第18話 フェステルの街②
魔石と牙を売って、短剣を買ったおっさんはその足で通りを挟んで向かい側の防具屋に入る。
外からでも大きなフルプレートの鎧が見て取れる。
まごうことなき防具屋である。
(この店もさっきの武器屋もお客がいないな。朝早かったか。いや結構日が昇って時間が経ってるからそこまで朝早くないか)
「いらっしゃい」
店員に話しかけられ意識を戻すおっさんである。
物腰柔らかいおじさんがでてくる。
とっさにタブレットの『メモ』機能を起動させる。
【ブログネタメモ帳】
・物腰柔らかい防具屋の主人
どうやらおっさんはネタ帳を記録しながら活動することが習慣になり始めているようだ。
「防具を買いにきました」
「どんな防具が入り用ですか」
「魔導士が装備しているようなマントと、マントの中に着こむ軽い防具があればお願いします」
「なるほどなるほど。旅をされるんですか」
防具を買う目的をきいてくる
「そうです。旅と冒険者ギルドでの活動も考えてます」
「なるほどなるほど。ご予算は」
「金貨20~30枚くらいでしょうか。いまのところこの服以外持っておりませんでして」
(物腰柔らかくて逆に警戒するぜ。少し低めに予算を伝えておこうかな)
「でしたら、マントとなる外套、薄手の鎧、革靴などはいかがでしょう」
(む。いい感じで勧めてくるな。でも内容としては悪くないか)
「そうですね。まずマントはどういったものがありますか」
店にあるマントをいくつか選び出す店主である。
「お客様のご予算でしたらこういったものはいかがでしょう」
店主は3つの外套を選び目の前に並べる
1点目 真っ黒なフード付きの外套
2点目 真っ赤なフードなしの外套
3点目 茶色のフード付きの外套
「予算と特徴や何かほかの外套との違いはありますか」
1点目 金貨30枚 Bクラスのモンスターの革製 魔法とブレス耐性あり
2点目 金貨20枚 Bクラスのモンスターの革製 ブレス耐性あり
3点目 金貨15枚 Cクラスのモンスターの革製 特段の耐性なし
防御力は1点目が2点目3点目より高い。
また2点目と3点目で同じくらいとのことらしい。
(さっきの武器屋の店主と違って、こっちは客に品定めを選ばせるパターンか。つーかこの中では一択だろ)
「(1点目の)真っ黒なフード付きの外套でお願いします。それともう少し予算がありまして、外套の中に着る薄手の鎧、革靴、着替え用の下着なども見繕っていただけませんか」
(基本的にゲームを攻略するなら一番お金をかけるものは武器である。狩りによる経験値効率が上がるからな。しかしデスペナルティが尋常じゃない、命がかかってるんだから、予算内で一番いい装備しないとな。それに店に来る前に結構な人と目が合ったな。これはあれだろ。黒目黒髪が珍しいんだろうな。フード付きならフードで目元まで隠せるしな)
おっさんのゲーム脳がフル稼働を始めたようだ。
また、対人関係でつまらない、いざこざに巻き込まれないようフードで髪と目を隠すようだ。
「ありがとうございます。皮の鎧と靴は良いものをサービスさせていただきます」
その他の装備品もかっていくおっさんである。
・外套の中に着る薄手の皮の鎧 金貨5枚
・革靴 金貨2枚と銀貨50枚
・着替えの下着2点 銀貨20枚
「こちらは全てで金貨7枚と銀貨70枚になります」
(やはり下着や靴もかなりするな。大量生産の世界ではないと言え、外套に合わせて結構よさげなもの選んでくれたっぽいがな)
予算があると踏んでか、品質の高い商品を勧めてくる主人である。
「その商品でお願いします」
お金を出そうとするおっさんである。
「いえいえ。お客様の体に合わせて手直しをさせていただきます。明日の今頃にはお渡しできますがいかがしましょう。お勘定はその時で大丈夫ですよ」
採寸を済ませ、皮でできた名刺サイズのものを渡される。
「これを次回もってくればいいのですね」
「はい。購入の予約としてお渡ししてますので次回持ってきてください」
タブレットの『メモ』機能をとじ、予約札のようなものを硬貨を入れている小袋に入れ、店を出るおっさんである。
太陽の位置はずいぶん高くなってくる。
遠くで正午を教えてくれる鐘の音が聞こえてくる。
(そうか。鐘の音で時間を教えてくれるサービスだよな。さて武器も買い、防具も予約したし飯にするかな)
お昼に差し掛かり小腹が空いてきたようだ。
大通りは人でごった返している。
(おお、人通りがすごいことになってるな。さて何にするかな。夜は宿屋の食事を食べるので、昼は外で食べたいな。異世界ならではの屋台に行きたいのだが。屋台はどこにあるんだろう)
屋台を探しに行くおっさんである。
大通りを街の中央に向けて歩き始める。
街の中央は公園になっている。
行きかう人々と目があることを感じるおっさんである。
