第3話 彼女欲しい
「萌、あれは酷いぞ。俺の趣味どストライクだったのに」
「でも、楽しかったでしょ」
ぐっ、確かに楽しかった。一人目で最悪の気分を味わった分、張り切って接客した。
だが、それを認めるのは悔しい。
「む、虚しい気分になるんだよ。彼女が欲しい、欲しい。ほしいよ〜。もええもん、助けてよ」
「もう、お兄ちゃん。しっかりしてよ。お兄ちゃんってそんなキャラだった? そんだと凛ちゃんみたいに振られるわよ」
こ、こいつ、触れてはならん傷を……。別に振られたわけじゃないし。
お兄ちゃんに何という仕打ち。気持ちが萎えてしまった。今日はもうやる気が出ない。
「今日は仕事する気分じゃ無くなった。次の客はキャンセルで……」
「いいの。次のお客は女子大生3人組よ。キャンセルね。伝えてお――」
「いま直ぐに行く。何処だ」
我ながら現金なものだ。見事に妹の手のひらの上で転がされている。
だって、彼女欲しいんだよ。仕方ないだろ。まだ未経験なんだよ。こんなことならあっちの世界で誘われたときにノッておくんだった。俺のバカ。
さて、気持ちを切り替えて仕事だ。女子大生3人。むふふふ。どんな子達かな。今回も本気モードで仕事するぞ。
結果を報告しよう。今回も何の進展もございませんでした。確かに女子大生3人だったけれども……。
そうだよね。見た目で人を判断したらダメだよね。でもあれは駄目だ。生理的に無理だよ。ドア開けた瞬間、鳥肌が……。
平均2時間のコースなのに、30分終わらせるほど本気で挑んでしまった。いかん、思い出しただけでも吐き気が……。
「クリーン、クリーン、クリーン」
「シュウ、どうしたの? ぐったりしてるけど」
俺が精神的な疲れからダウンしていると、ケイトが休憩室に入ってきた。
「お前も見ただろ、さっきの客」
「あー、あれね。あれは無いわね。ご愁傷様でした。サービスを提供する側としては、お客は選べないからね」
ケイトは俺に同情するような視線を向けてくる。確かにケイトの言うとおりなのだが、俺は思うのだ。
現在、この仕事はうちの会社しかサービスを提供していない。と言うかできない。であれば、客と時間はこちらの思いどおりにできるのではないか。
そしてそれをしないということは意図的に萌がスケジュールを弄っているのではないか。
あいつ、俺に休みを与えないつもりだな。ちょっと苦情を言わないといけない。
「おい、萌」
「何、お兄ちゃん。今日の仕事は終わったんでしょ。私はまだ忙しいんだけど」
「この会社の忙しさについて聞きに来た」
ん。萌の顔が一瞬ピクリと反応したぞ。これはいよいよ間違いないな。
「お兄ちゃん、お休み欲しくない?」
「欲しい!」
思わず返事をしてしまった。いかん。このままで萌に主導権を握られてしまう。
「何と明日はお休みです。しかも――美女4人との温泉旅行です」
ふおーきたー。いや、騙されてはいけない。
「萌、そんな言葉に騙される兄ではないぞ」
「いえいえ。ホントですよ。じゃあ、さっそく行きましょう」
「あれ、お前も行くの? 忙しいんじゃ――」
俺の腕に抱き着く萌。なんともいい感触が――成長したな、萌。
「はい。早くあっちの世界に飛んで」
「なんで、あっちなの」
「いいから、いいから」
萌に言われるがままに時空転移で異世界へ飛ぶ。
異世界の事務所に飛んだ先で待っていたのは確かに美女が3人いた。
「萌、美女ってもしかして、こいつ等か」
確かに美女は美女だ。それは間違いない。それも抜群の美女たちだ。
俺はこの3人をよく知っている。
一人目。俺の元パーティメンバー。職業、聖女のアリシア。24歳。
二人目。俺の元パーティメンバー。職業、魔女のケイト。300歳オーバー。
三人目。この国の王女。職業、王女のプリシア。18歳
四人目。妹。職業、社長の萌。20歳
はい、何もできません。
アリシアは聖女なので手をだせません。出したら教会に追われます。
ケイト、この中では手を出しやすそうに見えるが、300歳越えのロリババアは無理です。
プリシア。婚約者います。手を出したら騎士たちに追われます。
妹。手をだせません。
何とも、禁制メンバーばかり集めた旅行だな。
「萌、謀ったな」
「そんなことないよー。お兄ちゃんも美女に囲まれて嬉しいでしょ」
そんな、嬉しいわけが――ちょっとはあるな。
「ほらほら、早く行きましょ。こっちの温泉は混浴よ。混浴」
混浴だと、夢のような響き。しかし、こいつ等と行っても何にもならない。他の客に期待するか。
「旅館貸し切ってるから安心してね」
俺の希望は無くなった。
ドナドナされて連れて行かれる。
この日は精神力の修行になったとだけ報告しておこう。
日本に帰ったら婚活サイトに登録しよう。中卒の異世界案内人に出会いは在るのだろうか?
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