第4話 初級コース

 今日のお客様は初級コースにご応募頂いた30名の団体様だ。

 初級コースはなんとモンスターを倒して見ようという企画だ。

 モンスターと言っても定番中の定番、スライムの駆除だから無茶ではないが……。

 スライムと言えば某神ゲーの影響で、まん丸で可愛らしいイメージがあったが実際のスライムはアメーバ状のネバネバした粘液の塊だ。

 動きは遅いし、大した攻撃もしてこないので、この世界では子供でも倒せる。

 それでも、お客様が怪我をしてはいけないので、俺とケイトの二人体制で案内を始める。


「みなさーん。それでは出発いたします。体験コースと同じく道を勝手に外れると死んじゃいますから注意してくださいね」

 スライムでは死ぬことは無いが、そこに行くまでに別のモンスターに遭遇したら、死んでしまう。これだけ人数が居ればゴブリンは寄って来ないが、オークやオーガ、ウルフ系のモンスターだと普通に襲ってくる。


 俺を先頭にして、お客様がぞろぞろと付いてくる。10分ほど進むとスライムが湧く沼がある。


 若者の男性が剣を振り回している。

 ちょっと、剣を振り回さないでください。10分少々も普通に歩けないのですか。子供ですか。粋がるのは分かるんですが、こんなに人が密集してるんですから気を付けていただきたい。

「あの、お客様、危険ですので剣はモンスターを倒す時まで抜かないで頂けますか。他のお客様が怪我されると問題になりますので……」

「ああん、ちょっとぐらい多目に見ろよ。高い金払ってるんだからよ。それよりもスライムじゃなくてゴブリン狩らせろよ」

 でたでた。いるんですよね。こういうお客様。

 俺はそっとケイトへ目配せする。最後尾のケイトが杖を掲げた。これで大丈夫でしょう。一人変なお客様がいると全体の雰囲気が悪くなりますからね。

 さっきまで煩かったお客様が急に大人しくなった。


 ケイトは300年以上生きている魔女で俺が知る限り最も魔法に精通している。俺が呪文を唱えないと使えない魔法を無詠唱で使える達人だ。

 ちなみに魔法は魔力をイメージ力で具現化するものなので、突き詰めて言えば詠唱や呪文はいらない。

 だから、俺のよく使う「キュア」なども別に「ホイミ」でも良いわけだ。最初は「ホイミ」って言っていたらケイトに爆笑されて止めた。「私をぶって」という意味だったらしい。もっと早く教えてほしかった。

 

 先程ケイトが使ったのはチャーム系統の魔法の一種で洗脳の魔法だろう。ケイトが使う魔法を一般の人間で防げる者はいない。

 見た目は只の幼い美少女なんだけどな。


「お客様、こちらがスライムが湧く沼になります。まず私が見本を見せますので、よく見ていて下さいね。雑魚モンスターですけど、油断したら死ぬことはないですけど、痛い目を見ますからね」


 沼に近づき、その場で足ふみをする。するとスライムが次々と沼からでてきた。沼は泥色をしているのに、出てきたスライムは透明だ。一匹ずつ剣で突き刺していく。 

「このように、剣で突き刺せば殺せます。動きは早くないので、落ち着いて突いて貰えれば大丈夫です。不安な方がおられましたら、付き添いますので、どうぞ遠慮なく仰ってください」

 数名のお客様が手をあげたので、女性のお客様の所に行こうとしたらケイトに取られた。

 くっ、こいつまで邪魔をしてきやがる。ちくしょう。

 仕方が無いので、近くのおじさんから相手をしていく。若い人はゲームなどで慣れているのか、サクサク狩っている。動きも悪くない。お年を召した方の方が結構苦労している。

 うお、なんだあの爺さん。凄まじい剣さばきでスライムを切り裂いている。目が逝っている。近づかない様にしよう。


「危ない!」

 一人のお客様が死んだスライムに足を取られてこけていた。そこへ大量のスライムが押し寄せている。俺は身体強化をかけるが間に合いそうにない。


「ケイト!」 

 ケイトがお客様を庇って、スライムの大群に飲み込まれてしまった――と思ったらスライムたちが爆散した。

 中のケイトが何かをしたのだろう。何にせよ無事でよかった。


「ケイト、だいじょ――ブハッッ」

 ケイトを見て噴いてしまった。

 そこにはスライムに服を溶かされて素っ裸のケイトがいた。しかも爆散したスライムが熱によって白濁しており、なにか別の液体の様になっている。

「シュウ、ベタベタして気持ち悪い。目に入って痛いよ。助けて」

 ケイトは目を瞑ってうろちょろと歩き出す。

 まて、そんな恰好で動き回るな。お客様に見られるぞ。


 俺は鎧を脱ぎ、下に着ていたシャツをケイトに着せた。


「クリーン」


 ケイトに洗浄の魔法をかけてあげるとやっと落ち着いたのか、ケイトが大人しくなった。

 逆にエロいなこの格好。お客様からの目線がやばいことになっている。無駄に美少女だからな。このロリババア。


「ふへへへ。シュウの匂いがする」

 おい、においを嗅ぐな。そしてシャツをそんなに引っ張るな。下から見えるぞ。


「お客様、帰りますよ」

 今度はケイトを先頭にして帰る。皆ケイトの方をしっかりと見ながら付いて行っている。餌におびき寄せられる虫みたいだ。その餌は毒入りですよ。


 俺は楽でいいけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る