第14話 おっさん、検問に引っかかる
おっさんが朝に街へと出発をしてから数時間後のことである。
村の静寂を打ち消すように騎馬隊の団体が入ってきた。
数日間のゴブリンの討伐を終えた騎士団である。
「む、これはなんだ」
村長に挨拶をしようと村長宅を目指す、イリーナは村のはずれで大量の肉を加工する人だかりを発見する。
ワイバーンとグレイトボア(食べかけ)の肉は1トン近くに上ったのだ。
切り分けられ順次燻製にされていく。
昨日までに出来上がった分の一部は街に売りに出すためおっさんとともに街に向かっている。
「騎士様、実はワイバーンが獲れまして」
「なんだと」
村でワイバーンが獲れただけでは聞き流せないイリーナである。
村長に事情を伺うことにする。
「実は二日ほど前、猟に出ていたものがワイバーンを獲りましてな」
「なんだと、それはまことか。いや現物も先ほど見てきた。かなりの大型だったぞ」
切り出された骨から全体像を予想するイリーナである。
「いえ。ワイバーンはまだ子供で大人の半分と聞いています。ゴブリンの時もお話ししました魔導士の見習いの方と協力して倒したようです」
「魔導士の見習いがだと。いやそれは今はいい、一緒に狩りに同行した猟師にも詳しい話が聞きたい」
ゴブリンの巣の入り口の様子と、見習いではないではないか、という話を横に置いて、この状況の理解を優先するイリーナである。
まもなく、ヨハンはやってくる。
今日は狩りに出ていないようだ。
「お呼びとのことで」
さすがに騎士には丁寧な言葉使いをするヨハンである。
「うむ。ワイバーンを倒したそうだな。村に被害がでたら大変なことになっていた。特に何か礼金は出せないが領主様に代わって礼がいいたい」
軽く頭を下げるイリーナである。
「いえいえ。私は何も。ケイタ殿がほとんどやったのです」
騎士から頭を下げられ動揺をするヨハンである。
「できれば、そのケイタどのの話と。狩りをした現場を見たいのだが」
「ご案内します。歩いて半刻ほどの距離なので近いです」
「そうか助かる。それと」
村長に金貨を数枚渡すイリーナである。
「こ、これは」
「できれば、ワイバーンの肉を部下たちに少し食べさせてほしい。私の狩りの現場確認が終われば、騎士団は村から出るが少しでも英気を養ってほしいのだ。すまないができるか。」
「大丈夫です。ご用意いたします」
あとで費用として領主様に請求しようと思うイリーナである。
騎士団の副団長といっても金貨をバンバン配れるほど高給取りではないのである。
ゴブリンのボスもおらず、兵もほとんど消耗せず、今回の経費としてはずいぶん少なく済んだし予算はあるだろうと踏んだのだ。
副団長イリーナ、配下のロキ、猟師ヨハンの3人は狩りの現場になった水飲み場に馬に乗って向かう。
「こ、これは」
グレイトボアにより血の海になった場所、ワイバーンが闊歩し乱れた水飲み場、ワイバーンの血が噴き出した崖の前を確認するイリーナとロキである。
ただただ2人の様子を見るヨハンである。
ほどなくして、村でのヨハンの狩りの話と現場から状況を理解したイリーナである。
「ワイバーンは成体になっておらず幼かったようだ。一人前、そうだな冒険者ランクでCランクの魔法使いだったら何人で倒せる」
実は『魔導士』というより『魔法使い』という表現の方がこの異世界では一般的である。
コルネが『魔導士ですか』とおっさんに聞いたため、おっさんの中では魔導士という言葉が定着したのであった。
「そうですね。幼体なら5~6人の魔法使いでしょうか。成体なら20人はいるかもしれませんね」
イリーナに聞かれ、答えるロキである。
「そうだな。だがそれは壁となる戦士たちがいるからこその戦術であろう。魔法使いのみであったらどうだった」
「いや無理でしょ。壁もおらず全滅しますよ」
以前にいった山へのワイバーン討伐を思い出すロキである。
むかし、街近くの山に居着いたワイバーンがたびたび街にやってくるので、倒すために討伐隊が引かれたのであった。
