第16話 上級コース④

 はあ? こいつ何言ってんの?

「お前、何言ってんの? 冗談?」

「冗談なんて言う訳ないでしょ。私は本気よ。考えときなさいよ」


 それ以降、アリシアは機嫌が悪くなったのか、しゃべらなくなった。

 一体、何が起こればこいつと俺が結婚なんてする話になるんだ? 天変地異の前触れか?


「兄貴、どうしたんですか? 急に黙り込んで」

「おう、ニック。聞いてくれよ、アリシアが変な事言ってきたんだよ。俺と結婚するんだってよ。面白くない冗談だよな」

「えっ、アリシア、ついに言ったんですか?」

「お前、何か知っているのか?」

「な、何にも知らないっす。言ってはいけないんっす」

 こいつ、やっぱり何か知っているな。

「ニック、俺に隠し事とはいい度胸だな。話さないとお前のお気に入りの雅ちゃんにある事ない事吹き込むぞ」

「そ、そんな。勘弁してください。ケイトに聞いてください。あいつに口止めされてるんっす」

 ケイトに口止め? 俺に何を隠している?

 

 俺達は会話に夢中になり、完全に油断していた。


 カチリ


 逢坂さんが何かを踏んだ。壁から大量の矢が穿たれる。ニック、仕事をしろよ。これは解除が必要な奴だろ。


「アリシア、危ない!」

 俺は叫んだが、アリシアは全く反応できていなかった。

 くっ、間に合わない。


 短距離転移を使い、アリシアを庇う。アリシアさえ無事なら少々の怪我であれば治してもらえる。


 ぐっ。俺の背中に何本もの矢が突き刺さる。急所は鎧が守ってくれるが、数が多すぎる。

 ゴフっ。胃から血が逆流してきた。不味いな、臓器に達したか。

 立っていられなくなり、崩れ落ちる。


「いやーーー。シュウ、シュウ。死なないで」

 アリシアが取り乱すのは珍しいな。早く癒してくれないかな。

「ア、アリシア、大丈夫か?」

「シュウ。死なないで」

 いや、死にたくないから、早く癒してくれ。ああ、じいちゃんが呼んでる。まだ、結婚してないのに。


「あにき、兄貴、もう起きても大丈夫っすよ」

あ、あれ。確かにもう痛くないな。危なかった。魔王を倒した俺がダンジョンの弓矢如きであの世に行くところだったぜ。


「アリシア、癒してくれてありがとうな。もう大丈夫だから泣くなよ」

 アリシアが心配そうな顔をして涙を流していた。

「シュウ。ごめんなさい。私、私がぼうっとしていたから……」

「いいんだ。お前に怪我が無くてよかったよ。ほら、もう平気だから」

「沢山血を流したんだから、無理は駄目よ。私に捉まって」

 普段は絶対に近づかせてもくれないのに、今日のアリシアは何処か変だな。まさか、偽物?

 アリシアが俺の腰に手を回して、支えてくれる。めっちゃいい匂いがする。こいつ口は悪いけど、綺麗だし、スタイル良いからそんな風に抱きつかれるとDTの俺には堪えるんだけど……。喋らなければ、いい女だな。アリシア。

 

「修也君、大丈夫かい。なんて羨ましい。私も串刺しになりたかった」

「この豚、何てことを言うの。シュウは危うく死ぬところだったのよ。貴方が踏んだ罠のせいでね。このハゲ。矢に刺されて死んでしまえ」

 アリシア、言い過ぎです。

「すみません、逢坂さん、観光中なのに、嫌な思いさせてしまって」

「何がですか? 私は今、幸福しか感じておりませんが……」

 俺も、豚とかって呼んだ方がいいのかな? この人の扱い方がよく分からん。

 後、少し頑張ろう。


 長かったダンジョン探索もついに終わった。逢坂さんは大変満足したそうで、社長へ大喜びで報告していた。次はドラゴンと戦いたいと言っていたので、断って貰う事にしよう。


 それよりも、ダンジョンでアリシアを庇って死にかけてから、アリシアの様子がおかしい。ツンツンだったのが、デレデレに変わってしまった。俺の傍から離れてくれないのだ。

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