第14話 上級コース②
「それでは、あちらの世界に飛びますので、この円の中に入ってくださいね」
相手は男性なので、手を握ったりはしない。近くにいればそれで連れて行ける。何が悲しくて男に触れたり、触れられたりしないといけないのか。絶対に嫌だ。
「じゃあ、行きますよ。社長、では5日後に戻ってきます」
「はいはーい。行ってらっしゃいませ。死なせちゃダメだよ」
分かってるよ。有力者のコネは大事だからね。
「了解しました。全力で癒して貰います」
「
逢坂さんは、ドMでも時空転移は怖かったのか、目を瞑っていた。
「修也君、ここが異世界かい? あっという間だったね」
折角の時空を移動する景色を見ないとは、勿体ない。あれも醍醐味の一つなのに。
「それで、修也くん。ダンジョンにはどうやって行くんだい?」
「方法は好きなものを選んで頂けますよ。異世界らしく馬車で行く方法。半日くらいで着きます。魔法で行く方法。これは空を飛ぶので慣れないと怖いけど一瞬で着きます。空を飛ぶ楽しさを味わえますよ」
「高いのは怖いから、馬車で行きましょう」
ドMなのに髙い所は苦手なのか。変わった人だ。自分を苦しめるのが好きなのか。嫌いなのかはっきりして欲しいな。単純に痛いのが好きなのかな。
「では、出発前に今回ご一緒するメンバーを紹介しますね。こちらの事務所に居ますので、少々お待ちください」
「おーい。アリシア、ニック、お客様をお連れしたぞ。出発するぞ」
アリシアは出てきたが、ニックが出てこない。
「アリシア、ニックは?」
「あのカスなら、同じ部屋に居たくなかったから物置に閉じ込めてるわ」
だったら、出してから来いよ。
「可哀そうな事するなよ」
「何で私が男と二人っきりで同じ部屋にいないといけないのよ。襲われたどうするの?」
ニックにそんな度胸無いよ。俺もね。
「アリシアだったら余裕で撃退できるだろ。早く出してやってくれよ」
仕方ないわねって顔してるけど、仲間を閉じ込めるお前の方が間違ってるからな。
「オープン」
空間から扉が現れる。アリシアの空間魔法だ。扉の中に何でもしまうことができる。旅には欠かせない能力で助けられてきた。
俺は空間系の魔法は何故か使えない。転移は使えるのに。転移は空間系の魔法じゃないのかな。多分だけど、俺の根幹をなすあのゲームに空間系の魔法がないからでは無いかと分析している。
「兄貴、怖かったっす」
ニックが出てくるなり、俺に抱き着いてきた。
「くっさ。お前くっさ。離れろ。中で何があった」
「モンスターの死骸の中に詰め込まれたっす。やっぱりアリシアは悪魔っす」
なんという酷い事を。せめて何も入れていない他の場所にしてやればいいのに。
「クリーン」
ニックをきれいにしてやる。あのゲームにこんな魔法は無かったのに、これは使えるんだよな。どうなっているんだろう。
「兄貴、ありがとうございますっす」
「逢坂さん、お待たせしました。今回、回復役を務めるアリシアと雑用のニックです」
アリシアは案の定、余所を向いて愛想が無い。ニックは「よろしくお願いしますっす」といつもどおりの変な語尾の挨拶をしている。
逢坂さんもドMだが、きちんとした大人なので、アリシアに対して怒ったような雰囲気は無い。
「アリシアさん、回復お願いいたしますね」
逢坂さんの方から、挨拶をしてくれている。ありがたいことだ。
「煩い、豚が話しかけるな」
アリシア、お客様に何という対応をしてくれるんだ。
「逢坂さん、すみません。スタッフが失礼な事を……」
「気持ちいい――もっと言ってください」
「……」
逢坂さんがドMでよかった。ある意味、丁度いいペアだった。これも見越してこのメンバーにしたのか。萌やるな。
「では、馬車も準備できたので行きましょう。逢坂さん、乗ってください」
「馬車ってこれですか?」
逢坂さんが尋ねてくる。
今回は上級のお客様なので立派な馬車を準備しましたよ。
2年前に俺が使っていた奴だ。本当は凄く立派な馬車なのだが、ケイトとアリシアとその他1名のせいで、外装はピンク色、内装はでフリルで可愛らしくデコレーションされた、お嬢様馬車に改造されてしまったのだ。
でも、スプリングとかシートの皮とかは最高品質の物だから、高級品には変わりないので今でも使っているのだ。
「見てくれはアレですけど、この世界では最高品質の物ですから。それとも飛びますか?」
そう言うと、急いで馬車へ乗り込んでくれた。
やっと出発できるわ。
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