02
窓の外を見たら、地面が濡れていた。
どうやら、彼が来ているらしい。
***
なんとなく、彼と小声で会話しただけなのに。ちょっとだけ、気分が高揚している自分がいて。そして、その流れで彼のいたグループになんとなく入り込んで、一緒に飲み会等に行ったりした。
自分が行くと、基本的に一次会で終わる。蛇子チャレンジとかいう陰湿で陰険なものがあって。いつも、彼が罰ゲームをもらって自分のところに話しかけてくる。
他の有象無象に聞こえるように、罰ゲームの会話をしながら。ときには机を叩いたモールスで、ときには言葉のアナグラムで。
会話をした。
楽しかった。
罰ゲームで告白するだとか好きだと言うとか、そんな、頭のなかが空っぽな人間の考えつくぎりぎりのばかさ加減を笑いながら。
一方で、このつまらない飲み会が終わったらどこで待ち合わせするとか、コンビニに寄って行こうかとか、仕事の進捗をすりあわせようかとか。話す。
一次会で自分は省かれるので。
だいたいは、コンビニで待ち合わせる。駅前。交差点。
「待った?」
彼。
「おにぎり一個分、ぐらいかな」
コンビニのトイレでは、化粧は落とせない。家に帰るまでは、真っ白な顔と首長の服。
「はやく化粧落としたいな」
家に帰れば、この前買った水鉄砲がある。ゴーグルをしてから水鉄砲の銃口を顔に向けてぶちこめば、化粧は一瞬で落ちる。目もとは化粧していないので、何もしなくていい。
「もう俺の素性も分かったんだから、変な格好して歩く必要もないんじゃない?」
「スパイ。まだ見つかってない。あなたも、そのためにあんなばかみたいなグループにいるんでしょ?」
「うん。まあ。そうだな」
話してみて分かったのは、彼も同じだということ。人を惹きつけるものを持っていて、彼の場合は顔ではなく、目が澄んでいる。だから、より近く他人に接近して、その目で他人を判断していく。
「あなたの目には、わたしは、どう見えてるの?」
「綺麗なこころをしている」
「綺麗な心」
自分の心を、そう思ったことはなかった。
「あ。おはな」
彼は、花が好きだった。
見つけると、いつも立ち止まって、お水をあげる。そのための水筒を、いつも持ち歩いていた。
「花。好きなのね」
「大好きだよ。俺は心があんまり強くないから。花を見てると、安らぐんだ」
彼。水筒から、お水をゆっくりとあげている。
「さあ。君の家に帰ろう」
自分の家の周りには、たくさん花が咲いていた。
だから、窓の外の地面が濡れていると、彼が来ているのが分かる。
彼は、お花を見ると水をあげるから。
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