第17話 フェステルの街①

現実世界に帰ってきてから1週間が過ぎていた。

ここは1k8畳のおっさんの賃貸マンションである。


「投稿数も増えて、だんだんPVも伸びているな」


検索神サイトの『アクセス分析』を確認しながらおっさんは言う。


PV:468P

AS:39P


ブログ記事を始めて3カ月立ち、収益の方は全然発生していないが、検索神サイトのPVとASポイントは貯まっていっているようだ。


「やはりワイバーン戦と検問の記事のPVが伸びてるな。面白いネタが大事だな。街でもしっかりブログネタ探さないとな。村よりたくさんあるだろ」


何もなかった村での生活を思い出す。

街についたので、何をするか考えるおっさんである。


「まあ、街ですることといったらこんなもんか」


・街中散策

・屋台のレビュー

・装備新調

・冒険者ギルド


TODOリストに予定をいくつか載せていく。

どうやら検索神サイトの『メモ』機能は書き込みもできるようだ。


「さて、異世界にいくかな」


検索神サイトの『扉』をクリックし、いつものメッセージを表示させる。


『ブログ記事の投稿が確認できました。異世界にいきますか はい いいえ』


おっさんは『はい』をクリックすると、ふっと目の前の風景が現実世界に戻る前にいた宿屋銀皿亭の泊まっている一室に変わる。


「ただいま」


なんとなく帰ってきた感があるおっさんである。


(さてと、街に繰り出す前にASポイントは使っておくか。初めての異世界の街だし治安もわからんしな)


・体力向上Lv2 必要ポイント10Pポイント

・魔力向上Lv2 必要ポイント10Pポイント

・回復魔法Lv2 必要ポイント10Pポイント

・幸運力向上Lv1 必要ポイント1Pポイント


あらかじめ決めておいたスキルをタブレットから選び取得していく。

スキルを取得し終わり、ステータスを確認する。


(ステータスオープン)


Lv:13

AGE:35

HP:210/210

MP:225/225

STR:35

VIT:49

DEX:49

INT:162

LUC:55


アクティブ:火魔法【1】、水魔法【1】、風魔法【2】、回復魔法【2】

パッシブ:体力向上【2】、魔力向上【2】、力向上【1】、耐久力向上【1】、素早さ向上【1】、知力向上【1】、幸運力向上【1】、魔法耐性向上【1】


加護:検索神ククルの加護(微小)


EXP:4693


PV:468P

AS:8P


(ふむふむ。どうやらパッシブスキルのレベル2はステータス1.5倍アップのようだな。安全第一でスキル取得したしそろそろ街に出るかな)


現実世界で食事を済ませているおっさんである。

街中にくりだすようだ。


急な宿屋の階段をおり、カウンターに向かう。


「おはようございます。あの。宿を出るのですが、カギはどうしますか」


現実世界のビジネスホテルのノリでたずねるおっさんである。

カンターには昨日の恰幅のいいおばさんではないようだ。

頭にスカーフをまいたお姉さんがカウンターに立っている。


「おはよう。カギはそのまま持ってもらっても、預かってもいいですよ」


異世界の宿屋のカギルールはゆるいらしい。


「ではそのまま預かっておきます」


そういって宿屋を出るおっさんである。

朝日がふりそそぐ中、街中を見渡す。


(ここがフェステルの街か。街名になってるフェステルって子爵が支配する街だよな。たしか。村の人は領主様って呼んでたな。善政を敷いているのかな)


村で聞いた街の情報を思い出すおっさんである。

(そういえば、ルルネ村の商人とはあれっきりだな。まあ特に何かあるわけでもないしこのままお別れでいいだろう)


検問で行きがかり上なんとなくもう会わなくなったルルネ村の商人を思い出す。


おっさんは考えることをやめ街に目をやる。

街に入ったときはずいぶん暗く人通りも少なかったが、石畳の大通りに面した宿屋ということもあり行きかう人は多いようだ。

馬車や荷馬車も結構走っている。

歩道がないのは気になるなと思うおっさんである。


(おお。でっかい剣を担いでる人もいるな。どうやら街から外に向かってるようだが、既に冒険者ギルドで依頼を受けたのかな。冒険者の朝は早いってやつか)


