第08話 おっさん、少女を救出する

「お、気付いたな。すまんいま手が離せん。ちょっとまってろ」


「いやああああああああああああああああ」


どうやら、おっさんの気遣いは無駄に終わったようだ。


「ファイアーボール」

「ファイアーボール」

「ファイアーボール」


距離を詰められてなるものかと、おっさんはボスゴブリンの集団にファイアーボールを連射していく。


一体また一体と吹き飛ばされながら倒れていく。



それから数分経過


30発以上のファイアーボールによりボスゴブリンも伏したままもう動こうとしない。


「ステータスオープン」


おっさんはEXPの値を見ながら、ボスゴブリンの様子を伺う。


さらに数分経過


「ふむ、経験値が増えたな。ていうかレベルアップだ」


(とどめを刺さないと、経験値は手に入らないか。だがこれは死亡確認に使えるな。近距離戦に弱いんだし、死んだふりには気を付けないとな。ヤム〇ャとは違うのだよ)


おっさんはEXPの取得条件を確認しながら、さらなるゴブリンの発生に注視する。

5分以上経過するが追撃はないようだ。

門はすでになく、木柵もほとんど原型をとどめていない。

ゴブリン村の内部まで火の手が上がっている。


「ステータスオープン」


Lv:11

AGE:35

HP:144/144

MP:156/156

STR:30

VIT:42

DEX:42

INT:138

LUC:40


パッシブ:火魔法【1】、水魔法【1】、風魔法【1】、回復魔法【1】

アクティブ:体力向上【1】、魔力向上【1】、力向上【1】、耐久力向上【1】、素早さ向上【1】、知力向上【1】、魔法耐性向上【1】


加護:検索神の加護(極小)


EXP:1693


PV:0P

AS:1P


(ずいぶんレベルが上がったな。完全な後衛職か。ボスゴブリンだけで1000も経験値はいったな。うますぎだぜ)


(しかし、地の利に助けられたな。こんなに数十発も打たないと倒せないなら、囲まれた森林や近距離での戦闘だと厳しかったな)


(しかし、INTが増えても思考には影響がなさそうだな。まあ人格が変わるよりましか)


おっさんは震える少女を見ながら検証を加速させる。


(ふむ。フィット感のある薄茶色の上下、ナチュラルブラウンの髪をポニーテールにしてるのか。年は15歳くらいかな)


ブサイクなおっさんに見つめられ震える少女。


「それでお嬢さん」


「は、はいっ」


びくっとなりながら返事をする少女。

過去にもこんな反応されたなと記憶がよみがえるおっさん。


「混乱してるかもしれないが、少し聞いていいか」


「はい。なんでしょう」


(会話は普通に通じる設定だな。自動翻訳している感じもなしの世界か)


流ちょうな会話ができることに喜びを感じるおっさんである。


「この村はお前の村か」


「そんな、ち、ちがいます」


「まあそうだろうな。わらわらゴブリン出てきたしな」


(ふむ。襲ってきたから迎撃したが、いいゴブリンの世界の設定もあったなそういえば)


「はい」


「このまま、このゴブリン村に入るか決めかねているのだが、ほかにいるのか、さらわれた人間が」


「多分いないと思います」


「ん。なぜだ」


「このゴブリンの巣は最近できたばかりで、近くに私の村しかありません。旅人もこのあたりは街道でも何でもないので通らないと思いますので」


「でもお嬢さんはさらわれてただろう」


「ゴブリンの巣ができたのは分かってたのですが、近づかなければ大丈夫だろうと。私の家、猟師やってて。父さんと猟に出てるときにゴブリンの群れに遭遇して……」


「うん」


「父さん村一番の猟師ですごく強いの。でも私をかばって……」


「そうかすまんかったな」


「父さんは生きてると思います。ゴブリンなんかに……」


下を向いて泣き出す少女。


(大体の状況は分ったな。このゴブリンの村に人間はいない。おれの魔法で一撃で倒せないゴブリンは結構いる。少女を助けながらで囲まれたら終わりだな。せめて範囲魔法覚えるまで無用なリスクは取らないほうがいいか。デスペナルティもわからんしな)


