第17話 愛

「ケイト、アリシアを何とかしてくれ。離れてくれないんだ」

「あの子、遂に素直になったのね」

「どういう事?」

「シュウの事、ずっと好きだったらしいわよ。素直になれなくて、あんな態度をとってたらしいわ」

「えー。絶対嘘だ。好きだったら、あんなに辛辣な態度取らないよ」

「でも、シュウが魔王城で消えたときのアリシアの態度は大変だったのよ、酷く取り乱して、泣きわめいてたんだから」

 えー。あのアリシアが俺の事を好きだって。素直には信じられないけど、今のアリシアを見れば、そうなんだろうな。


「でも、俺、異世界人だからこっちで長く暮らせないからな」

「それは、あのくそ女神が言っただけでしょ。信じてるの?」

「いや、実際に長くは居られないんだ。お客さんで観光中に逃げ出して、こっちに永住しようとした人がいたんだけど、1週間後に死体だけが地球の方に戻ってきたんだ」

 その後、何があったのかを調べたら、街で歩いている最中に急に消えたということわかった。だから異世界の住人は1週間しか、こちらの世界にはいられないのだと仮定している。誰も実験して死にたくはないから、確かな所はわかってはいない。そのため、観光は長くても5日までと決めている。


「シュウはアリシアのことをどう思ってるの」

「どうとは?」

「結婚してもいいかと思っているかと言うことよ。実際、こちらの世界にはシュウと結婚したい人は多いわ」

「えっ、誰?」

「えーと、確定している所で、私でしょ、アリシアでしょ。プリシアでしょ。それと――」

「ちょ、ちょっと待て、今、凄い事ぶっこんできたよな」

「プリシアの事。彼女も――」

「ちげーよ。お前だよ」

「私。私は出会った時からシュウの為に死ぬって決めてるもの。だから一緒にいるでしょ」

 重い。愛が重すぎる。俺の為を思うなら死なないでください。

「私だけじゃなくて皆そうよ。貴方は、私達の世界の為に命をかけて戦ってくれたわ。そんなあなたの盾になるために私達はついて行ったんだから」

 だから、ブランとシルフィは笑って逝ったのか。

「次こそは私がって思ってたんだけどね。ブラン達の所には、行けなかったわね」

「ばかやろう。死ぬなんて言うなよ。俺は、俺はお前たちに生きていて欲しいから必死で戦ったんだ。お前たちに死んで欲しくて戦った訳じゃない」


 仲間たちの当時の想いをケイトから不意に聞かされて、涙が溢れて立っていられなくなってしまい、膝をついた。

 そんな俺をケイトが抱きしめて言う。

「私達も同じよ。あなたに生きて元の世界に返してあげたかったの。皆、貴方の事を愛していたし、今でも愛しているわ」


 う、うう。ケイト。

「俺だって、お前の事を愛――」

 していると言いかけた所で、視線と殺気を感じた。

 げっ、アリシア。

 アリシアが柱から顔だけ出してこちらを睨んでいた。

「シュウ、続きはなーに」

「いや、何でもない。アリシアが睨んでいるぞ」

「ちっ、あと少しだったのに」

 あっ、ケイト、今舌打ちしただろ。聞こえたぞ。怖。あと少しで罠にかかるところだった。危ない、危ない。


「シュウは私と結婚するんだからね」

「別に嫁は一人じゃなくていいでしょ。私も結婚させて貰うわよ」

「だめー。シュウは私のなの」

 アリシア、ほんとにお前誰だ。5日前と別の人じゃないのか?


「お兄ちゃん。お帰り」

「萌、ただいま」

「お疲れ様でした。逢坂さんも喜んでたよ。後、アリシアちゃんから告られたみたいね」

「ああ、それで困ってるんだけどな」

「なんで? こっちでは重婚も近親婚もオッケーじゃん」

「そうなのか。近親婚ってそんなの……」

「嫌なの。私じゃ不満なんだ」

 えーん。と泣き出してしまった。

「萌、泣くなって、別に不満とかじゃなくてだな。萌は妹だから嫁さんとしては見られないというか……」

「うっそ。嘘なきでした。騙された?」

「萌ー」

「ごめんごめん。でももう遅いんだよね」


「遅いって、何が?」


「えっとねー。出しちゃった。婚姻届。テヘペロ」

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