第13話 上級コース①

 あの悪魔が一緒にダンジョンに潜るだと……。しかもケイト無しで……。

 不味いぞ。ニックは逃がさない様に拘束しておかないといけない。俺だけじゃあいつを抑えきれない。


「アニキ、ひどいっすよ。何で簀巻きにするんっすか」

「こうしておかないと逃げるからだ」

「逃げないっすから、外して下さい」

「いや、これから俺が言うことを聞いたら逃げる」

「な、何を言うんっすか?」

「仕事だ。ダンジョンに行くぞ」

「ダンジョンすっか。上級コースですね。別にそれくらいじゃ逃げませんって」

「アリシアも一緒だ」

「……」


 簀巻きにしたニックを踏みつけておく。


「離して、オイラは里に帰ります。母さんが病気らしいっす。アニキ、足をどけて下さい」

「ニック、諦めろ。社長からの指示だ。俺とお前に拒否権はない」

「いやーーーー」


 今日から苦痛の5日間が始まる。俺は無事帰って来られるのだろうか。

「萌、アリシア入れて大丈夫なのか、お客様、泣いちゃうぞ」

「お兄ちゃん、社長って呼んでよね。それについては大丈夫よ。事前に説明したらとても喜んでいたわ」

「そ、それは変わったお客様だな。上級に申込むくらいだから変人か」

「今回のお客様は変人というよりも変態かな」

 本当に禄な客が来ないな。只でさえ行きたくないのに、もう帰りたくなってきたぞ。


 それにしてもアリシアは遅いな。お客様が来る前に軽く打ち合わせしときたかったのだが……。


「萌さま、遅くなって申し訳ございません」

「あっ、アリシアさん。待ってたよ。今日から宜しくね」

「はい。こちらこそお声がけいただいてありがとうございます」


 うむ、普通の和やかな会話だな。

「アリシア、遅かったな」

「うるさい、恋人を寝取られたヘタれ勇者。私の視界に入るな」

 うむ、普段どおりのドSの会話だな。

 

 アリシアは度級のツンツンだ。ツンデレではない。デレることは無い。しかも男限定で。

 女性には正反対の聖女の様な対応だ。あっ、アリシアは正真正銘の聖女だったわ。あまりにもツンツン過ぎて忘れていた。


「兄貴、アリシアの毒舌がパワーアップしてるっす」

「だな」

「そこのフニャちん勇者とゴミ。さっさと準備しなさい」

 お前、見たこと無いだろ。いや、この間の温泉で見られたか? 逆にビンビンだったらドン引きだろ。それにゴミって。まだ、人間扱いされている分ましか。ニック不憫な奴め。

 聖女様がお怒りだ。さっさと準備を始めよう。



「萌、このおっさんが今回のお客さんか?」

 お客さんを迎えに来て、いかにも普通のおじさんが居たので、萌に聞いてみた。

 上級コースに申し込んだ変態だって思っていたから、余りにも普通過ぎて逆に驚いた。

「そうよ。日本の超有名企業の取締役さんだから丁重に相手してね。こういう人脈がいざという時に助けになるんだから」

 俺たちは仕事柄、日本に敵が多い。裁判なんて日常茶飯事だ。だから上位者とのコネは非常に大切にしている。この人も政府に太いパイプを持っているのだろう。 


「こんにちは。今回案内を勤めます。修也です。宜しくお願いします」

「こんにちは。貴方が異世界への案内人の方ですか。今回は貴重な機会をくださってありがとうございます。私、どうしても子供の頃から異世界のダンジョンに憧れてたんです」

 おお、何というまともな人。変態だなんて、萌はなんて事をおっしゃるんだ。流石、大手会社の取締役まで上り詰める方はは違うな。

「ああ、早くダンジョンのトラップにかかりたい。毒矢に刺さってみたい。落とし穴の中はどうなっているのだろう。スライムに溶かされたりしないかな。楽しみだ」


「萌、この人もしかして……」

「変態だって言ったでしょ。極度のドMよ。怪我してもアリシアがいたら一瞬で治るでしょ。だから一杯痛い思いがしたいんだって」


 なんと度級のやばい方でした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る