中央に噴水があり、その周りのベンチで人がくつろいでいる。
公園でくつろいでいる人々の様子を見渡すおっさんである。
(ベンチに座ってる人たちは何か食べてるな)
どこで買ったのか、あたりを見渡すおっさんである。
公園の外周の一角に何店か屋台が見える。
タブレットのメモ機能を起動させ、近づいていくおっさんである。
【ブログネタ帳】
・異世界屋台レビュー
(お。串焼きだな。串焼きの店、串焼きの店、パンも売ってるな)
「すいません。この串焼きをいただきたいのですが」
「あいよ。どれにする」
どうやら何種類かあるようだ。
モクモクと煙を上げている串焼きであるが当然何の肉はかはわからない。
「すいません。何のお肉ですか」
「あん。しらねえのか。こいつがグリーンボア、これがデスフラッグだな」
(おお。結局村では狩れなかったグリーンボアか。それにフラッグということはカエルだな。デスフラッグなんて物騒な名前のカエルだな。しかし日本の焼き鳥と違ってボリューミーだな。初詣で神社にいったときにやってる、500円くらいするでかい豚バラのようだな)
「一本ずつください」
「あいよ。2本で銅貨6枚だよ」
(一本300円くらいか。まあそんなもんか)
神社のでかい豚バラで値段を比べるおっさんである。
串焼きの隣の食べ合わせと買ったパンをもって公園の中央にある噴水近くのベンチに座る。
(さて。屋台料理のレビューをするか。ブログに起こさないといけないからきっちりやらないとな)
屋台の串焼きのレビューを始めたおっさんである。
(まずは香りだな。匂いは普通に肉の匂いだな。若干臭みを感じるな。それとスパイスの香りがするな。この辺では香辛料は普通に出回ってるのかな)
村の料理は味が薄かったなと思いだすおっさんである。
(グリーンボアからだな。いただきます)
テレビにやっているようにカメラ目線に軽く振り上げてから食べるおっさんである。
(むむ。これは。胡椒のような香辛料の辛みと獣くささが口いっぱいに広がるぞ。噛み応えもメリメリいってるな。弾力がすさまじい。香辛料の味が薄れてきたら血抜きが足りなかったのか獣臭さが増してきたな。ううむ。すさまじくまずい)
まずいと思いながらグリーンボアの串焼きを完食するおっさんである。
食べられないことはないようだ。
(次にデスフラッグだな。いただきます)
毎度のようにカメラ目線に軽く振り上げてから食べるおっさんである。
かなりテレビの食レポの影響を受けているようだ。
(こっちも胡椒のような香辛料がかけられているな。同じ香辛料だぞ。噛み応えはモニュモニュしてて食べやすいな。味はカエルなんだろうな。カエル食べたことないけど。鳥味にて臭みもなく食べやすいぞ。冒険者はこういったカエルも狩ってるのかな)
食べ合わせで買ったパンとともに食事を済ませるおっさんである。
屋台レビューしながらの食事を済ませ、公園の様子を伺う。
公園の噴水を見ておっさんは思う。
(これだけの噴水があるってことは地下で上水と下水がありそうだな)
石畳でできた街の地下に思いをはせる。
(腹も満ちたな)
親の周りで駆け回る小さな子供が見える。
(そうだな。異世界人にも家庭があるよな。おれは何をしているんだろうな1人で。異世界に行ったきりになったわけでもない。戻ろうと思えば現実世界に戻れる。きっとこのタブレットは異世界の人に比べたら十分なチートなんだろう。おれは何なんだろうな)
腹も満ち、感慨にふけるおっさんである。
(さてと。せめてブログは起さないとな)
おっさんにはブログをする理由があるらしい。
公園を後にするおっさんであった。
結局夕方まで大通り沿いに街中を歩きまわったおっさんである。
主要施設の把握しブログに起こすためである。
今日は中には入らなかったが冒険者ギルドの建物の場所も確認した。
ほかにも貴族エリアもあったが守りも堅く入ることはかなわなかった。
(さて少し早いが宿屋に戻って、ブログネタメモ帳の内容に肉付けするか)
宿屋の夕食を済ませ、メモ帳の内容の整理に取り掛かるおっさんである。
その日は夜遅くまでメモ帳の内容の整理をし、眠りにつく。
次の日の朝、おっさんは現実世界に帰るようだ。
(せっかくネタもたまってるんだし、いったん現実世界に戻るか)
(ゲートオープン)
『ブログに投稿できる程度の体験をされました。日本に帰還しますか。はい いいえ』
おっさんは『はい』をタップすると、いつもの1k8畳の我が家に景色が変わる。
「さてと、いくつかあるネタをブログに起こすぞ。次はまた来週の土曜日だな。その時は装備を新調して冒険者ギルドだな」
おっさんは次の予定をつぶやくのであった。
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