第12話 ひと狩りいこうぜ!

ルルネ村にゴブリン討伐隊が入ったころ、猟に来ていた3人組に緊張が走っていた。

どうやら狩場として向かっていた森の中の水場で雄たけびが聞こえるようだ。

ヨハンを先頭に物音を殺し近づく3人組である。


『ズウゥゥン』


雄たけびとともに巨体が動く、ものすごい音が聞こえる。

森を抜け3人が見たのは、水飲み場にいた3メートル近い巨体のイノシシだった。

そして、さらに巨体の5m近い空からの敵に襲われていたのだ。


「あれは」


おっさんは小声でヨハンに問う。


「ワイバーンだ。どうやら奥にある山からえさを求めて降りてきたようだ。グリーンボアのさらに上位個体のグレイトボアが襲われている」


(ドラゴンの顔に、皮膜のある腕。なるほど、みるからにワイバーンだな。襲われているイノシシより一回り大きいな。きっと襲われているイノシシもグリーンボアより珍しいんだろうな)


空から襲い、背中にカギ爪を食い込ませる。

背中からグレイトボアの首元にかみつくワイバーンである。

戦闘が始まってかなり立つのか、水場の周りにはグレイトボアの血が飛び散りまくっている。

グレイトボアの動きは鈍い。

もう戦闘終了は近い。


「どうしますか」


「ワイバーンはこのままえさを食べたら、山に帰ると思う」


「では、引き返して放っておきますか」


2体の戦闘を見て考え込むヨハンである。


「あのワイバーンはまだ若いようだ。大人はあれの倍はある。ここをえさ場として認識してしまうと、頻繁に水飲み場に来てしまう。そしてここは村にも近い。村が狩場になるおそれがある」


最悪の結果を考えるヨハンである。


「では倒しますか」


「いや3人では、どう考えても厳しいだろ」


「そうですか」


ヨハンにはきびしいという認識である。

おっさんはあたりを見渡し始める。

森に生えた大きな木を見る。


(これでは無理だな。おれじゃ登れないし、大きく揺れるだろうし、ワイバーンがへし折るかもしれない。ん。あの水飲み場の奥のは)


「そうだ。なんだ、どうしたんだ」


周りをきょろきょろ見だしたおっさんにヨハンは問う。


「聞いてもいいですか」


「なんだ」


「ワイバーンは火を噴いたり、魔法は使いますか」


「なんだ。急に」


思いがけない質問に、質問で返してしまう。


「大事なことです」


「いや使えない。ドラゴンではないからな」


「ありがとうございます。勝機は見えてきましたよ」


「なんだと。あれを倒すつもりでいるのか」


「はい。ヨハンさんらが賛成するならです」


「どうやるつもりだ。聞かせてくれ」


「ワイバーンの背には水飲み場が見えます。その先に少し切り立った崖が見えませんか?あそこに回り込めるなら勝機はありそうです」


「崖の上から襲う気か」


「そうです。崖の上から襲います。まずは皮膜を風魔法で攻撃します。飛べなくなったところを、次に足を狙い、動きを止めて最後に首を狙いとどめを刺します」


もう動かなくなったグレイトボアを食らい始めたワイバーンを見ながら言う。


「崖には少し回り込めばいけるが。いやその前に簡単にいうが可能なのか。」


「必ずできるとは言えません。ワイバーンは今えさを食べて動きは鈍いでしょう。えさのせいで体も重くなって飛びづらくなっていると思います。えさに夢中で油断もしています。崖はワイバーンよりやや高いくらいでそんなに高くありません。しかし、足場の悪い水飲み場も、崖との間にありすぐには崖まで襲ってこれないでしょう。遠距離攻撃のないワイバーンです。動きを止めてからやってしまいましょう」


状況的に勝利確率が高いというおっさんである。


「なるほど」


さらに考え込むヨハンである。


「一つ言わせてください」


さらに付け加えるおっさんである。


「なんだ」


「私は遠距離を攻撃できる魔法を使えますが、私はもう少ししたら村を出ます。おそらくもうこの村にはあまり来ないでしょう。そしてここにはヨハンさんの大事な娘さんもいます。無理にとは言いません。必ず勝利できるともお約束できません。勝つ可能性は十分にあるとは言えますが戦うかどうかヨハンさんが決めてください」


「なるほど」


夢中で食らうワイバーンを見ながらヨハンはいった。

村のことを考えるヨハンである。

ゴブリンに攫われもうダメかもとも思っていた。

そんな娘が心配そうな顔でヨハンを見る。


さらに数分が経つ。

おっさんはじっとヨハンの返事を待つ。

そしてヨハンは一言つぶやいた。


「戦おう」


「ええ。勝てますよ」


「そうだな」


やや苦笑いのヨハンはおっさんを見て返事をする。



数秒、間を置き決め顔でブサイクなおっさんは言う。


「ひと狩りいこうぜ」


(決まった。とうとう異世界に行ったら、いいたいことベスト10のうちの1つが埋まってしまった)


「ああ。戦神ベルムさまは見ておいでだ。戦神さまは臆病を嫌う」


「そうなんですね」


(なんか神様っぽい名前が出てきたぞ。この異世界は複数の神を柱とする多神教のようだな)


創造神だのなんだのと考えだすおっさんである。


「崖の方に回り込むぞ」


ヨハンはおっさんの思考の脱線を遮り、回り道の案内をしだす。

3人は音をたてないように動き出す。



そして30分もしないうちに回り込んで崖の上に立つ。

ワイバーンはえさを食べゆっくり休んでいるようだ。

グレイトボアはもう半分も残っていない。


「私の魔法から行きますね」


「ああ。そのあとはどうする」


「私が初撃の魔法を打ったら、できればお二人はワイバーンの目を狙ってほしいです」


「分かった」


「はい」


弓矢の準備をするヨハンとコルネである。


(いいでしょう。ここでタブレットが見えるか実験をしましょう)


