第09話 おっさん、村に入る

すっかり暗くなった門の前には人だかりができている。

どうやらかがり火をたくようだ。

ヨハンとコルネの帰還を村人はみな喜んでいるようだ。

そんな中、正体不明のおっさんに視線が向かう。

見知らぬ来客にかなり警戒をしているようだ。


(今度こそ村に着いたぞ。見た感じ俺と同じような服装だな。今着ている服は現地に合わせたんだろうか)


人だかりの中を進むヨハンらについていくおっさんは、村人の服装を見て生活レベルを判断しようとする。

村の中をどんどん進むヨハンらは村の奥のひときわ大きな家に近づいていく。


(大きくて村の首長っぽい家だな。どうやらこのまま村長宅に直行って感じだな。さてどんな話の流れになるかな)


4時間近く、村に向かい歩く中で考えた設定がおっさんの頭を駆け巡る。


「ここが村長の家だ。入ってくれ」


「はあ、いきなりお邪魔して大丈夫なんですか」


「もちろんだ。村の一員を救ってくれたんだ。それにそうなったいきさつについても説明をしてほしい」


「はあ」


気のない返事をするおっさんである。

ノックをすることもなくどんどん中に入るヨハンたち3人組である。

そのあとをついていくおっさん。


「ここで待っていてくれ。村長を呼んでくる」


奥の部屋に通される。


(完全に木造の家だな。家具も含めてレンガはない感じかな。この生活感や雰囲気もブログに載せたいな)


ヨハンが村長を呼んでくるようだ。

残りの3人は部屋で村長を待つ。


「もうずいぶん日が暮れていますが、こんな夜間にお邪魔してよかったんですかね」


「ああ、大丈夫だ。今後のこともあるので早めに状況を知る必要があるんだ」


「そうですか。でもヨハンさんが無事でよかったですね。ゴブリンに襲われたとお嬢さんに聞いていましたので」


「そうだな。まあアイツはゴブリンなんぞにやられる玉じゃねえよ。村の薬師に治療をお願いしたしそのうち治るだろう」


「村の薬師ですか。薬草を煎して塗る感じですか」


「そうだ。この辺には薬草のココラナ草があるからな。あいつならすぐに良くなるさ。アイツ傷だらけで戻ってきてよ。ヨハンの野郎、治療したらすぐに村を飛び出ていってな、まあ無事でよかった」


(まあお嬢さんの事もあったからな。無理してるみたいだな。傷口の衛生面も悪そうだし、あとで機会があればヒールするかな)


(それにしてもこの恰幅のいいほうの名前なんて言うんだろうな。そういえば、おれも名乗ってないな。聞かれなかったからなんだけど、こういう時は自分から名乗るもんだな。忘れてたぜ)


どうやら村長宅に入るときに注入したおっさんの集中力は切れて、思考は脱線を始めたようだ。


「すまぬ、待たせたのじゃ」


ヨハンが村長を呼びに行って数分後のことである。

どうやら村長がやってきたらしい。

座っていたおっさんは立ってお出迎えをする。

なんとなく村長という響きの影響である。

おっさんはえらいものに弱いのだ。


「この方に娘を助けていただいたんだ」


村長に説明をするヨハンである。


「それはまことかの」


「結果的にそう言った形になりました。名乗りそびれて申し訳ありません。私はケイタというものです」


(異世界物では貴族でないのに家名を持っているのはおかしいしな。名前のみでいいだろう。鉄板ネタというやつだな。名乗りはこんな感じで大丈夫かな)


村長の様子を伺うおっさんである。


(ザ・村長といった感じの眉と髭の長いおじいさんがでてきたな。そういえば、中世のヨーロッパも子供の死亡率が高すぎただけで老人は結構いたらしいしな)


会話の途中でも思考の脱線をするおっさんである。


「わしは村長のマヌエルというのじゃ。村人を救っていただき、村長としてお礼を言うのじゃ」


頭を下げてお礼をする村長である。

おっさんはそれで思考を戻される。


「いえいえ、お礼には及びません。たまたま通りかかっただけです」


「こんな、へき地をたまたまのぅ。どういういきさつか説明してほしいのじゃ」


「にわかには信じていただけない話になります」


「構わぬのじゃ。コルネが戻ってきただけでも奇跡なのじゃ。詳しく状況を教えてほしいのじゃ」


「私はある師に仕える魔導士の見習いでございます」


「ほうほう」


「実は、その関係で世俗に疎いのです」


「ほほう」


首をかしげる村長である。

おっさんと村長の会話を黙って聞く三人である。


「こことは違う、辺境の地で世俗を絶って、師匠、兄弟子や弟弟子とともに日々魔道の研究と修行をしておりました。そんなおり、本日のことにございますが、師匠と作成していた魔法陣が暴走しまして、気付いたらこの森の中でございます」


流れるように嘘をつくおっさんである。


「ふむ」


「こんな何もない格好で飛ばされ、人里を探して半日ほどさまよっていたのですが、やっとのことで見つけたと思った村がゴブリンの村でして」


嘘にうそを重ねていくおっさんである。


「ふむむ」


「襲い掛かるゴブリンたちに必死に抵抗した次第にてございます。ですのでお嬢さんを救ったのはたまたまでございます。師匠は厳しい方でしたが、そのおかげで身についたこの魔導の力で人を1人救うことができました。この十数年の修行が無駄ではなかったと今では思っております」


自分のついた嘘で感動し震えだすおっさんである。


「なるほどのぅ。おぬしも大変であったんじゃな」


「いえいえ、この1日ほど歩きとおしでへとへとなだけです」


「それでゴブリンの巣は今どんな感じなのじゃ」


(ゴブリンの巣と呼んでるのか。お嬢さんもそんなこと言ってたな。表現を合わせるか)


