第15話 検索神ククル
もうすぐ街に入れると思った矢先のことである。
おっさんは冷たい牢獄の中にいた。
両手両足を縛られ、口にはさるぐつわをかまされている。
(35年生きてきて過去にないほどの理不尽っぷりだぜ。さてどうするかな。痛みはヒールで治したんだがな)
何をすべきか答えを出さないといけない状況である。
(ゲートオープン)
『ブログに投稿できる程度の体験をされました。日本に帰還しますか。はい いいえ』
(現実世界には戻れるんだがな。せっかくなら街の宿屋に入ってそこまでをブログの記事にしたかったんだが。検問で引っかかるとはな。悪魔堕ちってなんやねん)
『悪魔堕ち』と『帝国のスパイ』という言葉がおっさんの頭を巡っていく。
何時間が経過したのだろうか。
冷たい牢獄にいるおっさんである。
(さてと困ったな。今現実世界に戻っても帰ってきたら元の牢獄か)
さらに1時間経過したときのことである。
すると1人のひらひら付の服を着た人をつれて隊長が戻ってきたようだ。
「もうお前は終わりだぞ。これから悪魔堕ち認定を下されるのだからな」
「ん~。んんん~」
弁明することはできないようだ。
「これこれ。勝手に決めつけるでない。こんな時間に呼び出してからに」
「それはすまなかったな。悪魔憑きの判定をしてくれ」
あまりすまないとは思ってそうにない隊長である。
どうやらこのひらひらしたじいさんが悪魔付きの判定をしてくれるようだ。
頭にはピタッとした野菜サラダをいれるボールを反対にして被ったような帽子を被っている。
「では。むむ」
目を閉じ、両手をかざし正教会から派遣された神官のじいさんは鑑定を始める。
両手が淡く光りだす。
(鑑定スキルやっぱり存在するじゃんよ。なんで検索できなかったんだ。『悪魔鑑定』ならできるってことかな)
だんだん思考の脱線を始めるおっさんである。
「ぬぬ。こ、これは」
「やはり悪魔落ちだったか」
「この者の縄を早くほどきなさい」
「は」
思いがけないことを言われ、神官のじいさんのいうことが理解できず、呆けをくらう隊長である。
「すぐに縄をほどかんか。このものは神の加護を持っておるぞ」
(そんなこともわかるんだな。どうやら神官は悪魔以外も鑑定できるようだな)
鑑定のスキルに執着をするおっさんである。
「神の加護だと。そんな。いやしかし邪神かもしれんぞ」
「まだいうか。よこしまな波動は感じぬ。縄を解いてくれんか。話がしたい」
隊長の部下に指示をし、さるぐつわと縄をすべてとる。
「それで」
「いやちょっと待ってください。トイレに行かせてください」
どうやらもよおしていたようだ。
兵に連れられ用をすませるおっさんである。
次に案内されたのは最初に通された調査室であった。
隊長と神官が中にいる。
「それで神の加護を持つものよ。街の兵が大変失礼をした。許していただきたい」
トイレを待っていた神官はおっさんに話しかける。
「いえいえ。とても痛かったですが大丈夫です。よくわかりませんが誤解が解けてよかったです」
「それで、あなたを鑑定したら今まで感じたことのない加護がありました。どのような神なのか教えていただけませぬか」
「私はこの神を検索神と呼んでおります」
(まあごまかしきれんしな。無理にごまかしてまた牢獄に入るのも勘弁だしな。)
隠すことなく普通に答えるおっさんである。
「はて。名前を聞いても聞いたことがありませぬぞ」
「ほら見ろ。邪神ではないのか」
隊長が口を挟む。
「邪神ではありません」
口を挟んだ隊長に返すおっさんである。
「なんだと善神だとでもいうのか」
「いいえ善神でもありません。中立神です」
「中立神だと。何をうたい。どのような御心を持つ神なのだ」
ぐいぐい攻めてくる隊長である。
「検索神様は広くあまねく公平に知識を与えることを良しとする神にてございます」
「ほうほう。知識とな。人を善行に導く神なのか」
神官のじいさんは隊長の話に割り込んでくる。
「いいえ。あくまでも知識です。その知識を使ってどのようにするのかは人次第なのです」
「なるほどの。戦いをつかさどる戦神ベルム様のようなお方なのだな。あくまでも戦いをうたう神のようにじゃな。しかし知識があれば人は正しい道に行くのではないのか」
「いいえ。違います。例えば、料理で例えましょう。ある具材があったとします。肉や野菜ですね。料理とは人を健康にも、肥え太らせ不健康にもします。同じ具材で2つの料理の方法があったとします」
「1つ目はおいしいが、太りやすく不健康になる
2つ目はまずいが健康的になる」
「ほうほう」
「検索神様はあくまでも2つの料理の方法を開示することを良しと解きます。ですので開示した結果、人がどちらを食べるかは人次第なのです」
(まあ貴族制を引いている封建的な世界観なのだから、歴史や政治や法で例えないほうがいいだろう)
「なるほどのぅ。あくまでも選択は人にあるというわけか。だから中立神というわけじゃな」
