第5話 異世界旅行説明会

「本日は異世界旅行を希望するお客様へ各メニューを詳しくご説明いたします。質問等がございましたら、最後にまとめて質問の時間をとっておりますので、そちらでお願いいたします。説明は私、白浜萌が担当させていただきます」


 今日は異世界への旅行を希望するお客様へ説明会を開催している。

 マスメディアからの申し込みもあったが、全て断っている。

 一般人の振りをして潜り込んでいる可能性は否定できない。なんせ3万人以上もいるからな


「それでは、配布資料をご確認ください。まずは、弊社が提供する異世界旅行のコースと料金についてご説明いたします。」


 この仕事を始めた頃はこんなに人が集まることはなかった。初回なんて冷かしの客が3人いただけだった。そこから口コミとTVニュースで取り上げられた被害者の情報で異世界旅行が本物だと知られてから爆発的に客が増えてしまった。

 今では、こんな数万名も入る大きなドームを借りて説明会をするなんて、萌は本当に凄いと思う。兄には無理だ。


「まずは異世界旅行に初めて参加される方には必ず参加いただくことになります、体験コースです。」


 体験コースは必ず全員に受けて貰うことになる。ここで自分勝手に振舞う客は大体が死ぬか酷い目にあって、リピートは無い。ふるいにかける訳だ。

 仮に生き残ったとしても、こちらからNGを出して、これより先は受けることはない。ブラックリスト入りする訳だ。


 次に初級コースだが、ここからは複数のコースに分かれる。

 先日も案内したモンスターを倒してみるコース。

 この国の王都へ行き、観光するコース(買い物はできない)。

 魔法の基礎を習って使ってみるコース。


 ここで一番人気は魔法コースだ。魔法を使いたいというお客様は非常に多い。そして、ほとんどの人が少なからず魔力は持っているので、魔法が使えるようになる。

 だがしかし、何故か地球に戻ると使えないのだ。

 現に俺も帰還して萌の前で「ファイヤーボール」って定番の奴をやって何も出んかった時は死ぬほど恥ずかしかった。

 27歳のいい大人が中ニ病みたいなことを外でしてたなんて、近所の人の噂になったほどだ。

 でも何故か時空転移だけは使えるのだ。あれは女神から与えられた力だからかもしれない。

 

 この初級からは泊まりも可能になる。日帰りの場合は20万、泊まりの場合は4泊が上限で、1泊増えるごとに15万ずつ追加だ。宿は比較的いい宿にしている。でなければ現代人には辛すぎるからだ。

 ただし、コースの変更は途中ではできない。

 更にモンスター討伐コースは日帰りのみとなっている。こちらの負担が大きいからだ。


「次に中級コースの内容になります」

 気がつけば、中級の説明が始まっていた。萌も慣れたものでスラスラと説明している。堂々とした佇まいだ。


 中級からはいっきに値段が跳ね上がる。1泊2日で100万。コースは2つだけだ。


「泊まろうエルフの里」

「モフろう獣人の子供たち」


 どちらも人気が凄すぎて、抽選になっている。月に数組ずつしか受け入れていない。先方の都合もある。

 それに加え、このコースは萌が考え、俺がそれぞれの長に頭を下げてお願いしたツアーだ。

 もし問題が起きたら責任が俺にくる。案内人を増強して臨まないといけない。何気に大変だ。

 モンスターなどの危険は無いので、アルバイトを雇って対応している。バイトは俺の勇者時代の仲間だ。捨て値でこき使っている。あいつは俺の言う事は何でも聞くから大丈夫だろう。


 次は上級コースか。これはもはや殆ど依頼する人もいない。これに応募するのはよっぽどな変態だけだ。1回500万。4泊5日のコースだ。


「ダンジョンへ潜ろう」


 態々、高いお金を払ってダンジョンへ潜って、ダンジョンの中で野宿をする。こんなの頼む奴いるのか? と思っていたが、数人いた。費用対効果が悪いので、弊社としても受けたくない依頼だ。


「以上が、弊社が提供する異世界ツアーの全容になります。それでは続きまして、応募に際しまして、守って頂く諸事項について説明します」


 本当はこれに後一つコースがある。VIPのみに許される完全オーダーの旅行プランだ。当然価格も家が建つくらいは最低でもする。価格は時価設定だ。萌が顧客と話し合って決めている。この仕事を2年やって来たが、まだ1名しか利用していない。


 あの時は無茶苦茶な依頼だった。


「ドラゴンに乗って空を飛びたい」


 な。アホな依頼だろ。自殺願望があるのかと思ったくらいだ。

 スタッフ皆で悩んだ挙句、火竜の背中に剣を突き刺して、それにしがみついて飛ぶという恐ろしい計画を実行した。

 痛みで暴れるドラゴンをロデオするなんて魔王に挑むくらい勇気が必要だった。

 依頼主もよくしがみついていたと思う。体液が至る所から漏れ出ていた。

 最後はドラゴンが俺達を振り落とそうと地面に激突して自滅して終わった。奇しくもその依頼主はドラゴンキラーの称号をゲットした訳だ。


 さて、説明会もそろそろ終わるな。萌を連れて脱出する準備を始めよう。

 説明会は質問の時間をとっていると嘘をついている。質問なんて受けていたら1日あっても終わらない。


 さっさと逃げ出すに限る。

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