第8話 勇者の過去③
ドタドタ、ガランゴトン、ドドドドド
中から凄い音が聞こえてきたと思ったら静かになった。
ギーっと静かに扉が開き、小さな女の子が様子を伺いながら覗いている。
「キャー。かわいいー」
萌が大きな声を出して、女の子を捕まえて抱っこしてしまった。
「こら、離せ。何をするんだ。シュウ。助けて。この女誰なの」
「萌、離しなさい。知らない子を勝手に抱っこしてはいけません」
「はーい」
萌が膨れながらケイトを降ろす。その女の子300歳超えてますからね。大先輩だよ。
「シュウ、何処に行ってたの。魔王を倒すなり消えちゃったから、皆心配してたんだよ」
「悪い、ケイト。女神に元の世界に戻されたんだ。頼んだんだけど、こっちにずっと居るの駄目だと言われてな」
「そんな! シュウはあんなにボロボロになってまで、この世界を助けてくれたのに。そんなのって酷い。用が済んだらお払い箱だなんて。だからあんなくそ女神を信じたらいけないのよ。やはり私の先祖の判断は間違って無かったわ」
ケイトの先祖は昔に何があったか知らないが、反女神を掲げ、今や邪教認定されている神様を崇めている。
俺も今ではその意見に賛成だ。あいつは次に会ったら殺してやる。むしろ許されるなら俺が今度はこの世界を滅ぼしてやりたい。でも、仲間たちの住む世界だ。そんな事はできないのがもどかしい。
「ケイト、他の奴らは国に戻ったのか?」
「ええ、皆貴方の事を心配していたけど、魔王を倒したことを国に報告したいと言ったので、送ってあげたわ」
「そうか。俺の無事だけ伝えといてくれるか。全部の国、回るの疲れるから。それに、姫には会いたくないし」
「それはいいんだけど、その前にその女は誰なの?」
おお、紹介するのを忘れてた。
「こいつは萌。俺の妹だ。元の世界からついて来た」
「いもうと、妹、妹ね。それならオッケー。大丈夫」
何が大丈夫なのか。
「ねえねえ。シュウ。妹さんをどうやって連れて来たの? もしかしなくても、私もシュウの国に行けたりする?」
それは考えても見なかった。行けるか? 多分行けるだろうな。
「試してみるか? 何が起きるか分からないぞ」
「行ってみたい! もう300年以上生きてるから、死んでも別にいいし」
命の選択が軽いな。300年も生きたらそうなるのかな。
「じゃあ、俺に捉まって」
俺の腰にひしっと捉まってくるケイト。萌は動かない。
「おい、萌、帰るぞ」
「え、帰るの? 何話してるか分からなかったから」
えっ、そうなのか? 俺はこちらに来た時から話ができていたから、気にしていなかったけど、言語違うのか? 普通に文字も日本語に見えてたんだけど……。
萌が遅れて俺の腕に捉まる。
「ここは?」
「ここは俺の家の庭だ」
「萌、俺が今、言ってたことわかったか?」
「全然。わかんない」
やはり、言語が違うのか。もしかして俺って通訳になれるんじゃないのか。
「萌、英語で話しかけてくれ」
「……」
何言ってるか分からない。異世界言語限定とか。
「シュウ、何を話しているの? 私にも分かるように説明してよ」
うわ、今度はケイトか。この状況すごく面倒だ。いちいち同じことを二回話さないといけないのか。
二人とも凄いな。小一時間しか経っていないのに、片言だけど話が通じている。ケイトが頭がいいのは知っていたけど、萌もすごいのではないだろうか。
「萌、お前、大学何処に行ってるんだ?」
「もう行ってないよ。今は働いてる」
ん? もう。ということは以前は行っていたけど辞めたのか?
「もうって事は何処か行ってたのか?」
「ん? 東大だけど何で?」
と、東大だと。あの難関大学に入れたのに辞めてしまったのか。
「何で辞めたんだ」
「えっ、辞めてないよ。5年前に卒業したの」
え、卒業? 13歳で。
「マジで?」
「マジだよ。小学生の時にハーバード大学を出て、中学の時に東大に入ったの。今はアメリカの国防総省から依頼を受けて、ハッキング対策のファイアウォールを開発と、衛生写真から個人を特定するソフトの開発をしてるんだよ」
目茶苦茶、頭よかった。意外だ。俺はてっきり、この子はアホの子だと思っていたのに。
会話が楽になっていいけどね。
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