第12話 闘技場

 ニックを探して、王都を歩く。

 ニックのいる場所なんて大抵、酒場か、今向かっている場所しかない。


 今日も大勢いるな。

 王都郊外にある闘技場である。ここでは闘技場所属のバトラーやお金に困った冒険者達の生の戦いが観戦できる。

 戦いに身を置く者としては、人同士の戦いを観て何が面白いのか理解できないが、それを視に来る者がいる以上、需要はあるのだろう。しかし、多くの客の目的は戦いとは別の事にある。それはニックの大好きな賭け事の方だろう。

 

 ニックを探しつつ、闘技場で戦う戦士たちを観る。今戦っているのは闘技場で抱えるバトラーの中でも、とくに強いと有名な奴と冒険者4人組が戦っている。

 このバトラーは1年前に登場して以来、負けなしらしい。仮面で顔を隠しているので、その人相は分からない。体格はバトラーとしては小柄だ。見たところ俺とそれ程変わらないだろう。

 対する冒険者は普段はモンスターを相手にしているので、対人での戦いは不慣れだろう。それでも、彼らは十分に強いと判断できる戦いぶりだ。動きが良い。腕も良さそうなのに何で闘技場で戦っているのだろうか? 何か要り様なのか?


 重戦士が前に出て、攻撃を止め、その隙に他の3人が回り込み、別々の方向から攻撃を加えようとしている。悪い攻撃ではないが、それは誘いだ。


 攻撃を加えようとしていた冒険者達が吹き飛ばされる。普通のお客さんには何が起きたかは分からないだろう。

 バトラーは冒険者の剣を躱すと同時にカウンターで、腹に3発ずつ、拳を打ち込んでいた。器用にあてる場所をずらして、致命傷にならない様に気を配っている。

 残るは重戦士だけだが、動きの遅い重戦士では彼の動きには付いていけないだろう。勝負は決している。


 それにしても、魔法の使えない闘技場の中で、あの動きができる彼は何者だ。魔法なしで戦えば、俺でも勝てない。5回中4回は負けるな。


 ニックは何処だ。あいつがここにいない訳がない。ほら、いた。最前列で応援しているじゃないか。

「ニック、よくも逃げてくれたな」

「ひっ、あ、兄貴、あれは仕様がないっす。ケイトの姉さんを怒らせたら、おいら死んじゃうっす」

 ニックはケイトが苦手だからな。体はデカいのに、気は小さいニックらしい。

「それは、俺だったら怒られても良いと言うことかな?」

「兄貴だったら、怒られてもケイトの姉さんは優しく済ましてくれるっす。オイラの時は特に酷いっす。前回はドラゴンの巣に投げ込まれたっす」

 何をして怒らせたら、そんな罰を受けるんだよ。よっぽどだぞ。


「それはそうと、聞きたいことがあるんだ。あのバトラーは何者だ。あいつは人間としては異質だぞ」

「ああ、サクラバっすか? 一年前急に現れたんっすよね。彼、強いですよね。生身のオイラより速いと思うっす」

 サクラバだと。若しかしなくても日本人か。俺の他にこの世界に来ている者がいるのか?

「あいつと話をするにはどうすればいい?」

「バトラーは街に住んでるので、普通に会えるっす」

 え、そうなの。こういった場合、奴隷みたいに戦わされているんだと思ったのだけど、どうやら違った様だ。


「サクラバの家は貴族街にありますからね。アニキ行けますか?」

 う。あんまり近づきたくない。あそこにはあいつの家がある。既に嫌な予感がする。

「また、今度にするわ。何か悪寒するんで、帰るわ」

「兄貴、帰っちゃうんすか。折角、今日勝った金でおねえちゃん達のいるお店に飲みに行こうと思ってたんすよ」

 それは、是非同行したい――が勇者の感が告げているんだ。早く帰らないと大変な事になると。


 ニックを置き去りにし、急いで事務所へと戻る。

「ただいま」

「あ、お兄ちゃん、お帰り。丁度よかった」

 こ、これは、既に遅かった様だな。萌の顔を見た瞬間に悟ってしまった。

「上級コースのお客さんが来たから、明後日から出発ね。メンバーはニックとアリシアとお兄ちゃんね」


 ダンジョンコースだと、どんなバカ野郎だ。それに、よりにもよって、メンバーにアリシアをぶち込んできやがった。


 聖女のアリシア。街では皆にそう呼ばれている。いつも笑顔を絶やさず、ニコニコとしながら、癒しの力で皆の怪我と病気を治してくれる。

 まさに聖女と……。

 だが、俺達パーティメンバーは知っている。彼女の正体を……。

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