「そうか。じゃあお嬢さんを村まで送ろう」


「え、いいんですか」


「まあ、こんなゴブリンがわいてくる場所においとけないかな」


(よしよし。これで村に自然と入れるぞ。この子は村娘かな。運がよかったぞ。検索神さまありがとうございます。ぐふふ)


腹黒い笑みを浮かべるおっさんである。


「ありがとうございます」


ゴブリン村を離れる二人。

村へと先導する少女。

どうやら太陽や山の位置などで場所がわかるらしい。


「それで村まで、どれくらいなんだ」


「二刻くらいです」


(一刻ってなんだっけ。たしか2時間だっけ。4時間歩くのきつくね。今日一日歩いてるじゃん。でも村の脅威からの距離だとしたらかなり近いのか)


「あの。聞いていいですか」


歩きながら質問をする少女。


「なんで助けてくださったんですか」


「いや、たまたまだよ」


「そうなんですか」


「お嬢さんを担ぐゴブリンとその村に出くわしてな。運が良かったな」


「そんな。ありがとうございます」


「まあたまたまだよ」


「……」


「……」


「あの、おじさんは魔導師様ですか。」


「いや、全然の見習いさ」


やや適当に答えるおじさんである。


(そういえば、まったく設定考えてなかったな。村に入る前に人に会うこともあるか。さてどんな設定にするかな)


「でもすごい魔法でしたよ」


「そうか」


「はい」


「村では魔法使える人は少ないのか」


「はい。薬屋のおばあさんが少し回復魔法を使えるだけです。頻繁には使えないので薬草を普段は使ってますが」


「生活魔法とか使えないのか」


「生活魔法って何ですか」


(なるほど。貴重な情報だな。恩も売ってるし色々教えてくれるぞ。それにしても生活魔法のない設定の異世界か。かなり生活レベルが低いかもしれないな)


(それにしても魔法があまり普及してないのだろうな。この感じだと)


「いや忘れてくれ。生活周りの魔法なんだが、魔法に詳しくないみたいだし説明が難しいのだ」


「そうなんですか」


適当にごまかすおっさんである。


「そうなんだ。話は変わるが、このゴブリンの村はどうする予定だったんだ。村を引っ越すわけにはいかないしな」


「村の人が領主様にお願いするって言ってました」


「領主様か」


「はい、領主様にお願いして騎士団の派遣をお願いするといってました」


(おお、領主に騎士団か。異世界感でてきたぜ)


ゴブリンで十分異世界感でてるはずだが、心躍るおっさんである。


(このまま村の状況を根掘り葉掘り聞くのはどうするかな。さすがに怪しまれるか。自然な会話じゃなくなるしな。こういう世界観だと排他的でよそ者はみんなスパイみたいな扱いのところもあったと聞いたことがあるぞ。このお嬢さんはいいとして、いろいろ聞かれたなんて周りの大人に吹聴されても困るな)



おっさんが思考の中に入るとなんとなく会話が止まる。

黙々と森を移動すること2時間が経とうとしている。


「もう半分くらいか」


おっさんはどうやら疲れたようだ。

歩き疲れた子供のようなことを言い出す。


「はい。半分は過ぎたと思います」


「疲れていないのか」


「ありがとうございます。大丈夫です」


休憩をとることに失敗をしたおっさんである。


(さすが猟師の娘といったところか。どうするかな。足パンパンなんですけど。今日はなんかずっと歩いてるな。足がまるで棒のようだ。明日仕事なんだけど。夜寝たら回復するかな。ん。回復か。いいことを思いついたぞ)


(ヒール)


心の中でヒールを唱える。

前を歩く少女は気付かないようだ。


(おおお、疲れが消えていく気がするぞ。なんで今まで気付かなかったんだ)