50名に上る討伐部隊で向かったが、街に戻ってこれたのは43名だったのを思い出す。
そのうち生きて戻ってこれたのは37名だった。
「では今回の状況を見て、魔導士見習いのケイタをどう見る」
「魔法使いとしてもかなり優秀ですね。魔力量も多い。ワイバーンの能力を推し量り、初めてきたこの地で、立地を利用した作戦を立案し、実際にほぼ一人で倒しています。ほかにも回復魔法と火魔法も使いこなすと。戦闘経験豊富な魔法使いという印象を持ちました。ゴブリンの巣に入らなかった理由も状況的な判断があったと推察できます。」
「それで自分は見習いですと名乗るわけか。街に向かっているといってたな。街では何をすると言っていた」
「いえ特に何も聞いていません。旅をしているとだけ」
急に話を振られ動揺をするヨハンである。
ルルネ村に来た理由は村長宅で聞いたが、具体的に街で何をするかなど聞いてはいない。
騒然とした水飲み場をみながら、謎の魔導士について、領主様に報告しようと思うイリーナであった。
・・・・・・・・・
そしてここはところ変わって、街に向かうおっさんである。
2台の荷馬車で街に向かう。
立春とあり、やや涼しいが、草木は芽吹き牧歌的な景色が続いている。
そんな中おっさんは。
(まじで尻いてえんだけど。いやまじで。かなり揺れるな2日も乗ると。もうすぐ着くみたいだけど)
尻の激痛と戦いながら、移動は続いていく。
道も荷馬車の車輪もそんなに良くはないらしい。
タブレットを眺めるおっさんである。
(分かったことがあるぞ。加護が極小から微小に変わって、タブレットの画面に2つ機能が増えているな)
追加された機能
・電卓
・メモ
元からあった機能
・ステータス
・スキル取得
・アクセス分析
・扉
(マジすごいな検索神様。ほしいほしいといってたメモ機能が付いたぜ。しかもこのメモ機能、意識したらそのまま入力されていくな。タブレットのメモ機能を開くのが利用の条件みたいだな。まあ現実世界にタブレットは持って帰れないが助かるな。電卓も利用条件は一緒か)
追加された機能とスキルの取得について、考えてきた。馬車の中は暇なのだ。
(だが、結局加護が極小から微小になった条件は分らなかったな。レベル、PV、AS、投稿記事数のどれか、もしくは全部かもしれないな)
スキル一覧を見るおっさん。
『風魔法Lv3 必要ポイント100Pポイント』
(やはり10倍ずつだな。このままだとレベル4は1000Pか。この異世界のチートは低めの設定だな。まあ最近のヌルゲーブームではない、廃向けの仕様でネトゲしてきた俺にふさわしいともいえるな)
Lv99から100にするのに必要な経験値がLv1からLv99にするのに必要な経験値と同じだったなと過去を振り返りながら思い出すおっさんである。
Lv98から99にするのも経験値が同じだったなとも思うおっさんであった。
(そういえば、なんで仲間になろうと思っただろうな。こんなブサイクなおっさんについていってもいいことないんだがな)
コルネちゃんのことを思い出すおっさんである。
(異世界ものは幼女を仲間にすることがあるけど、実際はきついよな。人死のある世界なんだしな。ただ冒険や旅にでるなら1人はきついんだよな。モンスターがはびこる世界で旅をするんだからな。深夜の野外野宿とかも今後ありそうだしな)
あの対応がベストなんだったと思い続けるおっさんであった。
(そういえば、揺れが減ってきたな)
地面を見ると土から石畳に変わっていた。
そしてその先に城壁のようなものが見える。
どうやら街に着くようだ。
(永かったぜ。トワに感じたぜ。社会人になって実家に帰るのに乗った高速バス以来だぜ。)
あのときの高速バスは道も混んでて18時間かかったなという回想するおっさんであった。
街の周りを城壁が取り囲み、長い行列が見える。
少しずつ行列を進んでいくおっさんの乗る荷馬車である。
さらに1時間経過したときおっさんの順番は来たようだ。
