第15話 上級コース③
「アリシアさん、踏んでくれないかな」
逢坂さんがおかしなことを言われている。無視しておこう。ダンジョン探索の準備をしなくては――。
「ああ、アリシア様……」
この人、さっきから煩いな。アリシアがそんな事してくれる訳ないだろ。そんな熱い目で眺めても駄目だよ。
あっち側には入れないし。
馬車の中はしっかりとカーテンが閉められ、更に侵入できない様に結界まで貼られている。おかしいのはこっちは男二人、あっちは女一人なのに、半分以上をアリシアが使っていることだ。
お蔭で狭くて仕方が無いうえに、逢坂さんが煩い。
いい歳したおっさんが恋する目で20代の女の子を見るんじゃないよ。
はやくダンジョン着かないかな。俺だけ先に行こうかな。
ニックが泣くから止めておこう。あいつは今、御者をしているので、一人外で馬とお話をしている筈だ。ダンジョンまで後、3時間。
やっと着いた。でも、ここから本番なんだよな。
「逢坂さん、ここがダンジョンの入口になります。潜り方の方針は依頼主の逢坂さんにお任せします。最下層の30階を目指すのもいいですし、ダンジョンに出るモンスターを見物するでもいいです。大体の事には対応できます」
「罠にいっぱいかかりたいです」
ですよね。そう言うと思っていましたよ。
「ニック、任せたぞ」
「何でっすか。おいらは雑用係ですから、案内は兄貴にお願いするっす」
「罠対策はお前の仕事だろ」
「違うっす。おいらは重戦士です。シーフじゃないっす」
いやいやいや。お前はやっぱりシーフだよ。
「アリシアの相手をするより、逢坂さんの相手の方がいいと思うがな……」
「卑怯っすよ、兄貴。そんな悪魔の条件を出すなんて」
「俺は別にどっちの相手でもいいんだけど、特別にニックに選ばせてあげよう」
俺的にはまだアリシアの相手の方が楽だ。伊達に約10年一緒にいたわけではない。逢坂さんの相手は疲れそうだ。
「くっ。今回は兄貴の作戦にのってあげるっす。アリシアの相手だけは嫌っす」
あの毒舌も慣れれば平気なんだけどな。見た目は美人だしな。ドMなおっさん相手よりかは100万倍ましだ。
「逢坂さん、ダンジョンの中はモンスターが出ますから、私より前には出ないでくださいね」
「私も戦いたいです」
「戦闘になって、安全マージンを確保したうえで、指示を出しますので、それまでは我慢してください。逢坂さんが一撃で死んでしまう様なモンスターも居ますから」
「その辺りは修也君に任せます。よろしく頼みます」
といっても、このダンジョンは既に最下層(30階)まで到達済みで、ボスモンスターも倒されてしまっている。今では初心者冒険者が潜って資金稼ぎをする程度の簡単なダンジョンだ。油断さえしなければ大丈夫。
「では、行きましょう。ニック、先頭を任せたぞ」
「はい、兄貴」
そんなこんなで既に4日が経過し、ダンジョンの25階まで到達した。逢坂さんも初めて見るモンスターに大興奮していた。スライムが出たときは、相手をさせてあげた。
攻撃を受けて、ビリッとして気持ちいいと喜んでいた。ダンジョン内のスライムの中には強烈な酸を吐く奴もいるので、見極めだけはしっかりとする必要がある。
罠の方も、死の危険が無いものはニックがピックアップして、解除しないでおくと、面白いように逢坂さんがかかっていった。普通は3つに1つでも珍しいくらいなのに、コントの様に全部かかっていく。運がいいのか、悪いのか。
アリシアも仕事として、きっちりと逢坂さんを治してくれた。当然の様に豚だとか、クズとか、うすのろとか言っているが、ご褒美としか感じていない様だった。
4日もダンジョンに潜っていると、流石のアリシアも退屈なのか、俺に話しかけてくる。
「ねえ、クズ勇者」
なんだい、毒舌聖女様。
「貴方、彼女を寝取られたんでしょ。今はフリーよね」
俺の心を的確にえぐりにくるな。この人は。
「そ、そうだね」
「貴方、結婚はしたいの」
「そりゃあね。相手さえいればね」
その前にイチャつく彼女が欲しんだけどね。
「そ、そうなのね。わ、私もね、そろそろ聖女の交代時期なのよ」
「それで」
「貴方、本当に頭が悪いわね。察しなさいよ」
「私が貴方と結婚してあげるわ。光栄に思いなさい」
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