「はい。そのとおりでございます」
「この街には布教に来られたのですかな」
「いいえ旅の途中に立ち寄ったまでです」
「そうなのか」
「兵がすまないことをした。何かあれば街の北東側に聖教院の教会があるゆえ立ち寄っていただければ、できる限りのことはさせていただきましょうぞ」
頭を下げるおっさんである。
「ありがとうございます」
「わしは聖教院で司祭を務めているグラシフ=マフラカスと申しますのじゃ。是非お名前を」
(あれ。司祭って結構偉かったような)
教会の肩書のランキングが司祭と司教あたりでごっちゃになるおっさんである。
「ケイタと申します」
名を名乗るおっさんである。
「ケイタどの。できれば検索神様の恩名も聞かせていただけませんか」
(おっと名前きかれたぞ。考えてなかったな。どうしよう。思いつかないぞ)
「ちなみにグラシフ様はどなたを信仰していらっしゃるのですか」
神の名が思いつかないため話を延ばすおっさんである。
「わしはというか大半の神官は創造神ルドマ様を信仰していますのじゃ」
(ほうほう戦神ベルム様に、創造神ルドマ様の3文字の名前系だな)
「私の信仰する神の恩名はククル様とおっしゃいます。検索神ククル様です」
「検索神ククル様でございますね」
異世界に検索神ククル様が誕生した瞬間である。
そしておっさんが神の名づけを行ったその時である。
『ぶん』
音を立てて現れたタブレットが淡く光りだした。
淡く光ったタブレットの画面に何か書いているように見える。
(おお。なんだ。意識してないのにタブレットが出てきたぞ。今はいいから消えてくれ。)
一桁間違えて誤発注してしまった納入業者のような気持ちで消去を願うおっさんである。
そう意識するとタブレットは消えてしまった。
「どうしましたかな」
「いえなんでもありません。大丈夫です」
(一体何が起きたんだ。何が起きたんだ。あとで確認しないと)
「してケイタ殿はこれからどちらに。聖教会は歓迎しますのじゃ」
「いえそれには及びません。宿にいきます」
もうこれ以上何も言わないグラシフである。
解放され、検問の兵から荷物を取り返し中身をチェックするおっさんである。
(よしよし全部あるな。きっとこの魔石は高値で売れるからな)
荷物をひっさげ夜も更けた街の大通りをいくおっさんであった。
(まずは宿だな。正直思った以上のイベントだったな。戻ったらブログをがっつり作り込まないとな。この受けた理不尽は、ブログという形となってあらわれるだろう)
よくわかんないことを考えるおっさんである。
検問の兵に聞いてた大通り沿いにある宿屋を目指す。
(この街灯はもしや魔道具か)
周りを見てまわりたいが、街灯の灯では現実世界ほど明るくないようだ。
夜も更け人通りの少ない大通りを歩くおっさんであった。
大通りを2ブロックほど歩いた先に、検問所で聞いてた宿が見つかる。
(ここが銀皿亭か。入口の上部につるされている目印に皿の絵があるな)
木造の建物を入り、おっさんはどんどんカウンターへ進んでいく。
初めて入る店でたじろぐような年齢ではないようだ。
「いらっしゃい。こんな夜更けに泊まりかい」
カウンターの奥から恰幅のいいおばさんが出てくる。
「はい。宿泊をお願いします。一晩おいくらですか」
「あいよ。1人かい。1人だったら一晩銀貨3枚だね。晩飯を付けるなら銅貨4枚だね。
朝飯もつけるなら銅貨2枚だね。お湯とタオルも付けるなら銅貨1枚だね」
さらさらと恰幅いいおばさんはサービスをすすめてくる。
「では今晩は泊りのみで。明日からは朝食、夕食、お湯を含めて5泊お願いできますか」
「あいよ。銀貨18枚と銅貨35枚だね」
村長からもらった小袋から硬貨を渡す。
(村長からは銀貨30枚に銅貨20枚貰ってたな。約束より多めにくれたのはワイバーンとそのあとの村人の治療のおかげか)
治療希望者が結構多かったなという記憶がよみがえるおっさんである。
「あいよ。ちょうどだね。これがカギだよ。部屋は3階の奥だね」
村で教わったお金の単位と時間曜日の単位を思い出すおっさんであった。
・お金
金貨1枚
銀貨100枚
銅貨1000枚
鉄貨10000枚
金貨1枚100000円
銀貨1枚1000円
銅貨1枚100円
鉄貨1枚10円
・時間
1日8刻
1刻3時間
・曜日
1週間6日
1月5週間30日
年間12月360日
(貨幣はもっと白金貨みたいなものがあるらしいが村でも街でも流通していないらしいな)
渡された鍵の部屋に向かうおっさんである。
(アンティークなカギだな)
木片に安易な鉄のカギを見ながら、おっさんは急な階段を上がっていく。
古くて重い扉を開き部屋に入る。
さてとさっきのタブレット調べないとなと思うおっさんであった。
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