「どこから来た」
検問の兵は厳しい口調で問いただす。
「ルルネ村からです」
村の商人は慣れたように答える。
「馬車の荷はなんだ」
「薬草と村で仕留めた肉の燻製です」
ワイバーンと言って細かい話になるのを避けたようだ。
簡単に説明をする。
「荷を改めさせてもらうぞ」
検問の兵が2名で荷馬車の荷の検閲を始める。
(街に持って入ると困るものがあるから検問してるのかな。何があるんだろう。危険な薬物とか、呪いのアイテムとかかな。こういった具体的な話もブログのネタになるんだよな。)
という感想を検閲の兵士をまじまじと見ながら思うのである。
「ん。なんだ。何を見ている」
どうやらじっと検閲を見るおっさんが気に食わなかったようだ。
「いえ。申し訳ありません。めずらしく」
「なんだ。なぜ目を背ける。怪しいことでもあるのか」
今度は見つめないと悪かったようだ。
「お前もルルネ村から来たのか。通行証はあるのか」
「はい。これを」
村長からもらった通行証を見せる。
「ふむ。特に通行証に問題はなさそうだな。お前はちょっとこい。ほかのものは行っていいぞ」
「あの。私だけですか」
「そうだ何か問題あるのか」
検問の兵に連れられていくことになった。
荷馬車から荷物を取り、取調室のような部屋に入る。
ルルネ村の商人はそのまま街に入っていくようだ。
(あれれ。なんか雲行きが悪くなってきたぞ。なんか空港で挙動が悪くて、別室を案内されるみたいな感じだぞ。まあ海外なんか行ったことないけど)
「ここに入れ」
個室に入るおっさんである。
検問のうち1人は現場に戻るようだ。
中にはもう1人いる。
「隊長。怪しいやつを連れてきました。簡易鑑定をお願いします」
そこにはいかつい隊長が座っていた。
短髪に借り上げ、頬には切り傷がある。
「なに、黒目黒髪か。珍しいな」
と言いながらテーブルに丸い透明な水晶のようなものが置かれる。
(やはり黒髪はめずらしいのか。確かにいないな。村人の髪色はそういえば茶髪が多かったな。明るさには差があったけど)
「これに手をかざせ」
と言われる。
言われるがままに手をかざすおっさんである。
(おお、これはあれだ。異世界でよくある鑑定だ。すごい魔力で水晶にひびが入る例のやつだな)
おっさんが手をかざすと、透明な水晶がだんだん白く濁っていく。
とうとう水晶は真っ白になってしまった。
「なんだ!?こんな反応はみたことない!光もしないとは。貴様さては悪魔堕ちだな!」
光らないとダメなやつだったようだ。
後ろから取り押さえられるおっさんである。
「違います。悪魔堕ちではありません!」
「まだ、ごまかせると思っているのか!?」
体を鍛えた兵2人がかりで取り押さえられるおっさんである。
(なんだこれ。すごい痛いんだが。これが前衛系の力ってやつか。ゴリラかよ。ゴリラに羽交い絞めにされたことないけど。)
怒りで魔力の発動を感じるおっさんである。
「こいつ魔法を使おうとしているぞ。口を押えろ」
「ぐはっ」
ものすごい激痛を感じる。
おっさんは腹を思いっきり殴られたようだ。
「抵抗をするなよ」
両手両足を縄で結ばれ、運ばれていくおっさんである。
運ばれた先には鉄格子が見える。
鉄格子を開き、投げ出されるおっさんである。
「ん~、んん~」
身動きが取れない中、代弁をしようとするおっさんである。
「そこで大人しくしていろ。どうせ帝国のスパイなんだろ。早めに白状したら楽になれるかもな。何から白状するかよく考えておくんだな」
「おい。聖教会から悪魔鑑定ができる神官を呼べ」
「隊長。令状なしに呼びつけると上からまた怒られますよ。もう減俸いやですよ」
「分かった。わかった」
部下にいさめられ令状を書きに牢獄をでる隊長たちと部下の2人である。
冷たく暗い牢獄におっさんが1人残されたのであった。
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