冒険者ギルドについては、ルルネ村にいるときに村人から存在を聞いているおっさんである。

体格のいい全身皮素材の装備を身にまといバスターソードを背に担いでいる戦士を見ながら感想があふれてくる。


(いかんいかん衝撃的な風景に見とれて大切なことを忘れていたぞ)


タブレットを出現させ『メモ』機能を開くおっさんである。


(異世界の情緒はしっかりブログネタに起こさねば)


半透明に浮いたタブレットを半分意識しながら街中の散策を始めるおっさんである。


(あまり、魔導士っぽいのはいないな。戦士のような皮素材を身をまとった冒険者と、街の住民かな。冒険者は剣と槍と弓が1:2:1の比率かな。やはり得物は長い槍が人気あるのかな。3人から5人の構成が多いみたいだな。この辺で冒険者って何を獲物にしてるんだろうな。ダンジョンとかないのかな)


大通りを眺めながら、おっさんは行きかう人の職業の構成を判断しようとする。


(冒険者が装備している必要な防具も調べておくか。皮鎧、マント、革靴、ベルトには小袋とナイフ携帯している人が多いぞ。背中にはリュックか。小袋には硬貨が入ってるんだろうな。マントは雨風をよけて、夜は布団代わりになるから必須らしいな)


冒険者らしき人達の装備を判断するおっさんである。

これから買い物に行くためだ。


【ブログネタメモ帳】

・異世界の街

・異世界の人の服

・異世界の冒険者


簡易なタイトルをメモに付け、十分な記録ができたなと思っているその時であった。

メモに夢中で気付かなかったが、目の前を対向者とすれ違う。

目の端でおっさんはとんでもないものを目にするのであった。


(おお。耳だ。猫耳だ)


おっさんは初めて異世界で獣人を見たのである。

ブサイクなおっさんにガン見でジロジロ見られ、けげんな顔をする猫耳の女性はそのまま立ち去っていく。

お尻の部分からはしっぽが見えるのである。


(おっと。さすがについていくのはまずいか。そうだそうだよな。異世界だもんな。猫耳の獣人もいるよな。村にいるときはいなかったが街にはいるのか。だったらエルフやドワーフもいるのかな)


これ以上のストーカー行為を自重するおっさんである。

異世界ならではの人種にふれ喜びが増してくる。


(そういわれてみるとたまに獣人っぽい人がいるな。10人に1人くらいかな。でも耳としっぽくらいしか人と変わらないな。帽子やスカーフ巻いている人も多くて分からないが、もう少しいるのかな)


街中の獣人の比率を判断しようとするおっさんである。

まだ、宿屋を出て数歩の場所である。

おっさんの人間観察は小1時間ほど続けている。


【ブログネタメモ帳】

・獣人の神秘


メモがどんどんたまっていくおっさんである。


(さて。街の様子のメモも取れたし。まずは魔石を換金して装備揃えるかな。こんな村人のような格好だと冒険者ギルドにいってもしょうがないしな。先に冒険者っぽい格好をそろえるぞ。)


おっさんは異世界に来たばかりの薄茶色の上下の服を見ながら思うのであった。

検問では宿屋の場所しか聞いていない。

なので、どこのお店で換金するかは、外観から見て何の店か判断するのだ。


(治安がわからんから大通りから攻めるかな。あまり小道に入らないほうがいいだろう)


外国に行った時の注意点のようなことを思い出すおっさんである。

宿場や酒場の多い一角にいたおっさんは、商業施設の多い場所を探して大通りを移動する。


(それにしてもすごい勢いで馬車が横切っていくな。あぶないんだけど。お、この店は防具屋だな。ん。その向かいは武器屋か)


お店の入り口から様子を伺うおっさんである。

武器屋の店主に魔石を買ってくれるか聞くことにする。


「あの。すいません」


「ああ、なんだぁ」


(かなり態度が悪いようだ。日本での接客を懐かしく感じるぜ。いやだがそれがいいかもしれない)