「ゴブリンの巣の入り口から湧いてきたゴブリンは魔法で倒しました。しかし巣自体は概ね健在で中にあとどの程度のゴブリンがいるのか分かりません」


「ぬ。巣の中には入ってないのか」


「はい。まあ殲滅する理由もありませんでしたし、余裕もありませんでした」


「そうなのか」


若干であるがガッカリする村長である。

どうやら期待もしていたようだ。


「申し訳ありません。私はただの見習いの身。それほどの力はないのです」


「いやいや、先ほども言ったが、村人を救っていただき感謝するのじゃ。ゴブリンも減ったのであれば活動も弱くなるはずじゃ」


(やっぱり領主様の騎士団の派遣してくるのかな。ゴブリンのいる世界の騎士団だ。餅は餅屋に任せた方がいいだろう)


「状況は分ったのじゃ。それでどうするのじゃケイタ殿。これからのことじゃ」


現状を把握した村長は、村にやってきた魔導士の見習いに対して今後について尋ねる。


「できれば、今晩は泊めていただきたいです」


(そういえば、現実世界に戻るとこっちの世界の時間は止まってるんだったな。今戻ってもこっちの村は夜のままか)


異世界の夜の過ごし方について、思考が向くおっさんである。


「もちろんじゃ。ただこの村には宿屋がないので、わしの家の空いている部屋を案内するのじゃ」


「助かります」


「それでそのあとはどうするのじゃ」


「できれば、街にでて仕事を探してお金を稼ぎつつ、師匠のいる研究所に戻ろうかと思います」


「ふむ。そうなのか。まあこの村にはあまりお金になる仕事はないのじゃ。それがいいと思うのじゃ。ただ街に出る便は3日後なのでそれまで村に滞在するのじゃ」


「助かります。何かできることがあればさせてください」


(ぼーっと村長宅の部屋にこもるより何かした方がいいだろう。ブログ的に)


(まあ、十分ブログのネタはあるけど、ゴブリン倒して、少女救って、村にも入ったしな。村長にも話すことができたので2~3本は投稿できそうだな。いったん現実世界に戻ってブログ記事書くかな)


「そうなのか、どうしようかの。ヨハンがけがをして猟に行けるものが減ったので、猟の協力や、もしゴブリンがでてきたら倒してほしいのじゃ」


「構わないですよ。ただ私は回復魔法が使えるので、ヨハンさんの傷もできれば治してあげたいですね」


(このタイミングで恩も売ってみよう)


ベストなタイミングでヨハンの回復について話ができたと思うおっさんである。


「おお、それは本当か。回復魔法も使えるのか」


かなり細い目がくわっと見開く村長である。

ヨハンも話がふられ反応をしめす。


「はい、見習いの身ですので簡単なものしか使えませんが」


「それは本当ですか」


コルネも反応をしたようです。


「はい、回復魔法の話をすぐにせずに申し訳ありません。話を切り出す機会がなかったものでして」


「いえ貴重な回復魔法をかけていただけるんですね」


(回復魔法は貴重のようだな。魔法使える人自体かなり少なそうだ。おれがどの程度の魔法使いなのか調べる必要があるな)


「ではかけますね。ヒール」


そうと決まればさくさく回復魔法をかける。

淡い光がヨハンを包む。

光が消えると、全身を触りだすヨハン。

傷口を強く押してしまったのか、顔が若干歪むことから完治はしていないようだ。


「もうしわけありません。まだ完全に治っていないようですね。ヒール」


さらに回復魔法を重ねるおっさんである。


(重傷者の完治をするほどの効果はないのか。ああレベル1だしな)


ヨハンの様子から今度は傷口が完全にふさがったようだ。


「助かる」


頭を下げ、お礼を言うおっさんである。


「いえ、治ってよかったです」


「何かお礼を」


「いえいえ。大丈夫ですよ」


「そうはいかぬ。貴重な魔法だ。お礼をさせてほしい」


「ではこうするのじゃ。お礼に町までの馬車で移動するので一緒に載せていくのじゃ。町までの食料と街についてから数日間の生活費分のお金も用意するのじゃ。あと街に入るのに通行証がいるのじゃ。それをわしが発行するのじゃ」


「それは助かります」


(ふむ。馬車はそもそも出す予定であったし、通行証は書くだけだろうし。数日分の食料と生活費を出すだけなのに、お礼を盛ったかな。この村長たぬきだな。まあこっちは、着の身着のままだし、村長としても過度なお礼をして、村の収入を傾けるわけにはいかんしな)


お礼をいいつつ、村長と交渉をするおっさんである。


「もしよろしかったら、数日間の滞在でまだけがをされている方がいれば、その方たちも治して差し上げますよ」


「それは本当か」


「はい。もちろんです。ですので、できれば、街で新しい仕事が見つかるまでのある程度の生活費をいただきたいですね。それに辺境の地で暮らしていたため、世俗に疎いです。村の中を見て回ったりさせていただけたらと思います」


「あいわかった。そのように手配しよう。けが人は何人かいるので助かるのじゃ。村の中を歩き回ってもかまわん。わからないことがあればヨハンに何でも聞いてくれ」


「何から何まで助かります」


(情報収集、村人の救済、狩りの協力などブログネタがこれで稼げそうだな)


ブログネタがほしいおっさんと、なるべく安く魔導士の力を借りたい村長の目的が一致した瞬間である。


「今日はもう遅いのじゃ。食事も用意するので、食事がすんだら休まれるのじゃ」


「はいそうさせていただきます」


「ヨハンにコルネも無事戻ってきてよかったのじゃ。明日にまたわしの家を訪ねるのじゃ」


話を締める村長である。

おっさん村長家に泊まるである。

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