第13話 レベルアップのある世界とは
「グギャアアアアア」
悲鳴を上げながら、水飲み場の小さな池を歩くワイバーン
「ウインドブレイド」
「ウインドブレイド」
「ウインドブレイド」
「ウインドブレイド」
「ウインドブレイド」
「ウインドブレイド」
「ウインドブレイド」
「ウインドブレイド」
「ウインドブレイド」
「ウインドブレイド」
「ウインドブレイド」
10発の風魔法がワイバーンの両太ももを襲う。
血を噴き出しているが、骨には達していないようだ。
しかし、何度も重ねて同じ場所を攻撃され、体勢を崩す。
「くらえ」
ヨハンの弓矢の一撃がワイバーンの片目に当たったようだ。
片目を奪われ、さらに歩みを遅くする。
もう水場を抜け、あと20mで崖に達する。
(ステータスオープン)
MP:96/156
(これ以上の足の攻撃は効果なさそうだな。片目も奪われているが歩みを完全に止めるのは無理だな)
ゆっくりであるが少しずつ崖に向かって歩みをするワイバーンである。
「グアアアアアアアアアアァァアァァ」
怒りに吠えるワイバーンである。
「ウインドブレイド」
崖の上をめがけて吠えるため、頭を上げ、がら空きに開いた首元に風魔法が食い込む。
出血が見られるものさらに歩みを進める。
「ウインドブレイド」
18m
「ウインドブレイド」
16m
風魔法とヨハンらの弓矢は致命傷には達してないようだ。
地面を揺らしながら、どんどん近づいてくる。
さらなる魔法を続けるおっさんである。
そして、崖に達したワイバーンが上を見る。
(さてMPがぎりぎりだな。もうちょいで倒せそうだが。どうするかな)
(ゲートオープン)
『ブログに投稿できる程度の体験をしていません』
(まだ戻れないか。みんなで朝飯も食ったし、汲み取り式のトイレにも入ったんだがな)
両手を上にあげ、崖を登ろうとするワイバーン
「どうする」
「大丈夫です。崖は登れません」
「なぜ言い切れる」
声を荒げてしまうヨハンである。
ここにはヨハンの娘もいるのだ。
「足をかなりけがをしてます。手は飛ぶために細く、あの巨体を持ち上げられません。まだ魔力はあります。それでもだめなら撤退しましょう」
(ふむ。倒しきれなかったかな。まあ崖は登れそうにないし。かなりけがをしているし。弱るのを待ってみるのもいいかもしれないぞ)
MPの残量を見ながらおっさんは答える。
しかし終わりは唐突にやってきた。
「ウインドブレイド」
残り数発になった風魔法が首に流れている頸動脈を切ったのだ。
「おお」
思わず声が漏れるヨハン
血を噴き出しながら、崖を登る力を失い倒れるワイバーン。
倒れ込んだワイバーンは呼吸が小さくなっていくのが見て取れる。
どうやら致命傷だったようだ。
さらに数分待つおっさんである。
死んだことを確認したいのだ。
タブレット画面を見ながら死んだことを確認したと思ったその時である。
「やったあああああ。わ、わたし。祝福が。ベルム様の」
コルネが喜びのあまり叫び始めた。
よく聞き取れないが、祝福なんだねという感想を持つおっさんである。
何が起きたか必死に考える。
「おおよかったな。おれもどうやら祝福をいただけたようだぞ」
「ほんと。私見てみて、去年狩りでけがをした背中の傷みて」
服をまくり上げる背中を見せるコルネである。
うおっと思いコルネと反対側に向き直るおっさんである。
「本当だ。傷が完全に消えている。戦神ベルムさま感謝いたします」
(ああ。これはあれだな。ワイバーン倒して。レベルアップしたんだな。確かにレベルアップしたらHPMPは完全回復したな。そうかモンスターがいて、レベルアップする世界では、こんなふうに世界のシステムを解釈しているもんなんだな)
一連の流れを見て、状況を整理するおっさんである。
(ステータスオープン)
Lv:13
AGE:35
HP:168/168
MP:180/180
STR:35
VIT:49
DEX:49
INT:162
LUC:46
アクティブ:火魔法【1】、水魔法【1】、風魔法【2】、回復魔法【1】
パッシブ:体力向上【1】、魔力向上【1】、力向上【1】、耐久力向上【1】、素早さ向上【1】、知力向上【1】、魔法耐性向上【1】
加護:検索神の加護(微小)
EXP:4693
PV:127P
AS:3P
(ずいぶんステータスもあがってきたな。PVポイントはあれだな。もらう経験値に比べて少なすぎてもう少したまってから使うかな。あとは経験値テーブルも把握しておきたいな)
レベル上げ至上主義のおっさんはステータス画面を見てまんざらでもない顔をしている。
なめまわすように画面を見ているとあることに気付く。
(あれ、加護が『微小』になってる。『極小』じゃなかったっけ)
「どうした」
「いやなんでもありません。それでどうしましょう。とりあえず崖を回り込みますか」
加護が変わっているおっさんの動揺の異変に気付いてか。
様子を確認するヨハンである。
ごまかすように行動を進めるおっさんである。
(確かに極小だったはずだ。いつからだ。昨晩村長宅に戻ってきたときはどうだったかな。あのときはあまり詳しく見てなかったな。ステータスに変化なかったしな。何か変化あるのか、あとで検証せねば)
回り込みながらワイバーンの死体に向かうおっさんである。
30分かけて崖を降りるために回り込んだおっさんら3人組である。
ワイバーンに近づいたが死んでおりピクリともしない。
「そういえば、ワイバーンの肉ってたべれるんですか?」
「ああ、食べれるぞ。結構うまいんだぞ。ほとんど食べたことないがな。」
「私、ワイバーンの肉初めて」
全身で喜びを表現するコルネである。