前から考えていたタブレットはほかの人に見えるのか実験を実行するおっさんである。


(スキルオープン)


半透明のタブレットが宙に浮きスキルの一覧が並ぶ。

宙に浮いたタブレットについて反応をしない。

見ようともしない二人である。

じっとおっさんの様子を伺う。


(こんなのが出てきたら普通反応すると思うが、どうやらタブレットはほかの人には見えないらしいな。半透明だしそうだと思ってたがな。切り裂くなら風魔法だな。まあ村と俺らの命がかかってるんだからレベル2を入手するか)


スキル一覧から風魔法を検索する。

『風魔法Lv2 必要ポイント10Pポイント』

『10Pで風魔法Lv2を取得しますか』というメッセージウインドウがでてくるので、『はい』をタップし取得する。


「では。いきますよ」


魔法の入手を終えおっさんは手のひらを前に出し合図を二人に送る。


「おう。」


「はい。」


二人も準備はいいようだ。


「ウインドブレイド」


風魔法Lv1スキルのウインドカッターの倍近い、1m以上の大きさの風の刃が1つ発生し、休んでるワイバーンの片方の皮膜を襲う。

反応することもできず、刃はワイバーンの腕に吸い込まれるように撃ち込まれる。


「グギャアアアアアアアアアア」


ワイバーンの悲鳴のような雄たけびが聞こえる。

休んでいるところを襲われ怒りをあらわにしながら小高い崖の上の人間を見る。

皮膜は破られたようだ。しかし狙われた方の腕は血が流れているが無事なようだ。


(ステータスオープン)


MP:151/156


(MPの消費は5だな。MP残量は十分だ。ガンガン行こうぜ。)


やぶれた皮膜ともう片方の無事な方の皮膜を使い飛び立とうとする。


「ウインドブレイド」


無事な方の腕の皮膜も破られ、血が流れる。

少し浮いたものの追撃の魔法により、もう片方の皮膜も破られ飛び立てずに倒れ込むワイバーン。

衝撃音が森中に木霊する。


ヨハンとコルネは目を狙うようだがまだ当たっていはいない。

ここは50メートル近く離れている。


(よしこれで飛べなくできたぞ。あとは足を攻めて動けなくするぞ)



小汚い1k7畳の部屋。

10年以上前にやったネットゲーム。

攻撃を受けないよう、城壁の上から魔法で連撃して倒したティラノサウルス。

1人では倒せない敵を型にはめて倒してきた。

なんとなく既視感を感じるおっさんである。





・・・・・・・・・


ここはまもなくゴブリンの巣であろう森林である。

まもなく昼に差し掛かろうとしているとき、森林を抜けて騎馬隊がゴブリンの巣に近づきつつあった。


「騎士さま。まもなくゴブリンの巣です」


「うむ。総員警戒しろ」


「おお」


ルルネ村の案内によりイリーナ率いるゴブリン討伐隊がゴブリンの巣に到達する。




「なんだこれは。説明しろ」


ゴブリンの巣の門前まで隊列を組み近づいたもののゴブリンは湧いてこない。

どうも激しい戦闘があったのか門前は焼けただれている。

怒っていたわけではないがあまりの驚きで声が大きくなる。


「ひぃ」


怯える村人である。


「いやすまない。聞いていた話と違っていてな。ゴブリンの巣で一部戦闘があったのは聞いている。しかしこれは。ロキ、状況はどうなっている」


門前の状況を確認している配下のロキに状況の説明を求めるイリーナ。


「かなり大掛かりな火魔法が使われたようです。ゴブリンは50体近く。ゴブリンの上位種のゴブリンナイト、ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジが合わせて10近く消し炭になっています。さらにゴブリンキングまで全身が焼かれ殺されたようです」


「ゴブリンキングがと。うむ、確かにこの大きさならそうだろうな」


ゴブリンキングのロースト状態を見ながらイリーナは答える。


「ロキ、どう思う?魔導士の見習いがやったそうだぞ」


「見習いだって?冗談でしょう?火に高い耐性を持つゴブリンキングが黒焦げですよ。火魔法はどうやら巣の内部中央にまで達しています。死ぬまで魔法をかけ続けたようですよ」


「ふむ。魔導士の見習いはケイタといってたな。領主様に報告する内容が一つ増えたな」


「それでどうしますか。副団長」


イリーナ・クルーガはゴブリンの巣の討伐を命じられた隊長であるが、フェステル子爵領の騎士団の副団長でもある。

部下からは副団長と呼ばれている。


「まずは巣を焼き払うぞ。残党も巣に残っているかもしれん。焼き払ったのちに5隊8組に分かれて森の内部に逃げたかもしれないゴブリンの討伐を行う。この規模の巣ならあと100体はゴブリンがいるはずだ。数日は皆覚悟しておいてくれ」


「は」


返事をする隊員たち。


「ん。おかしいぞ」


ロキはゴブリンキングの死体をみて異変に気付く。


「どうした。ロキ」


「魔導士の見習いっていうのは案外正解かもしれませんね」


「どういうことだ」


「いやこの死体、貴重な魔石がまだあります。ゴブリンキングなら金貨10枚で売れますよ。ほかの上位種もどうやら魔石を抜いた痕跡がありません」


「何?それは本当か」


火魔法をもつ謎の魔導士の見習いについて思考が巡るイリーナであった。

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