回復魔法の新たな使い方を覚えたおっさんである。



さらに歩くこと1時間が経過したとき、前方で声が聞こえた。

あたりはずいぶん薄暗くなってきている。

異世界も夕方に差し掛かっているようだ。


「コルネっ」


「お、お父さん」


(コルネというのか。この子。ん。お父さんとやらも無事だったか。よかったよかった)


少女のところに駆け寄るお父さん。

どうやらかなり負傷しているようだ。

肩や腹に包帯のようなものをまいてるが、包帯から血が染み出ている。

ひととおり抱擁を交わしたあと、少女の後方にいる男に気付く。


「ぬ。きさま、何者だ」


(やはり怪しまれたか。こんな森の中で荷物も何もないしな)


「旅のものです」


「なんだと。そんな恰好でか」


さらにおっさんに近づく村娘のお父さん。

手には結構な刃渡りの剣鉈のようなものを持っている。

背には弓矢も見える。完全な猟師である。

おっさんに緊張が走る。

魔法の発動を意識する。


「はい。わけあってこのような恰好でこんな森をうろつく羽目になっている旅人でございます」


「……」


不審がる村娘のお父さんである。


「お父さん本当なの。この魔導士様がゴブリンから助け出してくれたの」


(お、コルネちゃん今いいこと言ったぞ。みんなコルネちゃんに注目だ)


「魔導師様だと。それにその話本当か」


「まあたまたまです。行きがかり上そうなりました」


おっさんと少女のお父さんの間に沈黙が流れる。


(さてどうするかな。まあ信じてもらえないならそれはそれで仕方ないな。村に入るのが厳しかった。それもまたブログのネタになりそうだな。でもそれだとこっちの世界で飯にありつけないぞ)


ブログのネタと現状をどうするかで考え込むおっさんである。


「そうか。それは失礼なことを言ってしまったな」


少女のお父さんは信じたようだ。


「いえいえ。警戒されるのも無理はありません。こんな格好ですし」


「礼がしたい。村まで来てくれるか」


「助かります。今晩どうしようと心配していました」


「そうか」


村まで歩くことになった3人である。


(どうやら、信じてくれたようだな。さてこれからどうしようかな。それにしてもヨハンという人の傷痛々しいな。ヒールかけたほうがいいのかな。安易に回復魔法かけないほうがいいのかな。でも痛々しいな、おりを見るかな)



さらに歩くこと30分ほど。

村がうっすら見えてきた。

あたりはずいぶん暗くなってきている。

まもなく夜になるようだ。

薄暗い中、かろうじて村を囲む木柵が見える。


(村は木柵を作る世界なんだな。まあゴブリンのばっこする世界だしな)


さらに近づくと喧噪が聞こえてくる。

どうやら結構な人がいるようだ。

人の集団から恰幅のいい40くらいの壮年が近づいてくる。


(この異世界では村の門に集まる習性があるのかな)


よくわからない感想を持つおっさんである。


「おお、生きて戻ってきたか。ヨハンもどってきたか」


「ああ」


「コルネちゃん。よかった。生きてたか」


「うんおじさん」


3人が喜びをかみしめているところ、見慣れないおっさんがいることを恰幅のいい40くらいの壮年のおじさんが気付く。


「む、だれだ」


「はい。私がゴブリンにさらわれたところ助けていただいた魔導師様です」


「魔導師。それは本当か」


見た目からはそうは見えないためか、けげんな表情を示す。

荷物も防具もないおっさんの姿を、上から下までまじまじと見る恰幅のいいおじさんである。


「たまたま通りかかっただけです。まあ無事でよかったですね」


「そうなのか。それは失礼した」


若干の疑念はあるものの、恰幅のいいおじさんも信じることにしたらしい。


「すまないが魔導士どの。詳しい話を聞きたいので村長の家まで来てくれないか。いきさつについて聞きたい」


判断を村長に丸投げしようと思う恰幅のいい壮年のおじさんであった。

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