第10話 初級コース 魔法編
「ファイヤーボール」
可愛らしい小さな火の玉が飛んでいく。目標の木の的にぶつかり拡散した。
本日は初級コースの魔法教室の開催日だ。講師はもちろんケイトだ。
2時間ほどの座学の後に外で練習となる。
非常に人気の高いコースだ。魔法って憧れるもんな。絶対に誰もが隠れて魔法を使ってみたことがあるはずだ。それくらい、魔法にあこがれる人は多い。
先程魔法を使った女の子が凄く喜んで、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
うむ、見事な揺れだ。DかEとみた。
「シュウの兄貴、あれはFはあるっす」
「いや、あれはあってもEだろ」
「何がEなの?」
「何って、お前――」
げっ、ケイト。なんでもこっちに。
「何って、冒険者ランクの話さ。Eランクくらいは行きそうだってね」
ふーん。と私に嘘は無駄よって顔をする。
俺くらいになるとお前のあしらい方など百も承知。嘘も墓場まで持っていけば嘘じゃなくなる。簡単に俺が吐くと思うなよ。
「先生がこんな所にいたら駄目だろ。ちゃんとお客様の近くに居ないと」
「貴方達から不穏な気配を感じたからよ。よからぬ事を考えてたでしょ」
こいつ、自分が貧相な体だからって、こういう事の察知力が半端ない。
「あー、おいらは王都案内の時間っす。ア兄貴、失礼するっす」
あ、ニックの奴、逃げやがった。
こうなれば、いつもの手しかないな。
「ケイト、今晩家に飯食いに来るか」
「行く行く。萌の料理はおいしいから。絶対行くわ」
ふー。何とか話を逸らすことが事ができた。
「俺は、あっちの方で苦戦しているお客様の対応をするから、また後でな」
ケイトの隙をついて、脱出できた。危なかった。待ちなさいと叫んでいるが聞こえない振りだ。勇者の必殺技だろ。ただしモテる勇者のだから、俺には無縁のものだったがな。
「お客様、お困りの様ですね。難しいですか?」
俺と同じ位の年齢の女性が困っているので声をかける。男は後回しだ。
「そうなんです。ファイヤーボールを使ってみるように先生に言われたんですけど、火ってなんだか怖くて……」
「確かに火は攻撃的なイメージがありますからね。それでは水の魔法ではいかがですか。水だったら優しいイメージじゃないですか?」
「確かに。水って癒しのイメージがあります。水の魔法だったら使えそうです」
見た目どおりの優しい人みたいだ。癒し系美女とでも言うべきか。お付き合いするならこういったお淑やかな人がいいな。
俺の周りには我の強い奴等しかいないから、お話ししてみて新鮮だ。
「あの、お嬢さん、よろしければ私と交さ――」
「おら、全員死にさらせ、ダイタルウェーブ」
え? なんかドスの聞いた男らしい声が聞こえたような。
「あら、いけないわ。地声が出ちゃった。ダイタルウェーブ。あれ、やっぱり出ないわ」
この人、まさか男なのか。見た目は滅茶苦茶美しいのに。
危なかった。危うく男に交際を申し込むところだった。
「お兄さん、やっぱり出ないわ」
でしょうね。いきなりそんな大技出る訳がない。
さっきの優しいイメージ云々の話は一体何処に行ったのか。いきなり全てを押し流す超弩級の魔法イメージだった様な。
「もっと、初級というか、小雨くらいのものをイメージしてみませんか?」
「でも〜、それじゃあ、ストレス発散できないし〜」
そうですか。貴方にピッタリのやつがありました。
このお客様には身体強化の魔法を教えて差し上げた。
美しい笑顔でオラオラオラオラと的をボコボコにしていた。
あっちの世界の整形技術の方がよっぽど凄い魔法な気がする。
俺は何を信じればいいのか。
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