク

・一般依頼ミガル山のオーガ討伐(6名以上のみ受注可能)

 報酬一体当たり金貨12枚

・一般依頼トトカナ村周辺のレッドパイソンウルフの討伐依頼(6名以上のみ受注可能)

 報酬一体当たり金貨40枚

・一般依頼リグル山周辺のワイバーンの討伐依頼(8名以上のみ受注可能)

 報酬一体当たり金貨50枚


(ほうほう。Eランクは駆け出しだからまずは経験を積ませる目的かな。場所も街中や町周辺が多そうだな。Aランク以上の依頼はないな。Aランクの冒険者が少ない。それとも指名依頼や緊急依頼が主なのかな。おそらくその両方か)


(一人当たりの報酬に直すと、命かけてるわりにCランクやBランクの報酬がそこまで高くないのか。これは素材を売ることを前提にしているのかな。倒しても報酬が得られ、素材を売っても利益を出せるバランスをとっているのだろうか)


依頼を一通り見終わったおっさんは依頼書を一枚はがしキツネ耳の受付嬢のいるカウンターに向かうのであった。

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