タブレットの『メモ』機能を開きながら、レビューを開始する。

【ブログネタメモ帳】

・ガラの悪い武器屋の店主


「ちょっとこの町に来たばかりで伺うんですが、魔石の買い取りの場所を探しておりまして、このお店では買い取りをしていますか」


「おう。買取をしているぞ。魔石なら武器屋か魔道具屋かギルド内にある買取窓口で買い取ってくれるぞ。値段はかわらんがな。何を売るんだ」


(むむ。悪いのはガラだけのようだな。まあ値段もわかんないしな。この店で売ってみるかな。おっとその前に)


【ブログネタメモ帳】

・ガラの悪いけどやさしい武器屋の店主


メモに付けたファイル名を修正し、ヨハンに貰った袋からワイバーンの魔石と牙を出すおっさんである。


「これです」


「おお。これは。ワイバーンの魔石と牙だな。少し小さめということはまだ大人じゃないやつだな」


(魔石と牙だけでこういうのってわかるんだな)


「そうです。おいくらになりますか」


「これなら魔石が金貨30枚で牙2つで金貨10枚だな」


(ふむふむ。金貨1枚日本円で10万円くらいか。一狩りやって400万円か。命がけだがおいしいのか。ヨハンがワイバーン全部で1000万だったところの、いいところを多めに渡したと仮定する。本来は10人で倒し、均等に報酬を得たなら1人100万円だったのかな。移動費、消耗品や武器防具の遠征費もかかって100万円か。命の値段にしては安いのか異世界だと)


「・・・」


沈黙して適正価格なのか必死に考えるおっさんである。


「おいおい。結構良心的な値段なんだがな。魔石を金貨33枚、牙を金貨12枚にしてやろう。これ以上は無理だぞ。」


値段で渋ったと思った店屋の店主が価格を上げてくれる。


(お、買取価格上げてくれたぞ、朝ふった幸運力向上のおかげか)


「いえ。助かります。その値段でお願いしたいと思います。ちなみにですが私は旅をしておりまして。旅や冒険者として必要な装備を一式そろえたいと思っています」


「ふむふむ。なるほどな。その格好だと旅人って感じがしないな。お前さんの職業は何なんだ」


「魔導士の見習いをしております」


(お、魔導士の見習いっぽいの取り揃えてくれるのか)


「予算はどうするんだ」


「そうですね。装備に全部使うわけにはいきませんので。その買取価格なら防具に金貨30枚、武器等に金貨10枚を考えています」


「結構使うんだな。まあその格好じゃあな。手ぶらだが杖か何か武器は使うのか」


(そういえば。杖とかあれば魔導士っぽいがどうするかな。マントあれば事足りるしな。手がふさがるのはよくないか)


「杖は使ってません」


「だったらこの店で必要なものなら道中、獲物をさばいたりするのに使う短剣くらいだな。腰に巻くならベルトもだな。短剣の値段もピンキリだがこれで十分なんじゃないのか」


けっこうしっかりした刃渡り20cmほどの短剣を渡される。


(むむ。包丁なんかよりずっと肉厚で重いな)


「いい感じですね。おいくらですか」


なんとなく勧められたものに返事をするおっさんである。


「これは鋼鉄製でな。ベルトと鞘もつけて金貨3枚だ」


(まあまあするな。日本円で30万か。まあ大量生産できないし、古美術品の日本刀に比べたら安いのかな)


ネットの動画で200万円の日本刀買ってみたを思い出すおっさんである。


「ありがとうございます。それでお願いします」


『魔石と牙』を売り、『短剣(ベルト鞘付)と金貨42枚』をもらうおっさんである。


腰に巻き付けると何かこみ上げてくるものがある。


「ありがとうございました」


「おう。またきてくれな」


(冒険者っぽくなってきたな。さてと次は防具屋だな。こっちは結構買うもの多そうだな)


タブレットの『メモ』機能を閉じ、店を出るおっさんであった。

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