ゴブリンの巣の時から比べてずいぶん表情が豊かになったなとおっさんは思う。
「今日は村で肉祭りだな」
「そうですね」
「って、ああ。すまない」
「どうしたんです」
「このワイバーンはケイタ殿のものだ」
ワイバーンを倒すのを目の前で見てケイタ殿と呼ぶようになったヨハンである。
この異世界にとって力が正義なのである。
「何言ってるんですか。3人で倒したんだから3等分で分けましょうよ。ああこんな大きいの3人では持って帰れませんね。だったら村人にさばいたり、運んでもらったりしてもらわないといけませんね」
「おい」
「だったら肉の一部は村人にも分ける形がいいですよね。どうでしょうヨハンさん」
「いやおかしいだろ。おれやコルネの攻撃は、ほとんど攻撃が通じていなかったじゃないか。ケイタ殿も見ていただろ。それに倒す作戦を考えたのもケイタ殿だ」
「この水飲み場を案内してくれたじゃないですか。崖の上もそうです。片目もつぶしましたよね」
「いや。しかし」
「1つ大事なことを忘れているようですね。ヨハンさんもしょうがないな」
「どういうことだ」
何を言われているんだという顔をするヨハンである。
「戦神ベルム様は3人全てに祝福をお与えになりました。3人全てです。3人ともこの戦いに参加した証明ですよね。だから全員に祝福をお与えになった。ベルム様の判断に誤りがあったとでも」
決め顔でブサイクなおっさんはそういった。
かなりうざいかもしれないがマイブームの顔らしい。
「な。それは」
言葉に詰まるヨハンである。
おっさんのいうことも一理あるのだ。
「では一番の功労賞の私が一番高価な部位をいただけませんか。軽くて高価なものです。見てのとおりあまり重いのは苦手なのです。それで手を打ちましょう。さて村のみんなを呼んできましょう」
体はそんなに強くありませんからといった表現をするおっさんである。
「ああ、分かったそうしよう」
やや苦笑いでヨハンはそう答えた。
(戦闘に参加したんだから、経験値分配があったってことだろ。それなのにドロップはいらないって。あとで一番こういうのはもめるんだよな。ボスゴブリンが1000の経験値でワイバーンが3000は少ないと思ったんだよな。おそらく経験値9000を均等分けになってるなこれ。ゴブリンの巣で横で叫んでたコルネちゃんはあの時経験値は当然はいってなかったと思うな。ある程度戦闘に参加すれば経験値の均等分配の権利が得られるってことだろう)
ゲーム脳が再発したようだ。治療薬はない。
経験値の分配率や条件について、思案しながら村に戻るおっさんである。
お昼過ぎに村に帰ると、事情を村長に説明をするヨハンである。
人手が集められ、半信半疑の村人たちは狩場となった水飲み場に向かう。
驚きつつもワイバーンは数十人以上の人出によって切り分けられ、その日の晩に村のみんなにふるまわれた。
なおワイバーンの食べかけのグレイトボアもそのとき一緒に解体され、ワイバーンの肉とともに干し肉へと加工されるようだ。
ワイバーンを倒してから2日が過ぎた。
おっさんは現実世界に戻らず異世界で過ごしたようだ。
街へ行く準備が出来たようだ。
ワイバーンの爪などすぐに販売できそうなものの一部は街で売ってお金に変えるようだ。
荷馬車に載せるワイバーンの一部を見てそのような感想を持つおっさんである。
はいってくるときは、警戒されけげんな顔で見られたおっさんであるが、村に十分な利益をもたらしたためか、出ていく見送りには人だかりができていた。
「ほら。お前の戦利品だ」
何やらヨハンからテニスボールくらいの大きさの紫色の光沢のある石を渡される。
それに長さ30センチになりそうな牙2本だ。
さらに、どうやらパンと干し肉のようなものが見える。食料品だ。
袋に入れられて渡される。
「これはもしや」
「そうだ。ワイバーンの戦利品だ。一番いいところを選んでおいたぞ。それとこれは村長に頼まれてな。1週間分の食料も渡しておく」
「ありがとうございます。袋も助かります。荷物を持てるものがなかったので」
戦利品と1週間分の食料品を渡され喜ぶおっさんである。
「それに約束の通行証と向こうでの生活費じゃ」
小袋を村長に渡される。
「ありがたくいただきます」
お礼を言うおっさんである。
ヨハンの横で暗い顔をするコルネに気付くおっさん。
「コルネさんもお世話になりました」
「うん。あのね。私も魔導師様についていっていいかな」
「街にですか」
「えっと。そのあとも」
コルネは仲間になりたそうにこちらを見ている。
『仲間にしますか はい いいえ』
「それは。もうしわけありません。私は修行の身にて。誰かと旅をする責任はとれないのです」
おっさんは『いいえ』を選んだ。
(なんだなんだ。何に感化されたかわからないが、びっくりしたな。15歳のお嬢さんは預かれないぞ。少女ハーレムを作る気もないしな。)
ヨハンさんを見て言い出す。
ヨハンはどうやら既に同じことを言われてたのか、特に驚かないようだ。
「ケイタ殿もそういっている。今回はあきらめるんだ」
「わかった」
しょげかえるコルネである。
(まあしかたないな。モンスターがあふれる世界で、常識のないおれについていっても死亡フラグしか立たないしな。まあそれはゴブリンやワイバーンの出る村も一緒か。ただ村の方が安全だろう)
荷積めの準備ができ荷馬車に村の商人たちが何人か乗り込む。
おっさんも荷馬車に乗り込む。
見送られながら街に向かうおっさんである。
うつむいたコルネを見ながら、最後は笑顔で送ってほしいと思うおっさんであった。
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